若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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ハウリィの幸運

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「嫌!」

どさっ!
男ののしかかる音と、必死で抵抗する衣擦きぬずれの音。
ローフィスは舌打った。
隠し扉から出たら、折角見つけた、奴らですら知らない秘密の隠し部屋を自分であばくも同然。

だから小窓から身を乗り出し、鎧戸よろいどとの隙間、人一人通れる外側の細い溝を伝って隣部屋の窓下まで、身を屈め進んだ。

外から見たら、古びた建物の二階、窓の崩れかけた木のおおいから、突然人が出てきたように見えたろう。

つい二階窓の外から、周囲の草木を確認する。
が、見下ろす木々の茂みに、人影は見えない。
だからと言ってどこかの木陰か茂みの中に、身を潜める奴はいない。
と断言出来なかったが。

ともかく、急を要した。
ローフィスは隣室の窓の下に身を潜め、そっ…と顔を上げて中を、伺い見る。

奴らが遊びに使う、真っ赤なシーツの敷かれたデカイ寝台の上で。
やっぱり二年らしい体格の、グーデン配下で見た顔の男が、華奢で小柄な少年を、組み敷いていた。

「(一年か…!)」
ローフィスは身を屈め、奴らから見えない部屋の扉近くの、窓下へと進む。
そして…開いている窓へ、一瞬で飛び込んだ。

ざっっっ!

寝台横で見ていた、一年のドラーケンが気配に振り向く。
もう突進するローフィスに腹を殴られ呻き、床に、腹を押さえ転がる。

モレッティは組み敷く美少年から顔を上げ、突然の侵入者に振り向く。
が、ローフィスはそいつが組み敷く美少年を見、思わず目を見開いた。

腕を頭上で捕まれ、衣服をはだけられ、泣き濡れた大きな青い瞳で自分を見つめてる、明るい栗毛の華奢な美少年。

ローフィスは…自分でも呆れるくらい、呆然とした。

旅先で大抵の物は見慣れ、驚く事のほとんど無い自分が。
こういう光景にこれほど…ショックを受けると、自分でも解ってなかった。

「…四年か」
奇襲を掛けるつもりが…相手に起き上がる隙を、与えてしまった。
がどうしても…震える美少年から目が、離せなかった。

泣き濡れた、幼気な青い瞳。
真っ赤な小さく柔らかそうな唇は、震えていた。
華奢で愛らしく…小さく、弱い。

拳が、飛んで来る。
ローフィスは、はっ!と気づき、顔を振って避ける。

猛者相手には、針を使う気でいた。
睡眠薬を塗った針は、刺された。と気づく前に相手がおねんねする、役立つ武器だった。

が。
顔を、しっかり見られた。
解っていたがどうしても…我慢出来なかった。

あの時、こいつも確か一年…。
シェイルが捕まえられて裸に剥かれ…奴らの情欲の視線に晒され泣き叫んでいた時。
仲間には、加わって無かったはず。

「(だがこいつは、俺を知ってる…!)」
部屋の、隅にでもいたか…?

シェイルを助けるため、部屋に飛び込んだ俺は…。
猛者達に殴られ…当時は三年だったから、それは体のデカイ四年の男達に、血反吐へどが出るほど、殴られた。

“ボロ雑巾の、ようだった…”
後でシェイルが、大きなエメラルド色の瞳に涙をいっぱい溜めて、そう震える声で、囁いた。

痛く、無かった。
と言えば嘘になるが、犯されかけたシェイルの姿の方がよっぽど衝撃的で。
あんまり頭に血が上って自分でも処置無しで、知恵を忘れ三発殴られ一発は返した。

…拳が握り込まれたままぶるぶる震え、決して開かなかった。
どうしてもシェイルを汚そうとした獣を、殴り倒さずにいられずに。

結果俺はそこら中に痣を作り痛みに一週間呻き、助けた筈の、シェイルまで泣かせた。
俺の傷を気遣い、どれ程シェイルは泣いたことか…。
もう、二度とごめんだと、思う位。
…奴らに殴られた傷の痛みより、泣くシェイルの姿を目にした時の、胸の痛みがまさった程。

…だから…。
りた、はずだと思ってた。

がつん!
奴の腹に、拳を叩きこむ。

思い切り当たる拳の感触に、これほど胸がくと思わなかった。
だから…無理だった。
懐に忍ばせた、針に手をやり指先で飛ばすのは。

がっ!がっ!

流石猛者を名乗るだけあって、二年ながら威力のありそうな拳だ。
が、もっと鈍足に振り回すなら効いたろうが…。

怪我をすれば旅がその先、困難になる。

その習慣が身についていたから、振って来る拳はまず、避ける。
そして逃げる隙を伺う。

だがこの鉄則を忘れ、つい挑みかかっちまうもんだから、避けきれず肩に拳をがつん!と喰らった。

瞬間当たった衝撃で一瞬で血が沸騰し、怒りが煮えたぎった。

気づくと足を飛ばし奴の足を思いっきりなぎ払い、速攻に驚いた奴は綺麗に足を払われ、床に腹からつんのめって、派手な音立てて突っ伏す。

どったんっ!!!

倒れかかる瞬間、必死に顔を庇い首を捻る奴を見たが、倒した後は料理だ。
がつん!と、起き上がろうともがく背中に靴底を叩きつけ、奴の腹につま先を入れ、ひょい、と仰向かせ、今度は腹の鳩尾みぞおちに靴底を叩きつけると、奴は短く呻いて伸びた。

「ムゥ…」

吐息を、一つ付く。
下げた拳はまだ、小刻みにぶるぶる震え、必死で…怒りを鎮める。

やっとの事で振り向くと…はだけた衣服の美少年が、ほっとした表情で感謝の気持ちをその青い瞳いっぱいに溢れさせ、自分を見つめていた。

それが…どれほど嬉しかったか知れやしない。

ローフィスは美少年の不安の消えた表情を見、ようやく…微笑を浮かべ、握り込んだ、拳を開いた。
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