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合同補習、初日

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 厩前に集まった皆は、各自厩から馬を引き出し、騎乗し始める。

ディングレーは心底、自分のグループにローランデを配した講師に感謝した。
グループの一年達に目を配り、全員を自分の前へと導く。
誰もが『学年無差別剣の練習試合』で実力を見せつけたローランデに恐縮し、彼の言葉に逆らう者はいない。
グーデン配下のドラーケンともう三人の問題児も。
ローランデに見つめられると勝手な方向に行こうとした、馬を戻す。
正直、奴らがまたマレーや、ハウリィ、アスランを隙を見て連れ出すのを見張るには、一番いい状態だった。

ディングレーがふい。と馬の向きを変え、一気に腹を蹴って駆け出す。
背後に続く、グループの者らの多数の駒音。
チラ…と後ろを見ると、ローランデは最後尾に付いて、遅れる者が無いよう見張ってた。

敵に回すと、ローランデは最悪の相手。
が、いったん味方となると。
彼ほど信頼でき、頼りになる者はいない。

…ローフィスを除いて。

ディングレーは講師の示した集合場所へ、背後を気にせず林の中を馬を駆けさせ、爽快な気分でつっ走った。


 ハウリィは他の一年達が、チラチラと自分に視線を送るのを見る。
横にフィンスがぴったりと付いて、一緒に馬で走ってた。

毛先に少しだけ癖のある、真っ直ぐな長い、濃い栗毛。
面長の顔立ちで、青い瞳がとても綺麗。
優しげで頼もしそうな…素敵な騎士。
同学年に羨ましげに見つめられ、ハウリィは顔を下げた。

顔を上げると、フィンスは微笑む。
「(…でも護ってくれるのは…僕に理由わけがあるから…)」

そう思うと、申し訳無くて顔が上げられない。

ざっっっ!
横を、デルアンダーが駆け抜けて行く。
今度、同学年らは格好良くて美男で、堂とした態度のデルアンダーに、憧れの視線を送ってた。

馬上で揺れる、癖のある長く濃い栗毛。
綺麗な鼻筋と頬、そして顎。
男らしい美しさだったけど、グリンの瞳は少し大きめの垂れ目で。
だからこそデルアンダーを、甘いマスクに見せていて、けれど態度は颯爽として男らしかったから。

皆、『彼みたいになりたい』
と、一生懸命後に続いてた。

ハウリィも、馬を急かそうとした。
けどフィンスが
「急がなくて、大丈夫。
君のペースで走っていい。
まだ、今日は」
と言ってくれて…手綱を握る力を緩めた。

フィンスは言った途端、ほっとするように吐息吐く、ハウリィを微笑ましげに見つめる。
ふんわりとした金髪に近い明るい栗毛。
本当に可愛らしい顔立ちで、心許こころもとない大きな青い瞳で見つめられると、つい庇いたくなってしまう。

ハウリィはみんなから遅れたけど、まだ少し不慣れな乗馬を無理せず走る事が出来て、通り過ぎる田舎景色を、楽しんでるように見えた。
頬をなでる風が気持ち良い。

フィンスは先頭のデルアンダーが振り向き、頷くのに頷き返し
『ハウリィはしっかり面倒見ます』
と、見つめて来るデルアンダーのグリンの瞳を、見つめ返した。

青い瞳の誠実な騎士。
デルアンダーはフィンスのしっかりと目を合わす、ブルーの瞳が信頼の塊に見え、ふいと顔を前に向け、微笑んだ。


 明るい栗毛を振って、先頭のテスアッソンが振り向くのに、マレーは気づく。
テスアッソンのアイスブルーの瞳は、横のアイリスに向けられていた。

たおやかで気品溢れ、白い肌が濃い栗毛に映えるとても綺麗なアイリスがぴったり横に付き、もう反対横に明るい栗毛の、朗らかなアッサリア。
背後には、真っ直ぐの銀髪をさらりと肩にながすフィフィルースと、大人っぽい紳士、濃い栗色巻き毛のディオネルデス。

四人は、遅れるのも構わず、自分に合わせてくれていた。

「テスアッソン…僕たちが遅れたら、困るんじゃ…」
言いかけると、アイリスが微笑む。
「目的地は聞いてるし。
今日は遅れても構わないって」

マレーはほっとして、頷いた。
アッサリアが横から、笑顔で言う。
「笑ってた方がいい!
笑顔がとても、素敵だから!」

マレーは思わず、アッサリアに振り向く。
自分が笑ってた事にすら、気づかなかった。

人が遠ざかりずっと…一人で闇を抱えてた。
こんな風に…楽しくて頼もしい人達に今、囲まれてるなんて夢みたいだった。

アイリスに振り向くと、アイリスもアッサリアに『同意見だ』と言うように、微笑むから…。
マレーは思わず俯き…けれど顔を上げて、二人に笑いかけた。

二人ともが、嬉しそうに笑い返すから…マレーは心が熱くなって、今の状況が嬉しくて、熱い涙が零れそうで…。
必死にこらえた。


 ミシュランはグループの皆が騎乗し、集まり来るのを見回す。
が、最後尾の遅れてやって来る、メンバーに怒鳴る。

「…何やってんだお前ら!
どうして二人で乗ってる!
馬が足りないのか?自分の馬は?」

全員が振り返ると、スフォルツァがアスランの背後に乗り、馬を操っていた。
が、監督生の視線にスフォルツァは一つ、俯いて吐息吐き、すらりと馬から身を素早く滑り落とし、ミシュランに振り向き叫ぶ。

