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ハウリィの辛い過去を知るローフィス
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ローフィスはまた別の、秘密の部屋にハウリィを誘う。
そこには菓子や飲み物を隠していたから、ハウリィに振舞って落ち着かせる魂胆だった。
外の石階段を上がり、扉を開くと図書室の横にある、準備室に出る。
別名図書室の、管理室とも呼ばれていたけど。
類別されてない本が雑然と並ぶ、本好きにはお宝のような場所。
一部の変人(『教練』では)が、好んで出入りする場所だったから、普段から人気は無かった。
窓が壁いっぱいにあり、とても明るい室内で、壁には腰までの高さの本棚。
部屋のあちこちには机。
棚や机の上、床にさえも、びっしり本が積まれていた。
埃被る、積まれた本があちこちに山になってる、その間を通る。
ハウリィはローフィスに手を引かれ…なんだか冒険してるみたいなわくわく感があって、そんな自分に戸惑った。
本の山の奥に、小さな扉。
ローフィスが、鍵を取り出し、鍵穴に差して扉を開ける。
扉に頭をぶつけないよう、屈んだまま振り向くローフィスは笑顔。
「小柄な一・二年はともかく。
大柄な男は、入れない場所だ。
落ち着く」
ハウリィはローフィスの言葉に、小さくこっくり、頷いた。
自分ですら、少し腰を屈めるくらいの扉だったから。
大きな…乱暴な男達は、入れそうに無い。
中に入って背を起こす。
三方の壁は古びた木で、高窓から陽が差し込む、こぢんまりとした隠し部屋だった。
適度に暗くて、くすんだピンクの、足の無い寝椅子と、モスグリーンの足乗せが置いてあって、ローフィスは足乗せに腰掛け、寝椅子にハウリィを誘う。
ハウリィは、床に付いてる寝椅子に腰掛ける。
隅に毛布があって…昼寝するのに快適な感じがした。
ローフィスが床の取っ手を持ち上げ、床下に掘られた収納から、透明な幅広の瓶に入ったクッキーやら、チーズを取り出す。
ハウリィは、目をまん丸に見開いた。
手の上に、クッキーとチーズを乗せられ、ローフィスを見る。
ローフィスはまた、笑顔。
優しい、空色の瞳。
肩までの明るい栗毛が、動く度さらりと揺れる。
次に取り出したのは、果実を絞ったジュースの瓶。
コルクを抜いて、手渡されて…ハウリィは、ローフィスを見た。
ローフィスは笑顔で顎を揺らし…促すから、ハウリィは手にしたクッキーを囓った。
ほんのり…優しいバターの香り。
さくっとして…とても、美味しかった。
思わずローフィスに、笑顔を向けると、ローフィスは嬉しそう。
もっと。
と笑顔のローフィスに顎を振って促され、チーズを囓る。
少し硬めだったけど…口の中で、甘さの混じる酸味が広がる。
美味しくって、もう一かじりした。
そして果実水の瓶から、ジュースを飲む。
スモモ水で、爽やかな酸味と果物の果実が口に広がり、あんまり…美味しくって…。
ハウリィは思わず、あんな酷い体験の後の、こんな穏やかな雰囲気に、涙が滲んだ。
一度だって、無い事だった。
大抵は、痛みと…惨めさと………。
いわれのない暴力に呆然として、自分を抱きしめる事すら忘れ、必死で…平静を取り戻そうとして…。
のろのろと…破れた衣服を整えたり…傷に薬を塗ったり…。
泣くことすら出来ず、どうしたら母に、心配かけずにいられるかを必死に考えてたっけ。
けれど無遠慮に力尽くで傷つけられた場所は痛くて、惨めで辛くて…。
いつも、辛くて…。
乱暴を、働いた男らを、恨むどころか無かったことに…。
無いことにしようと、必死だった。
臭い大人の男の、息使い。吐息。
大きく乱暴な手で、体を掴まれた感触。
全てを閉め出し、忘れて…無かったことにしようと………。
ハウリィはそんな自分を思い出すと、体が震え始めて、慌てて再び、ジュースを口に運ぶ。
「うんと泣いて、喉が渇いたろう?」
ローフィスがそう尋ねながら、また笑う。
けれど今度、ハウリィは笑い返せなかった。
次々と…思い出す、惨めな体験があふれ出して…止まらなくなって。
ローフィスは、目を見開いた。
