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オーガスタスとギュンターの対戦
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スフォルツァはこっそり、横に並ぶアイリスの横顔を盗み見る。
色白で濃い艶やかな栗色の巻き毛を肩に流し、利発そうな濃紺の瞳を中央のオーガスタス。
そしてギュンターに向けてた。
一つため息を吐くと、自分は本来講義室に残り、この大鍛錬場でアイリスを見てる事なんて、出来なかった事を思い返す。
確かに昼食後の、歴史の講義開始直後。
アイリスよりも数名が、先に抜け出してた。
が、スフォルツァは三人の美少年の側から離れる訳に行かず、アイリスがこっそり講義室から出て行こうとする姿を、残念そうに見つめた。
けどその時、アイリスは見つからずに、抜け出せたのに。
生徒らに背を向け、黒板に文字を書いてる講師が、振り向くまで。
わざと、戸口に立っていた。
そして振り向き、気づいて目を見開き見つめる講師に、アイリスはにっこり微笑んで言ったのだ。
「昼食中に私たちは、午前の三年の剣の講義で。
ディングレー殿と新たな監督生ギュンターの、対戦があったと聞いたばかり。
更に先ほど廊下で、四年の講義を行う講師が、二・三年の合同授業のある大鍛錬場へと。
“特別講義”で出向くよう、四年達に叫んでいるのを、私達一年全員が耳にしています。
…と言うことは、きっとオーガスタスとギュンターの対戦があるだろうと。
推測して皆、試合が見たくて。
この講義をかなりの者が既に、こっそり抜け出しています。
…つまり、例え講義を続けても。
残って対戦を見られない者らは、試合が気になって気もそぞろ。
どうでしょう?
ここは一つ私たちにも関係ある、新たな監督生ギュンターの対戦ぶりを。
こっそり抜け出さずに、済むように。
休講にして、見せては頂けないでしょうか?」
途端けたたましい拍手が生徒らから湧き上がり。
ガタン!ガタンと次々に音を鳴らし、皆が拍手しながら立ち上がる。
スフォルツァは横の、アスラン、ハウリィ、マレーに振り向いた時。
アスランが真っ先に笑顔で立ち上がりながら、拍手に加わっていて。
それを見ながら自分もほぼ同時に立ち上がり、拍手してると気づく。
歴史の講師は、講義室のほぼ全員が立ち上がり拍手する様を見、項垂れて告げた。
「…いいだろう。
休講にはするが、この講義を監督するのは私の役目。
大鍛錬場に行っても、私の指示に従え。
では、付いて来るように!」
講師はアイリスの立つ戸口へと、歩き始める。
アイリスは横にずれて道を開け、講師の後ろに続き、講義室を出た。
スフォルツァはハウリィとマレーと共に、はしゃぐアスランの、笑顔を見る。
ハウリィが困惑した表情で、自分を見上げてるのに気づき、スフォルツァは
「けど絶対無理に、動くなよ」
と飛び跳ねそうな勢いのアスランに、低い声音で釘刺した。
ハウリィとマレーはその気遣いに笑顔を見せ、アスランは顔を下げて、飛び跳ねたいのを一生懸命我慢した。
中央で向かい合って立つ、オーガスタスとギュンターを見ながら。
ヤッケルは、ぼそりと口開く。
「…ダメだ。
あの二人のすんごく淫らな場面しか、思い浮かばない」
フィンスはヤッケルの横にずらりと居並ぶ平貴族らが、全員視線を中央の二人に釘付けながら揃ってその言葉に、こっくりと頷くのを見たし。
反対横のシェイルが、横のローランデまでもが頬を染め、顔下げるのを見て。
「…大丈夫。
みんな今、凄い妄想中だし。
その妄想の中でも君のなんて、いっちばん軽いし健全だから」
と言って慰めてるのを聞き、斜め後ろのシュルツと思わず顔を見合わせた。
ディングレーは腕組みし、中央を見つめた。
