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スキャンダラスな昼食、大食堂
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オーガスタスは剣の講義の最中ローフィスが、提出物をローフィスに頼り切ってる仲間達を集め、ひそひそと密談してるのに気づく。
講師はその他の、羊皮紙や本を片手にロクに相手も見ず、本や羊皮紙に目を通しながら、なまくらな剣を相手に振り合ってる四年らを、怒鳴りつけてる。
「お前ら、幾ら課題が大変だからって!
そこまで手を抜くと、黙ってないぞ!」
だが課題でキチガイになってる彼らの耳には、届かず。
講師も諦めムード。
オーガスタスが寄って行くと、体も(オーガスタスには負けるが)態度もデカいリーラスが、濃い栗毛を背に流し、ブラウンの瞳で斜に見つめる。
「あんたの出番は、後だ」
言われたオーガスタスは、顔を寄せ合い密談真っ最中の、ローフィスに屈む。
「俺にも、出番をくれるのか?」
ローフィスは一つ、ため息を吐いて顔を上げる。
「ああ。
後で頼む」
素っ気無く言葉を返すと、また仲間らに顔を寄せ、頼んでいた。
「出来るだけ、声かけといてくれ。
多分人手が要るだろうから」
一人が、疑問をブツける。
「で?
そのハウリィの義兄って、いつ来るんだ?」
「俺が手紙でおびき寄せるから。
多分明日かあさって頃」
全員が、思いっきり、頷く。
オーガスタスがそれを聞いて、思わずぼやく。
「入れこんでるな」
リーラスが、相変わらずのデカい態度でオーガスタスに体ごと振り向くと、頷きながら言い放った。
「まあ俺達、課題をローフィスが引き受けてくれりゃ、何でもヤル」
オーガスタスは、呆れてリーラスを見た。
「プライド、ゼロだな」
「あんたなら、断るんだな?」
オーガスタスは、大らかに笑った。
「そんなありがたい申し出。
断る馬鹿、どこにいる?」
背を向けて剣をくるくる回すオーガスタスを、リーラスは怒鳴りつけた。
「てめぇだって!
プライド・ゼロの癖に!!!」
オーガスタスは、はっはっはっ!
と声を上げて笑い、練習相手に軽く剣を入れ、じゃれあって講師に
「真面目にやれ!」
と、怒鳴られてた。
講師が、集まってるローフィスらに視線向けると。
全員素知らぬ顔で、一斉に散って行った。
三年らの、午前の一つ目の講義終了後。
出て行った三年監督生に選ばれた者らが講義室に戻って来て、続いて文学の講義が始まっていた。
ギュンターは講師が、少し話しては
「ではこのテーマで、羊皮紙三枚は書いて来い」
と続けざまに宿題出すのに、目を見開いた。
首を振って横のダベンデスタに振り向くと、ダベンデスタはもう心得ているように
「羊皮紙一枚で、横は15行以上が決まりだ。
横が決まると自ずから、文字の大きさも限られる。
デっカイ字、数文字で三枚なんて書いたら、突っ返されるぞ」
と、説明してくれた。
ギュンターは項垂れて
「…だ、ろうな…」
とぼやく。
が、反対横のラッセルダンが、笑顔で振り向く。
「だが、提出期限は卒業までだ!
