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ローフィスに抱きつくハウリィ
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ハウリィは突然現れて、暴行を働く二人を床に沈めた人物が…自分が見つめた途端、見た事の無い爽やかな表情で、微笑うのを見た。
毛先に癖のある、明るい栗毛。
しなやかだけど、引き締まった体躯。
そして澄んだ…。
どこまでも青く澄んだ、晴れやかで気持ち良い青空のような、温か味のある青い瞳。
一目見ただけで、親しみやすさと…そして好感の持てる風貌。
だから…問うまでも無く、分かった。
彼が自分を…助けてくれたのだと。
彼が奴らに成り代わり自分を…犯したりはしないんだと。
つい、微笑み返していた。
その時、思った。
『教練』に来て、良かった。と。
だって領地のごろつきは、のしかかっていた奴を殴り倒すのは、自分が取って代わる為。
結局その時、二人に犯された。
いつも…誰かに乱暴を働かれる時、助けてくれる男は一人だって、いやしなかった…。
ひどい時は森番ですら…犯され傷ついた自分に手を差し伸べるで無く、伸し掛かり乱暴を働いた。
家庭教師が一緒だった時…彼は…自分の身可愛さに、乱暴者に僕を差し出した。
犯されている横で…彼が自分の身を守れてほっとする、表情を見た。
痛みで泣き叫び…血が溢れても、家庭教師は自分の身を、護り通した…………。
奴らはこうも、言った。
「悪いのはお前だ。
餓鬼で男の癖に、男のソノ気をそそるんだからな!
恨むなら自分を恨め!」
どうしてだか、分からなかった。
そんな事は一度だって、自分から望んだ事など無かったのに。
ローフィスが手を差し伸べ、寝台から起こし衣服を整えてる間。
ハウリィはずっと無言で、俯いていた。
危機から脱した安心感で放心してるのだと、ローフィスには分かったから、小柄なハウリィの小さな手を握り、素早く気絶した二年と、痛みに床に転がりながら、恨めしそうに見上げるドラーケンの横をすり抜け、その場からハウリィと共に駆け去る。
廃屋同然の旧校舎から出、暫く後、歩を緩める。
この辺りは講義をサボる生徒にも出くわす、人気のある場所だったから。
ローフィスは並んで歩く、ハウリィを見た。
顔を下げ、俯き…けど横にちゃんと、付いて歩いてる。
自分ですら、まだぼーっとしてる。
興奮の余韻で。
喧嘩好きの、奴らの気持ちが解る。
あれほど自分の拳が相手にめり込む、爽快感を味わったら。
そりゃ喧嘩が、楽しくてもしょうがない。
だが殴り慣れてない自分の拳は後で間違いなく、痛むだろうな。
ぼんやりそんな事を考えながら…けれど助け出した戦利品がどれほど愛おしく価値があるか…。
つい横に並んで歩いている、それだけが嬉しくて、ローフィスはその横の少年の、離れていても感じる温もりに心から安堵した。
が、ハウリィがうきうきした様子を見せ…でも次に、とても沈んだ表情をするのが、気になった。
見つめると、ハウリィは促されたように囁く。
「あの…僕………」
明るい綿あめのような明るい栗毛。
青い瞳の可愛らしい顔立ちの、本当に小柄な。
ローフィスが顔を揺らし頷きに変える。
ハウリィはその爽やかな上級生の、親しみ易く…包みこむような優しげな雰囲気に気を緩めて、口を開く。
「僕……僕ってそんな…風に見えますか?」
ローフィスが、目だけを見開きまん丸にしたので、ハウリィは必死に言い足す。
「…あの…つまり………欲望を……感じるように………?」
突然、そのか弱い美少年の怯える様が浮かび、それを嗜虐として蹂躙する、人間の皮を被った野獣共の影が、見えた気がし、ローフィスは気を引き締めた。
旅先で何度も、見た。