ハウリィは顔を伏せ、また目を、潤ませる。
『おかしい。
シェイルはこれで、元気になるのに』
しゃくりあげるから、まだ吐き出し足りないのか。と、ローフィスはそっとハウリィの腕に手を触れ、囁く。
「いいから…言いたい事があれば、全部吐き出せ。
言えるか?」
ハウリィはこくん。と小さく頷くと、ぽつり…ぽつりと、話し出した。
ローフィスはハウリィの言葉に耳を疑った。
あまり…直接的には描写しない。
けれど、どんな目に合わされたのか。
それはハウリィの震える様子で、痛いほど伝わった。
始めの強姦話は、相手の野獣に反吐が出た。
まだ幼い少年を、血が滴り溢れるほど犯すなんて。
どれほど痛く、苦しかったか。
彼は言わなかったが、分かった。
睫も唇もが、小刻みに震っていたから。
その後はつらつらと…忘れた頃に犯された話が続く。
どの相手もどうやら彼を、突っ込む対象としか考えていず、ハウリィは犯された場所の酷い痛みにいつも、怯えていたようだ。
だがそうじゃない相手も少しは、いた。
彼を裸にしてあちこち…触れた相手で、そうされて自分が反応した。
とハウリィは俯き、唇を噛んで語った。
けれど尻に突っ込まれる事は恐怖しか感じないのを、ローフィスは汲み取った。
その件になると、ハウリィの握りこまれた手が、ぶるぶると小刻みに震える。
決まって。
必ず………。
だが母親の再婚相手の義兄は最悪で、彼を縛り上げ体を嬲り、幾度も…ハウリィが嫌悪と吐き気、痛みしか無いその場所を犯し続け、彼が泣き喚くのを、楽しんだ。
母の再婚相手の屋敷での、辛い日々…。
ローフィスは逃げ出す事も出来ず、糾弾すら出来ず…欲しいまま義兄の酷い悪戯に耐え続けた…か弱い美少年を見つめ、胸が痛みまくった。
「だから僕………もう…どうしても嫌なんです…!
だって凄く…痛いのに!
あんな…太いものを入れられたら………!」
小声で…震えながら叫ぶハウリィに、ローフィスは努めて冷静を装い、尋ねる。
「医者に、診せたのか?
もしかしてまだ…傷が残ってるとか?」
ハウリィは、首を横に振った。
義兄に犯された最初の頃は、出血した。
けれど毎度痛みで失神するから、義兄はやり方を変え…。
それからは、血は出ずその代わり…体が熱くなって変に、なった…と。
ハウリィはぶるぶる震った。
「…もうここに…入れられないと満足出来ない体にしてやるって…!
嫌なのに!
絶対嫌なのに……………」
ローフィスは、押し黙った。
もしその場に、俺が居たなら…!
直ぐ、救ってやれたのに…!
「…後ろ手で…裸で縛られたまま…後ろの穴に変な棒を入れられた時、股間が勃ち上がって…苦しくてもそのままずっと…放って置かれて…。
気が変に成りそうで………。
僕もう…狂ってしまうかと思った…!」
そうハウリィが、震える声で叫んだ時。
ローフィスはハウリィが、ぞっ…とするほど、怖い顔をした。
「…その義兄の、名は?」
ハウリィは…爽やかな笑顔の青空のような人の…その変貌を、不思議そうに見つめ、答えた。
「アンガス………」
ローフィスは、頷いた。
怖い表情だったけど…ハウリィはそれが自分に向けられてるのじゃ無いと、分かってたから尋ねる。
「あの………?」
ローフィスは戸惑うハウリィのその言葉に、我に返ったように顔を上げ、微笑った。
少し、悲しそうな笑顔だった。
ハウリィが心配げに覗き込んでる姿に気づき、ローフィスは再び優しさを纏い、ささやく。
「大丈夫だ。次に休暇で家に帰るのは…いつになる?」
ハウリィは途端、不安げに…こみ上げて来る恐怖すら必死で押し隠し、首を微かに横に振って囁く。
「二週間後です」
ローフィスは…綿菓子のようなふんわりと可憐な…栗色の巻き毛に覆われた、少し青ざめたハウリィの、伏せられた大きな青い瞳と、その愛らしい顔を見つめる。
気の毒そうに。
ハウリィは俯いたまま、掠れた声でつぶやいた。
「母には…とても会いたい。
けど帰ると、きっとまた………」
「いいから帰れ。
次の休暇でアンガスは、二度とお前に手出しはしない」
直ぐ言葉を返すローフィスの、確かな言葉と声に…ハウリィは理由が分からず、顔を上げる。
“そんな事、どうして貴方が言えるんです?”
