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不本意な決着
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ローランデは剣を握る手に、汗が滲むのを感じた。
確かに、これほど向かい合って仕留められない相手は、ディングレー、オーガスタスの他、誰もいなかった。
勿論、ディアヴォロスは別格。
また…!
また避ける。
どれ程避けにくい場所を狙おうが…。
彼に届かない。
普通の相手の、数秒先に動いてる。
反応速度が、並以上に早い…!
どうして…解るんだろう?こちらがどこに、剣を振るのかが…!
しゅっ!
ローランデはギュンターの横を走り抜け、一瞬で振り向き、一気に剣を横に振る。
ギュンターは身を斜め後ろにしなやかに引き、横腹を庇った。
直ぐ正面に回り込んだローランデは、縦に剣を振り下ろす。
右足を着地すると同時に。
足音がしないのは分かってた。
ギュンターは後ろに身を引き、また避ける。
が下に落ちた見えない速さの剣が、直ぐ真横に振られ、ギュンターは背を引き、胸を抉る剣をも、避けた。
ローランデはまた。
隙を狙うため直ぐギュンターの正面から姿を消す。
ちっ。
ギュンターは舌打ちした。
一瞬、剣の握りに力を込めただけで。
剣振る前に察し、姿を消して行く音の無い風。
ローランデの、真横になびく明るい栗毛だけが残像として視界に残ってた。
ギュンターは自分がもう、胸と腹を斬られ、背中も斜めに思い切り傷を作り、あちこち剣で突き刺されてても、おかしくない。と思った。
それほど鋭い。ローランデの剣は。
避けるものの、その殺気は内臓に来る。
“食った、ばかりだぞ?”
その殺気の、直接痛みの無い攻撃には吐き気が込みあげたが、吐き出すのは嫌だった。
幼い頃から盗賊に頻繁に食料を奪われ、常に食物不足の領地で暮らし続けた。
一番辛かったのは、6才の時の最悪の冬。
盗賊に襲われ、冬越えのため備蓄した食料庫を空っぽにされた。
多くの…頼りになる仲間達が死体となり、大好きな年上のいとこも逝った。
母…正確には義母だが、次男アルンデルを守る為、傷を負っても守り抜き。
長男シュティッツェの助っ人で、無事盗賊を撃退したものの…。
義母の負った傷は深く、一時は命も危ぶまれた。
悲しみに閉ざされた冬。
更に、飢え。
最高のご馳走は、何とか盗賊から守り抜いた、数匹の乳牛の乳。
積もった雪を掘り、何とか見つけた雑草を牛の乳に入れて煮込み、小麦の粉を丸めた団子が入っていれば、めっけもの。
腹が空けば直接乳牛の乳首に、口を当てて飲んだ。
その乳牛の前ですら、列をなしての順番待ち。
ミルクでがほがぼと音のする、兄弟をからかう。
が、自分も同様、動く度腹が牛の乳で、がぼがぼと鳴った。
母が、傷なんて負って無かったかのように動き回り始め、やっと近隣の領地から、食料援助の荷馬車がやって来たのは…雪解け始めの、早春だった…。
その後の成人の旅では、やはり散々食べ物の無い日々を送ったから、吐く。なんて贅沢は出来やしない。
方法は唯一つ。
後一回振れる剣を、どこかで…!
相手に叩き込み、敵の戦意を断つ!
避けてるのに、それでも奴が打ち込んで来た場所に目に見えないダメージを喰らい、ギュンターはもうすっかり頭に、血が上り切った。
必死で相手の剣を避け続ける。
ギュンターの頭の中にあったのは、避けてこちらが剣を入れる隙を、狙い続ける事。
まだ…駄目だ。
攻撃する相手は隙が、出来易いはずなのにこいつは…!
これほど好きに、打ちかからせてやってるというのにまだ!
隙が見つからない!
練習場の、皆が二人の気迫に押され、押し黙る。
握る手に、汗が滲む。
しゅんっ!
ローランデの剣の、銀の閃光が走るのは一瞬。
振られた剣は、見えたと思うともう、振り切られてる。
ギュンターが、わずか上体を揺らす。
肩を斜めに下げ、捻り…。
または一歩、歩をずらし…。
たった、それだけでローランデの剣を避けてる。
また…!