が、周囲の取り巻き大貴族らの頭の中にもくもくと、オーガスタスとギュンターのピンクの妄想が頭をもたげ始め、それぞれ思いっきりその妄想に没頭し始める気配に、ため息が漏れそうになった。
咳払いして正したものかどうか。
思案したが、無視して中央の二人を、持ってる冷静さを総動員して見つめ続けた。
オーガスタスは正面に立つ、ギュンターの手に下げた剣を見る。
「…お前ホントに、その剣で俺と戦う気か?」
ギュンターも自分の剣を見て、尋ね返す。
「……………………マズいのか?」
オーガスタスがため息吐き、端に引けて見てるローフィスに、視線送る。
ローフィスは即座にディングレーを見た。
ディングレーはローフィスの視線を受けると、一つ頷き、剣を携え中央へと進んで行く。
その様を見て、ヤッケルが組んだ手を解いて口元を押さえ、他の平貴族の子らも
「…可能性が、消えたと分かってても今までの習性で、どうしても3Pが浮かんじまう」
「…だな」
「俺も」
と口々に感想を述べる。
ヤッケルがやっと口元から手を放し
「俺なんて、叫びそうになったぜ…」
と呟くのを聞き、フィンスとシェイル、そして斜め後ろのシュルツまでもが、こっそりローランデを盗み見た。
ローランデはもはや、耳まで真っ赤。
「(…したんだな。3P妄想)」(シュルツ)
「(しちゃったんだ…)」(シェイル)
「(色白だから。
これだけ真っ赤だと、バレバレで気の毒…)」(フィンス)
三人ははっ!と気づいて顔を見合わせ、ローランデに気づかれないようこっそり、ため息を吐き合った。
一方中央では。
真っ直ぐの長い黒髪背に流し、射るような青の瞳と堂とした体格、若く威厳溢れるディングレーが進み出て来る姿に気づいたギュンターは。
そのディングレーに横に立たれ、さっ!と手から剣をもぎ取られ、そしてディングレーの持ってた剣を、空いた手に押しつけられて戸惑う。
そっ…と今や手に握るディングレーの剣を、少し持ち上げて見ると。
明らかに名人が鍛えた名剣で、更に柄には優美な彫刻が掘られ、凄く高価そう…。
ギュンターが、ディングレーに振り向いた時。
ディングレーはもう背を向け、元居た場所に戻り始めていた。
ギュンターは思わず、その背に叫ぶ。
「…万一壊したら、こんな高価な物!
俺には弁償する財力、ナイんだぞ!!!」
ギュンターのその声に、ディングレーは振り向いて叫び返す。
「…俺の剣は、壊れない!!!」
そして背を向けかけ、けれどまたギュンターに振り向くと、言い放った。
「俺の剣を握った以上、オーガスタスに勝てなければお前は“腑抜け”だ!」
言われたギュンターは、一瞬顔を揺らした。
「(…“腑抜け”…?!)」
そして手に握る剣を、握り込んでオーガスタスに振り向く。
その紫の瞳は、見ている誰もが背筋が凍るような、ぞくっ!とする鋭い視線。
が、オーガスタスは朗らかに笑う。
「面白い!
ヤル気か?!
じゃ手加減、ナシでいいな?!」
そう言って、手に持つ剣を、軽々くるりと回し持ち上げる。
ローフィスはそれを聞いた途端、ディングレーに叫んだ。
「お前の剣は多分砕けるから、覚悟決めとけ!
ちなみに俺の出来る範囲で、弁償を考える!」
ギュンターはローフィスのその返答で、きっちり理性飛んだ。
ディングレーが
「弁償は必要無い!!!」
と叫ぶ声と同時。
一瞬で下に沈むと、一気に駆け出す。
「…早い…!」
場内はその素早さに、固唾を飲んだ。
オーガスタスは持ち上げた剣を横で二度、くるくる回し突っ込んで来るギュンター目がけ、一気に振り下ろす!
その豪快な剣に誰もが怖気、ギュンターは後ろに吹っ飛び避ける図を想像した。
が、頭を掠めるギリギリでギュンターは、しなやかに身を屈めすり抜ける。
そのまま懐に突っ込み、オーガスタスの胴目がけ、剣を真横に振り切る!