保留しとける」
ギュンターが、ラッセルダン同様、笑顔になりかけると。
ダベンデスタが、小声でささやく。
「その、保留し続けて、四年は今、頭抱えて殆どの時間、机にへばりついてる。
少しでも四年になった時、楽しようと思うんなら。
幾つかは片づけて『済み』貰っとかないと。
…後が、めちゃくちゃ大変だ」
ギュンターは途端、昨日オーガスタスが羊皮紙の束に埋もれ、ペンを走らせていたのを思い出す。
『それでか…』
しかし講師が、次々にテーマを提示し
「書いて来い」
と言うので。
「…何が何だか、分からない」
とまたぼやいてると、ダベンデスタが顔を寄せ、小声で教えてくれた。
「お前はどうだか不明だが。
一年から出さなきゃならない提出物の、テーマと枚数の、表がある。
一年の最初に渡されるんだが…」
「もらってない」
横からラッセルダンが、笑って答えた。
「後で講師に、くれるよう頼め。
三年からのテーマだけに、してくれるかも」
反対横からダベンデスタが、こそっと解説してくれた。
「つまり、もしかしたらお前に限って、提出物は半分で済むかも。
って事だ」
ギュンターは、硬い表情をほぐし、頷く。
が、一講義で矢継ぎ早に出されるテーマに、ギュンターは
「半分でもキツい…。
文字書くの、苦手なのに…」
と、項垂れきってぼやいた。
ラッセルダンが、そんなギュンターに言葉を返す。
「どんだけ文字がヘタでも。
提出物書いてるウチにマトモな、人が読める文字が書けるようになるし、難しい単語も覚えられる。
この先軍に進んで、報告書や契約書、もしかしたら命令書とかを、書くための準備だ」
ギュンターは『なるほど』と、大きく頷いた。
やっと鐘が鳴り、ギュンターは素早く長机と長椅子の横の、階段を降りて行くから。
ダベンデスタとラッセルダンはギュンターが講師に、テーマ表をもらいに行くのだと思った。
が、講師の横をすり抜け、講義室を出て行くので、ダベンデスタとラッセルダンは、思わず顔を見合わせた。
全校生徒集う、昼食の大食堂は、ごった返していた。
ギュンターは真っ先に食堂入りしたデカい四年らを押し退け、オーガスタスの姿を探す。
金髪のギュンターが首振って探す姿を、後から来た三年、そして二年と一年もが、見た。
やっと、奥のテーブルでオーガスタスが、仲間達と朗らかに喋ってる姿を見つけ、ギュンターがその横に駆け込む。
ざわつく大食堂の、四つの入り口から雪崩れ込むほぼ全員が。
騒ぐのを止めてじっ…と、オーガスタスに話しかけるギュンターを伺った。
「…悪い!昨日…!
あ、金…」
「次回出かけた時でいい。
…ここで金、出すな」
即答され、ギュンターはオーガスタスを見る。
座ってる彼は奔放な赤毛が目立つものの、つるんとした卵形の顔のゴツくない男前で、鳶色の瞳は穏やかに見え、そしてとても小顔に見えた。
けれど肩幅は、誰よりも広くて立派。
「そうか…。
今日は…行かない…よな?
忙しいんだろう?課題」
ギュンターの問いに、オーガスタスは、にこにこ笑って言った。
「いや?
息抜きしたいから、お前に奢られてやる」
ギュンターは、ほっとして笑顔で頷く。
オーガスタスは心から感じ良く笑う、ギュンターの笑顔に目を見開いた。
相変わらず飛び抜けた美貌に見えた。
が、そうして殊勝に笑ってると、意外と可愛く見える。
オーガスタスの横に並んで座ってる、悪友らも全員気づいてたが、当事者のオーガスタスとギュンターだけが、気づいてなかった。
四つの入り口から入って来た、ほぼ全員が足を止め、こっちを見てるのに。
リーラスが、「?」
と入り口を指さし、ローフィスに尋ねようとした。
が、ローフィスは時間を取り決めるギュンターとオーガスタスの、会話に割って入る。
「…悪いが、ディングレーに。
夕食前、ハウリィに会いに行くと伝えといてくれ」
ギュンターは、ローフィスに振り向く。
「いいが…。
今日から補習だと言ってたぞ?」
ローフィスは毛先の跳ねた明るい栗毛を揺らし、爽やかな青の瞳をギュンターに向けて、言った。
「知ってる。
