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午後の講義を受けるディングレーと過酷なミシュランのグループ生

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 ディングレーは午後の講義中、そこらかしこから見られてる気がして、つい振り向く。
ギュンターはサボって姿が見えなかった。
気づいた講師は怒鳴りつける。
「ギュンターはどこだ?!
あいつ、早々サボりか?!
誰か理由を知ってるか?!」

中央講師の居る位置よりかなり離れた、階段状のかなり高い場所に座ってたダベンデスタは、自分が見られるかと思った。
が、皆は一斉に、低い位置の最前列に座る、ディングレーを見る。

ディングレーは視線を感じ、ふと横を見る。
さっ!とデルアンダーが、顔を背けた。
反対横を見る。
今度はテスアッソンが。
見てたのを隠すように、素知らぬ顔で本を読んでる、フリをしてた。
背後に振り向くと、取り巻き大貴族らは一斉にあちこちに顔を背け、唯一モーリアスだけが顔を背けそびれ、目が合う前に、慌てて視線を横に流した。

確かに、ギュンターは四年らと旧校舎にいると、自分は知ってる。
が、なぜ皆が、自分が知ってる。
と知ってるのか、ディングレーは首を捻りまくった。

だが本当の事なんて言えない。
ハウリィの義兄を呼び出し、拉致監禁、その上強姦、調教までしてる。
なんてバレたら、全員停学が、悪くすると退学。

ディングレーは首謀者のローフィスを庇うため、講師より顔を背け、知らんぷりを続けた。

結果、とばっちりを受けたのは横に座ってたデルアンダー。
「デルアンダー!
ギュンターに会ったら伝えとけ!
編入早々、堂々とサボるな!と!
ここだけじゃない!
他の講師からも、時折りギュンターの姿が見えないと聞いている!
ちゃんと、言っとけ!
『お前ぐらい目立つヤツは、サボると一発でバレる!』
と、しっかりな!」

デルアンダーは怒る講師に殊勝な顔で、大きく頷いた。


 午後の合同補習は剣の講義だったので、一・二年と三年監督生は鍛錬場に集合。
が、ディングレーはここでも…ローランデと目が合う度に、頬を染めて視線を外される。

ディングレーは頬に手を当て、横で練習始めるグループの、デルアンダーに寄って行って、尋ねる。
「…顔に何か…付いてるか?
その…ローランデが見て、頬を赤らめるような…恥ずかしい何かが?」
風呂に入った際、どこか洗い忘れたのかと、首捻る。
が、デルアンダーも首を捻る。
「いえ。
何も付いてません」

ディングレーは頷く。
よく考えれば、顔に付いていたら絶対召使いのドンデは見逃さず、拭くに決まってる。
「…そうか。
すまなかったな」

デルアンダーは頷き、指導に戻った。

「…違うハウリィ。
それでは相手の剣を受けると、自分に跳ね返って来る。
もっとしっかり、柄を握る。
もしくは、相手の剣を避けろ。
君の力じゃ、跳ね飛ばされて怪我をする」

が、ハウリィは呼び止められた・だけでビクッ!と身を竦め、途端縮こまる。
デルアンダーは言った後ハウリィを見たが、すくみきっていた。

側にいたフィンスを見つけ、横に来ると、フィンスの肩に手を置き、顔を寄せて囁く。
「…萎縮、しきってるな…。
話はディングレーから聞いている。
辛い目に合ったそうだが、私まで彼を辛い目に合わそうとして注意してるんじゃないと。
何とか君、彼に教えられないか?
…頼む」

フィンスはいつも弱味なんて見せないデルアンダーに、弱りきった顔で頼まれ、くすっ。と笑う。
「ええ。任せて下さい」

デルアンダーはその場を離れ、別の…ひょろひょろと剣を振る一年の側に行きかけ、振り向く。
俯いて縮こまってるハウリィに、フィンスは優しく寄り添って、囁きかけている。

長身の濃い真っ直ぐな栗毛を垂らすフィンスは、小柄な、女の子に見える明るい栗色巻き毛の愛らしい美少年のハウリィに屈み込み、微笑んでいた。

「(…いざと言う時は決然として男らしいのに。
本当に、当たりのソフトな騎士だな)」

デルアンダーは、フィンスに話しかけられて次第に頬染め、輝く青い瞳をフィンスに向けて微笑むハウリィを見て。
萎縮した心を開かせてなごませる、フィンスの優しさに感心した。