ざっっっ!!!
おおっ!!!
見ている全員から、声が飛んだ。
がっっっ!!!
オーガスタスは振り切った剣を、一瞬で回し戻しながら音立ててギュンターの剣を、激しく止める。
「…野郎…!!!」
止められてギュンターは歯を剥き、一瞬で上に振り上げ外しそのまま斜めに、振り下ろそうとした。
が、オーガスタスの方が早かった。
銀の車輪が一瞬宙に回り煌めき、次に
がちっ!!!
と派手な音がして、ギュンターが剣を振り下ろすその前。
斜めからオーガスタスに剣をブツけ止められ、ギュンターはまた剣を外し剣を振ろうとした瞬間。
オーガスタスの銀の大車輪が一瞬宙で煌めき、豪速で振って来る。
がちっ!!!
今度ギュンターは決死で剣を持ち上げ、ブツけ止めた。
が直ぐ外したのはオーガスタスの方で、更にまた!!!
また!!!
宙空で銀に光る豪速の大車輪は、自在にギュンター目がけ、続けざまに予想不可能な位置から凄まじい速さで振り下ろされる。
「…おい…!」
「…本気だ、オーガスタス…」
カンッ!!!
がっ!
がっっっ!!!
ギュンターはけれど間合いから一歩も引かず、決死で剣を持ち上げ、続けざまに止めて見せる。
が、カンッ!
甲高い音と共にとうとう、ギュンターの手から剣が吹っ飛んだ。
ギュンターは飛んだ剣に一瞬気を取られ、剣の飛ぶ先を目で追った時。
「前!!!」
と叫ぶ声に、さっと視線を戻した途端。
振り下ろされる豪剣を目にし、一瞬で床に転がり避けた。
やっと間を空けたギュンターを、誰もが吐息吐いて安堵する。
ギュンターの飛んだ剣の行方をディングレーは目で追うが、自分は止める剣を、手に持ってない。
ローランデがディングレーに頷きながら、一瞬で剣の飛んだ先へと駆け込む。
宙飛ぶ剣を自分の剣で、しなやかな動作で叩き落とす。
カンッ!
ローランデは床に落ちた剣を拾い上げ、ギュンターを見る。
が、ギュンターは間合いを空けてもリーチの長いオーガスタスの剣が、今なお届く位置からそれでも引かず。
オーガスタスの振り下ろす剣を、左右に頭振って身を捻り、派手に金髪散らして避けてる真っ最中。
一瞬ギュンターは紫のギラリと光る瞳を、剣持つローランデに向け
「投げろ!!!」
と獣の咆吼のように雄叫び、次の瞬間頭を下げ、ごぉっ!と音立てるオーガスタスの豪剣を避けた。
ローランデは頷くと、一瞬でギュンターの左1mほど横。
胸の高さ目がけ、びゅっ!!!と音立て投げた。
ギュンターはオーガスタスの剣を避けて駆け込もうとした先、投げられた剣が飛ぶのを見。
滑り込んで真っ直ぐ飛ぶ剣先を一瞬見送り、柄をがっ!!!と力尽くで握り込んで、再び剣を振り下ろすオーガスタスの豪速の剣に、握り込んだ剣を力の限りぶつけ止める。
がっっっっ!!!
ぅおおおおおっ!!!
投げた方も凄い位置予測だが、受け取る方も一瞬で剣を握り込み、振って来るオーガスタスの豪剣止めるのに間に合ってる。
場内から感嘆と驚愕の、声が漏れ続けた。
が、力で押し負けたギュンターは一瞬で下に沈み、剣を握り込んで床に背を付き、回転し横に避ける。
直ぐ、オーガスタスはギュンターが身を起こした場に、車輪のように剣を背後に回し振って持ち上げ、豪速で上から振り下ろす。
ビュッ!!!