大抵はか弱い女性だった。
年端も行かぬ少女だった時すら、ある。
襲いかかる野獣達は相手が、竦み上がり懇願し…それが、楽しくて仕方無いのだ。
相手を支配する。
自分のするがまま。
相手は抗う事を許されない。
それを心から愉しむ男達。
だからどれだけでも、酷い事をした。
叫べば殴り、痣を負わせ時には首を締め…行為はただのひどい、暴力だった。
命があれば、めっけもの。
そんな事すらあった。
ローフィスの父親は騎士だったから…まだ幼い頃そんな輩を見つけ、父に言うと父親は大抵、その男達をぶちのめした。
「…どうしてこんな事をする?」
その問いに、父親はこう言った。
「欲望の為なら人間はどれだけでも汚くなれる。
欲求を果たすまでは恥も感じない。
お前も年頃になって、欲求を感じるように、なれば解る。
人間と獣の境目で、迷う時が必ず一度はやって来る。
…もっとかもしれない。
だがどんな時でも恥と誇りさえ捨てなければ、人間で居られる。
…自分の欲求の、御者に成れ。
どれほど暴れ狂おうが、絶対制する事が出来る。
そう自分に言い聞かせろ。
そして…それが出来た時、自分を誇れ。
その誇りを一生涯、忘れるな」
ケダモノ達を蹴散らした今。
…ケダモノに堕ちず、人間で居られる誇りを、ローフィスは感じていた。
だから見つめるハウリィに囁く。
「そう言った男は自分を悪者にしたくなくて、お前が悪いと言う。
お前が悪いから、酷い事されても当たり前なんだと。
だがたいてい悪い男は、弱い相手に罪悪感を植え付け支配しようとする。
自分に力からあるのを、誇示するために。
間違えるな。
悪い事を正当化する、奴らの常套句だ。
抗え。
そんなのは絶対間違ってると。
…どいつが悪者か、ちゃんと知ってる人間は必ずいる」
頷こうとした。
がハウリィは…気づくとローフィスに、抱きついていた。
涙が、溢れた。
母が再婚した義兄は…直ぐに悪戯しそしてついには…暴行した。
ひどい…ひどいやり方で。
以前は領地の中の出来事で、暴行者は屋敷に入って来なかったから、外出さえしなければそれでも無事だった。
でも今度は…相手は屋敷の中にいて…義父と母の目を盗んで何度も…。
口止めされて、母にすら言えなくて…。
けど見つけられた時、義父は母に怒鳴った。
男の身で大事な一人息子を誘惑した、恥知らずな子供。
と………。
母親の躾が悪い。
そう怒鳴られ…項垂れる母を見た時、胸が張り裂けそうだった。
少女のような女性だった。
亡くなった父を心から、愛してた………。
世間知らずでお嬢様で…けど懸命に、父亡き後領地を、切り盛りしていた。
幾度もずるい使用人に騙されそれでも…微笑んで、僕に言った。
「大丈夫よ。亡くなったお父様は必ず天国から、貴方と私を見守ってくださるわ。
彼が死ぬ前、私にそう約束したの」
でも領地の財産が著しく減ってとうとう…母の姉に勧められて、義父と結婚した………。
どれほど、言いたかった事か。
以前の屋敷に、二人きりで一緒に帰ろう。と。母に。
けど懸命に耐える母にどうしても、言えなかった。
必死で、庇ってくれた。
義兄の暴行を、止めさせる為に。
そして義父の出した結論がこの…『教練』に、僕を入る事だった………。
か弱く…何の力も無い母は項垂れて…僕を見送った。
寂しそうに微笑んで。
「元気でいて」
心からの言葉。
ここでも同じだと、思った。
でも…でも!
ギュンターの、姿が浮かぶ。
スフォルツァ…そしてアイリス、オーガスタス…。
そして…彼。
名も知らず面識すら無い自分の為に、飛び込んで助けてくれて何一つ、要求を口にしないで横に寄り添ってただ一緒に、歩いてくれている。
もう、彼に抱きついた途端涙が、止まらなかった。
ローフィスは正直、焦った。
万が一シェイルに見つかったら、どれだけがっかりされるだろう?