だから、夕食前に訪ねる。
夕食は、ディングレーにたかる腹だ」
ギュンターはその砕けた言いように笑うと
「伝えとく」
と気安く引き受け、オーガスタスに
「じゃ、夕食後、校門で」
と告げて背を向けた。
その後ギュンターが真っ直ぐ、三年大貴族集うテーブルでもう腰掛けてたディングレーの元へ行くと。
皆、ざわっ!とざわめき、一斉にオーガスタスの様子を伺った。
オーガスタスは見られ慣れてた。
が、なんで今、しかもここで。
更に、一斉に凝視されてるのか。
さっぱり分からず、首を捻った。
ギュンターはディングレーに伝言を伝えた後
「ローフィスも、大貴族の食卓に混じるのか?」
と聞く。
外では王族たる威厳のタメ、重々しい態度で口の重いディングレーも。
ローフィスの伝言を伝えられて嬉しかったので、つい笑顔で答えた。
「いや。
一年三人と一緒に、自室で取る。
大貴族用のテーブルだと料理人も給仕も、人数不特定で困るから。
お前も、機会あったら混ざれ。
アスランが喜ぶ」
ギュンターが、豪勢な『王族の食事』にありつけるかも。
と、凄く嬉しそうに笑い、見ている皆は全員が
「?」
と、首捻った。
立ち止まったままの入り口付近で、ヤッケルがこっそりフィンスに囁く。
「…まさか…3P?」
周囲が一斉に、ざわっ!とざわめく。
ヤッケルはその騒ぎを聞き、慌てて周囲を首を振って見回す。
が、後の祭り。
『3P』疑惑は瞬く間に周囲に知れ渡り
「嘘だろう…!」
「ディングレーって、王族なのにプライド、ナイのか?!」
「いや…!
逆に、ディングレーぐらいの3P対抗馬となると…」
「確かに…オーガスタスしか…いないよな…」
「それで…!
オーガスタスは直ぐ、ギュンターがディングレーのとこに行っても、余裕なんだな…!」
「納得だ!」
ヤッケルは
「いや…」
とか
「あの…」
とか。
発言を取り消そうとした。
が、噂は遙か彼方まで知れ渡り、収めるのはとても無理だと知って、横のフィンスを、こそっ…と覗う。
フィンスは『なんて事を…』
と言う、情けない顔で、あちこちで小声で噂される、ディングレーとオーガスタスが二人でギュンターを…と言う、具体的な噂話に、顔を下げきり。
ヤッケルも同様、顔を下げきった。
ギュンターは、今日奢る事でオーガスタスに借りは返せるし、更に酒場にも行けて。
更に更にディングレーに、機会があれば。
と、豪勢な食事の席にも誘われ。
上機嫌でいつもより金髪を艶やかに輝かせ、頬を薔薇色に染め、紫の瞳をきらきらさせて、食事を調達しようと、トレー置き場に進む。
どんっ!
と人とブツかり、相手がずっと殴りたかった、三年グーデン配下の一人だと気づくと、拳を握り込む。
が、いつもならヤル気満々で突っかかって来る筈なのに。
もしくは、睨み付けて来るのに。
突然、目をそらされ、背を向けて…逃げ出されて、呆けた。
「(…ナニが、あったんだ…。
午前中、ずっと座りっぱなしだったから。
食前の運動に、丁度良いと思ったのに。
…俺が…怖い?
…確かに、入学当初絡まれた時は、殴り倒したヤツだ。
がその後…『油断したからだ!
次はやられないから、覚悟しとけ』と確か、豪語してなかったか…?)」
ギュンターは疑問符で脳内が、埋め尽くされた。
が、トレーの上に皿を乗せ、良く焼けた肉やら美味しそうな焼きたてパンを皿に盛り付け始めると。
疑問は綺麗さっぱり、脳内から消え去った。
ヤッケルとフィンスがテーブルに着くと、ローランデがにこやかに微笑んで、尋ねる。
「最近、良く消えるよね?
何か大切な用事?」
フィンスは誤魔化し笑いを顔に浮かべ、ヤッケルはチラ…!とシェイルを見る。
シェイルはとても綺麗な、可愛らしい顔で、ヤッケルを睨んだ。
ローランデが
「いけない…」
と、調味料のハーブを取りに、テーブルを離れると。
シェイルが二人に、言い放つ。
「いい加減にして!
僕が!ローランデに聞かれて、困るんだから!」
ヤッケルとフィンスは、顔を見合わせた。
結局ヤッケルが、ぼそり…と言い訳る。
「だって…言えるか?