見ている者らはオーガスタスの本気な剣に、目を見開き震え上がった。
「…なんで、あの剣が怖く無いんだ…」
「避ける、自信あるからだろ?」
「俺なら身が竦んで…あの豪快な剣に身を晒し、ヘタしたら半身不随」
リーラスもローフィスも。
そうぼやく仲間らをつい首振って見た。
ギュンターは身を斬り裂く凄まじい威力の剣を、受け止めるのを諦め。
また床に転がり横に避ける。
それでもオーガスタスの、剣の届く範囲。
「もっと…!
もっと間合いを空けないと!」
場内から声が飛ぶ。
予想道理またオーガスタスの振る剣は、避けたギュンターに届いてる。
ギュンターは、速く重く激しい剣を受け続け、軽く痺れの走る腕を意識し、再び横に転がり避ける。
がその位置ですら…オーガスタスの剣を避けるのに、十分な間合いじゃ無い。
「どうしてもっと…間合いを空けない!!!」
ディングレーは取り巻きの一人、モーリアスがそう叫ぶのを聞いた。
まるで言葉を返すように、唸る。
「ギュンターの、意地だろうな」
モーリアスだけで無くデルアンダーにまで、振り向かれても。
ディングレーは中央の戦いから、視線を外さない。
オーガスタスは奔放に跳ねる赤い髪を振り、逃げるギュンターを仕留めようと。
次々と遙かに高い上背の、高い位置から豪速で剣を振り下ろしてた。
が、ギュンターは何度避けても振って来る、凄まじい豪剣を避けながら。
間合いを空けるなんてもっての他。
もっと間を詰め、懐に潜り込もうと。
凄まじい紫の引かぬ瞳を向け、狙い続ける。
誰もが、王者の風格持つ畏怖堂々とした赤い獅子相手に。
遠慮無く牙剥く金色の豹のような、しなやかに躍動する細身のギュンターを、言葉を無くし見つめた。
ギュンターの紫の目はよりいっそうギラリと鋭く輝き、柳がしなるように銀の大車輪を避けながらも、攻撃の機会を決して諦めない。
その野獣じみた瞳は、怖じる様は微塵も無く、一歩も引かぬ覚悟。
場内の誰もが。
一見優美に見える美貌のギュンターの、凄まじい本性を目の当たりにし。
言葉を無くし、固唾を飲んだ。
色白で濃い艶やかな栗色の巻き毛を肩に流し、利発そうな濃紺の瞳を中央のオーガスタス。
そしてギュンターに向けてた。
一つため息を吐くと、自分は本来講義室に残り、この大鍛錬場でアイリスを見てる事なんて、出来なかった事を思い返す。
確かに昼食後の、歴史の講義開始直後。
アイリスよりも数名が、先に抜け出してた。
が、スフォルツァは三人の美少年の側から離れる訳に行かず、アイリスがこっそり講義室から出て行こうとする姿を、残念そうに見つめた。
けどその時、アイリスは見つからずに、抜け出せたのに。
生徒らに背を向け、黒板に文字を書いてる講師が、振り向くまで。
わざと、戸口に立っていた。
そして振り向き、気づいて目を見開き見つめる講師に、アイリスはにっこり微笑んで言ったのだ。
「昼食中に私たちは、午前の三年の剣の講義で。
ディングレー殿と新たな監督生ギュンターの、対戦があったと聞いたばかり。
更に先ほど廊下で、四年の講義を行う講師が、二・三年の合同授業のある大鍛錬場へと。
“特別講義”で出向くよう、四年達に叫んでいるのを、私達一年全員が耳にしています。
…と言うことは、きっとオーガスタスとギュンターの対戦があるだろうと。
推測して皆、試合が見たくて。
この講義をかなりの者が既に、こっそり抜け出しています。
…つまり、例え講義を続けても。
残って対戦を見られない者らは、試合が気になって気もそぞろ。
どうでしょう?
