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怪我を負ったアスラン
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アスランはディングレー私室で、すやすやと眠っていた。
「また…湿布変える?」
シェイルに聞かれ、マレーは頷く。
シェイルはアスラン専用の寝室にずっと泊まり込んで、看病してくれていた。
マレーとハウリィはひっきりなしに部屋に訪れては、水を洗面器に汲んだり、布を手渡したりと、シェイルの手助けをしていた。
事故の起こった直後。
医療師サッテスの元には、アスランを心配する者が入れ替わり立ち替わり訪れて、サッテスは身動き取れない程ごった返す室内に
「これじゃロクすっぽ、治療できない!」
と、とうとう怒鳴り、ほぼ全員を隣の準備室に追い出した。
寝台に寝かしたアスランの横に、シェイルは付きっきり。
アスランは治療の途中でも、うわごとのようにアイリスの名を呼び
「アレス…アレスは本当に、大丈夫?!」
と突然叫ぶので、講師はアイリスに
「アレスって…誰だ?」
と聞く始末。
「アスランが乗っていた馬です。
私の馬で…アスランに貸したので」
講師は頷く。
「捻挫は、酷かったか?
アスランに気を取られてはいたが、身を返して転ぶのを防いだところは、見ている。
だがびっこ、引いてなかったか?」
アイリスは背の高い、栗毛短髪で五角形顔の年若い講師を見上げ、告げる。
「…腫れの引く薬草を捻挫した足首に、あの後すぐ巻いたので。
今はほぼ、正常に歩いてます。
アスランの方が、よほど重傷で。
馬はその事に怯え、アスランを自分のせいで死なせてしまったかと、それは落ち込んで。
気の毒で見ていられないと、馬丁が言うほどです」
茶色の瞳をアイリスに向けて、講師は頷く。
「…どっちに取っても、会わせてやるのが一番だろうが…。
ここに馬を連れてきたら、サッテスに殺されかねない…」
講師とアイリスはこっそり、忙しく薬を練り、殺気立つサッテスを見た。
跳ねた長い栗毛は彼が手を動かす度背で揺れ、鮮やかなスカイブルーの瞳は曇って見えた。
面長の整った顔立ちは彼を、軽めのハンサム男に見せていたけど。
頭の回転は速かったし、甘く見る相手に時折がつん!と思い知らせるので有名。
侮ると、とんでもない仕返しをされるので、生徒だけで無く講師らまでもが彼に、一目置いていた。
講師は足音殺してサッテスの斜め後ろに立つと、小声で尋ねる。
「…どんな様子だ?」
サッテスはまた別の、薬草をすりつぶした粉末が入ってる瓶を取り、練ってる薬草に混ぜながら、むすっとして報告した。
「…出血は多かったものの骨にも内臓にも損傷無く、手当が早かったせいか出血もほぼ止まった。
背中の打ち身が酷く、大きな痣になっていて動かすと痛む様子を見せるので、鎮痛作用のある睡眠薬を、今作ってるところだ。
…多分、大量に要る。
他の頑丈な生徒と違い、彼は華奢だから当分痛むと思う」
「んんっ!!!」
アスランの大きな呻き声と同時、悲鳴のようなシェイルの声。
「動かないで!」
「だっ…だってアレス…僕の…せいで……」
「アレスって、誰だ?」
サッテスに振り向いて聞かれ、講師は横のアイリスを見た。
アイリスは頷いて、講師に代わって答える。
「私の馬です。
アスランは馬が自分より大怪我してると心配し、馬は大丈夫だったんですが、アスランに怪我させたと落ち込んで…」
言ってる間にも、またアスランの呻き声。
「う゛っ!」
「動いちゃ駄目だってば!!!」
シェイルが必死で制してるけど、ほぼ悲鳴。
講師がそっと、サッテスに囁く。
「一目、馬の元気な様子を見れば、アスランは落ち着かないか?」
サッテスはまだ若い、栗色の短髪巻き毛で茶色の瞳の、講師を見る。
講師とアイリスの、祈るような表情を見て、サッテスはむすっとしつつ、言い返した。
「…落ち込んだ馬も、元気になるしで一石二鳥?」
二人が頷くのを見て、サッテスはため息と共に告げる。
「アスランが寝てる寝台近くの窓の外に、連れて来い」
講師が、アイリスに尋ねる。
「本当に、歩けそうなのか?」
サッテスが、気づいて口挟む。
「馬も怪我したのか?」
アイリスは二人に言った。
「怪我に触らないよう、ゆっくりなら大丈夫」
そして直ぐ背を向ける。
「連れて来ます!」
サッテスはため息と共に
「痛みで呻きまくってるのに、興奮状態でちっともじっとしてないから、さっさと睡眠薬盛って大人しくさせようと思ったが。
もう少し待つか」
とぼやき、講師は愛想笑いをして、頷いた。
ディングレーはその様子を見、呆れて
「講師でもサッテスが怖いのか…」
とつぶやいた。
講師はアスランの寝台近くに居るディングレーに振り向くと、小声で囁く。
「彼の機嫌を損ねると、いざ怪我を負った時。
治療が手荒になる」
ディングレーは思い当たって、思い切り同意して頷いた。
「怪我人には、辛い試練だ」
講師がその言葉に同意して頷き、ディングレーも頷き返した。
サッテスは二人のやり取りを耳にし、開き直って叫ぶ。
「そうだ!