ギュンターとオーガスタスとディングレーの絡み合いなんて…」
シェイルは、目を見開いた。
「いつの間に、三人になったの?」
フィンスが、説明する。
「さっき。
第一こんな話したら、ローランデは…こういう系は、言われると真っ赤になるし…」
「こっちが悪い事した気分になって、最悪に気まずい。
お前、そんな空気、作りたいの?」
ヤッケルに言われ、シェイルは言い淀む。
「ヤッケル、いっつもズルい!」
「けど正論だから、言い返せない」
ヤッケルに言われ、シェイルはその通りなので言葉が出なくて、思いっきりヤッケルを睨み付けた。
その後、ヤッケルがフィンスと並んでお代わりを皿に盛ろうと席を立つと、偶然先に列に並んでいたローフィスの背に、ぶつかりそうになる。
ローフィスは振り向くと
「お前らか…。
さっき小耳に挟んだが、俺がギュンターに伝言頼んで、オーガスタスの次にディングレーの元へ行かせたら。
なんかディングレーとオーガスタス二人で、ギュンターをコマす噂が駆け巡ってた。
…ディングレーからオーガスタスが、ギュンター奪い取ったなんて噂の後だから。
オーガスタス所に来た後、ギュンターがディングレーの元へ駆けつけたら、面白いと思ってわざと、伝言頼んだが。
…3Pは流石の俺も、予想外だった」
フィンスとヤッケルは、それを聞いて目を見開く。
「噂立ってるの、知っててわざと!
ギュンターにオーガスタスの後ディングレーの元へ、行かせたのか?!」
ヤッケルの糾弾に、ローフィスはくすくす笑った。
「だって、面白いじゃないか」
フィンスは呆れきり、言葉が出ず。
ヤッケルはむかっ腹たって、怒鳴りつけた。
「あんた、ほんっとに、人が悪いな!!!」
「…オーガスタスはだって…貴方の親友ですよね?」
フィンスがやっと、そう尋ねると。
ローフィスはくすくす笑って頷く。
「ヤツには絶対、ウケて大笑いする…!」
フィンスとヤッケルは、ローフィスとオーガスタスの人の悪さに呆れきって、互いの顔を見合わせあった。
講師はその他の、羊皮紙や本を片手にロクに相手も見ず、本や羊皮紙に目を通しながら、なまくらな剣を相手に振り合ってる四年らを、怒鳴りつけてる。
「お前ら、幾ら課題が大変だからって!
そこまで手を抜くと、黙ってないぞ!」
だが課題でキチガイになってる彼らの耳には、届かず。
講師も諦めムード。
オーガスタスが寄って行くと、体も(オーガスタスには負けるが)態度もデカいリーラスが、濃い栗毛を背に流し、ブラウンの瞳で斜に見つめる。
「あんたの出番は、後だ」
言われたオーガスタスは、顔を寄せ合い密談真っ最中の、ローフィスに屈む。
「俺にも、出番をくれるのか?」
ローフィスは一つ、ため息を吐いて顔を上げる。
「ああ。
後で頼む」
素っ気無く言葉を返すと、また仲間らに顔を寄せ、頼んでいた。
「出来るだけ、声かけといてくれ。
多分人手が要るだろうから」
一人が、疑問をブツける。
「で?
そのハウリィの義兄って、いつ来るんだ?」
「俺が手紙でおびき寄せるから。
多分明日かあさって頃」
全員が、思いっきり、頷く。
オーガスタスがそれを聞いて、思わずぼやく。
「入れこんでるな」
リーラスが、相変わらずのデカい態度でオーガスタスに体ごと振り向くと、頷きながら言い放った。
「まあ俺達、課題をローフィスが引き受けてくれりゃ、何でもヤル」
オーガスタスは、呆れてリーラスを見た。
「プライド、ゼロだな」
「あんたなら、断るんだな?」
オーガスタスは、大らかに笑った。
「そんなありがたい申し出。
断る馬鹿、どこにいる?」
背を向けて剣をくるくる回すオーガスタスを、リーラスは怒鳴りつけた。
「てめぇだって!
プライド・ゼロの癖に!!!」
オーガスタスは、はっはっはっ!