ここは一つ私たちにも関係ある、新たな監督生ギュンターの対戦ぶりを。
こっそり抜け出さずに、済むように。
休講にして、見せては頂けないでしょうか?」
途端けたたましい拍手が生徒らから湧き上がり。
ガタン!ガタンと次々に音を鳴らし、皆が拍手しながら立ち上がる。
スフォルツァは横の、アスラン、ハウリィ、マレーに振り向いた時。
アスランが真っ先に笑顔で立ち上がりながら、拍手に加わっていて。
それを見ながら自分もほぼ同時に立ち上がり、拍手してると気づく。
歴史の講師は、講義室のほぼ全員が立ち上がり拍手する様を見、項垂れて告げた。
「…いいだろう。
休講にはするが、この講義を監督するのは私の役目。
大鍛錬場に行っても、私の指示に従え。
では、付いて来るように!」
講師はアイリスの立つ戸口へと、歩き始める。
アイリスは横にずれて道を開け、講師の後ろに続き、講義室を出た。
スフォルツァはハウリィとマレーと共に、はしゃぐアスランの、笑顔を見る。
ハウリィが困惑した表情で、自分を見上げてるのに気づき、スフォルツァは
「けど絶対無理に、動くなよ」
と飛び跳ねそうな勢いのアスランに、低い声音で釘刺した。
ハウリィとマレーはその気遣いに笑顔を見せ、アスランは顔を下げて、飛び跳ねたいのを一生懸命我慢した。
中央で向かい合って立つ、オーガスタスとギュンターを見ながら。
ヤッケルは、ぼそりと口開く。
「…ダメだ。
あの二人のすんごく淫らな場面しか、思い浮かばない」
フィンスはヤッケルの横にずらりと居並ぶ平貴族らが、全員視線を中央の二人に釘付けながら揃ってその言葉に、こっくりと頷くのを見たし。
反対横のシェイルが、横のローランデまでもが頬を染め、顔下げるのを見て。
「…大丈夫。
みんな今、凄い妄想中だし。
その妄想の中でも君のなんて、いっちばん軽いし健全だから」
と言って慰めてるのを聞き、斜め後ろのシュルツと思わず顔を見合わせた。
ディングレーは腕組みし、中央を見つめた。
が、周囲の取り巻き大貴族らの頭の中にもくもくと、オーガスタスとギュンターのピンクの妄想が頭をもたげ始め、それぞれ思いっきりその妄想に没頭し始める気配に、ため息が漏れそうになった。
咳払いして正したものかどうか。
思案したが、無視して中央の二人を、持ってる冷静さを総動員して見つめ続けた。
オーガスタスは正面に立つ、ギュンターの手に下げた剣を見る。
「…お前ホントに、その剣で俺と戦う気か?」
ギュンターも自分の剣を見て、尋ね返す。
「……………………マズいのか?」
オーガスタスがため息吐き、端に引けて見てるローフィスに、視線送る。
ローフィスは即座にディングレーを見た。
ディングレーはローフィスの視線を受けると、一つ頷き、剣を携え中央へと進んで行く。
その様を見て、ヤッケルが組んだ手を解いて口元を押さえ、他の平貴族の子らも
「…可能性が、消えたと分かってても今までの習性で、どうしても3Pが浮かんじまう」
「…だな」
「俺も」
と口々に感想を述べる。
ヤッケルがやっと口元から手を放し
「俺なんて、叫びそうになったぜ…」
と呟くのを聞き、フィンスとシェイル、そして斜め後ろのシュルツまでもが、こっそりローランデを盗み見た。
ローランデはもはや、耳まで真っ赤。
「(…したんだな。3P妄想)」(シュルツ)
「(しちゃったんだ…)」(シェイル)
「(色白だから。
これだけ真っ赤だと、バレバレで気の毒…)」(フィンス)
三人ははっ!と気づいて顔を見合わせ、ローランデに気づかれないようこっそり、ため息を吐き合った。
一方中央では。
真っ直ぐの長い黒髪背に流し、射るような青の瞳と堂とした体格、若く威厳溢れるディングレーが進み出て来る姿に気づいたギュンターは。
そのディングレーに横に立たれ、さっ!と手から剣をもぎ取られ、そしてディングレーの持ってた剣を、空いた手に押しつけられて戸惑う。
そっ…と今や手に握るディングレーの剣を、少し持ち上げて見ると。
明らかに名人が鍛えた名剣で、更に柄には優美な彫刻が掘られ、凄く高価そう…。
ギュンターが、ディングレーに振り向いた時。
ディングレーはもう背を向け、元居た場所に戻り始めていた。
ギュンターは思わず、その背に叫ぶ。
「…万一壊したら、こんな高価な物!
