若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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猥談の出来ない高貴な貴公子ローランデ

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 ローフィスの部屋では、既に昼を迎えていた。

ギュンターとディングレーは頭を寄せ合い、眠っていたし。
ヤッケルとシェイルはローフィスの寝台で眠りに就き、フィンスは長椅子に横になっていた。

とうとう目を閉じて手を止めるマレーを、ローフィスは寝台まで抱き上げて運び、ヤッケルとシェイルの横に横たえた。

次に目を閉じ、書きかけの羊皮紙に顔を突っ伏したアイリスを、またローフィスは椅子を立って抱き上げると、長椅子のフィンスの横に、ねじ込むように横たえた。

フィンスは気づいて直ぐ目を覚ますと、落ちそうなアイリスを見て、起き上がって背もたれのある奥へと転がして移し、自分は落ちる危険性のある端に、横になる。

ローフィスは一瞬、フィンスが起きてアイリスの代わりに、手伝ってくれるかどうかを覗ったけど。
フィンスは直ぐ目を閉じ、寝入ってしまった。

「(残ったのはローランデと自分だけか)」
ローフィスはため息を吐きつつ、椅子に戻る。

全員が目を覚まし始めたのは、午後の三点鐘(時)過ぎ。

ディングレーが、自分の腹に顔を埋め込むギュンターを押し退けつつ目を覚まし、押されたギュンターは
「腹が減った…」
と言って手を付いて身を起こす。

気づくとディングレーに凄い目で見つめられ、ギュンターはやっと自分が手を付いてる場所が、ディングレーの股間だと気づいてつぶやく。
「…悪い…痛かったか?」
「…反応しそうになって、ヤバかった」
「…もしそうなら、責任取る」

ヤッケルとシェイルは寝台で、この二人のやり取りを聞いた途端、目をパチリと開け、その後の会話を、聞き耳立ててそっと覗った。

「………………………………責任?」
固まったまま、ぼそりとそう尋ねるディングレーに、ローフィスが面倒くさげに告げる。
「…寝ぼけてるな」

「…寝ぼけてたのか…」
ギュンターはまだ、目が半分しか開かず、言い返す。
「期待してたか?
別にあんたなら、手でも口でも、シてやるぞ?」

ヤッケルとシェイルは、二人同時に口に手を当て、叫びそうになるのを堪えた。

まだペンを走らせてたローランデだけが、色白な肌を真っ赤に染めて、尋ねる。
「…え…と、手でも口でも…って…そういう意味ですか?」

ローフィスはローランデが、猥談がめちゃくちゃ苦手で、凄く恥ずかしがるのを知っていたので、唯一の戦力を失いたく無くて、ギュンターに釘刺した。

「この場で下ネタは禁止だ。
言いたかったら、ディングレーと一緒にディングレーの部屋に行って、して来い」

「(ししししし、して来い…だって?!)」
ヤッケルが小声で興奮してると、シェイルが人差し指口に当てて警告する。
「(しーーーーっしーーーーっしーーーーっ!聞こえちゃう!)」

言われたギュンターは、ローランデが頬を真っ赤にして、ペンを走らせてるのに気づく。

「…彼が、恥ずかしがるから?」

ローフィスはギュンターの視線がローランデに向けられてるのをチラ見し、頷く。

ギュンターは暫く沈黙し、下を向く。
顔を上げると、聞いた。

「…あれだけ剣が使えて…下ネタ禁止?」

ローフィスは面倒くさげに唸る。
「別に不思議じゃない。
ローランデは育ちが、良すぎるから」

ギュンターはふい。
と横のディングレーを見る。
ディングレーは視線を向けられた途端、怒鳴った。
「…なんだ!
確かに都の「左の王家」の王族は、好色なヤツばっかで悪かったな!」

ギュンターはふい。
と言葉がおかしくなってるディングレーから視線を背け、つぶやく。
一概いちがいに、育ちがいいから下ネタ出来ない訳じゃ、ないんだな」
ディングレーが即座に怒鳴り返す。
「…聞こえてるぞ!」

