若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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密談するオーガスタス、ローフィス、ディングレー、ギュンター、そしてアイリス

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 ギュンターは『教練キャゼ』の敷地に戻り、厩に馬を戻してると、オーガスタスが四年厩舎からやって来て
「いいから、寄ってけ!」
と腕を掴む。

ギュンターはそのままオーガスタスに腕を掴まれ、一・二・三年宿舎を通り過ぎて、四年宿舎へと連行されて行った。

オーガスタスはギュンターの腕掴みつつ、だかだか早足で通り過ぎる。
懸念けねん道理、ギュンターの腕を引く姿を、ちらほら宿舎に戻り来る、夕食前に屋外浴場に出かけた奴らに見られ、目を見開かれた。

やがて三年宿舎の窓から数人が顔を出すので、オーガスタスは
「走るぞ!」
とギュンターに告げ、駆け出す。

引いた腕が重くなるかと思ったが、ギュンターは素直に一緒に駆けるので軽かった。

四年宿舎に入ると広い食堂にはほとんど人気は無く、召使い達が夕飯が盛られた大鍋や大皿を、端のテーブルに用意していた。

自室へ入ると、既にディングレーとローフィスが。
夕飯確保し、大量に料理の乗った皿と小皿。
果実酒が数本。
机の上に乗っていて、オーガスタスはローフィスの、相変わらずの手際の良さに感心した。

「…どうした?」

ディングレーに、目を見開かれて尋ねられ、オーガスタスはむすっ。としたまま、引いてるギュンターの腕を持ち上げる。

放すと、ギュンターはすっ…と、つっ立ってるディングレーの横のスツールに腰下ろし、ディングレーはそんなギュンターを、無言で見下ろした。

「帰りに、ちょっとあって」

ローフィスが、皿に料理を取り分けてそうつぶやくオーガスタスに、差し出す。
「ハウリィの屋敷で?
ナニかお前に怒られるようなヘマ、あいつギュンターしたのか?」

オーガスタスは皿を受け取ると、言い淀んだが、言った。
「いや。
あいつは優秀な案内人で、予定よりずっと早く着いたし…あっちで暴挙働いたのは、俺の方だ」

ローフィスは無言で椅子に座るオーガスタスの横顔を見
『だろうな』
と頷いた。

ディングレーから皿を回され、ギュンターは料理の乗った湯気立つ皿の肉を、無言で見る。
突然、手づかみで猛烈に食べ始め、フォークを手渡そうとしたディングレーは、フォークをギュンターに差し出しかけたまま、固まった。

「私の分の皿って、無いんですか?」
その声に、ローフィスは料理を盛ろうと自分の皿を持ち上げ、条件反射で返答した。
「いや。
小皿は余分に持ってきてるから…」

言って振り向き、皿を膝に乗せるオーガスタス、ギュンターの横で立ったまま皿を手に持つディングレー、もう食べ始めるギュンターを見、首捻る。

「お前も、混ざる気か?」
オーガスタスの言葉でようやくローフィスは、もっと体捻って振り向いた時。
そこに一年のアイリスが、色白で綺麗な顔を見せ、にこにこと笑っているのに気づいた。

ローフィスは皿を置いて、アイリスに寄ると腕を引き、部屋の隅へと連れて行く。
「…何が話題か、分かってるのか?」
「…ハウリィか…アスラン?」
ローフィスは頭の回転の早いその理知的な美少年の言葉に、目を見開く。
そして、小声で言って聞かせた。
「ハウリィが無事、今週末自宅に戻れるようにしたい」
アイリスは即座に言い返す。
「アスランも戻りたいと、言ってました」
ローフィスは頷く。
「そっちも、何とかする。
が、アスランの家に居座ってるのは、亡き父親の恩人かたる、詐欺師のチンピラ一人だろう?」
アイリスは俯く。
「確か、ハウリィの方は母親の再婚相手の義父と、義兄でしたね…。
安全に戻るには、ハードル高くないですか?」
ローフィスは話が通じてるのに驚きつつ、表情には微塵も驚きを見せずに告げる。
「義兄は片付けたから、もう安全だ」
「物騒な物言いですね。
でも殺してないんですよね?」

ローフィスは呆れた。
「“片付ける”はお前流だと、殺しになるのか?」
アイリスは、にこにこ笑って言った。
「大公家にいると、良く暗殺の危険にさらされるので。
敵はまず、秘密裏に“片付け”ます」