聞こうとした。
けど…ローフィスの少し硬い笑顔は…なぜだかその通りになるような確信があって…。
ハウリィは不思議なものを見るように、ローフィスを見つめ返す。
ローフィスは顔を背け、また果実水の瓶を手渡す。
ハウリィは手に握らされた瓶を、見た。
葡萄色の果実水。
「気がすんだら、ちゃんと食え。
そのクッキーは滅多に食べられない逸品だ」
ハウリィは言われて気づき、かりっ…と一口齧る。
ふわっ…とバターの風味広がり、優しい味でつい、夢中になって二口目を囓った。
「美味いだろう?」
聞かれて思わず、こくん。と頷く。
「果実水も試せ。
とても美味しいから」
ハウリィはまた頷き、瓶を口に、持って行く。
こくん。
とまだすんなりした白い喉を鳴らし、飲み込む。
コクのある…葡萄の味の果実水…。
そしてハウリィはまた、頬に涙を滴らせた。
頬を伝い顎に落ちる涙の滴。
けれどハウリィは拭おうとせず、見ているローフィスに告げる。
「…あんまり…美味しくて」
ローフィスは、当然だ。と言う顔で、大きく縦に首を振る。
「泣く程美味いもんだから、誰にも取られないよう。
こんな場所に、隠してる」
ハウリィが涙を溢れさせ、それでもローフィスの言葉に、くすくすっと笑った。
ローフィスがそれを見て優しく微笑むものだから、顔を上げ、また頬に一滴涙を伝わせながら。
ハウリィはずっと…くすくす、笑い続けた。
そこには菓子や飲み物を隠していたから、ハウリィに振舞って落ち着かせる魂胆だった。
外の石階段を上がり、扉を開くと図書室の横にある、準備室に出る。
別名図書室の、管理室とも呼ばれていたけど。
類別されてない本が雑然と並ぶ、本好きにはお宝のような場所。
一部の変人(『教練』では)が、好んで出入りする場所だったから、普段から人気は無かった。
窓が壁いっぱいにあり、とても明るい室内で、壁には腰までの高さの本棚。
部屋のあちこちには机。
棚や机の上、床にさえも、びっしり本が積まれていた。
埃被る、積まれた本があちこちに山になってる、その間を通る。
ハウリィはローフィスに手を引かれ…なんだか冒険してるみたいなわくわく感があって、そんな自分に戸惑った。
本の山の奥に、小さな扉。
ローフィスが、鍵を取り出し、鍵穴に差して扉を開ける。
扉に頭をぶつけないよう、屈んだまま振り向くローフィスは笑顔。
「小柄な一・二年はともかく。
大柄な男は、入れない場所だ。
落ち着く」
ハウリィはローフィスの言葉に、小さくこっくり、頷いた。
自分ですら、少し腰を屈めるくらいの扉だったから。
大きな…乱暴な男達は、入れそうに無い。
中に入って背を起こす。
三方の壁は古びた木で、高窓から陽が差し込む、こぢんまりとした隠し部屋だった。
適度に暗くて、くすんだピンクの、足の無い寝椅子と、モスグリーンの足乗せが置いてあって、ローフィスは足乗せに腰掛け、寝椅子にハウリィを誘う。
ハウリィは、床に付いてる寝椅子に腰掛ける。
隅に毛布があって…昼寝するのに快適な感じがした。
ローフィスが床の取っ手を持ち上げ、床下に掘られた収納から、透明な幅広の瓶に入ったクッキーやら、チーズを取り出す。
ハウリィは、目をまん丸に見開いた。
手の上に、クッキーとチーズを乗せられ、ローフィスを見る。
ローフィスはまた、笑顔。
優しい、空色の瞳。
肩までの明るい栗毛が、動く度さらりと揺れる。
次に取り出したのは、果実を絞ったジュースの瓶。
コルクを抜いて、手渡されて…ハウリィは、ローフィスを見た。