と声を上げて笑い、練習相手に軽く剣を入れ、じゃれあって講師に
「真面目にやれ!」
と、怒鳴られてた。
講師が、集まってるローフィスらに視線向けると。
全員素知らぬ顔で、一斉に散って行った。
三年らの、午前の一つ目の講義終了後。
出て行った三年監督生に選ばれた者らが講義室に戻って来て、続いて文学の講義が始まっていた。
ギュンターは講師が、少し話しては
「ではこのテーマで、羊皮紙三枚は書いて来い」
と続けざまに宿題出すのに、目を見開いた。
首を振って横のダベンデスタに振り向くと、ダベンデスタはもう心得ているように
「羊皮紙一枚で、横は15行以上が決まりだ。
横が決まると自ずから、文字の大きさも限られる。
デっカイ字、数文字で三枚なんて書いたら、突っ返されるぞ」
と、説明してくれた。
ギュンターは項垂れて
「…だ、ろうな…」
とぼやく。
が、反対横のラッセルダンが、笑顔で振り向く。
「だが、提出期限は卒業までだ!
保留しとける」
ギュンターが、ラッセルダン同様、笑顔になりかけると。
ダベンデスタが、小声でささやく。
「その、保留し続けて、四年は今、頭抱えて殆どの時間、机にへばりついてる。
少しでも四年になった時、楽しようと思うんなら。
幾つかは片づけて『済み』貰っとかないと。
…後が、めちゃくちゃ大変だ」
ギュンターは途端、昨日オーガスタスが羊皮紙の束に埋もれ、ペンを走らせていたのを思い出す。
『それでか…』
しかし講師が、次々にテーマを提示し
「書いて来い」
と言うので。
「…何が何だか、分からない」
とまたぼやいてると、ダベンデスタが顔を寄せ、小声で教えてくれた。
「お前はどうだか不明だが。
一年から出さなきゃならない提出物の、テーマと枚数の、表がある。
一年の最初に渡されるんだが…」
「もらってない」
横からラッセルダンが、笑って答えた。
「後で講師に、くれるよう頼め。
三年からのテーマだけに、してくれるかも」
反対横からダベンデスタが、こそっと解説してくれた。
「つまり、もしかしたらお前に限って、提出物は半分で済むかも。
って事だ」
ギュンターは、硬い表情をほぐし、頷く。
が、一講義で矢継ぎ早に出されるテーマに、ギュンターは
「半分でもキツい…。
文字書くの、苦手なのに…」
と、項垂れきってぼやいた。
ラッセルダンが、そんなギュンターに言葉を返す。
「どんだけ文字がヘタでも。
提出物書いてるウチにマトモな、人が読める文字が書けるようになるし、難しい単語も覚えられる。
この先軍に進んで、報告書や契約書、もしかしたら命令書とかを、書くための準備だ」
ギュンターは『なるほど』と、大きく頷いた。
やっと鐘が鳴り、ギュンターは素早く長机と長椅子の横の、階段を降りて行くから。
ダベンデスタとラッセルダンはギュンターが講師に、テーマ表をもらいに行くのだと思った。
が、講師の横をすり抜け、講義室を出て行くので、ダベンデスタとラッセルダンは、思わず顔を見合わせた。
全校生徒集う、昼食の大食堂は、ごった返していた。
ギュンターは真っ先に食堂入りしたデカい四年らを押し退け、オーガスタスの姿を探す。
金髪のギュンターが首振って探す姿を、後から来た三年、そして二年と一年もが、見た。
やっと、奥のテーブルでオーガスタスが、仲間達と朗らかに喋ってる姿を見つけ、ギュンターがその横に駆け込む。
ざわつく大食堂の、四つの入り口から雪崩れ込むほぼ全員が。
騒ぐのを止めてじっ…と、オーガスタスに話しかけるギュンターを伺った。
「…悪い!昨日…!
あ、金…」
「次回出かけた時でいい。
…ここで金、出すな」
即答され、ギュンターはオーガスタスを見る。
座ってる彼は奔放な赤毛が目立つものの、つるんとした卵形の顔のゴツくない男前で、鳶色の瞳は穏やかに見え、そしてとても小顔に見えた。
けれど肩幅は、誰よりも広くて立派。
「そうか…。
今日は…行かない…よな?
