上 下
229 / 307

オーガスタスとギュンターの対戦

しおりを挟む
 スフォルツァはこっそり、横に並ぶアイリスの横顔を盗み見る。
色白で濃い艶やかな栗色の巻き毛を肩に流し、利発そうな濃紺の瞳を中央のオーガスタス。
そしてギュンターに向けてた。

一つため息を吐くと、自分は本来講義室に残り、この大鍛錬場でアイリスを見てる事なんて、出来なかった事を思い返す。

確かに昼食後の、歴史の講義開始直後。
アイリスよりも数名が、先に抜け出してた。
が、スフォルツァは三人の美少年の側から離れる訳に行かず、アイリスがこっそり講義室から出て行こうとする姿を、残念そうに見つめた。

けどその時、アイリスは見つからずに、抜け出せたのに。
生徒らに背を向け、黒板に文字を書いてる講師が、振り向くまで。
わざと、戸口に立っていた。

そして振り向き、気づいて目を見開き見つめる講師に、アイリスはにっこり微笑んで言ったのだ。
「昼食中に私たちは、午前の三年の剣の講義で。
ディングレー殿と新たな監督生ギュンターの、対戦があったと聞いたばかり。
更に先ほど廊下で、四年の講義を行う講師が、二・三年の合同授業のある大鍛錬場へと。
“特別講義”で出向くよう、四年達に叫んでいるのを、私達一年全員が耳にしています。
…と言うことは、きっとオーガスタスとギュンターの対戦があるだろうと。
推測して皆、試合が見たくて。
この講義をかなりの者が既に、こっそり抜け出しています。
…つまり、例え講義を続けても。
残って対戦を見られない者らは、試合が気になって気もそぞろ。
どうでしょう?
ここは一つ私たちにも関係ある、新たな監督生ギュンターの対戦ぶりを。
こっそり抜け出さずに、済むように。
休講にして、見せては頂けないでしょうか?」

途端けたたましい拍手が生徒らから湧き上がり。
ガタン!ガタンと次々に音を鳴らし、皆が拍手しながら立ち上がる。

スフォルツァは横の、アスラン、ハウリィ、マレーに振り向いた時。
アスランが真っ先に笑顔で立ち上がりながら、拍手に加わっていて。
それを見ながら自分もほぼ同時に立ち上がり、拍手してると気づく。

歴史の講師は、講義室のほぼ全員が立ち上がり拍手する様を見、項垂れて告げた。
「…いいだろう。
休講にはするが、この講義を監督するのは私の役目。
大鍛錬場に行っても、私の指示に従え。
では、付いて来るように!」

講師はアイリスの立つ戸口へと、歩き始める。
アイリスは横にずれて道を開け、講師の後ろに続き、講義室を出た。

スフォルツァはハウリィとマレーと共に、はしゃぐアスランの、笑顔を見る。
ハウリィが困惑した表情で、自分を見上げてるのに気づき、スフォルツァは
「けど絶対無理に、動くなよ」
と飛び跳ねそうな勢いのアスランに、低い声音で釘刺した。

ハウリィとマレーはその気遣いに笑顔を見せ、アスランは顔を下げて、飛び跳ねたいのを一生懸命我慢した。


中央で向かい合って立つ、オーガスタスとギュンターを見ながら。
ヤッケルは、ぼそりと口開く。
「…ダメだ。
あの二人のすんごく淫らな場面しか、思い浮かばない」

フィンスはヤッケルの横にずらりと居並ぶ平貴族らが、全員視線を中央の二人に釘付けながら揃ってその言葉に、こっくりと頷くのを見たし。
反対横のシェイルが、横のローランデまでもが頬を染め、顔下げるのを見て。
「…大丈夫。
みんな今、凄い妄想中だし。
その妄想の中でも君のなんて、いっちばん軽いし健全だから」
と言って慰めてるのを聞き、斜め後ろのシュルツと思わず顔を見合わせた。

ディングレーは腕組みし、中央を見つめた。
が、周囲の取り巻き大貴族らの頭の中にもくもくと、オーガスタスとギュンターのピンクの妄想が頭をもたげ始め、それぞれ思いっきりその妄想に没頭し始める気配に、ため息が漏れそうになった。

咳払いして正したものかどうか。
思案したが、無視して中央の二人を、持ってる冷静さを総動員して見つめ続けた。

オーガスタスは正面に立つ、ギュンターの手に下げた剣を見る。
「…お前ホントに、その剣で俺と戦う気か?」

ギュンターも自分の剣を見て、尋ね返す。
「……………………マズいのか?」

オーガスタスがため息吐き、端に引けて見てるローフィスに、視線送る。
ローフィスは即座にディングレーを見た。

ディングレーはローフィスの視線を受けると、一つ頷き、剣を携え中央へと進んで行く。

その様を見て、ヤッケルが組んだ手を解いて口元を押さえ、他の平貴族の子らも
「…可能性が、消えたと分かってても今までの習性で、どうしても3Pが浮かんじまう」
「…だな」
「俺も」
と口々に感想を述べる。
ヤッケルがやっと口元から手を放し
「俺なんて、叫びそうになったぜ…」
と呟くのを聞き、フィンスとシェイル、そして斜め後ろのシュルツまでもが、こっそりローランデを盗み見た。