気にくわないヤツが怪我なんかしたら、最高に楽しみだ!
幾らでも悲鳴、上げさせ放題!」
それを聞いて講師とディングレーは、無言で項垂れた。
開いた窓からアレスが長い顔を差し入れ、寝台のアスランを心配そうに覗う。
シェイルがアスランに
「ほら!
アレス、元気で君の事心配してる!」
と窓の方を指し示した。
アスランは窓に振り向くと、感激した表情で目を潤ませ
「アレス!
…幻じゃない?
ホントにアレス?」
「ホントのホント!」
シェイルが念押しし、同時にサッテスから差し出された薬入りのグラスを受け取り、アスランに差し出して言う。
「アレスが心配するから!
君も元気にならないと!」
アスランは頷く。
そしてアレスに
「ごめんね!
本当に、ごめんね!」
と叫ぶ。
アレスは怪我と痛みで興奮状態で叫ぶアスランを見て
ブヒヒヒヒヒヒ…。
と心配そうに返答し、アスランはアレスに
「元気になったら、また乗せて?
僕絶対また元気で君と一緒に駆けるから!」
と叫び、それを聞いた途端アレスは、ヒン!と嬉しそうに首を振って頷いた。
アスランはまだ、興奮状態で叫ぶ。
「アレス、僕の言葉通じた!
通じたよっ!」
「…もう分かったから、それ飲んで!」
とうとうシェイルも叫び、アスランはやっと気づいて、薬を一気飲みし。
その後
「…これ凄く、不味くて苦い…」
と顔を歪め、舌出して言った。
でもその後、途端半分起こしてた体を横たえると、目を閉じて寝入ってしまう。
講師はそれを見て
「よく効く睡眠薬だ…。
改めてあいつの恐ろしさを、思い知った気分…」
とつぶやき、サッテスに思い切り睨まれた。
ディングレーはこっそり室内に入って来る、デルアンダーとスフォルツァに
「マレーとハウリィは帰りたがらなくて…」
と聞かされ、内心唸る。
それでディングレーは仕方無くサッテスに、心配するマレーとハウリィが側を離れたがらず、入れ替わり立ち替わり訪れる人ごみに紛れてグーデン一味が忍び寄り、二人を拉致しかねないから、何とか自室にアスランを運びたい。
と告げた。
サッテスはシェイルに処方薬をどっさり手渡し、飲み方と湿布取り替え方法の、指示を与える。
が、講師は
「…動かして、大丈夫なのか?!」
とびっくりして聞き、サッテスは頷いて言った。
「切り傷は薬草貼りつつければ、じき塞がる。
打ち身の方は、痛めた場所が背中だから。
横向きに寝かせて、湿布で炎症引かせるしかない。
…落ちたのが丸太の上で、幸いしたな。
横の岩で切った脇腹は、滑った拍子に広い範囲傷付いたから出血は酷いが。
傷口自体は浅い。
が、もしちょいズレて、岩の上に最初に落ちてたら…大事だった」
講師はそれを聞いて、黙して頷いた。
アイリスは安心してすっかり元気を取り戻したアレンを馬丁に預け、ぐるっと回って廊下から隣室の、準備室に入る。
見るとスフォルツァが真っ青で、俯いていた。
ちょうど背後の戸口から講師が入って来たので、振り向いて処遇を尋ねる。
「…誰が責任を問われるんですか?」
講師は即答した。
「迂闊に叫んで促した、監督生に決まってる!」
アイリスが振り向くと、スフォルツァも顔を上げる。
呆けている様子に見えた。
シュルツが寄って来ると、小声で講師の耳元に告げる。
「さっきミシュランが来て。
スフォルツァに
『付き添ってたお前のせいだ!
