若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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昼食大食堂での衝撃

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 ヤッケルら、二年が大食堂に入った途端。
群れて小声で興奮状態で話す三年らの姿を見つけ、ヤッケルはフィンス、シェイル、ローランデの側を離れ、寄って行って聞き出す。

三年らは口々に
「…でも!」
だとか
「どう見てもディングレーにその気、無さそうだぜ?」
とか、言ってたので
「ナニが?
ギュンターとディングレーに進展か?」
と口挟む。
皆一斉にヤッケルを見た後、一人が
「それが…」
と先ほどの、剣の試合の顛末てんまつを話し始めた。


ディングレーはいつも道理食卓に着いた途端、取り囲む大貴族らが妙に大人しいのに視線を投げた。
デルアンダーはすましているものの、気落ちしてるように見えたし、他の皆も、どっかほっとして見えるが…かなり、複雑な表情。

それでつい
「…ギュンターは、お前らからしてもかなりの強敵か?」
と聞いてみる。
するとデルアンダーがディングレーの発言に気づき、慌てて
「あ…そ…うですね」
と無難な返答をし、直ぐ決まり悪げに顔を下げる。

「(…さては俺とギュンターがデキてると邪推したことが、気まずいんだな?)」
と睨みかけ…。
が、散々ローフィスに
『奴らはお前を慕ってるし、多分ギュンターとの事でも、かなり気を揉んでる。
他の、噂好きのミーハーとは違うから、悶着もんちゃく起こすな』
と言われたので、自重して口を噤んだ。

ギュンターは食堂に入りながら、あの後講師に
「ディングレーはああ言ったが。
俺は“互角”だとは思ってない。
間違いなく剣使いはディングレーが上だ。
が、お前は致命傷避けるのに長けている」
と言ってきたのを思い出す。
「あんな巧みな剣の使い手に、俺も会ったこと無い。
…いや巧みなヤツには会ったが、剣の威力はディングレーの半分だ」
そう言い返すと、講師は背を向け
「完全にディングレーの理性飛ぶと、更に速い上、威力いりょく倍マシだ」
と言って去ったので…ギュンターは顔を下げた。
その時ちょうどダベンデスタを見かけたので、寄って行く。
ダベンデスタは心からほっとした様子で
「頑張ったな!」
と声かけてくれた。
「…別に、頑張った訳じゃない。
つい牙剥いて来る相手だと、叩き潰そうと反射的に体が動く」
と言った時。
ダベンデスタは目をまん丸にして呟く。
「…例えば…それだけ牙向ける相手でもその…例えばあの…」
と言い淀むので、ギュンターは
「?なんだ?」
と聞くが、結局ダベンデスタは顔下げて
「もういい」
と呟いた。

だから今、横で一緒に食べ物調達のため、食事の盛られた大皿の乗るテーブル前の行列に、一緒に並びながらギュンターは、ふと思う。
「…さっき、何が聞きたかったんだ?」
が、ダベンデスタはぎくっ!と顔揺らし
「…だから、もういい」
「ホントに、いいのか?」
聞き返すが、ダベンデスタは青ざめて頷いた。

テーブルに着いてたフィンスは、ヤッケルが駆け込んで来て小声で
「…今日の剣の講義で。
ギュンター、ディングレー相手に凄い戦い振り見せたそうだ。
その姿が…獣そのもので。
デラロッサが言うには
“二人はヤってない”
そうだ!!!」

ざわっ!
同じテーブルに座ってた面々にまで動揺が走り、正面で聞かされたローランデとシェイルは、顔を見合わせる。
「ホントか?!」
「ガセじゃないのか?!」
「じゃ、お前が聞いた…」
「しっ!声が大きい!」