ローランデはもはや、耳まで真っ赤。

「(…したんだな。3P妄想)」(シュルツ)
「(しちゃったんだ…)」(シェイル)
「(色白だから。
これだけ真っ赤だと、バレバレで気の毒…)」(フィンス)

三人ははっ!と気づいて顔を見合わせ、ローランデに気づかれないようこっそり、ため息を吐き合った。


一方中央では。
真っ直ぐの長い黒髪背に流し、射るような青の瞳と堂とした体格、若く威厳溢れるディングレーが進み出て来る姿に気づいたギュンターは。
そのディングレーに横に立たれ、さっ!と手から剣をもぎ取られ、そしてディングレーの持ってた剣を、空いた手に押しつけられて戸惑う。

そっ…と今や手に握るディングレーの剣を、少し持ち上げて見ると。
明らかに名人が鍛えた名剣で、更に柄には優美な彫刻が掘られ、凄く高価そう…。

ギュンターが、ディングレーに振り向いた時。
ディングレーはもう背を向け、元居た場所に戻り始めていた。

ギュンターは思わず、その背に叫ぶ。
「…万一壊したら、こんな高価な物!
俺には弁償する財力、ナイんだぞ!!!」

ギュンターのその声に、ディングレーは振り向いて叫び返す。

「…俺の剣は、壊れない!!!」

そして背を向けかけ、けれどまたギュンターに振り向くと、言い放った。

「俺の剣を握った以上、オーガスタスに勝てなければお前は“腑抜け”だ!」

言われたギュンターは、一瞬顔を揺らした。

「(…“腑抜け”…?!)」

そして手に握る剣を、握り込んでオーガスタスに振り向く。

その紫の瞳は、見ている誰もが背筋が凍るような、ぞくっ!とする鋭い視線。
が、オーガスタスは朗らかに笑う。

「面白い!
ヤル気か?!
じゃ手加減、ナシでいいな?!」

そう言って、手に持つ剣を、軽々くるりと回し持ち上げる。

ローフィスはそれを聞いた途端、ディングレーに叫んだ。
「お前の剣は多分砕けるから、覚悟決めとけ!
ちなみに俺の出来る範囲で、弁償を考える!」

ギュンターはローフィスのその返答で、きっちり理性飛んだ。

ディングレーが
「弁償は必要無い!!!」
と叫ぶ声と同時。
一瞬で下に沈むと、一気に駆け出す。

「…早い…!」
場内はその素早さに、固唾を飲んだ。

オーガスタスは持ち上げた剣を横で二度、くるくる回し突っ込んで来るギュンター目がけ、一気に振り下ろす!

その豪快な剣に誰もが怖気おぞけ、ギュンターは後ろに吹っ飛び避ける図を想像した。

が、頭を掠めるギリギリでギュンターは、しなやかに身を屈めすり抜ける。
そのまま懐に突っ込み、オーガスタスの胴目がけ、剣を真横に振り切る!

ざっっっ!!!
おおっ!!!

見ている全員から、声が飛んだ。

がっっっ!!!

オーガスタスは振り切った剣を、一瞬で回し戻しながら音立ててギュンターの剣を、激しく止める。

「…野郎…!!!」
止められてギュンターは歯を剥き、一瞬で上に振り上げ外しそのまま斜めに、振り下ろそうとした。

が、オーガスタスの方が早かった。
銀の車輪が一瞬宙に回り煌めき、次に
がちっ!!!
と派手な音がして、ギュンターが剣を振り下ろすその前。
斜めからオーガスタスに剣をブツけ止められ、ギュンターはまた剣を外し剣を振ろうとした瞬間。
オーガスタスの銀の大車輪が一瞬宙で煌めき、豪速で振って来る。

がちっ!!!

今度ギュンターは決死で剣を持ち上げ、ブツけ止めた。
が直ぐ外したのはオーガスタスの方で、更にまた!!!
また!!!
宙空で銀に光る豪速の大車輪は、自在にギュンター目がけ、続けざまに予想不可能な位置から凄まじい速さで振り下ろされる。

「…おい…!」
「…本気だ、オーガスタス…」

カンッ!!!
がっ!
がっっっ!!!

ギュンターはけれど間合いから一歩も引かず、決死で剣を持ち上げ、続けざまに止めて見せる。

が、カンッ!