お陰でアスランは大怪我だ!!!』
と罵って行き…。
いつもなら言い返したり睨み返すスフォルツァが、言葉も無く顔を下げて。
…彼、自分のせいだと、自分を責めるので…」
講師は頷いてスフォルツァに告げる。
「お前は責任を感じなくていい。
分かったか?」
けどスフォルツァは顔を上げ、返事をしない。
間もなくディングレーが、眠ったアスランを抱いて廊下を運んで行く姿を見
「動かせるんですか?!」
と隣室から咄嗟駆け出て、側に走り寄る。
ディングレーは頷くと
「デルアンダーらと一緒に、マレーとハウリィの付き添いを頼む」
と言い、横に張り付くシェイルに頷く。
シェイルは素早く、心配してるスフォルツァに叫ぶ。
「アレスが窓から元気な姿見せたから!
アスランも元気を取り戻したけど!
サッテスが動くと治りが遅くなるって、痛み止めの入った睡眠薬飲ませて、寝かせた!」
スフォルツァがそれを聞いて、ほっとした表情を見せるので。
シュルツと講師。
それにアイリスも一様に、ほっとした。
…だから、翌日合同授業が緊急休講になった時。
シュルツとスフォルツァも見舞いにやって来た。
けれどアスランは眠っていて、ディングレーの召使いの気遣いで、横の部屋で美味しいお菓子とお茶をみんなで頂いた。
間もなくアスランの部屋を後にしたシェイルに
「ずっと寝かせて、せっせと貼り薬取り替えてるから。
傷も打ち身もかなり良くなってる」
と報告を聞き、やっと全員に、笑顔が戻った。
「また…湿布変える?」
シェイルに聞かれ、マレーは頷く。
シェイルはアスラン専用の寝室にずっと泊まり込んで、看病してくれていた。
マレーとハウリィはひっきりなしに部屋に訪れては、水を洗面器に汲んだり、布を手渡したりと、シェイルの手助けをしていた。
事故の起こった直後。
医療師サッテスの元には、アスランを心配する者が入れ替わり立ち替わり訪れて、サッテスは身動き取れない程ごった返す室内に
「これじゃロクすっぽ、治療できない!」
と、とうとう怒鳴り、ほぼ全員を隣の準備室に追い出した。
寝台に寝かしたアスランの横に、シェイルは付きっきり。
アスランは治療の途中でも、うわごとのようにアイリスの名を呼び
「アレス…アレスは本当に、大丈夫?!」
と突然叫ぶので、講師はアイリスに
「アレスって…誰だ?」
と聞く始末。
「アスランが乗っていた馬です。
私の馬で…アスランに貸したので」
講師は頷く。
「捻挫は、酷かったか?
