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二年大貴族宿舎、大貴族食堂の猥談
しおりを挟むローランデは最近、フィンス、ヤッケル、シェイルがよく固まってひそひそ話してて。
なのに自分が来ると、途端ピタッと話し止むのを、不審に思ってた。
だから夕食後自室に戻り、浴槽に浸かってガウンに着替えた後、大貴族用食堂からの話し声に、ふと気づいて扉を開けてみた。
食堂には真っ直ぐな濃い栗毛を胸に流す、青い瞳の端正な美男のフィンス。
明るい栗毛とグレーがかった空色の瞳、可愛い系の顔立ちの小柄なヤッケル。
銀色巻き毛でエメラルドの瞳の、『教練』一の美少年シェイルの他。
毛先が少し濃い栗毛で明るい青の瞳の、顔も雰囲気も朴訥な、シュルツまでいて。
なんだか凄く、盛り上がってる。
ローランデはまた自分が姿を現すと、きっとみんな、会話を止める。
と分かっていたから、こっそり足音を忍ばせ、会話の内容が分かる場所まで忍んで行って、暖炉の後ろの壁の、陰に隠れた。
「…だから今朝、三年ではギュンターがディングレーを引き留めるため、私室へ行って…迫ったと、もっぱらの評判なんだ」
シュルツが呆れて言う。
「どこまでホントなんだ。
その噂」
ヤッケルがシュルツを睨み付け、言い放つ。
「実際二人は朝一の講義に、髪を乱して遅れて来たのを、三年全員が見てる!」
それを聞いたシュルツは顔を下げ、フィンスもつい、ぼそりと囁く。
「…って事は、朝っぱらから…?」
シェイルが乗り出して、ヤッケルに聞いている。
「…その後、二人は?
ディングレー、ギュンターに遅刻させられて、怒ってた?
それとも…」
「別に、普通だったらしい。
つまり…」
ヤッケルが言うと、全員が顔を寄せる。
「…オーガスタスと付き合っていても、ディングレーも忘れてないぞ。
ってギュンターのアピールで、ディングレーはオーガスタスが恋敵でも、ギュンターが自分と寝てくれれば、それで良しとしてるみたいらしい…」
「オーガスタスが、恋敵?!」
つい、ローランデは声を上げてしまい、密談中の四人は、一斉に暖炉の後ろの壁に半分姿を見せてる、ローランデに振り向いた。
クリーム色のサテンのガウンを上品に纏ったローランデは、少し首を竦め、謝る。
「ごめん…。
だって最近、君たち私が来ると、会話を止めるから…。
何を話してるのかなって」
シェイルは、ヤッケル、フィンス、シュルツに一斉に見つめられ、慌てて椅子から立ち上がると、ローランデの側に寄る。
「ごめん…。
でも今、オーガスタスが初めて彼氏を作って…。
ほら。
オーガスタスって『教練』一の有名人だし、実質ボスでしょ?!
だから注目度が半端なくて…」
そう言うと、明るい栗毛に濃い栗毛を幾筋も混じる、優しいしなやかな髪を胸に垂らす、気品の塊のローランデの、澄んだ青い瞳を見つめる。
ローランデは自分より少し背の低い、シェイルを見下ろし、尋ねた。
「ローフィスも、知ってるの?」
シェイルはいっぺんに、顔を下げた。
「補習が始まったし、最近ちっともローフィス、捕まらないんだ…」
ローランデは、銀の巻き毛に囲まれたお人形のように可愛らしくて綺麗なシェイルを見つめ、気の毒そうにささやく。
「会えないなんて、残念だね…」
ヤッケルとシュルツ、フィンスは
「(そこじゃないのに…)」
と内心呟きつつ、シェイルがローフィスを大好きな事を知ってて、会えない事に同情を寄せるローランデの心根の優しさに、ため息吐いた。
けれど話題はそれたまま。
シェイルはローランデに同情され、項垂れて頷く。
「うん…。
正直凄く、寂しい」
ヤッケルとフィンス、シュルツは居心地悪そうに視線そらすのに、やっとローランデは気づく。
「あ…それで、オーガスタスとギュンターの事、ローフィスは知ってる感じ?」
シェイルは首を横に振る。
「聞く間も無いんだ。
会えても、直ぐ『忙しい』って、行っちゃう…」
「ローフィスは…二人が付き合ってるなんて噂、知ってるのかな?」
「知らないはず、無いだろう?!」
背後からの声に、シェイルは振り向き、ローランデもテーブルに座る、肩までの短髪明るい栗毛の、ヤッケルを見て言葉を返す。
「…そうだよね。
オーガスタスは親友だもの。
ローフィスは…オーガスタスがギュンターと付き合ってる事、どう思ってるのかな…」
フィンスとヤッケルは、顔を見合わせた。
「実はちょうど通りかかったローフィスを、呼び止めて聞いたけど…」
フィンスが口を開くと、ヤッケルが後をかっさらう。
「噂も知らないし、オーガスタスからもギュンターとの事は、聞いて無いとさ!」
ローランデとシェイルは、顔を見合わせる。
この中で一番男っぽいシュルツは、ローランデとシェイルが並ぶ姿を見ると、つい
「(美しい姉妹みたいに見えて、二人共男に見えない…)」
と思った。
けれどその時。
平貴族で一番下世話なケイリーが、大貴族食堂に駆け込んで来て、報告する。
「一番想像しやすい、オーガスタスとギュンターの体位はやっぱり!