ローランデはますます真っ赤に成って
「…あの…私はあまり、そういう話題に免疫がないので…」
そう、とても小さな声で囁いてる。

ギュンターは思わず、恥ずかしげに俯くローランデの横顔を見た。

剣を握って相対した時と違い…なんだかとても親しみが湧いて、つい気安く言葉を返す。

「…慣れてないんだな。
そういう会話をする機会も、早々無いのか?」

聞くと、ローランデは素直にこくん。
と頷く。
「…領地見回りの際、父の部下達は、私の前では控えていたし…同年代の友達も殆ど居なくて。
召使い達も…皆年上で、一番親しかった剣の講師も、年上でしたから…」

ギュンターはそれを聞いて、顔を下げる。
「…俺の所は、年の似通った兄二人と下は弟二人。
猥談とも思わず、平気でシモの話ばかりしていたな…」

ローフィスは仕上がった課題の羊皮紙を、束ねてとんとんと机に打ち付け揃えながら言い返す。
「ヤローの兄弟なんて、そんなもんだ。
ローランデは一人っ子だろう?」

ローランデは、こくん。
と頷く。

ギュンターの視線が、まだ少し恥ずかしげに顔を俯けてる、ローランデの姿に吸い付いた。
いつもの、凜とした貴公子な彼とは違い…まるで処女の少女のように見えて。

「…経験くらい、あるんだろう?」

ぼそり…と言われた途端、ローランデはまた頬を、ぼっ!と一気に真っ赤に染めるので。
とうとうギュンターまでその激しく分かりやすい変化を、目を見開いて凝視する。

「忘れたのか?!
ここでは下ネタは禁止。
聞きたきゃ個人的に、ローランデに聞け!」
ローフィスの言い切りに、ローランデが即座に言い返す。
「そんなの、困ります!」

「…シた事、ナイから?」
また聞くギュンターに、ローランデは顔を髪に隠すぐらい、深く顔を下げて沈黙。

ベットでシェイルとヤッケルが、顔を見合わせる。
フィンスも寝椅子で目を閉じてたけど、聞こえてたから助け船を出そうかどうか、困惑しながら覗っていた。

が、ローフィスが言う。
「お前がローランデの経験値を思いやらず、平気で猥談してローランデを恥ずかしさの絶頂に導くから。
いい加減、相手の状態を思いやるって手管を身につけたらどうだ?」

「…猥談なんて、慣れだろう?
俺だって故郷で、胸も尻もバン!と張った色っぽい美女達がたむろって、男のサイズでどれがいちばんヨかったか。
なんてロコツに話してたときは引いたが。
今は流石に、慣れたぞ?」

ローフィスがまた、言い返す。
「お前は慣れてもいい。
下品だろうが誰も構わない。
だがローランデは高貴じゃないと、シェンダー・ラーデン北領地の宮廷の面々が困るんだ」

ギュンターはまた、ディングレーを見る。
ディングレーはとうとう、歯を剥いた。
「いい加減、俺とローランデを比べるな!
俺はかなり下品な事に慣れた王族で、気品を保つのに苦労してる王族だが!
世の中には産まれてからずっと高貴なまま居られる、天性の気品の持ち主もいるんだ!
ローランデのように!」

ローフィスもぼそり。
と言った。
「天界の聖人のようなローランデを、自分と同様下界の下品な男にしようと思うな。
ローランデを崇拝してる奴ら、全員を敵に回すぞ?」

普通の相手ならそう脅せば、大抵震え上がって言葉を控えた。
が、ギュンターは肩を竦めただけ。

「で、何か?
彼を崇拝してる全員って、そんな怖いのか?」

その時、ローフィスは素早くディングレーに目配せしたので、ディングレーは目配せを受け取り、言った。
「俺でもそんな奴らを敵に回すのは、絶対にごめんだ」

王族でほぼ怖い物など、無いようなディングレーにそう言われてようやく。
ギュンターは、納得したように頷いた。

ローランデはギュンターにこれ以上、情事の経験について追求されないよう庇ってくれてるローフィスに、心から感謝し、ローフィスに振り向いて笑顔で頷く。

ローフィスは青い瞳でじっ…と見つめ返し、視線で
『感謝するなら、それ仕上げちまってくれ』
と示すので。

ローランデは慌てて羊皮紙に視線を落とし、ペンを走らせた。
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