今でもシェイルは疑っている。
自分をディアヴォロスのものにして…義兄に、戻ろうとするんじゃないか。と。
俺が恋人をやめて……以前の、兄弟に戻ろうとしないか。と、怯えながら。
そして自分をディアスに託し、別の真に愛する、女性の恋人を作るんじゃないかと。
ローフィスは吐息を吐く。
そうすべきだと、解ってる。
シェイルを独り立ちさせるには。
けれどどうしても…。
シェイルの泣き濡れた大きなエメラルドの瞳を向けられるくらいなら、心臓を抉り出された方がマシ。
…それほど胸が痛んだから…どうしても、出来なかった。
だが胸に突っ伏すこの小柄な美少年はどうしたって…放って置けないほど儚げだった。
もう胸の内全てを曝け出すように、泣いていた。
溜め込んだ感情が全て吹き出すままに。
あんまり…哀れで、ローフィスはシェイルに見つかった時の言い訳をあれこれ考え始め、腕をそっ…と、美少年の背に回した。
毛先に癖のある、明るい栗毛。
しなやかだけど、引き締まった体躯。
そして澄んだ…。
どこまでも青く澄んだ、晴れやかで気持ち良い青空のような、温か味のある青い瞳。
一目見ただけで、親しみやすさと…そして好感の持てる風貌。
だから…問うまでも無く、分かった。
彼が自分を…助けてくれたのだと。
彼が奴らに成り代わり自分を…犯したりはしないんだと。
つい、微笑み返していた。
その時、思った。
『教練』に来て、良かった。と。
だって領地のごろつきは、のしかかっていた奴を殴り倒すのは、自分が取って代わる為。
結局その時、二人に犯された。
いつも…誰かに乱暴を働かれる時、助けてくれる男は一人だって、いやしなかった…。
ひどい時は森番ですら…犯され傷ついた自分に手を差し伸べるで無く、伸し掛かり乱暴を働いた。
家庭教師が一緒だった時…彼は…自分の身可愛さに、乱暴者に僕を差し出した。
犯されている横で…彼が自分の身を守れてほっとする、表情を見た。
痛みで泣き叫び…血が溢れても、家庭教師は自分の身を、護り通した…………。
奴らはこうも、言った。
「悪いのはお前だ。
餓鬼で男の癖に、男のソノ気をそそるんだからな!
恨むなら自分を恨め!」
どうしてだか、分からなかった。
そんな事は一度だって、自分から望んだ事など無かったのに。
ローフィスが手を差し伸べ、寝台から起こし衣服を整えてる間。
ハウリィはずっと無言で、俯いていた。
危機から脱した安心感で放心してるのだと、ローフィスには分かったから、小柄なハウリィの小さな手を握り、素早く気絶した二年と、痛みに床に転がりながら、恨めしそうに見上げるドラーケンの横をすり抜け、その場からハウリィと共に駆け去る。
廃屋同然の旧校舎から出、暫く後、歩を緩める。
この辺りは講義をサボる生徒にも出くわす、人気のある場所だったから。
ローフィスは並んで歩く、ハウリィを見た。
顔を下げ、俯き…けど横にちゃんと、付いて歩いてる。
自分ですら、まだぼーっとしてる。
興奮の余韻で。
喧嘩好きの、奴らの気持ちが解る。
あれほど自分の拳が相手にめり込む、爽快感を味わったら。
そりゃ喧嘩が、楽しくてもしょうがない。
だが殴り慣れてない自分の拳は後で間違いなく、痛むだろうな。
ぼんやりそんな事を考えながら…けれど助け出した戦利品がどれほど愛おしく価値があるか…。
つい横に並んで歩いている、それだけが嬉しくて、ローフィスはその横の少年の、離れていても感じる温もりに心から安堵した。
が、ハウリィがうきうきした様子を見せ…でも次に、とても沈んだ表情をするのが、気になった。
見つめると、ハウリィは促されたように囁く。
「あの…僕………」
明るい綿あめのような明るい栗毛。
青い瞳の可愛らしい顔立ちの、本当に小柄な。
ローフィスが顔を揺らし頷きに変える。
ハウリィはその爽やかな上級生の、親しみ易く…包みこむような優しげな雰囲気に気を緩めて、口を開く。
「僕……僕ってそんな…風に見えますか?」
ローフィスが、目だけを見開きまん丸にしたので、ハウリィは必死に言い足す。
「…あの…つまり………欲望を……感じるように………?」
突然、そのか弱い美少年の怯える様が浮かび、それを嗜虐として蹂躙する、人間の皮を被った野獣共の影が、見えた気がし、ローフィスは気を引き締めた。
旅先で何度も、見た。
大抵はか弱い女性だった。
年端も行かぬ少女だった時すら、ある。
襲いかかる野獣達は相手が、竦み上がり懇願し…それが、楽しくて仕方無いのだ。
相手を支配する。
自分のするがまま。
相手は抗う事を許されない。
それを心から愉しむ男達。