アスランに気を取られてはいたが、身を返して転ぶのを防いだところは、見ている。
だがびっこ、引いてなかったか?」
アイリスは背の高い、栗毛短髪で五角形顔の年若い講師を見上げ、告げる。
「…腫れの引く薬草を捻挫した足首に、あの後すぐ巻いたので。
今はほぼ、正常に歩いてます。
アスランの方が、よほど重傷で。
馬はその事に怯え、アスランを自分のせいで死なせてしまったかと、それは落ち込んで。
気の毒で見ていられないと、馬丁が言うほどです」
茶色の瞳をアイリスに向けて、講師は頷く。
「…どっちに取っても、会わせてやるのが一番だろうが…。
ここに馬を連れてきたら、サッテスに殺されかねない…」
講師とアイリスはこっそり、忙しく薬を練り、殺気立つサッテスを見た。
跳ねた長い栗毛は彼が手を動かす度背で揺れ、鮮やかなスカイブルーの瞳は曇って見えた。
面長の整った顔立ちは彼を、軽めのハンサム男に見せていたけど。
頭の回転は速かったし、甘く見る相手に時折がつん!と思い知らせるので有名。
侮ると、とんでもない仕返しをされるので、生徒だけで無く講師らまでもが彼に、一目置いていた。
講師は足音殺してサッテスの斜め後ろに立つと、小声で尋ねる。
「…どんな様子だ?」
サッテスはまた別の、薬草をすりつぶした粉末が入ってる瓶を取り、練ってる薬草に混ぜながら、むすっとして報告した。
「…出血は多かったものの骨にも内臓にも損傷無く、手当が早かったせいか出血もほぼ止まった。
背中の打ち身が酷く、大きな痣になっていて動かすと痛む様子を見せるので、鎮痛作用のある睡眠薬を、今作ってるところだ。
…多分、大量に要る。
他の頑丈な生徒と違い、彼は華奢だから当分痛むと思う」
「んんっ!!!」
アスランの大きな呻き声と同時、悲鳴のようなシェイルの声。
「動かないで!」
「だっ…だってアレス…僕の…せいで……」
「アレスって、誰だ?」
サッテスに振り向いて聞かれ、講師は横のアイリスを見た。
アイリスは頷いて、講師に代わって答える。
「私の馬です。
アスランは馬が自分より大怪我してると心配し、馬は大丈夫だったんですが、アスランに怪我させたと落ち込んで…」
言ってる間にも、またアスランの呻き声。
「う゛っ!」
「動いちゃ駄目だってば!!!」
シェイルが必死で制してるけど、ほぼ悲鳴。
講師がそっと、サッテスに囁く。
「一目、馬の元気な様子を見れば、アスランは落ち着かないか?」
サッテスはまだ若い、栗色の短髪巻き毛で茶色の瞳の、講師を見る。
講師とアイリスの、祈るような表情を見て、サッテスはむすっとしつつ、言い返した。
「…落ち込んだ馬も、元気になるしで一石二鳥?」
二人が頷くのを見て、サッテスはため息と共に告げる。
「アスランが寝てる寝台近くの窓の外に、連れて来い」
講師が、アイリスに尋ねる。
「本当に、歩けそうなのか?」
サッテスが、気づいて口挟む。
「馬も怪我したのか?」
アイリスは二人に言った。
「怪我に触らないよう、ゆっくりなら大丈夫」
そして直ぐ背を向ける。
「連れて来ます!」
サッテスはため息と共に
「痛みで呻きまくってるのに、興奮状態でちっともじっとしてないから、さっさと睡眠薬盛って大人しくさせようと思ったが。
もう少し待つか」
とぼやき、講師は愛想笑いをして、頷いた。
ディングレーはその様子を見、呆れて
「講師でもサッテスが怖いのか…」
とつぶやいた。
講師はアスランの寝台近くに居るディングレーに振り向くと、小声で囁く。
「彼の機嫌を損ねると、いざ怪我を負った時。
治療が手荒になる」
ディングレーは思い当たって、思い切り同意して頷いた。
「怪我人には、辛い試練だ」
講師がその言葉に同意して頷き、ディングレーも頷き返した。
サッテスは二人のやり取りを耳にし、開き直って叫ぶ。
「そうだ!
気にくわないヤツが怪我なんかしたら、最高に楽しみだ!
幾らでも悲鳴、上げさせ放題!」
それを聞いて講師とディングレーは、無言で項垂れた。
開いた窓からアレスが長い顔を差し入れ、寝台のアスランを心配そうに覗う。
シェイルがアスランに
「ほら!
アレス、元気で君の事心配してる!」
と窓の方を指し示した。
アスランは窓に振り向くと、感激した表情で目を潤ませ
「アレス!
…幻じゃない?
ホントにアレス?」
「ホントのホント!」
シェイルが念押しし、同時にサッテスから差し出された薬入りのグラスを受け取り、アスランに差し出して言う。
「アレスが心配するから!
君も元気にならないと!」
アスランは頷く。
そしてアレスに
「ごめんね!
本当に、ごめんね!」
と叫ぶ。
アレスは怪我と痛みで興奮状態で叫ぶアスランを見て
ブヒヒヒヒヒヒ…。
と心配そうに返答し、アスランはアレスに
「元気になったら、また乗せて?