オーガスタスが立ってて、ギュンターを抱え上げて下から挿入する。
だった!
ギュンターとディングレーは…みんな、ディングレーが王族だから遠慮してるのか、やっぱオーソドックスに『正面向いて抱き合う』と、『後ろから』で。
ディングレーのイメージからして、僅差で後ろからディングレーが、がんがん突く。
が勝った!」
ヤッケルとフィンス、シュルツは慌てまくって、フィンスは唇に人差し指当て
「しーっ!しーっ!」
と黙らせ、ヤッケルは両手めちゃくちゃに振りまくって制止しようとし、シュルツは必死に、目をうんと端に寄せて戻し、また端に寄せ、背後のローランデに注意を促す。
シェイルが見上げると、聞いた途端ローランデは、真っ赤になった。
チラ…と自分を見つめるシェイルの、エメラルドの瞳を見つめ返し
「…つまり…あれって、私の想像通りの意味?…だよね?」
と聞くから、シェイルは頷く。
「うん。情事の体位の話」
ローランデはストレートに言われ、もっと真っ赤になる。
ケイリーがやっと、テーブルに座る三人の背後。
暖炉の壁の横にローランデとシェイルの姿を見つけ、口をあんぐり開けて呆け…。
その後、顔を背け
「後は頼む…」
と言い捨てると、一目散にその場から、駆け去って。
ハデな音立てて、階段を駆け下りて行った。
残されたフィンスもヤッケルも、シュルツも顔を下げ。
こっそり、背後に振り向く。
ローランデは色白の頬を真っ赤にして俯き、ぼそり…と言った。
「…君たち、みんなそんな事…想像してるの?」
ヤッケルもフィンスもシュルツも。
拝むように、シェイルを見つめた。
シェイルは顔を上げて、ローランデに告げる。
「付き合ってるんだから。
情事は当たり前じゃないかな?
オーガスタスもディングレーも、凄く有名人だし。
『教練』では相手を作らないから。
みんな、興味津々なんだと思う」
ローランデは、蚊の泣くような声で
「…そ…うだね…」
と何とか同意したけど。
そそくさと背を向け、自室へ戻って行く。
パタン。
と扉を閉める音と共に、フィンス、ヤッケル、シュルツの大きな安堵のため息が漏れ、シェイルは三人に、文句を言った。
「どうして僕だけに、言わせるの?!
ヤッケルなんて、いつもうんと、おしゃべりなのに!」
ヤッケルは腕組みして、反論した。
「…俺に喋らせると、ディングレーとギュンターのキスの時、どっちが先に舌を入れるかとか。
オーガスタスの巨砲の後のディングレーは、ギュンターはどれだけ大きさと快感の差を感じてるかとか。
そういう話題になるぞ?!」
シェイルは沈黙して、顔を下げた。
シュルツが、ため息吐く。
「そんな話したら、ローランデは身の置き所が無くなるぞ?」
フィンスも、顔を下げきって頷く。
「…この間、女性をイかせる話題を、偶然盗み聞きした時みたいに。
耳どころか額まで、真っ赤になる」
ヤッケルも、顔を下げて頷き倒す。
「色白だから…ローランデ。
赤くなると、凄く目立つよな」
フィンスもシュルツも、顔を下げたまま、同意して頷いた。
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