皆、今度はディングレーもギュンターもこの大食堂に姿を見せてるので、慎重。

「…手でも口でも…って…。
寝ては無いけど、そういうコトはシてる…?!」

ヤッケルは思い返し、俯く。
「言われたディングレーは、けど…乗り気じゃなかったかも…」

長いテーブルの、横に座る全員が
「あーあ!」
とため息吐くのを、シェイルは呆れて聞いたけど。
横のローランデが真っ赤に頬染めて
「…みんな…言ってたから私はてっきり…」
と蚊の泣くような、小さな声でつぶやいてる。

シェイルもフィンスも、どうフォローしようか言葉が見つからず
「……………………」
と色白なので頬の赤さが目立ちまくり、恥ずかしげに俯くローランデを凝視する中。
ヤッケルだけが、口開く。
「二人のベットシーン、思いっきり妄想した?」

聞かれてローランデは、俯いたまま耳まで真っ赤に染めて、コクン。と頷いた。

けれどテーブルの皆は、全員ローランデのファンなので
「…恥じる事無いよ」
「俺だって妄想したし」
「俺なんて、オーガスタスまで入って3Pで」
「ああ、普通だよな?
妄想なんて」
「特別なことじゃない」
「みんなしてるし」
と自分を恥じるローランデに、助け船を出す。

横でシェイルが
「ほら、みんなもそうだから。
君が特別じゃ無いし、恥ずかしがる必要、無いよ」
と優しく囁くと、ローランデはやっと俯けた顔を上げて、頷いた。

フィンス始め、テーブルにいた他の面々。
更にヤッケルまでもが。
恥ずかしさから立ち直ったローランデに、ほっとした。

背後のテーブルからも
「グーデン配下が相手の時だけ、ギュンターのヤツ、あの猛獣ぶりかと思ったら…」
、ディングレー相手にもだぜ?」
「俺ならビビってちびりそう…」
「チビらないが…あんなゾッとするディングレー、敵に回したくないよな?」
「本気で、る気じゃ無かったか?」
「ギュンターって…単に鈍くて、あの怖さが分かってナイのか?」
と、三年らが話してる。

デラロッサが腕を組み、おもむろに口挟む。
「そうじゃない。
ギュンターも本気にさせると、躊躇ためらう間もなくバッサリ相手を切り裂ける、ヤバい男だってコトだ」

“身軽で素早い”
と、誰もが思ってた。
が、あの凄まじいディングレーの視線を真っ向から受けて。
更に眼光増して睨み返したギュンターの、あの鋭い紫の瞳…。

あれは確かに、愛玩なんて可愛いものじゃなく…。
紛れもなく人をぞっとさせる、容赦無く牙剥き襲いかかる野獣の瞳。

デラロッサの発言で、皆美貌の色男とあなどってたギュンターが、ディングレー同様物騒極まりない男だと思い知って、全員口を閉じた。

遅れて来た四年達は、大食堂の雰囲気が…何やらいつもと違い、妙な空気が流れてて、首捻った。

しかも大食堂に入った途端。
オーガスタスは大食堂中の視線が、一斉に自分に向けられ、一瞬怖じた。

つい、こそっと横のローフィスに屈み、尋ねる。
「ナニがあったんだ?」
ローフィスは屈んで間近にある、斜め上のオーガスタスの整った小顔を見つめると
「…聞いてくる」
と言って二年の席へと、歩を運ぶ。

リーラスやみそぎメンバーらは気にもとめず
「いつもの指定席が、空いてるぜ!」
「だが食事の列。
さっさと並ばないと、食い物無くなりそうだな!」
そう口々に喋ってる。

が、オーガスタスは、デカい四年らがぞろぞろと入って来た途端。
コックらが示し合わせたように、料理が山盛り乗った新しい皿を、テーブルに次々と並べ始めるのを見て、にっこり笑う。
「無くなる心配は無い」

