若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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オーガスタスとローフィス、それぞれの弟分との時間

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 ディングレーは三人を連れて室内に戻ると、ローフィスがいて。
一辺に笑顔になった。
「来てたのか!」
「ああ、課題が大変だろうと、講師も早めに講義を終わらせてくれたりするからな」
「待っててくれ!
直ぐ、着替えてくる!」

アスランとハウリィとマレーは、子供のようにはしゃぐディングレーを、目を見開いて見送った。
アスランはマレーに
「僕らも着替えないと…」
と言われて気づく。

先に室内へと消えるハウリィとマレーの後を追って、アスランも着替えのため、共同の部屋へ入った。

慌てて着替え、部屋を出ると。
ローフィスが、薔薇の砂糖漬けの小瓶を、一人に一つずつ手渡す。
「小腹が空いた時。
結構助かる」

ハウリィもマレーも、凄く喜んでいて。
アスランも綺麗な瓶に入った赤い薔薇の砂糖漬けは珍しくって、ついはしゃいだ。

ディングレーはローフィスが、女の子にプレゼントするような物を三人に渡し、三人が心からの笑顔を見せるのを見、嬉しそうに微笑んでる姿に、感心する。

「(相手があれほど喜ぶプレゼントって、どうして分かるんだ?
大して金がかかってる訳でも無いのに)」

ディングレーは誰かにプレゼントする時、何を送ったら良いのかを、絶対ローフィスに相談してから買おう。
と、心に決めた。


 夕食後、ギュンターは校門にいた。
間もなくオーガスタスが誰よりも高い背、素晴らしい体格の、その姿を現す。
肩の上で揺れる赤味を帯びた栗毛。
親しみ易い鳶色の瞳を向けられて、ギュンターは思わず笑った。

「出られるんだな!」
「当然だ。
…なんで?」
「今日山程テーマ出されたが、それが三年分あったら、気が狂う程の量だろう?」
「俺達には、抜け道知ってるローフィスって武器がある。
お前も作っとけ。
課題に精通した、頭のキレるヤツ」
「…ローフィスって…どうやって気が狂う程の課題、片付けられるんだ?」
「そりゃ…かつての上級生から、物々交換で『済み』もらった用紙を貰ってるから。
ヤツなら一つの用紙で、五通りの提出物を作り出せる。
文字変えたり、表現変えたりしてな!」

ギュンターはそれを聞いて、顔を下げた。
「改めて、学校生活ってそんな事まで、出来るようにならなきゃならないなんて…。
奥が深すぎる…」
オーガスタスは項垂れるギュンターに、呆れた。
「何もお前が出来るようになれ。
とは言ってない。
出来るヤツを友達にするか買収しろ。
と言ってる」

ギュンターは、オーガスタスを見上げた。
「…なるほど。
あんたは、出来ないんだな?」
オーガスタスは、ため息交じりに言い捨てた。
「出来てたまるか、そんな面倒な事」
「…同類で、良かった」
「同類扱いされて、光栄だ」
ギュンターは“光栄だ”と言うオーガスタスの皮肉に、歯を剥いて笑った。

すっかり暮れた、酒場前。
扉を開ける寸前、ギュンターがオーガスタスを見上げる。
「今日はあんたが先に上に上がってくれ。
俺が、下で待ってるから」

オーガスタスは目を見開いて、そう言うギュンターに振り向く。
ギュンターはそれが出来ると確信し、扉を開ける。
が、案の定。
開けた途端、中の女性客が一斉に、ギュンターに振り向く。

雪崩のようにギュンターは一気に周囲を女性らに取り巻かれ、オーガスタスは
『やっぱり…』
と、顔を下げてため息吐いた。

ギュンターは自分の周囲を女性で隙無くびっしり取り囲まれ、身動き取れず、オーガスタスに視線を送る。
オーガスタスの周囲にもちゃんと、彼が来て嬉しい女性客が数名、取り巻いていた。