ギュンターは、くっ!と腹を引っ込め、振り下ろされた剣を避ける。
が。
その紫の瞳は獲物を狙う、野生の豹そのもの。
体は何気無く避けてるように見える。
が、その瞳は。
避ける度どんどん鋭さを増し、ギラリ!と紫色に、光って見えた。
「…どうしたら…あそこまで避けられる?」
ぼそり…と一人が呟く言葉に、ディングレーは腕組みして吐息を吐く。
「…野生の…カン?だろうな。
…多分」
三年達は一斉に、そう呟くディングレーに振り向いた。
大貴族らは互いの顔を見合わせ、ささやく。
「…素質だとか、鍛錬だとか…じゃなく?」
デルアンダーが、代表して訪ねる。
「どんな鍛錬をしたら…身につきますか?」
ディングレーは腕組みしたまま、呟く。
「飢えた大狼の群れに…突っ込んで行く?
だが多分突っ込んで行った自分が、飢えた大狼のご馳走になる。
…ほぼ間違いなく」
それを聞いた大貴族の取り巻き達は、ぞっ…と背筋に寒気が駆け抜け、揃って顔を下げた。
ディングレーが、ぼそり…と言葉を足す。
「…ディアヴォロスは、突っ込んで行って。
大狼が奪い合ってた僅かな鹿の肉を、全部殺して奪って喰ってた」
テスアッソンが、恐る恐る尋ねる。
「…殺したのは、大狼…?」
ディングレーは頷く。
デルアンダーも、尋ねる。
「群れ…全部を殺したんですか?」
ディングレーは背を少し反らして息を吸い込み、次に言葉を吐き出した。
「最後の一匹と鹿肉を争ったが…その狼はディアヴォロスに恐れをなして、鹿肉をディアヴォロスに譲り、逃げてったな」
「…見てたんですか?」
デルアンダーの問いに、ディングレーは吐息混じりに頷く。
「かなり離れた茂みに隠れて。
あ。
…これは口止めされてたっけ。
お前ら、他に口外するなよ」
大貴族らは、こそっ…と背後に振り向く。
背後に居た平貴族らは、慌てて『聞いてない』振りをして、一斉に顔を背けた。
しゅっ!
しゅっ!しゅっ!
ローランデの剣が、続けざまに振られる。
が、ギュンターの紫の瞳はぎらりと輝き、身を続けざまに傾け、捻り、避けながら。
ローランデが疲れる切る隙を、狙っているように見えた。
一瞬、ローランデが身を返す隙に。
ギュンターの瞳に殺気が上り、剣の柄を握り込む。
がその時、突然鐘が鳴る。
カーーーーン!
カーーーーーン!
「それまで!時間切れだ!」
ローランデが咄嗟に剣を引き、顔を上げる。
ギュンターは剣を振ろうとし、瞬間ローランデのその様子に、振ろうした剣を止めた。
肩を波打たせ、息を吐く。
目前ではローランデが、真っ直ぐ立ち、居住まいを正し、自分に向かって頭を下げて礼をする。
ギュンターがその礼儀正しさを、目を見開いて見つめてると、講師が怒鳴った。
「授業終了だ!
剣を剣立てに、返しておけ!」
ギュンターは暫く、呆然としていた。
ローランデが、顔を上げる。
真っ白な肌。
青く澄んだ瞳。
真っ直ぐの淡い栗毛に、幾筋も混じる濃い栗毛の独特な色の髪は、わずかに乱れていた。
が整いきった顔立ちの上に、最早殺気無く、気品溢れる貴公子そのものの、静かなたたずまい。
ギュンターはそれでも、突っかかろうとした。
が、ローランデはすっ!と静かに背を向け、立ち去る。
代わって三年平貴族らが、どっ!と一斉にギュンターの周囲に押し寄せ、取り囲み、口々に快挙を褒め讃えた。
「一撃も、喰らってないぞ!」
「分かってるか?!
ありえないことなんだぞ?!!!!」
「お前、凄すぎ!」
「剣振らず、避けるだけでなんで戦えるんだ?!」
「奇跡だぞ!!!」
が、ギュンターは一瞬、握り込んだ剣を見つめ、不機嫌そのもので怒鳴る。
「どこが凄い!