ローフィスはごくり。とその、年の割に世情に長けた美少年を見て、唾を飲み込みささやく。
「…それを頼むから、笑って言うな。
背筋が寒くなる」
アイリスは表情を正すと、ささやき返した。
「失礼。
つい、癖で」
「(…どんな癖だ…。)
…ともかく。
念のためハウリィに、一応付き添いを付けないと」
「その、話し合いですか?」

けれど一番近くに居たオーガスタスが、漏れ聞いて呻く。
「俺は、無理だ。
つい帰りがけ、温室で寝ていた義父の寝椅子蹴飛ばし、ついでに転がった腰も踏みつけて、足腰立た無くさせた」
ローフィスは振り向く。
「…で、ギュンターも何かしたか?」
「義父の手下、ホーソンの両足折った」

ローフィスは、顔を下げる。
「じゃ迂闊に顔出すと、通報されかねないな」
「…あいつらは逆らえないと思うが、その危険は確かに、あるな。
俺とギュンターって…目立つから」

アイリスが、大いに頷く。
「それだけ特徴あれば、通報されて役人が来ても、直ぐ特定されますね」

ローフィスは平静な表情でそう告げるアイリスに、呆れた。
汚れ無き聖母っぽい外見と違い。
中身は血なまぐさい陰謀に慣れた、強者。

オーガスタスは不本意に頷きながら、ぼやく。
「まあ今の所は、義父もホーソンも。
どっちも動けないから、報復どころじゃ無いが。
…治ってからが問題だ」

「では私が手を回し、その義父を不能扱いで監視が必要な身分に仕立て上げ、監視者を屋敷に送り込みましょうか?
監視者が屋敷の実権握れば、義父も無茶は出来ない。
監視者に上に報告されれば、投獄されるから」

ディングレーもギュンターも、思わずはっきりした声音でそうきっぱり言い切るアイリスに、ぎょっ!として振り向く。

オーガスタスが、小声で尋ねた。
「そんな事、出来るのか?」
アイリスは即答する。
「私でなく、叔父なら」
ローフィスは、頷きながら小声で言った。
「なら、頼む。
で…」

ローフィスが声をひそめるので、アイリスも小声で尋ねる。
「…はい?」
「…オーガスタスとギュンターが二人出て出かけた事、話題になってるか?」
アイリスはその時ようやく、目を見開いた。
「どうして話題にならないと思うんです?
どこでもその話で、持ちきりですよ?」
「四年もか?」
「四年は、管轄外です。
貴方方以外、他の四年とはまだ、接点が無いので」
「じゃ、下級全部?」
「一年は、ディングレーとオーガスタスの事をさほど知らないので。
けれど二年と三年では、凄い噂になって、盛り上がりきってます」

ローフィスは、思い切り顔を下げた。
「…オーガスタスは知ってるが、ギュンターとディングレーには言うなよ」
「………喧嘩っ早いから?」
ローフィスは頷く。
「ギュンターは…そうかもな。
ディングレーは不器用だから、どうして良いのか分からず、オタつく。
あいつが威張ってないと、グーデン一味が息吹き返して、ふんぞり返る」

アイリスは暫く、ローフィスの顔を見た。
整っててゴツく無く、爽やかな明るい栗毛で空色の瞳の美男。
けれどどんな時も、周囲への気配りを忘れない。

「…分かりました。
で、ハウリィの付き添いも私が引き受けて良いですか?」
「…なんで?」

アイリスはその時ようやく、内緒話を止め、声を張って言う。
「だってディングレー殿も無理でしょう?
気配りが苦手だし」

ローフィスが呻く。
「俺が行こうと思ってた」

が、オーガスタスが即座に却下する。
「お前、10課題用意出来たのか?
参加人数、何人だっけ?
週末、まるまる使っても無理だろう?」

言ってから、アイリスを見て言い諭す。
「あいつの好意、受けとけ。
陰謀には長けてるし。
度胸も据わってる。
何より、お前並に器用で頭が良い」

ギュンターとディングレーは、オーガスタスにそう褒められた、アイリスをこっそり伺い見る。
が、アイリスはにっこり微笑んだ。
「光栄です。
が、どんな屋敷で、監視者として誰を送り込むのが良いのか。
私が吟味ぎんみする必要性があるので」

ローフィスは仕方無く頷きながら、譲り渡す。
「いいだろう。
俺は残って、課題に埋もれる」

アイリスはにこにこ笑って、頷き返した。
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