だがオーガスタスは馴染みのその数名の女性らと、さっさとテーブルに移動する。
ギュンターも、周囲を促そうとした。
が、誰も動かない。

「ダメよ決めて?」
「今日は私よね?」
「私と上がるでしょ?上」
「なによ!あんたこの間、上がったばっかじゃない!」
「あんたこそ、何よ!」

「喧嘩はするな!
頼むから…」

背の高い金髪美貌のギュンターに“頼むから”と言われた女性らは、うっとりとギュンターに見とれる。

座って酒を注文してたオーガスタスは、数人の男らが寄って来るのに気づく。
「あんたの連れ…なんとかしてくれないか?」
「女がみんな、あっちに…」
と、取り囲む女性らに首を振る。
「行っちまって…あんたの連れがいる間中、男はあぶれる」

オーガスタスは、呆れてぼやく。
「あいつに言った所で、何とかなるか?
あんたらが頑張って、女引き留めないと」

オーガスタスの返答を聞く男らは、横に首振りまくって、諦めのため息吐いた。

ギュンターはチラ…と席に着いてるオーガスタスを見、女達に屈む。
「すまないが…今日俺は、付き添いで…」
一斉に、凄まじいブーイング。
その後、ギュンターを取り巻く女性らが一斉に、オーガスタスに視線注ぐ。

オーガスタスは、睨みこそしないが、ギュンター取り巻き女性らに恨めしげに一斉に見つめられ、こそっ。と顔を下げる。
そして一気に顔を上げ、ギュンターに叫んだ。
「いいから、気に入った女と上に上がれ!
その方が絶対!
俺は嬉しい!」

キャー!
歓声が上がり、女性達はギュンターの腕を引いたり胸にしなだれかかったりして、自分をアピールし始める。

「…なんでだ…。
俺の時はあれほど、恥ずかしがってたのに…」
「貞操は守りたいって…俺も何度も、断られた…」

オーガスタスは背後から聞こえて来る男達のぼやきを聞いて、顔を下げた。
悪友達に「今日はギュンターと一緒だ」と告げてあったせいか、誰一人顔を出さない。
この騒ぎを、見越してか。

オーガスタスは今度は。
男客に睨まれそうで、顔を下げてこっそり酒を飲んだ。
ギュンターがやっと、一人を選んで上への階段を上がり始めた途端。
男達の、安堵のため息で酒場は満たされた。

女性達は自分のテーブルへと戻り、男達は目当ての女性に声をかけ始め、陽気な雰囲気が戻って。
オーガスタスはやっと背筋伸ばし、安気あんきに酒を楽しんだ。


 食事が終わり、ローフィスが席を立つと
「もう、行くのか?」
と、ディングレーは寂しそう…。

ハウリィはそんなディングレーを見て、目をぱちくりさせ、アスランとマレーは二人共が
『きっとディングレーは、グーデンが兄じゃなく、ローフィスが兄さんだったら良いのに、って凄く思ってる…』
と気づき、顔を下げた。

ローフィスは、ディングレーがもう少し居て欲しげな顔を見せるのに、ため息吐く。
「…確かに、お前は監督生で、会う時間は減る。
分かってるのか?
来年、俺は卒業して居ないんだぞ?
今の内に、慣れておけ。
第一、監督生でも筆頭だろう?
そんな体たらくでどうする!」

けれど。
いつも威厳の塊。
王族然としてるディングレーが…しゅんとして、項垂れている。

ハウリィはもっと、目をぱちくりさせた。

ローフィスは、ディングレーに言って聞かせた。
「来年はお前が。
ここを仕切る」

ディングレーはもっと顔を下げて項垂れ、とうとうハウリィは見かねて、怖かったはずの…凄く立派な上級生の落ち込む姿に同情した。

真っ直ぐの黒髪の、鋭い青の瞳の。
凄く、格好良くて男らしいディングレー…の、筈なのに。

子犬みたいに項垂れてる姿を見て、ハウリィはおろおろしきってつぶやく。

「あの…あの。
凄く貴方を頼りにしてるし、貴方とだと…張った気が緩んで、ディングレー様も安らげるんだと思います!」

ハウリィが最後、とうとう叫び。
ディングレーもローフィスも、目を見開いてハウリィに振り向いた。
ハウリィは必死になって、ローフィスをとりなすように、語りかける。
「僕…僕だって…!
貴方と居ると、緊張を忘れるから…きっとディングレー様も…」