奴を…沈めいてずあいつのしたい放題させて!
こいつを奴に、叩き込めず!
決着が、付いてないんだぞ!!!」
皆、そう怒鳴るギュンターを、大きく目を見開いて見つめ、沈黙する。
背後からディングレーが通りかかり、ぼそり…と告げた。
「ローランデ相手にそれが出来たら、お前は大した奴だ。
…出来ないんなら間違いなく奴はお前より強いから、敵に回さないよう気をつけるんだな!」
ギュンターを囃してた同級生達は、そう言ったディングレーを睨む。
「…自分はいいよな…!」
「下級生達に一目置かれてる…!」
「ローランデに剣で軽くあしらわれると、二年の奴ら、クズみたいにこっちを見るんだぜ?」
「下級の癖に!」
「ローランデと同学年ってだけで!」
「いいから次回、出来たらローランデに痛い目合わせてやれ!」
「…いつも、合わされてるもんな、俺達。
一度でいいから、俺もそうしたいよ…」
「性格いいから、普段つっかかる事も出来ないしな…」
ギュンターを取り巻く同級生達は、そう言って一斉に項垂れた。
ギュンターは首を下げる同級生達を…言葉無くただ、見つめ返す。
顔を上げるとローランデはもう、友人のフィンスやヤッケル、銀髪美少年のシェイルらと楽しそうに語り合って、鍛錬場を出ようとしていた。
そうしてる様はただの、二年生で無邪気にさえ、見えた。
ギュンターはもう一度、握り込んだ、剣を見た。
途中で止められ、この憤りをどこで吐き出せばいい?!
講師を睨む。
が、講師は窓の外に首を振った。
見るとガラス越しに、塔の鐘が見えた。
ギュンターは鐘を睨もうとし…。
はっ!と気づいて、もう一度、講師を睨もうと振り向く。
が講師はもう、鍛錬場の出口から、姿を消していた。
確かに、これほど向かい合って仕留められない相手は、ディングレー、オーガスタスの他、誰もいなかった。
勿論、ディアヴォロスは別格。
また…!
また避ける。
どれ程避けにくい場所を狙おうが…。
彼に届かない。
普通の相手の、数秒先に動いてる。
反応速度が、並以上に早い…!
どうして…解るんだろう?こちらがどこに、剣を振るのかが…!
しゅっ!
ローランデはギュンターの横を走り抜け、一瞬で振り向き、一気に剣を横に振る。
ギュンターは身を斜め後ろにしなやかに引き、横腹を庇った。
直ぐ正面に回り込んだローランデは、縦に剣を振り下ろす。
右足を着地すると同時に。
足音がしないのは分かってた。
ギュンターは後ろに身を引き、また避ける。
が下に落ちた見えない速さの剣が、直ぐ真横に振られ、ギュンターは背を引き、胸を抉る剣をも、避けた。
ローランデはまた。
隙を狙うため直ぐギュンターの正面から姿を消す。
ちっ。
ギュンターは舌打ちした。
一瞬、剣の握りに力を込めただけで。
剣振る前に察し、姿を消して行く音の無い風。
ローランデの、真横になびく明るい栗毛だけが残像として視界に残ってた。
ギュンターは自分がもう、胸と腹を斬られ、背中も斜めに思い切り傷を作り、あちこち剣で突き刺されてても、おかしくない。と思った。
それほど鋭い。ローランデの剣は。
避けるものの、その殺気は内臓に来る。
“食った、ばかりだぞ?”