だからどれだけでも、酷い事をした。
叫べば殴り、痣を負わせ時には首を締め…行為はただのひどい、暴力だった。
命があれば、めっけもの。
そんな事すらあった。
ローフィスの父親は騎士だったから…まだ幼い頃そんな輩を見つけ、父に言うと父親は大抵、その男達をぶちのめした。
「…どうしてこんな事をする?」
その問いに、父親はこう言った。
「欲望の為なら人間はどれだけでも汚くなれる。
欲求を果たすまでは恥も感じない。
お前も年頃になって、欲求を感じるように、なれば解る。
人間と獣の境目で、迷う時が必ず一度はやって来る。
…もっとかもしれない。
だがどんな時でも恥と誇りさえ捨てなければ、人間で居られる。
…自分の欲求の、御者に成れ。
どれほど暴れ狂おうが、絶対制する事が出来る。
そう自分に言い聞かせろ。
そして…それが出来た時、自分を誇れ。
その誇りを一生涯、忘れるな」
ケダモノ達を蹴散らした今。
…ケダモノに堕ちず、人間で居られる誇りを、ローフィスは感じていた。
だから見つめるハウリィに囁く。
「そう言った男は自分を悪者にしたくなくて、お前が悪いと言う。
お前が悪いから、酷い事されても当たり前なんだと。
だがたいてい悪い男は、弱い相手に罪悪感を植え付け支配しようとする。
自分に力からあるのを、誇示するために。
間違えるな。
悪い事を正当化する、奴らの常套句だ。
抗え。
そんなのは絶対間違ってると。
…どいつが悪者か、ちゃんと知ってる人間は必ずいる」
頷こうとした。
がハウリィは…気づくとローフィスに、抱きついていた。
涙が、溢れた。
母が再婚した義兄は…直ぐに悪戯しそしてついには…暴行した。
ひどい…ひどいやり方で。
以前は領地の中の出来事で、暴行者は屋敷に入って来なかったから、外出さえしなければそれでも無事だった。
でも今度は…相手は屋敷の中にいて…義父と母の目を盗んで何度も…。
口止めされて、母にすら言えなくて…。
けど見つけられた時、義父は母に怒鳴った。
男の身で大事な一人息子を誘惑した、恥知らずな子供。
と………。
母親の躾が悪い。
そう怒鳴られ…項垂れる母を見た時、胸が張り裂けそうだった。
少女のような女性だった。
亡くなった父を心から、愛してた………。
世間知らずでお嬢様で…けど懸命に、父亡き後領地を、切り盛りしていた。
幾度もずるい使用人に騙されそれでも…微笑んで、僕に言った。
「大丈夫よ。亡くなったお父様は必ず天国から、貴方と私を見守ってくださるわ。
彼が死ぬ前、私にそう約束したの」
でも領地の財産が著しく減ってとうとう…母の姉に勧められて、義父と結婚した………。
どれほど、言いたかった事か。
以前の屋敷に、二人きりで一緒に帰ろう。と。母に。
けど懸命に耐える母にどうしても、言えなかった。
必死で、庇ってくれた。
義兄の暴行を、止めさせる為に。
そして義父の出した結論がこの…『教練』に、僕を入る事だった………。
か弱く…何の力も無い母は項垂れて…僕を見送った。
寂しそうに微笑んで。
「元気でいて」
心からの言葉。
ここでも同じだと、思った。
でも…でも!
ギュンターの、姿が浮かぶ。
スフォルツァ…そしてアイリス、オーガスタス…。
そして…彼。
名も知らず面識すら無い自分の為に、飛び込んで助けてくれて何一つ、要求を口にしないで横に寄り添ってただ一緒に、歩いてくれている。
もう、彼に抱きついた途端涙が、止まらなかった。
ローフィスは正直、焦った。
万が一シェイルに見つかったら、どれだけがっかりされるだろう?
今でもシェイルは疑っている。
自分をディアヴォロスのものにして…義兄に、戻ろうとするんじゃないか。と。
俺が恋人をやめて……以前の、兄弟に戻ろうとしないか。と、怯えながら。
そして自分をディアスに託し、別の真に愛する、女性の恋人を作るんじゃないかと。
ローフィスは吐息を吐く。
そうすべきだと、解ってる。
シェイルを独り立ちさせるには。
けれどどうしても…。
シェイルの泣き濡れた大きなエメラルドの瞳を向けられるくらいなら、心臓を抉り出された方がマシ。
…それほど胸が痛んだから…どうしても、出来なかった。
だが胸に突っ伏すこの小柄な美少年はどうしたって…放って置けないほど儚げだった。
もう胸の内全てを曝け出すように、泣いていた。
溜め込んだ感情が全て吹き出すままに。
あんまり…哀れで、ローフィスはシェイルに見つかった時の言い訳をあれこれ考え始め、腕をそっ…と、美少年の背に回した。
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