俺には弁償する財力、ナイんだぞ!!!」
ギュンターのその声に、ディングレーは振り向いて叫び返す。
「…俺の剣は、壊れない!!!」
そして背を向けかけ、けれどまたギュンターに振り向くと、言い放った。
「俺の剣を握った以上、オーガスタスに勝てなければお前は“腑抜け”だ!」
言われたギュンターは、一瞬顔を揺らした。
「(…“腑抜け”…?!)」
そして手に握る剣を、握り込んでオーガスタスに振り向く。
その紫の瞳は、見ている誰もが背筋が凍るような、ぞくっ!とする鋭い視線。
が、オーガスタスは朗らかに笑う。
「面白い!
ヤル気か?!
じゃ手加減、ナシでいいな?!」
そう言って、手に持つ剣を、軽々くるりと回し持ち上げる。
ローフィスはそれを聞いた途端、ディングレーに叫んだ。
「お前の剣は多分砕けるから、覚悟決めとけ!
ちなみに俺の出来る範囲で、弁償を考える!」
ギュンターはローフィスのその返答で、きっちり理性飛んだ。
ディングレーが
「弁償は必要無い!!!」
と叫ぶ声と同時。
一瞬で下に沈むと、一気に駆け出す。
「…早い…!」
場内はその素早さに、固唾を飲んだ。
オーガスタスは持ち上げた剣を横で二度、くるくる回し突っ込んで来るギュンター目がけ、一気に振り下ろす!
その豪快な剣に誰もが怖気、ギュンターは後ろに吹っ飛び避ける図を想像した。
が、頭を掠めるギリギリでギュンターは、しなやかに身を屈めすり抜ける。
そのまま懐に突っ込み、オーガスタスの胴目がけ、剣を真横に振り切る!
ざっっっ!!!
おおっ!!!
見ている全員から、声が飛んだ。
がっっっ!!!
オーガスタスは振り切った剣を、一瞬で回し戻しながら音立ててギュンターの剣を、激しく止める。
「…野郎…!!!」
止められてギュンターは歯を剥き、一瞬で上に振り上げ外しそのまま斜めに、振り下ろそうとした。
が、オーガスタスの方が早かった。
銀の車輪が一瞬宙に回り煌めき、次に
がちっ!!!
と派手な音がして、ギュンターが剣を振り下ろすその前。
斜めからオーガスタスに剣をブツけ止められ、ギュンターはまた剣を外し剣を振ろうとした瞬間。
オーガスタスの銀の大車輪が一瞬宙で煌めき、豪速で振って来る。
がちっ!!!
今度ギュンターは決死で剣を持ち上げ、ブツけ止めた。
が直ぐ外したのはオーガスタスの方で、更にまた!!!
また!!!
宙空で銀に光る豪速の大車輪は、自在にギュンター目がけ、続けざまに予想不可能な位置から凄まじい速さで振り下ろされる。
「…おい…!」
「…本気だ、オーガスタス…」
カンッ!!!
がっ!
がっっっ!!!
ギュンターはけれど間合いから一歩も引かず、決死で剣を持ち上げ、続けざまに止めて見せる。
が、カンッ!
甲高い音と共にとうとう、ギュンターの手から剣が吹っ飛んだ。
ギュンターは飛んだ剣に一瞬気を取られ、剣の飛ぶ先を目で追った時。
「前!!!」
と叫ぶ声に、さっと視線を戻した途端。
振り下ろされる豪剣を目にし、一瞬で床に転がり避けた。
やっと間を空けたギュンターを、誰もが吐息吐いて安堵する。
ギュンターの飛んだ剣の行方をディングレーは目で追うが、自分は止める剣を、手に持ってない。
ローランデがディングレーに頷きながら、一瞬で剣の飛んだ先へと駆け込む。
宙飛ぶ剣を自分の剣で、しなやかな動作で叩き落とす。
カンッ!