ディングレーはまた、項垂れ、ローフィスは、ほれ!とハウリィを顎でしゃくる。
「護るべき相手に、心配かけてる無様ぶざまさが、分かったか?!」

ハウリィは、ディングレーへの態度と言葉を和らげるよう、ローフィスに言った筈なのに…。
自分のせいでローフィスが、もっと厳しい言葉をディングレーに投げるのに、目を見開いた。

が、ディングレーは項垂れたまま、しっかりと頷く。
「…肝に、命じとく」

ハウリィはローフィスの厳しさにもめげず、そう言うディングレーに、心から感心した。

ローフィスは、そんなディングレーを見て頷く。
「もう少ししたら、ストレス発散イベントにご招待するから。
それまで歯を食い縛って、王族やっとけ!」

ディングレーはぱっ!と顔を輝かせ、ローフィスを見上げる。
ローフィスはやっと、食事のテーブルから離れ、戸口へと歩き出せる。
そう思い、ほっとして背を向けた。

扉が閉まるとハウリィは『やっぱりローフィスは、気配りの出来る優しい人!』と瞳をきらきらさせるから…。
アスランとマレーは顔を見合わせ、マレーがアスランに聞いた。

「…やっぱり、君でも思う?
むちあめだって…」

アスランは思いっきり、縦に首を振った。

ローフィスは課題の山の攻略の為、自室へと一刻も早く戻ろうと急ぐ。
が、デルアンダーとテスアッソンに、帰路を塞がれた。

「…ギュンターは、今日ここには…?」

「ああ、あいつ?
確か今夜、オーガスタスと出かけたぞ?」
面倒くさいと思いつつも言葉を返すと、二人の大貴族は項垂れきる。
「(…こいつらまでか…。
なんで落ち込んでるのか、こいつらの場合は原因不明だが)」

ローフィスは顔を下げて内心ため息吐いた。

「…ディングレー殿は…ギュンターに振られても大丈夫でしたか?」
テスアッソンが聞き、デルアンダーが尋ねる。
「それとも…本当に、一年のアイリスに気が移ったので、ギュンターをオーガスタスに譲って、せいせいしてるんでしょうか?」

二人に、ど真面目に見つめられ。
ローフィスはもう少しで笑い転げそうになったが、堪えた。
二人に合わせ、ど真面目な顔を作って返答する。

「オーガスタスに取られても。
さほどのショックは無いようだ。
ギュンターとは、今まで道理の付き合いが出来るようだし。
が、一年のアイリスは…どうだか聞いてない」

二人はいっぺんに、顔を上げる。
「その…オーガスタス殿に…嫉妬されたりは…?」

ローフィスは内心、笑い転げてた。
が、真面目な顔を崩さず、言い放つ。

「…ディングレーはオーガスタスに、一目置いてる」

もうこれ以上は無理だ。
と必死で笑いを堪え、さっ!と二人の横を、通り過ぎた。

二人は自分達より、先輩ながらわずかに背の低い、明るい栗毛の爽やかな伊達だて男の背を見送った。

ローフィスの背後で、テスアッソンがこそっ…と、デルアンダーに囁く。
「一目…ってやっぱり…処女は無理だと評判の、あそこのサイズの事で…?」
聞かれたデルアンダーは返答に困った様子で、無言。

ローフィスはその内緒話を耳にした途端
「(ダメだ…!
限界だ…!)」
と、脱兎の如く大貴族食堂から、階段へと続く廊下を駆け、階段を駆け下りた。

三年平貴族大食堂に居た面々は、階段から声上げて笑いながら駆け下りて来る、四年ローフィスを見、呆けた。

ローフィスは階段を駆け下り、扉を開けて出て行くまで。
ずっと声を上げて笑い続けていて、扉が閉まった途端。
三年平貴族大食堂に居た面々は、その謎の笑いについて、議論を沸騰させた。
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