そして、大皿をテーブルに置くコックの一人と目が合うと、笑顔で会釈した。
コックも満面な笑みをオーガスタスに送る。

新たな大皿を置くコックらは、皆皿を置きながらも、次々オーガスタスに笑顔を送る。

まるで
“腹一杯、食ってくれ”
と言うように。

リーラスは笑顔向けられてるオーガスタスに振り向くと、ぼそり…と言った。
「…下級だけで無く。
お前、コックも掃除の召使いも、どころか馬丁にすら。
人気だよな」

オーガスタスは笑顔でリーラスに振り向いた。
「お前ら金持ち貴族が、金払って召使いらにして貰う日常雑務を。
俺は、貧乏平貴族なんで、あちこちで仕事手伝って、やって貰ってる。
…じゃないと酒場代が、出ないからな!」

リーラスは顔を下げてため息吐いた。
「…タマに姿が見えない時。
連中の仕事、手伝ってたのか?」

オーガスタスは頷く。
「定期的に掃除担当の召使いが、俺の部屋に掃除に来てくれるのも。
金払う代わりに俺の出来る範囲で、重い物担いだりの、手伝いしてるからだ」

「…それで、一年の頃から上級ら相手に、暇さえあれば喧嘩しまくって。
俺らの付き合いに、酒場にも顔出して。
更に連中の仕事の手伝いもか?!
…お前、忙しい男だよな」
オーガスタスは頷いて
「体力、余ってるから別にいい」
と返答した。

ローフィスの分の皿も確保し、テーブルに着くと。
ローフィスが戻って来て、小声で告げる。

「…講師が、新入りのギュンターを監督生に据えたと、不満に思う奴らに。
ギュンターの実力見せる為、ディングレーと戦わせ…。
どっちも本気で、牙剥いて殆ど殺し合いのような試合したそうだ」

他の面々は目を見開く。
「ギュンター、剣使えたのか?」
「ディングレー本気にさせると、ヘタするとなぶり殺されるぞ」
「あいつ、ナマケモノの兄貴の、グーデンと違い。
マジで剣の鍛錬してっから、全く隙が無い」

皆の言葉に、ローフィスはぼそりと言葉を返す。
「ほぼ、互角。
ディングレーは本気の本気でギュンターを仕留めようと、剣振ってたらしい」

オーガスタスは同じテーブルに着く面々が、一瞬でぞっ…と背筋凍らせる様子を見た。
が、聞く。
「で?ギュンターは?」

ローフィスが、オーガスタスを見上げる。
「ディングレーが牙剥けば牙剥き返し、一歩も引かなかったそうだ」
そう言うと、満面の笑みのオーガスタスを見つつ、ぼやく。
「とっくに、予想ついてた癖に」

オーガスタスは笑って言った。
「そういう男だから、気に入ったんだ」

四年達は一斉にオーガスタスを見、ぼやく。
「…ディングレー並の使い手か?」
「そんな、強かったのか?あいつ」

けれどローフィスは言った。
「剣使いは、まだまだ荒削り。
が、誰より俊敏で怖じぬ戦い振り。
剣の腕なら、ディングレーよりかなり劣るが…」

オーガスタスが、後を引き継ぐ。
「負けん気と喧嘩っ早さで一瞬で襲いかかり。
剣が不慣れな分、身のこなしで不利を埋めて、互角か?」

ローフィスはまだ笑ってそう言う、オーガスタスを見た。
「まぶたの裏にでも、浮かんでるのか?あいつの戦い振り。
だが、笑ってられるのも今の内。
その内お前ともやらせるぜ。講師。三年との合同授業辺りで」

だがオーガスタスは、もっと笑って言った。
「ずっと喧嘩してた上級が卒業し、退屈してたから。
遠慮無く思い切り剣が振れる相手とやれるのは、楽しみだ」

ローフィスが見てると、周囲の男らですら
オーガスタスの“遠慮無く思い切り”
に、『真っ平ゴメンだ』と言うように、怖気おぞけて顔下げていた。


一方、当のギュンターは。
周囲の自分に注がれる視線が…なんか、変わったように思えて
「(監督生に選ばれたせいかな?)」
と独自の意見で納得した。
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