一方、アイリスはヤッケルを対戦相手に、楽しく談笑しながら時折剣を交わしていて、アッサリア、フィフィルース、ディオネルデスの三人は、マレーに剣の振り方を交互に教えていた。

スフォルツァはそんな他のグループを眺め、ため息付く。
剣の講義ではアスラン同様、二年のサリアスがミシュランの怒りを買い、ミシュランは二人のヘロヘロな剣を振る姿を見、わざわざ横に来ては
「チッ!」
と舌を鳴らす。
側に講師が回ってくると黙り、歩き去るとサリアスにも、アスランにも言う。
「そんなんでグループ対抗戦で、勝てると思うのか?!
足を、引っ張るな!」

アスランは怒ってるミシュランを、不安げな茶色の瞳で見上げる。
大人しいサリアスは、俯いて顔も上げなかった。

ミシュランが顔を上げて自分を見るので、スフォルツァは直ぐ察し、アスランの横に付く。
「…何とか、引き分けに出来るぐらいに鍛えろ!
お前もだシュルツ!
二年大貴族と威張ってるなら!
サリアスを一人前に仕上げろ!」

側の一年が、ぼそり…と呟く。
「威張ってんのは、あんただろ?」
小声だった。
が、次の瞬間。
どんっ!

彼は足を蹴られ、バランス崩してすっ転ぶ。
「…足元に、気をつけろよ」

スフォルツァは目を見開き、転んだ一年に駆け寄ろうとした。
が、シェイルが先に駆けつける。
横に屈み込んで怪我が無いかを覗い、振り向くミシュランを、長く透けた銀の巻き毛の中の、綺麗な顔を上げて見据える。

グループ生全員が、ミシュランはシェイルにも怒鳴ると思ってた。

が、しばらく刃向かうように見つめるシェイルの、とても綺麗な顔とエメラルド色の宝石のような瞳を見つめた後。
「…さっさと、練習に戻れ!」
と怒鳴り、背を向けた。

シェイルは倒れたその子を助け起こし
「ありがとう!」
と礼を言われたけど…長い銀の巻き毛を振って、ミシュランの背を見つめた。
「…乱暴を振るうなんて…」
とても小さな、聞き取れないほどの小声で…。

「集まれ!
今からグループ対抗戦を行う。
模擬戦だから、自分がどの程度の腕かを知る、よい機会だ。
だがふざけろとは言ってない。
が、怪我をするほどには、真剣にやらなくていい」

肩までの栗毛の、鼻髭をはやした粋な講師の言葉に、皆一斉に笑う。
けれど、スフォルツァらのグループだけは…。
一番前に陣取るミシュランを恐れ、誰も笑わない。

8グループあったから、2グループずつが向かい合い、一斉に剣の鳴る音。
監督生が試合状況を見て回り、勝敗の審査をする。

案の定、二年のサリアスは全然剣を受けられず避けるものの、がっ!と剣を弾かれた。
だがミシュランは腕組んだまま、見ない振り。

対抗グループの監督生オルスリードが、サリアスにとどめの剣を振り入れようとする対戦相手の二年の手首を、咄嗟に握り止めて言う。
「お前の勝ちだ」

だがその時、ミシュランは出て行くと、オルスリードの前に立つ。

大貴族で品格ある男前、ほぼ黒の栗毛を肩に背にながすオルスリードの前に立つ、肩までの短髪で明るい栗毛のミシュランは、まるでチンピラのように見えた。

「自分のグループ生を、贔屓ひいきか!」
喰ってかかられても、オルスリードは平静を崩さない。

涼しげな切れ長のブルーグレーの瞳を、自分より頭一つ背の低いミシュランに向けて告げる。
「俺が止めなければ、お前のグループ生は怪我してた。
どこ見てた?
怪我をさせる事が目的じゃ無い。
怪我をする前に止めるのが役目だろう?」

「だがそちらを勝たせた!」
オルスリードは冷静さを崩さず、言って退ける。
「今の一撃を振り下ろしてたらアルデは勝っていた」
「だが振り下ろしていない!」

ミシュランの抗議に、講師も寄って来てつぶやく。
「サリアスが逆転できたとは思えない。
今の打ち合いでサリアスの欠点を見つけ、指導するのが監督生の役目だし。
勝ちにそれほどこだわる必要は無い」

