若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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噂を聞いて動揺しまくるディングレーと酒場で四年に歯を剥くギュンター

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 監督生交代劇の後、暮れかけた陽の中ディングレーが四年宿舎に向って歩き始めると、ローフィスが向こうからやって来て
「アスラン、怪我してお前の部屋で寝込んでるって?」
と言うから
「見舞いに俺の部屋へ、来るつもりだったのか?」
とディングレーが聞き返すと、ローフィスは頷いた。

並んで歩きながらディングレーは監督生交代劇の話をした後、ぼそりとつぶやく。
「…どういう訳か、デルアンダー始め大貴族の奴ら、やたら俺の顔色覗うように、チラチラ見るんだよな…」

聞いた途端、ローフィスはピタ…!と足を止める。
気づいて同様歩を止めるディングレーから、くるりと背を向け四年宿舎方向へ、突然向きを変えるローフィスに、ディングレーは
「?戻るのか?」
と聞く。
ローフィスは頷いて
「俺の部屋で話そう」
と言葉を返した。

ディングレーはローフィスの突然の気変わりに、髪に手を当て一つため息吐くと、それでもローフィスの背を追った。

ローフィスの部屋に入ると、先に入ったローフィスは明るい青の瞳を向け、ディングレーを真っ直ぐ見つめて
「戸を閉めろ」
と言う。
「…内緒話か?珍しいな…」
と言いつつ中へ入ると、ローフィスは暖炉の上に置かれた酒を持ち上げ、二つのグラスに注いだ後、一つを手渡すからディングレーは受け取る。

ローフィスは目前に来て
「飲め」
と言うから、喉の渇いてたディングレーは一気に飲み干す。

グラスを下げて、ディングレーは向かいのローフィスを見るが、ど真面目な表情でおもむろに口開く。
「ギュンターが監督生になった以上、接点が多くなるからもう口噤んでいられなくて言っちまうが。
お前、ギュンターと寝てると憶測されてる」

一気に言い放ち、ローフィスはディングレーの表情を見る。
自分より少し背の高い下級を見上げつつローフィスは、ディングレーが一瞬で固まるのを見た。

「だだだだ…」
「誰が?」
「どどど…どうど…」
「どうして?」

ディングレーは、やっと口を閉じて頷く。
「(動揺、しきってるな…)多分これ言うと、お前パニックになるだろうが。
取り巻き大貴族やお前崇拝してる奴らに聞かれ、恥さらすよりマシだろうからここで言う。
二年、三年らはほぼ全員、ギュンターをお前とオーガスタスで取り合ってると、大いに盛り上がってる」

ディングレーの頭の中が、真っ白になっているのが。
ローフィスには手に取るように分かった。
だから、言った。

「オーガスタスはとっくに知ってるが。
あいつ、大人だから下級のくだらない戯言と。
放って置いて誤解が解けるまで、待つ気だ」

「…俺とオーガスタスが取り合ってるのって…ギュンター?!」
「そう言わなかったか?俺」

「…ななななななな」
「なんで?」
「ギギギギギ」
「ギュンターなんだ?か?
落ち着け」

ディングレーは動揺しきって空のグラスを持ち上げ、口に持っていくので、ローフィスは片手でまだ持ってる酒瓶を持ち上げ
「入ってないだろう?」
と聞く。
ディングレーが気づいてグラスを差し出すので、注ぐと。
一気にまたディングレーはそれをあおった。

「…なんで、ギュンター?!」
「ヤッケルに聞いたら…」
「ヤヤヤヤ、ヤッケル?!
一昨日おとといずっと一緒…」
と言いかけ、一気に青ざめる。
なのでローフィスは畳みかけた。
「…ギュンターが凄くマズイ事言ったと、分かってるな?」
「…あいつなんで…手でも口でもなんて…のたまったんだ?」
「そう思ってたからだろう?」
「………しても、いいって?」
ローフィスに頷かれ、ディングレーは顔下げる。
「あいつ…」
「モラル無いよな?
酒場でも寄って来る女、断ったの見た事無い」
「…つまり、ナンでも有り?」

ローフィスに頷かれ、ディングレーが囁く。
「つつつまり、それ知ってる四年が噂元うわさもとか?」
「…経緯から説明すると。
最初はオーガスタスとデキてると思われてた。
オーガスタスもギュンターとつるんでる以上、誤解するヤツは出る。
と覚悟は決めてたらしい」
「そそそそそれがどうして俺ともって…なってる?」
「ギュンター、お前の部屋にかなり頻繁ひんぱんに出入りしてたし」
「だからって!
なんで俺があいつに勃つとか、みんな思えるんだ?!!!!」

ディングレーがとうとう叫び、ローフィスは一瞬口を閉じた後、口開いた。
「世間では、多少喧嘩っ早いもののあの外見道理の中身だと、ギュンターのことを誤解してるから」
「まさか三年まで…そんな噂、立ってナイよな?!!!!」
「なんでデルアンダーらがお前のこと、チラチラ見てたと思う?」