甲高い音と共にとうとう、ギュンターの手から剣が吹っ飛んだ。
ギュンターは飛んだ剣に一瞬気を取られ、剣の飛ぶ先を目で追った時。
「前!!!」
と叫ぶ声に、さっと視線を戻した途端。
振り下ろされる豪剣を目にし、一瞬で床に転がり避けた。

やっと間を空けたギュンターを、誰もが吐息吐いて安堵する。

ギュンターの飛んだ剣の行方をディングレーは目で追うが、自分は止める剣を、手に持ってない。

ローランデがディングレーに頷きながら、一瞬で剣の飛んだ先へと駆け込む。
宙飛ぶ剣を自分の剣で、しなやかな動作で叩き落とす。

カンッ!

ローランデは床に落ちた剣を拾い上げ、ギュンターを見る。
が、ギュンターは間合いを空けてもリーチの長いオーガスタスの剣が、今なお届く位置からそれでも引かず。
オーガスタスの振り下ろす剣を、左右に頭振って身を捻り、派手はでに金髪散らして避けてる真っ最中。

一瞬ギュンターは紫のギラリと光る瞳を、剣持つローランデに向け
「投げろ!!!」
と獣の咆吼のように雄叫おたけび、次の瞬間頭を下げ、ごぉっ!と音立てるオーガスタスの豪剣を避けた。

ローランデは頷くと、一瞬でギュンターの左1mほど横。
胸の高さ目がけ、びゅっ!!!と音立て投げた。

ギュンターはオーガスタスの剣を避けて駆け込もうとした先、投げられた剣が飛ぶのを見。
滑り込んで真っ直ぐ飛ぶ剣先を一瞬見送り、柄をがっ!!!と力尽くで握り込んで、再び剣を振り下ろすオーガスタスの豪速の剣に、握り込んだ剣を力の限りぶつけ止める。

がっっっっ!!!

ぅおおおおおっ!!!

投げた方も凄い位置予測だが、受け取る方も一瞬で剣を握り込み、振って来るオーガスタスの豪剣止めるのに間に合ってる。

場内から感嘆と驚愕の、声が漏れ続けた。
が、力で押し負けたギュンターは一瞬で下に沈み、剣を握り込んで床に背を付き、回転し横に避ける。
直ぐ、オーガスタスはギュンターが身を起こした場に、車輪のように剣を背後に回し振って持ち上げ、豪速で上から振り下ろす。

ビュッ!!!

見ている者らはオーガスタスの本気な剣に、目を見開き震え上がった。

「…なんで、あの剣が怖く無いんだ…」
「避ける、自信あるからだろ?」
「俺なら身が竦んで…あの豪快な剣に身を晒し、ヘタしたら半身不随」
リーラスもローフィスも。
そうぼやく仲間らをつい首振って見た。

ギュンターは身を斬り裂く凄まじい威力の剣を、受け止めるのを諦め。
また床に転がり横に避ける。
それでもオーガスタスの、剣の届く範囲。

「もっと…!
もっと間合いを空けないと!」

場内から声が飛ぶ。
予想道理またオーガスタスの振る剣は、避けたギュンターに届いてる。
ギュンターは、速く重く激しい剣を受け続け、軽く痺れの走る腕を意識し、再び横に転がり避ける。
がその位置ですら…オーガスタスの剣を避けるのに、十分な間合いじゃ無い。

「どうしてもっと…間合いを空けない!!!」

ディングレーは取り巻きの一人、モーリアスがそう叫ぶのを聞いた。
まるで言葉を返すように、唸る。
「ギュンターの、意地だろうな」

モーリアスだけで無くデルアンダーにまで、振り向かれても。
ディングレーは中央の戦いから、視線を外さない。

オーガスタスは奔放に跳ねる赤い髪を振り、逃げるギュンターを仕留めようと。
次々と遙かに高い上背うわぜいの、高い位置から豪速で剣を振り下ろしてた。

が、ギュンターは何度避けても振って来る、凄まじい豪剣を避けながら。
間合いを空けるなんてもっての他。
もっと間を詰め、懐に潜り込もうと。
凄まじい紫の引かぬ瞳を向け、狙い続ける。

誰もが、王者の風格持つ畏怖堂々とした赤い獅子相手に。
遠慮無く牙剥く金色の豹のような、しなやかに躍動する細身のギュンターを、言葉を無くし見つめた。

ギュンターの紫の目はよりいっそうギラリと鋭く輝き、柳がしなるように銀の大車輪を避けながらも、攻撃の機会を決して諦めない。

その野獣じみた瞳は、怖じる様は微塵も無く、一歩も引かぬ覚悟。

場内の誰もが。
一見優美に見える美貌のギュンターの、凄まじい本性をの当たりにし。

言葉を無くし、固唾を飲んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集

夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。 現在公開中の作品(随時更新) 『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』 異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

処理中です...