ローランデは床に落ちた剣を拾い上げ、ギュンターを見る。
が、ギュンターは間合いを空けてもリーチの長いオーガスタスの剣が、今なお届く位置からそれでも引かず。
オーガスタスの振り下ろす剣を、左右に頭振って身を捻り、派手に金髪散らして避けてる真っ最中。
一瞬ギュンターは紫のギラリと光る瞳を、剣持つローランデに向け
「投げろ!!!」
と獣の咆吼のように雄叫び、次の瞬間頭を下げ、ごぉっ!と音立てるオーガスタスの豪剣を避けた。
ローランデは頷くと、一瞬でギュンターの左1mほど横。
胸の高さ目がけ、びゅっ!!!と音立て投げた。
ギュンターはオーガスタスの剣を避けて駆け込もうとした先、投げられた剣が飛ぶのを見。
滑り込んで真っ直ぐ飛ぶ剣先を一瞬見送り、柄をがっ!!!と力尽くで握り込んで、再び剣を振り下ろすオーガスタスの豪速の剣に、握り込んだ剣を力の限りぶつけ止める。
がっっっっ!!!
ぅおおおおおっ!!!
投げた方も凄い位置予測だが、受け取る方も一瞬で剣を握り込み、振って来るオーガスタスの豪剣止めるのに間に合ってる。
場内から感嘆と驚愕の、声が漏れ続けた。
が、力で押し負けたギュンターは一瞬で下に沈み、剣を握り込んで床に背を付き、回転し横に避ける。
直ぐ、オーガスタスはギュンターが身を起こした場に、車輪のように剣を背後に回し振って持ち上げ、豪速で上から振り下ろす。
ビュッ!!!
見ている者らはオーガスタスの本気な剣に、目を見開き震え上がった。
「…なんで、あの剣が怖く無いんだ…」
「避ける、自信あるからだろ?」
「俺なら身が竦んで…あの豪快な剣に身を晒し、ヘタしたら半身不随」
リーラスもローフィスも。
そうぼやく仲間らをつい首振って見た。
ギュンターは身を斬り裂く凄まじい威力の剣を、受け止めるのを諦め。
また床に転がり横に避ける。
それでもオーガスタスの、剣の届く範囲。
「もっと…!
もっと間合いを空けないと!」
場内から声が飛ぶ。
予想道理またオーガスタスの振る剣は、避けたギュンターに届いてる。
ギュンターは、速く重く激しい剣を受け続け、軽く痺れの走る腕を意識し、再び横に転がり避ける。
がその位置ですら…オーガスタスの剣を避けるのに、十分な間合いじゃ無い。
「どうしてもっと…間合いを空けない!!!」
ディングレーは取り巻きの一人、モーリアスがそう叫ぶのを聞いた。
まるで言葉を返すように、唸る。
「ギュンターの、意地だろうな」
モーリアスだけで無くデルアンダーにまで、振り向かれても。
ディングレーは中央の戦いから、視線を外さない。
オーガスタスは奔放に跳ねる赤い髪を振り、逃げるギュンターを仕留めようと。
次々と遙かに高い上背の、高い位置から豪速で剣を振り下ろしてた。
が、ギュンターは何度避けても振って来る、凄まじい豪剣を避けながら。
間合いを空けるなんてもっての他。
もっと間を詰め、懐に潜り込もうと。
凄まじい紫の引かぬ瞳を向け、狙い続ける。
誰もが、王者の風格持つ畏怖堂々とした赤い獅子相手に。
遠慮無く牙剥く金色の豹のような、しなやかに躍動する細身のギュンターを、言葉を無くし見つめた。
ギュンターの紫の目はよりいっそうギラリと鋭く輝き、柳がしなるように銀の大車輪を避けながらも、攻撃の機会を決して諦めない。
その野獣じみた瞳は、怖じる様は微塵も無く、一歩も引かぬ覚悟。
場内の誰もが。
一見優美に見える美貌のギュンターの、凄まじい本性を目の当たりにし。
言葉を無くし、固唾を飲んだ。
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