聞かれてディングレーは、一瞬で口閉じる。

がまた開いてつぶやく。
「…まさかデキてるギュンターが、同じ監督生になった…」
と言った途端。
戸口付近でギュンターに腕掴まれ、デルアンダー始め大貴族らが揃ってそれを、眺めてた図を思い出す。
「…もしかしてあれも…いちゃついてるとか、勘違いされてたのか…?」
「あれって?
顔寄せ合って、キス寸前とかか?」

ディングレーは咄嗟、真っ直ぐの黒髪散らし振り向き、青く鋭い瞳をローフィスに向けて怒鳴りつけた。
「するか!!!
出際でぎわ、腕掴まれて引き止められただけだ!!!」

「…まあ、盛り上がってるよな。
ギュンター取り合って、お前とオーガスタスの対決が無いかとか。
オーガスタスがフラれて、ギュンターはお前専属になったとか。
その後、お前がフラれてギュンターはオーガスタスの元に戻っただとか。
いやめでたく、3Pで落ち着いたとか…」

「3…………」
ディングレーはそこで固まりきって、項垂れる。

ローフィスが見守ってると、ディングレーは暫く顔を下げた後、上げて
「おおおおお俺とオオオオオオオオーガスタスとで、まさかもしかして二人で……ギュンターを…?」
咄嗟、ローフィスは叫ぶ。
「想像するな!
吐き気で夕飯、食えなくなるぞ!」
素直なディングレーは、妄想しかけて止めた。

「…どうせ妄想するんなら、お前とオーガスタスにギュンターが手でサービスしてる、程度にしとけ」

ディングレーはその時、裸でオーガスタスと並んででっかい枕に背を乗せ、ギュンターが間で手で…を想像し、ちょっとほっとした。

「お前とオーガスタスでギュンターを…が浮かびかけたら、今の妄想にすり替えろ」
素直なディングレーは、またほっとした表情で、こくんと頷く。

「…ともかく、オーガスタスもお前も。
ここで恋人作った事も無いし。
特にオーガスタスが男と自ら好んでシてる図なんて、誰も浮かばなかったのに、ギュンターはあの美貌だ。
オーガスタスはギュンターの美貌にハートを鷲掴みにされ、ぐらぐら心が揺れて、とうとう手を出した。
が、ギュンターはお前とも親しくし、一時お前とオーガスタスがギュンターを取り合って、火花が散った。
ものの結局3Pで決着が付いた。
ってのが、現在の噂らしい」

ディングレーはそれ聞いて、顔下げる。
「…それ…去年シェイルを巡っての、アンタとディアヴォロスじゃないか…」
「妄想されてヤな気持ち、分かったろう?」
が、ディングレーは歯を剥いた。
「あんたは実際シェイルと寝てるし!
ディアヴォロスと3Pもシたんだろう?!
俺はギュンターとなんて、チラとも頭の片隅にすらナイのに!!!」
「…だな…。
お前とオーガスタスが気に入ったギュンターの特性って、性技じゃなく野獣性だもんな…」

ディングレーに思いっきり頷かれ、ローフィスはため息吐く。

けど突然、ディングレーは思い当たる。
「…つまりあいつら、俺がギュンターを部屋に連れて行くたび、俺がギュンターと寝てると妄想してやがったのか?!!!!」
「…まあこれだけ噂になってたら。
普通、するよな…」

ディングレーがかっか来て部屋を出ようとするので、ローフィスは咄嗟腕を掴む。
「怒るな!!!
不可抗力だ!!!
奴らを怒鳴りつけたら、監督生としてこの後ずっと一緒に過ごす時、気まずくてやりにくいぞ!!!」
「怒鳴りつけなかったらもっと!!!
気まずくてやりにくい!!!」

ディングレーは激しく怒鳴ったけど。
ローフィスに掴まれた腕は振り払わなかった。

「…いいから、落ち着け。
ここで少し、頭冷やしてけ」

ローフィスの落ち着いた声音を聞いても、ディングレーは怒りがおさまらず不満そうだったけど。
慕ってるローフィスと二人きりで居られるので、我慢した。


 オーガスタスはギュンターが部屋の戸口にふらりと顔出して
「リーラスはどこに居る?」
と聞くのを耳にした。
がまだ残ってる課題のテーマが書かれた羊皮紙に、オーガスタスは目を通しながら
「いつもの酒場だ」
と振り向きもせず言い返し、その後ギュンターの
「監督生が一人ヘマやって、俺が代理の監督生に選ばれた」
と言って姿を消した時、ようやく振り向いたけど。
もうギュンターの姿は、戸口から消えていた。

ギュンターが酒場に入り、群れて騒いでる四年を見つけ、寄って行くと。
「やっとみそぎに参加しに来たか!」
とアンガス調教仲間に笑顔で迎え入れられた。

リーラスも酒が入ってすっかり上機嫌で、ギュンターは思わず迎え入れる四年らに
「監督生に選ばれた」
と、ぼそりと告げた。

一気に騒いでた面々は一瞬固まり、次に
「ギュンター、当分酒場お見限りの、お別れ杯を上げようぜ!」
と一人が叫び、ギュンターは強引に酒がなみなみ入ったグラスを渡され
「では一斉に!
ギュンター!またここでお前に会える日が来ることを、祈る!
お別れは寂しいが、お前がここを去った後、俺達はお前に会えず寂しがる女達を全員、慰めると誓う!
乾杯!!!」