ローフィスは笑顔で顎を揺らし…促すから、ハウリィは手にしたクッキーを囓った。
ほんのり…優しいバターの香り。
さくっとして…とても、美味しかった。
思わずローフィスに、笑顔を向けると、ローフィスは嬉しそう。
もっと。
と笑顔のローフィスに顎を振って促され、チーズを囓る。
少し硬めだったけど…口の中で、甘さの混じる酸味が広がる。
美味しくって、もう一かじりした。
そして果実水の瓶から、ジュースを飲む。
スモモ水で、爽やかな酸味と果物の果実が口に広がり、あんまり…美味しくって…。
ハウリィは思わず、あんな酷い体験の後の、こんな穏やかな雰囲気に、涙が滲んだ。
一度だって、無い事だった。
大抵は、痛みと…惨めさと………。
いわれのない暴力に呆然として、自分を抱きしめる事すら忘れ、必死で…平静を取り戻そうとして…。
のろのろと…破れた衣服を整えたり…傷に薬を塗ったり…。
泣くことすら出来ず、どうしたら母に、心配かけずにいられるかを必死に考えてたっけ。
けれど無遠慮に力尽くで傷つけられた場所は痛くて、惨めで辛くて…。
いつも、辛くて…。
乱暴を、働いた男らを、恨むどころか無かったことに…。
無いことにしようと、必死だった。
臭い大人の男の、息使い。吐息。
大きく乱暴な手で、体を掴まれた感触。
全てを閉め出し、忘れて…無かったことにしようと………。
ハウリィはそんな自分を思い出すと、体が震え始めて、慌てて再び、ジュースを口に運ぶ。
「うんと泣いて、喉が渇いたろう?」
ローフィスがそう尋ねながら、また笑う。
けれど今度、ハウリィは笑い返せなかった。
次々と…思い出す、惨めな体験があふれ出して…止まらなくなって。
ローフィスは、目を見開いた。
ハウリィは顔を伏せ、また目を、潤ませる。
『おかしい。
シェイルはこれで、元気になるのに』
しゃくりあげるから、まだ吐き出し足りないのか。と、ローフィスはそっとハウリィの腕に手を触れ、囁く。
「いいから…言いたい事があれば、全部吐き出せ。
言えるか?」
ハウリィはこくん。と小さく頷くと、ぽつり…ぽつりと、話し出した。
ローフィスはハウリィの言葉に耳を疑った。
あまり…直接的には描写しない。
けれど、どんな目に合わされたのか。
それはハウリィの震える様子で、痛いほど伝わった。
始めの強姦話は、相手の野獣に反吐が出た。
まだ幼い少年を、血が滴り溢れるほど犯すなんて。
どれほど痛く、苦しかったか。
彼は言わなかったが、分かった。
睫も唇もが、小刻みに震っていたから。
その後はつらつらと…忘れた頃に犯された話が続く。
どの相手もどうやら彼を、突っ込む対象としか考えていず、ハウリィは犯された場所の酷い痛みにいつも、怯えていたようだ。
だがそうじゃない相手も少しは、いた。
彼を裸にしてあちこち…触れた相手で、そうされて自分が反応した。
とハウリィは俯き、唇を噛んで語った。
けれど尻に突っ込まれる事は恐怖しか感じないのを、ローフィスは汲み取った。
その件になると、ハウリィの握りこまれた手が、ぶるぶると小刻みに震える。
決まって。
必ず………。
だが母親の再婚相手の義兄は最悪で、彼を縛り上げ体を嬲り、幾度も…ハウリィが嫌悪と吐き気、痛みしか無いその場所を犯し続け、彼が泣き喚くのを、楽しんだ。
母の再婚相手の屋敷での、辛い日々…。
ローフィスは逃げ出す事も出来ず、糾弾すら出来ず…欲しいまま義兄の酷い悪戯に耐え続けた…か弱い美少年を見つめ、胸が痛みまくった。
「だから僕………もう…どうしても嫌なんです…!