言ってオルスリードに頷き
「アルデを勝ちとカウントして構わない」
言い渡すと、背を向けた。

スフォルツァはとっくに勝っていたし、シュルツも同様。
けれどミシュランのその抗議で萎縮した他の一年達は、立て続けに剣を突きつけられて、負けを喰らう。

シェイルは何とか相手に剣を突きつけ、勝ったけど…。
結局この対戦は負けとなった。

勝敗の決まったグループと、また対戦相手を変えて戦う。

今度はテスアッソンのグループで、アスランはアイリスの前に、立ちたかった。
けれどスフォルツァがアイリスの相手で、自分の前にはアッサリアが立つ。

アスランは明るい栗毛で空色の瞳の優しいアッサリアに、剣を振り上げ『やろう』と誘われ、ため息を吐く。
アッサリアはそれでも、かなり優しく剣を交えてくれた。
けれど軽く弾かれただけで、アスランは剣を取り落とす。
慌てて拾おうと屈んだ時。
テスアッソンが来て
「お前の勝ちだ。アッサリア」
と告げた。

剣を拾い、屈んだ身を起こした時。
目の前にミシュランが、鬼のような形相で立っていて。
アスランはびくっ!と身を竦め、震え上がった。

講師が叫ぶ。
「2敗したグループは下がれ!」

明るい栗色巻き毛でブルーの瞳、女顔ながら迫力あるテスアッソンは、ミシュランを真っ直ぐ見る。
ミシュランは歯がみして悔しそうな表情で、グループ生らに
「端に寄って、見物だ!」
と叫んだ。

スフォルツァはシュルツと、並んで端の床に座る。
シェイルもシュルツの横に来ると、腰を下ろした。

見応えのある対戦が幾つかあり、次々に順位が付いていく。

次に2敗したシャウネスのグループが端で見物に加わり、その次にオルスリードのグループ。
モーリアス、ラッセンスのグループもが見物に回り、最後ディングレーのグループとデルアンダーのグループの対戦だった。

ローランデの対戦相手は、フィンスに続きかなりの剣の腕を持つ二年のヘイセス。
平貴族で肩までの濃い栗色短髪で、なかなか鋭い剣を使い、ずっと勝ち続けて来たからやる気満々。

だが、ローランデに斬りかかった瞬間。
ふっ…とローランデは身を落とし一気に背後に回り、ヘイセスが振り向いた途端、剣を突きつけ、一瞬で勝敗が決まる。

「見えた?今の」
「ローランデが、下に沈んだとこだけは、見えた」
「なんで一瞬で目前から背後に移動出来る?」
「あいつ、人間じゃない」

スフォルツァは必死で目で追ってたから、分かった。
下に沈んで斜め前に滑り、更に横に滑って背後に。
背後に移動した瞬間もう、剣を突き出してた。

足音がしない。身を屈めたまま一瞬でたったの2歩で。
移動してた…。

結局ディングレーのグループが勝ち、講師が順位を発表する。
「1位、ディングレー
2位、デルアンダー
3位…」

そして、スフォルツァもシュルツもシェイルもが。
講師が
「8位、ミシュラン」
と呼ばれるのを聞き、ミシュランが顔を歪めて悔しがってる様を見る。

スフォルツァがため息吐くと、横でも二つのため息が聞こえ。
スフォルツァ、シュルツ、シェイルの三人は、顔を上げると互いの顔を見合わせた。

グループごとの反省会になると、ミシュランはサリアスを罵倒ばとうする。
「どうしてちゃんと剣を振れない!
あんなひょろけた剣しか振れないから講師に
『勝てない』
と決めつけられるんだ!
お前もだ!アスラン!」

アスランはまた、びくっ!として身を竦め、顔を思い切り下げる。

スフォルツァは横でアスランの背に手を当て、励ましたけど。
ミシュランはそんなスフォルツァに言った。

「乗馬も当然だが、剣も!
使えるよう、指導しろ!」

『それをするのは、貴方の役目だ』
シェイルも言いたかった。
が、シュルツが肩を迫り出し、身を乗り出すから。

『言っても無駄』
と咄嗟シェイルがシュルツの腕を握り、発言を止めた。
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