「今、取ってきます!」

が、ミシュランも皆も、スフォルツァが去った後のアスランが。
一人で馬の手綱たづなを握るものの、その手つきはおぼつかなく。
馬は左に首を向け、どんどん皆から遠ざかって行く様子に、目を見開く。

「何してる!こっちだ!」

監督生の怒鳴り声に、アスランは必死に手綱を握って馬を促す。
が、馬は五月蝿い。と言わんばかりに首を振って払い退け、全然言うことを聞かず、左にどんどん進み行く。

直ぐ、スフォルツァがクリーム色の馬に騎乗して駆けつけ、皆がアスランの様子を目にしてるのに気づくと、左に首振って叫ぶ。
「右だ!
右に思い切り手綱を引け!」

スフォルツァに言われ、アスランは必死で右手に握る、手綱を引っ張る。
…が、引っ張り方もぎこちなく、手綱の紐だけが右に張られ、馬に伝わってるかどうか。
馬はその中途半端な指令を、首を振って拒否し、知らんぷりして左へ歩を進め行く。

「…何やってんだ!」
ミシュランは既に一斉に駆け出した他のグループから、一番遅れるのが解り、アスランの方へと慌てて、馬の腹を蹴って駆け出す。
ミシュランの肩までの短い栗色巻き毛が、馬上で派手に揺れるのを、グループの皆は目を見開き、呆けて見つめた。

「もっとちゃんと引っ張れ!」
真横でゴツめの顔立ちの、怒ってるミシュランに激しく怒鳴られ、アスランはびくっ!と怯えたように萎縮する。

スフォルツァはそれを見、アスランの世話をミシュランに任せ、グループの最後尾に付いて馬を止めた。

が、馬は慌てたアスランが思い切り右に手綱引っ張るので、今度は右へと真っ直ぐ、歩き出す。
右斜め前で待つグループの皆は、どんどん離れて行くアスランを、振り向いて目で追った。

ミシュランはその体たらくに歯噛みする。
肩より少し長い、真っ直ぐの栗毛の頼もしげな美男講師が、馬でミシュランの横に駆け込む姿を見て、グループの皆はほっとした。

講師はミシュランの横に馬を止め、叫ぶ。

「…どうした!」
ミシュランがアスランの様子を、振り向き顔で、指し示す。

講師は頷く。
「アスランはからっきしだ。
面倒みてやれ!」

言って、講師はとっくに小さくなって行く、駆け去る皆の方へと馬の首を向け、一気に駆け出す。
ミシュランは、背を向け駆け去る講師にチッと舌ならし、グループの最後尾に居るスフォルツァを見つめ、怒鳴った。

「…いいから今乗ってる馬を厩に返し、奴の後ろに同乗しろ!」

皆が途端、振り向いてスフォルツァを気の毒そうに見る。

スフォルツァは一つ、吐息吐いて直ぐ、馬を厩に向けて駆け出す。
ミシュランは馬にすっかり馬鹿にされ、右に蛇行して行き先の分からなくなったアスランを苦々しく見つめ、皆に叫ぶ。
「行くぞ!」

「…でも………」
スフォルツァがまだ、戻って無いにも関わらず、ミシュランは馬を走らせ皆に怒鳴る。
「遅れてるんだ!
さっさと来い!」

皆、ますます離れていくアスランと、走って戻るスフォルツァを見つめながら。
仕方なしに馬に拍車を、入れた。

シェイルはゆっくりめに馬を走らせながら、最後尾で遅れて来るスフォルツァとアスランが、いつ追いつくかと、ハラハラして待っていた。
横に同学年の大貴族、シュルツが。
並んで付き合ってくれていた。

「…今日は遅れてもかまわないから、ともかく目的地まで誘導しろってさ」
横からそう言うシュルツを、シェイルは見た。



大貴族の品格はあるけど、どちらかと言えば野暮ったい服装。
明るい栗色の癖毛。
空色の瞳の…しっかりした顎の、控えめな男らしさ。

シェイルはフィンスの次に親しみやすい、同学年大貴族の彼が横に付いてくれて、ほっとした。

もう既に『教練キャゼ』の敷地外に出てるから、群れから離れるとどんな相手に出会うか、分からない。

教練キャゼ』の生徒らが群れてると、盗賊もごろつきも避けるのが常だったから、安心だったけど。

シュルツはとても綺麗な、盗賊が見かけたら追いかけてさらいそうなシェイルを、護るように横に付き、シェイル同様ゆっくりと馬を走らせた。

間もなく一年ながら頼もしいスフォルツァが、きっ!としたヘイゼルの瞳を真っ直ぐこちらに向け、アスランの背後から手綱を取って、駆けて来る姿が目に入る。

シュルツはスフォルツァに頷くと、スフォルツァも頷き返す。
シェイルはスフォルツァの前で縮こまってるアスランの姿を目にした途端、ほっとしたように馬の速度を上げる。

間もなく三騎は遅れを取り戻すように一気に駆け出し、暮れかけるオレンジの陽光の中、草原を駆け抜けた。
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