忙しいんだろう?課題」
ギュンターの問いに、オーガスタスは、にこにこ笑って言った。
「いや?
息抜きしたいから、お前に奢られてやる」
ギュンターは、ほっとして笑顔で頷く。
オーガスタスは心から感じ良く笑う、ギュンターの笑顔に目を見開いた。
相変わらず飛び抜けた美貌に見えた。
が、そうして殊勝に笑ってると、意外と可愛く見える。
オーガスタスの横に並んで座ってる、悪友らも全員気づいてたが、当事者のオーガスタスとギュンターだけが、気づいてなかった。
四つの入り口から入って来た、ほぼ全員が足を止め、こっちを見てるのに。
リーラスが、「?」
と入り口を指さし、ローフィスに尋ねようとした。
が、ローフィスは時間を取り決めるギュンターとオーガスタスの、会話に割って入る。
「…悪いが、ディングレーに。
夕食前、ハウリィに会いに行くと伝えといてくれ」
ギュンターは、ローフィスに振り向く。
「いいが…。
今日から補習だと言ってたぞ?」
ローフィスは毛先の跳ねた明るい栗毛を揺らし、爽やかな青の瞳をギュンターに向けて、言った。
「知ってる。
だから、夕食前に訪ねる。
夕食は、ディングレーにたかる腹だ」
ギュンターはその砕けた言いように笑うと
「伝えとく」
と気安く引き受け、オーガスタスに
「じゃ、夕食後、校門で」
と告げて背を向けた。
その後ギュンターが真っ直ぐ、三年大貴族集うテーブルでもう腰掛けてたディングレーの元へ行くと。
皆、ざわっ!とざわめき、一斉にオーガスタスの様子を伺った。
オーガスタスは見られ慣れてた。
が、なんで今、しかもここで。
更に、一斉に凝視されてるのか。
さっぱり分からず、首を捻った。
ギュンターはディングレーに伝言を伝えた後
「ローフィスも、大貴族の食卓に混じるのか?」
と聞く。
外では王族たる威厳のタメ、重々しい態度で口の重いディングレーも。
ローフィスの伝言を伝えられて嬉しかったので、つい笑顔で答えた。
「いや。
一年三人と一緒に、自室で取る。
大貴族用のテーブルだと料理人も給仕も、人数不特定で困るから。
お前も、機会あったら混ざれ。
アスランが喜ぶ」
ギュンターが、豪勢な『王族の食事』にありつけるかも。
と、凄く嬉しそうに笑い、見ている皆は全員が
「?」
と、首捻った。
立ち止まったままの入り口付近で、ヤッケルがこっそりフィンスに囁く。
「…まさか…3P?」
周囲が一斉に、ざわっ!とざわめく。
ヤッケルはその騒ぎを聞き、慌てて周囲を首を振って見回す。
が、後の祭り。
『3P』疑惑は瞬く間に周囲に知れ渡り
「嘘だろう…!」
「ディングレーって、王族なのにプライド、ナイのか?!」
「いや…!
逆に、ディングレーぐらいの3P対抗馬となると…」
「確かに…オーガスタスしか…いないよな…」
「それで…!
オーガスタスは直ぐ、ギュンターがディングレーのとこに行っても、余裕なんだな…!」
「納得だ!」
ヤッケルは
「いや…」
とか
「あの…」
とか。
発言を取り消そうとした。
が、噂は遙か彼方まで知れ渡り、収めるのはとても無理だと知って、横のフィンスを、こそっ…と覗う。
フィンスは『なんて事を…』
と言う、情けない顔で、あちこちで小声で噂される、ディングレーとオーガスタスが二人でギュンターを…と言う、具体的な噂話に、顔を下げきり。
ヤッケルも同様、顔を下げきった。
ギュンターは、今日奢る事でオーガスタスに借りは返せるし、更に酒場にも行けて。
更に更にディングレーに、機会があれば。
と、豪勢な食事の席にも誘われ。
上機嫌でいつもより金髪を艶やかに輝かせ、頬を薔薇色に染め、紫の瞳をきらきらさせて、食事を調達しようと、トレー置き場に進む。
どんっ!