「乾杯っ!!!」

野太いダミ声が揃い、一斉に皆酒を飲み干す様をギュンターは見て、腹の底から怒鳴った。
「なんで俺がお見限りだ!!!」

「去年、このリーラスですら!!!
暫く来なかった!!!」
ギュンターが怒鳴り返す。
「…暫くって事は、その後は来たんだろう?!!!!」

が、リーラスは陽気に笑う。
「俺が来られるようになったのは、グループにローランデが居たからだ!
あいつが何から何までやってくれて!
俺は楽できた!
俺に、ここに来る余裕を与えてくれた、ローランデに!!!」

全員が
「ローランデに!!!」
と叫んでまた、グラスを開ける。

空いた側から酒瓶持ってる男が、皆のグラスに次々注いで回る。
が、まだ飲み干してないギュンターのグラスを見て
「さっさと空けろ!!!」
と言うからギュンターは歯を剥いた。
「全部、聞いてからだ!
じゃ、楽できない場合はどうなる!!!」

また皆は一瞬固まる。
が直ぐ陽気に笑うと
「そりゃここに顔が出せなくなるぐらい、忙殺されるに決まってる!!!」
周囲が騒がしいので、ギュンターは金の巻き毛振って声を張る。
「オーガスタスは!!!
どうしてたんだ?!!!!」

「オーガスタスんとこは、問題児が大集合だ!!!
一・二年グーデン配下の特に悪いヤツが集められ、けどディングレーも居たから!
オーガスタスの、奴らを扱うやり方をディングレーが覚えた頃。
オーガスタスもめでたくここに、顔出せるようになった!」

ギュンターはまた、怒鳴った。
「じゃ!
頼れて任せられる下級が、グループ内に居ない時は?!!!!」
「ここはずっと!
お見限りだ!!!」

叫ばれて、ギュンターはじっと手に持つ酒のなみなみ注がれたグラスを、無言で見る。

「ちょっと!!!
ギュンターがお見限りって何よ?!」
「彼、もう来ないの?!
なんで?!」
「『教練キャゼ』止めちゃうの?!!!!」

女達が押し寄せて来て叫び、四年らは大いに笑うと、肩抱き合って揺れながら怒鳴り返す。
「監督生に、選ばれたとさ!!!」
「去年の、リーラスとオーガスタス、それにローフィスらだ!!!」

「嘘っ!!!」
「だってギュンター、入ったばかりじゃない!!!」
「なんで選ばれたりしたの?!」
「どうして断らなかったの?!」
両側から女達に突進され、取り囲まれて質問攻めにされ、ギュンターは両側から押されまくってグラスが揺れ、中身の酒が半分飛ぶのを見た。

返答したかったけど、質問が多すぎた。

酒の入った四年らは、上機嫌で代弁する。
「なっちまったもんは、しょうがない!!!」
「ヘマこくか、頼れる下級に任せるかしないと!!!」
「だな!!!」

人の降って湧いた不幸を、笑顔で説明する四年らを、ギュンターは無言で見る。

「いいから別れを惜しんで誰か選び、上へ上がれ」

リーラスが言った途端、女達はギュンターの腕を引っ張り、先を争って取り合う。
「私が一番!!!」
「私よ!!!」
「私に決まってるじゃない!!!
そうよねギュンター?!」

ギュンターは両側から押されまくり、とうとう叫んだ。
「待て!!!
ちゃんと近い内、顔出すから!!!」

騒ぎがピタ…!
とおさまる。

「なら焦ること無いわね…」
「でも私は今日が良いわ」
「私も」
「あら、それ言うなら私もよ?!」

四年らはまたまたギュンターを取り合う女達を見て、ぼやく。
「ここにこんなに、男があぶれてんだぜ?!」
「俺にしとけサリー!
うんとヨくしてやるから!」

ギュンターはあまりの騒ぎに耐えきれず。
群れからちょっと離れ、いつもにこにこ笑って争わない金髪のリアナを見つけると、女達の群れから素早く抜け出し、寄って行って腕を引き
「頼むから、今直ぐ俺と上に、上がってくれ!」
と頼んだ。

リアナは金髪の美人の気の良い女で、とてもモテた。
だからギュンター同様、口説く男は山程居たので、男らが彼女をり合い騒いで面倒な時、彼女に助けを求められ、ギュンターは応じたことがあった。

だからリアナは直ぐ、頷いて腕を絡め、一緒に上に、上がってくれた。

取り合い争ってた当の本人のギュンターが、階段上がって行く姿に気づき呆けた女達は。
争いを止め、あぶれてる四年の男らに、不満そうに口説かれ始めた。
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