僕絶対また元気で君と一緒に駆けるから!」
と叫び、それを聞いた途端アレスは、ヒン!と嬉しそうに首を振って頷いた。
アスランはまだ、興奮状態で叫ぶ。
「アレス、僕の言葉通じた!
通じたよっ!」
「…もう分かったから、それ飲んで!」
とうとうシェイルも叫び、アスランはやっと気づいて、薬を一気飲みし。
その後
「…これ凄く、不味くて苦い…」
と顔を歪め、舌出して言った。
でもその後、途端半分起こしてた体を横たえると、目を閉じて寝入ってしまう。
講師はそれを見て
「よく効く睡眠薬だ…。
改めてあいつの恐ろしさを、思い知った気分…」
とつぶやき、サッテスに思い切り睨まれた。
ディングレーはこっそり室内に入って来る、デルアンダーとスフォルツァに
「マレーとハウリィは帰りたがらなくて…」
と聞かされ、内心唸る。
それでディングレーは仕方無くサッテスに、心配するマレーとハウリィが側を離れたがらず、入れ替わり立ち替わり訪れる人ごみに紛れてグーデン一味が忍び寄り、二人を拉致しかねないから、何とか自室にアスランを運びたい。
と告げた。
サッテスはシェイルに処方薬をどっさり手渡し、飲み方と湿布取り替え方法の、指示を与える。
が、講師は
「…動かして、大丈夫なのか?!」
とびっくりして聞き、サッテスは頷いて言った。
「切り傷は薬草貼りつつければ、じき塞がる。
打ち身の方は、痛めた場所が背中だから。
横向きに寝かせて、湿布で炎症引かせるしかない。
…落ちたのが丸太の上で、幸いしたな。
横の岩で切った脇腹は、滑った拍子に広い範囲傷付いたから出血は酷いが。
傷口自体は浅い。
が、もしちょいズレて、岩の上に最初に落ちてたら…大事だった」
講師はそれを聞いて、黙して頷いた。
アイリスは安心してすっかり元気を取り戻したアレンを馬丁に預け、ぐるっと回って廊下から隣室の、準備室に入る。
見るとスフォルツァが真っ青で、俯いていた。
ちょうど背後の戸口から講師が入って来たので、振り向いて処遇を尋ねる。
「…誰が責任を問われるんですか?」
講師は即答した。
「迂闊に叫んで促した、監督生に決まってる!」
アイリスが振り向くと、スフォルツァも顔を上げる。
呆けている様子に見えた。
シュルツが寄って来ると、小声で講師の耳元に告げる。
「さっきミシュランが来て。
スフォルツァに
『付き添ってたお前のせいだ!
お陰でアスランは大怪我だ!!!』
と罵って行き…。
いつもなら言い返したり睨み返すスフォルツァが、言葉も無く顔を下げて。
…彼、自分のせいだと、自分を責めるので…」
講師は頷いてスフォルツァに告げる。
「お前は責任を感じなくていい。
分かったか?」
けどスフォルツァは顔を上げ、返事をしない。
間もなくディングレーが、眠ったアスランを抱いて廊下を運んで行く姿を見
「動かせるんですか?!」
と隣室から咄嗟駆け出て、側に走り寄る。
ディングレーは頷くと
「デルアンダーらと一緒に、マレーとハウリィの付き添いを頼む」
と言い、横に張り付くシェイルに頷く。
シェイルは素早く、心配してるスフォルツァに叫ぶ。
「アレスが窓から元気な姿見せたから!
アスランも元気を取り戻したけど!
サッテスが動くと治りが遅くなるって、痛み止めの入った睡眠薬飲ませて、寝かせた!」
スフォルツァがそれを聞いて、ほっとした表情を見せるので。
シュルツと講師。
それにアイリスも一様に、ほっとした。
…だから、翌日合同授業が緊急休講になった時。
シュルツとスフォルツァも見舞いにやって来た。
けれどアスランは眠っていて、ディングレーの召使いの気遣いで、横の部屋で美味しいお菓子とお茶をみんなで頂いた。
間もなくアスランの部屋を後にしたシェイルに
「ずっと寝かせて、せっせと貼り薬取り替えてるから。
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