と人とブツかり、相手がずっと殴りたかった、三年グーデン配下の一人だと気づくと、拳を握り込む。
が、いつもならヤル気満々で突っかかって来る筈なのに。
もしくは、睨み付けて来るのに。
突然、目をそらされ、背を向けて…逃げ出されて、呆けた。
「(…ナニが、あったんだ…。
午前中、ずっと座りっぱなしだったから。
食前の運動に、丁度良いと思ったのに。
…俺が…怖い?
…確かに、入学当初絡まれた時は、殴り倒したヤツだ。
がその後…『油断したからだ!
次はやられないから、覚悟しとけ』と確か、豪語してなかったか…?)」
ギュンターは疑問符で脳内が、埋め尽くされた。
が、トレーの上に皿を乗せ、良く焼けた肉やら美味しそうな焼きたてパンを皿に盛り付け始めると。
疑問は綺麗さっぱり、脳内から消え去った。
ヤッケルとフィンスがテーブルに着くと、ローランデがにこやかに微笑んで、尋ねる。
「最近、良く消えるよね?
何か大切な用事?」
フィンスは誤魔化し笑いを顔に浮かべ、ヤッケルはチラ…!とシェイルを見る。
シェイルはとても綺麗な、可愛らしい顔で、ヤッケルを睨んだ。
ローランデが
「いけない…」
と、調味料のハーブを取りに、テーブルを離れると。
シェイルが二人に、言い放つ。
「いい加減にして!
僕が!ローランデに聞かれて、困るんだから!」
ヤッケルとフィンスは、顔を見合わせた。
結局ヤッケルが、ぼそり…と言い訳る。
「だって…言えるか?
ギュンターとオーガスタスとディングレーの絡み合いなんて…」
シェイルは、目を見開いた。
「いつの間に、三人になったの?」
フィンスが、説明する。
「さっき。
第一こんな話したら、ローランデは…こういう系は、言われると真っ赤になるし…」
「こっちが悪い事した気分になって、最悪に気まずい。
お前、そんな空気、作りたいの?」
ヤッケルに言われ、シェイルは言い淀む。
「ヤッケル、いっつもズルい!」
「けど正論だから、言い返せない」
ヤッケルに言われ、シェイルはその通りなので言葉が出なくて、思いっきりヤッケルを睨み付けた。
その後、ヤッケルがフィンスと並んでお代わりを皿に盛ろうと席を立つと、偶然先に列に並んでいたローフィスの背に、ぶつかりそうになる。
ローフィスは振り向くと
「お前らか…。
さっき小耳に挟んだが、俺がギュンターに伝言頼んで、オーガスタスの次にディングレーの元へ行かせたら。
なんかディングレーとオーガスタス二人で、ギュンターをコマす噂が駆け巡ってた。
…ディングレーからオーガスタスが、ギュンター奪い取ったなんて噂の後だから。
オーガスタス所に来た後、ギュンターがディングレーの元へ駆けつけたら、面白いと思ってわざと、伝言頼んだが。
…3Pは流石の俺も、予想外だった」
フィンスとヤッケルは、それを聞いて目を見開く。
「噂立ってるの、知っててわざと!
ギュンターにオーガスタスの後ディングレーの元へ、行かせたのか?!」
ヤッケルの糾弾に、ローフィスはくすくす笑った。
「だって、面白いじゃないか」
フィンスは呆れきり、言葉が出ず。
ヤッケルはむかっ腹たって、怒鳴りつけた。
「あんた、ほんっとに、人が悪いな!!!」
「…オーガスタスはだって…貴方の親友ですよね?」
フィンスがやっと、そう尋ねると。
ローフィスはくすくす笑って頷く。
「ヤツには絶対、ウケて大笑いする…!」
フィンスとヤッケルは、ローフィスとオーガスタスの人の悪さに呆れきって、互いの顔を見合わせあった。
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