その殺気の、直接痛みの無い攻撃には吐き気が込みあげたが、吐き出すのは嫌だった。
幼い頃から盗賊に頻繁に食料を奪われ、常に食物不足の領地で暮らし続けた。
一番辛かったのは、6才の時の最悪の冬。
盗賊に襲われ、冬越えのため備蓄した食料庫を空っぽにされた。
多くの…頼りになる仲間達が死体となり、大好きな年上のいとこも逝った。
母…正確には義母だが、次男アルンデルを守る為、傷を負っても守り抜き。
長男シュティッツェの助っ人で、無事盗賊を撃退したものの…。
義母の負った傷は深く、一時は命も危ぶまれた。
悲しみに閉ざされた冬。
更に、飢え。
最高のご馳走は、何とか盗賊から守り抜いた、数匹の乳牛の乳。
積もった雪を掘り、何とか見つけた雑草を牛の乳に入れて煮込み、小麦の粉を丸めた団子が入っていれば、めっけもの。
腹が空けば直接乳牛の乳首に、口を当てて飲んだ。
その乳牛の前ですら、列をなしての順番待ち。
ミルクでがほがぼと音のする、兄弟をからかう。
が、自分も同様、動く度腹が牛の乳で、がぼがぼと鳴った。
母が、傷なんて負って無かったかのように動き回り始め、やっと近隣の領地から、食料援助の荷馬車がやって来たのは…雪解け始めの、早春だった…。
その後の成人の旅では、やはり散々食べ物の無い日々を送ったから、吐く。なんて贅沢は出来やしない。
方法は唯一つ。
後一回振れる剣を、どこかで…!
相手に叩き込み、敵の戦意を断つ!
避けてるのに、それでも奴が打ち込んで来た場所に目に見えないダメージを喰らい、ギュンターはもうすっかり頭に、血が上り切った。
必死で相手の剣を避け続ける。
ギュンターの頭の中にあったのは、避けてこちらが剣を入れる隙を、狙い続ける事。
まだ…駄目だ。
攻撃する相手は隙が、出来易いはずなのにこいつは…!
これほど好きに、打ちかからせてやってるというのにまだ!
隙が見つからない!
練習場の、皆が二人の気迫に押され、押し黙る。
握る手に、汗が滲む。
しゅんっ!
ローランデの剣の、銀の閃光が走るのは一瞬。
振られた剣は、見えたと思うともう、振り切られてる。
ギュンターが、わずか上体を揺らす。
肩を斜めに下げ、捻り…。
または一歩、歩をずらし…。
たった、それだけでローランデの剣を避けてる。
また…!
ギュンターは、くっ!と腹を引っ込め、振り下ろされた剣を避ける。
が。
その紫の瞳は獲物を狙う、野生の豹そのもの。
体は何気無く避けてるように見える。
が、その瞳は。
避ける度どんどん鋭さを増し、ギラリ!と紫色に、光って見えた。
「…どうしたら…あそこまで避けられる?」
ぼそり…と一人が呟く言葉に、ディングレーは腕組みして吐息を吐く。
「…野生の…カン?だろうな。
…多分」
三年達は一斉に、そう呟くディングレーに振り向いた。
大貴族らは互いの顔を見合わせ、ささやく。
「…素質だとか、鍛錬だとか…じゃなく?」
デルアンダーが、代表して訪ねる。
「どんな鍛錬をしたら…身につきますか?」
ディングレーは腕組みしたまま、呟く。
「飢えた大狼の群れに…突っ込んで行く?
だが多分突っ込んで行った自分が、飢えた大狼のご馳走になる。
…ほぼ間違いなく」
それを聞いた大貴族の取り巻き達は、ぞっ…と背筋に寒気が駆け抜け、揃って顔を下げた。
ディングレーが、ぼそり…と言葉を足す。
「…ディアヴォロスは、突っ込んで行って。
大狼が奪い合ってた僅かな鹿の肉を、全部殺して奪って喰ってた」
テスアッソンが、恐る恐る尋ねる。
「…殺したのは、大狼…?」
ディングレーは頷く。
デルアンダーも、尋ねる。
「群れ…全部を殺したんですか?」
ディングレーは背を少し反らして息を吸い込み、次に言葉を吐き出した。
「最後の一匹と鹿肉を争ったが…その狼はディアヴォロスに恐れをなして、鹿肉をディアヴォロスに譲り、逃げてったな」
「…見てたんですか?」
デルアンダーの問いに、ディングレーは吐息混じりに頷く。
「かなり離れた茂みに隠れて。
あ。
…これは口止めされてたっけ。
お前ら、他に口外するなよ」
大貴族らは、こそっ…と背後に振り向く。
背後に居た平貴族らは、慌てて『聞いてない』振りをして、一斉に顔を背けた。
しゅっ!
しゅっ!しゅっ!