だって凄く…痛いのに!
あんな…太いものを入れられたら………!」
小声で…震えながら叫ぶハウリィに、ローフィスは努めて冷静を装い、尋ねる。
「医者に、診せたのか?
もしかしてまだ…傷が残ってるとか?」
ハウリィは、首を横に振った。
義兄に犯された最初の頃は、出血した。
けれど毎度痛みで失神するから、義兄はやり方を変え…。
それからは、血は出ずその代わり…体が熱くなって変に、なった…と。
ハウリィはぶるぶる震った。
「…もうここに…入れられないと満足出来ない体にしてやるって…!
嫌なのに!
絶対嫌なのに……………」
ローフィスは、押し黙った。
もしその場に、俺が居たなら…!
直ぐ、救ってやれたのに…!
「…後ろ手で…裸で縛られたまま…後ろの穴に変な棒を入れられた時、股間が勃ち上がって…苦しくてもそのままずっと…放って置かれて…。
気が変に成りそうで………。
僕もう…狂ってしまうかと思った…!」
そうハウリィが、震える声で叫んだ時。
ローフィスはハウリィが、ぞっ…とするほど、怖い顔をした。
「…その義兄の、名は?」
ハウリィは…爽やかな笑顔の青空のような人の…その変貌を、不思議そうに見つめ、答えた。
「アンガス………」
ローフィスは、頷いた。
怖い表情だったけど…ハウリィはそれが自分に向けられてるのじゃ無いと、分かってたから尋ねる。
「あの………?」
ローフィスは戸惑うハウリィのその言葉に、我に返ったように顔を上げ、微笑った。
少し、悲しそうな笑顔だった。
ハウリィが心配げに覗き込んでる姿に気づき、ローフィスは再び優しさを纏い、ささやく。
「大丈夫だ。次に休暇で家に帰るのは…いつになる?」
ハウリィは途端、不安げに…こみ上げて来る恐怖すら必死で押し隠し、首を微かに横に振って囁く。
「二週間後です」
ローフィスは…綿菓子のようなふんわりと可憐な…栗色の巻き毛に覆われた、少し青ざめたハウリィの、伏せられた大きな青い瞳と、その愛らしい顔を見つめる。
気の毒そうに。
ハウリィは俯いたまま、掠れた声でつぶやいた。
「母には…とても会いたい。
けど帰ると、きっとまた………」
「いいから帰れ。
次の休暇でアンガスは、二度とお前に手出しはしない」
直ぐ言葉を返すローフィスの、確かな言葉と声に…ハウリィは理由が分からず、顔を上げる。
“そんな事、どうして貴方が言えるんです?”
聞こうとした。
けど…ローフィスの少し硬い笑顔は…なぜだかその通りになるような確信があって…。
ハウリィは不思議なものを見るように、ローフィスを見つめ返す。
ローフィスは顔を背け、また果実水の瓶を手渡す。
ハウリィは手に握らされた瓶を、見た。
葡萄色の果実水。
「気がすんだら、ちゃんと食え。
そのクッキーは滅多に食べられない逸品だ」
ハウリィは言われて気づき、かりっ…と一口齧る。
ふわっ…とバターの風味広がり、優しい味でつい、夢中になって二口目を囓った。
「美味いだろう?」
聞かれて思わず、こくん。と頷く。
「果実水も試せ。
とても美味しいから」
ハウリィはまた頷き、瓶を口に、持って行く。
こくん。
とまだすんなりした白い喉を鳴らし、飲み込む。
コクのある…葡萄の味の果実水…。
そしてハウリィはまた、頬に涙を滴らせた。
頬を伝い顎に落ちる涙の滴。
けれどハウリィは拭おうとせず、見ているローフィスに告げる。
「…あんまり…美味しくて」
ローフィスは、当然だ。と言う顔で、大きく縦に首を振る。
「泣く程美味いもんだから、誰にも取られないよう。
こんな場所に、隠してる」
ハウリィが涙を溢れさせ、それでもローフィスの言葉に、くすくすっと笑った。
ローフィスがそれを見て優しく微笑むものだから、顔を上げ、また頬に一滴涙を伝わせながら。
ハウリィはずっと…くすくす、笑い続けた。
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