ローランデの剣が、続けざまに振られる。
が、ギュンターの紫の瞳はぎらりと輝き、身を続けざまに傾け、捻り、避けながら。
ローランデが疲れる切る隙を、狙っているように見えた。
一瞬、ローランデが身を返す隙に。
ギュンターの瞳に殺気が上り、剣の柄を握り込む。
がその時、突然鐘が鳴る。
カーーーーン!
カーーーーーン!
「それまで!時間切れだ!」
ローランデが咄嗟に剣を引き、顔を上げる。
ギュンターは剣を振ろうとし、瞬間ローランデのその様子に、振ろうした剣を止めた。
肩を波打たせ、息を吐く。
目前ではローランデが、真っ直ぐ立ち、居住まいを正し、自分に向かって頭を下げて礼をする。
ギュンターがその礼儀正しさを、目を見開いて見つめてると、講師が怒鳴った。
「授業終了だ!
剣を剣立てに、返しておけ!」
ギュンターは暫く、呆然としていた。
ローランデが、顔を上げる。
真っ白な肌。
青く澄んだ瞳。
真っ直ぐの淡い栗毛に、幾筋も混じる濃い栗毛の独特な色の髪は、わずかに乱れていた。
が整いきった顔立ちの上に、最早殺気無く、気品溢れる貴公子そのものの、静かなたたずまい。
ギュンターはそれでも、突っかかろうとした。
が、ローランデはすっ!と静かに背を向け、立ち去る。
代わって三年平貴族らが、どっ!と一斉にギュンターの周囲に押し寄せ、取り囲み、口々に快挙を褒め讃えた。
「一撃も、喰らってないぞ!」
「分かってるか?!
ありえないことなんだぞ?!!!!」
「お前、凄すぎ!」
「剣振らず、避けるだけでなんで戦えるんだ?!」
「奇跡だぞ!!!」
が、ギュンターは一瞬、握り込んだ剣を見つめ、不機嫌そのもので怒鳴る。
「どこが凄い!
奴を…沈めいてずあいつのしたい放題させて!
こいつを奴に、叩き込めず!
決着が、付いてないんだぞ!!!」
皆、そう怒鳴るギュンターを、大きく目を見開いて見つめ、沈黙する。
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「ローランデ相手にそれが出来たら、お前は大した奴だ。
…出来ないんなら間違いなく奴はお前より強いから、敵に回さないよう気をつけるんだな!」
ギュンターを囃してた同級生達は、そう言ったディングレーを睨む。
「…自分はいいよな…!」
「下級生達に一目置かれてる…!」
「ローランデに剣で軽くあしらわれると、二年の奴ら、クズみたいにこっちを見るんだぜ?」
「下級の癖に!」
「ローランデと同学年ってだけで!」
「いいから次回、出来たらローランデに痛い目合わせてやれ!」
「…いつも、合わされてるもんな、俺達。
一度でいいから、俺もそうしたいよ…」
「性格いいから、普段つっかかる事も出来ないしな…」
ギュンターを取り巻く同級生達は、そう言って一斉に項垂れた。
ギュンターは首を下げる同級生達を…言葉無くただ、見つめ返す。
顔を上げるとローランデはもう、友人のフィンスやヤッケル、銀髪美少年のシェイルらと楽しそうに語り合って、鍛錬場を出ようとしていた。
そうしてる様はただの、二年生で無邪気にさえ、見えた。
ギュンターはもう一度、握り込んだ、剣を見た。
途中で止められ、この憤りをどこで吐き出せばいい?!
講師を睨む。
が、講師は窓の外に首を振った。
見るとガラス越しに、塔の鐘が見えた。
ギュンターは鐘を睨もうとし…。
はっ!と気づいて、もう一度、講師を睨もうと振り向く。
が講師はもう、鍛錬場の出口から、姿を消していた。
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気長なお付き合いを願います。
よろしくお願いします。
※念の為R15をつけました
※本作品は2020年12月3日に完結しておりますが、2021年4月14日より誤字脱字の直し作業をしております。
作品としての変更はございませんが、修正がございます。
ご了承ください。
※修正作業をしておりましたが2021年5月13日に終了致しました。
依然として誤字脱字が存在する場合がございますが、ご愛嬌とお許しいただければ幸いです。
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