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ドラーケンに掴まったハウリィ
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どんっ!
ハウリィは乱暴に壁に突き飛ばされ、その衝撃と。
さっきまで腕をきつく握られた痛みに身を震わせた。
目前には…一年で一番乱暴な、ドラーケン…。
ハウリィは顔が上げられず、どこにも逃げ場の無い兎のように、震え続けた。
それは早朝、朝食の準備が出来たと知らせる鐘が鳴り、食堂へと向かうために部屋を出た時、起こった。
ハウリィは廊下に出た途端、背後に上背の…ぞっとする雰囲気のドラーケンが付くのを感じ、身が固まった。
背後から顔を寄せられ、囁かれる。
「騒ぐな」
一瞬だった。
背後から、口を塞がれた。
部屋から次々に出てくる平貴族らが、ぞろぞろと食堂へと足を運ぶ、ごった返す廊下。
ハウリィは口を塞がれたまま、目立たないようこっそり、食堂に向かう群れとは逆方向へと引きずられ、ドラーケンの部屋に連れ込まれた。
部屋の中にいたのは、数日前ギュンターに追い払われた…二年グーデン配下の嫌な上級生。
ドラーケンの寝台に座り顔を上げ、ハウリィの怯えた顔を見、にやりと笑う。
ハウリィは叫ぼうとし、口をドラーケンの大きな手に塞がれ、腹に拳を喰らい痛みと共に…。
意識が、遠のいた………。
ローフィスは心地良い眠りの中にいた。
最高学年ともなると卒業を控え、四年間溜め込んで来た、提出必須課題が山積み。
一年からずっと真面目に出してきた奴はとっくに「済み」を貰っていたが、鍛錬第一の校風は、課題の提出を後に伸ばす事が出来…。
ずっと後回しでさぼってた連中は、四年になって一斉に悲鳴を上げる。
もうそこら中で皆が「済み」を貰える回答を、学業優秀な奴から買取り…もしくは取引し、または脅し。
…ともかく手に入れる算段で走り回ってた。
自分で書くとなると、多分気が狂うほどの量になるだろうから、誰もが決死。
どれだけ剣が優れていても。
課題が全て「済み」である事が卒業条件だったから、本も読まず文字もロクに書かない奴らは四年に進学した途端、机に釘付けになる。
昨日覗いたがオーガスタスですら、自室の机の前で羊皮紙の束に埋もれ、頭を掻きむしってた。
…と言うのも、無礼講の後。
大食堂の出口で、宿舎にぞろぞろ戻り行く四年に、講師が
「対抗試合が済んだら、お前達がする事はただ一つ!
課題の提出だ!
どれだけ実技が優れていても、全部「済み」が出ないと留年だ!」
…と、折角の心地よい酒が一気に醒める発言で、皆を宿舎に見送ったから。
全員が一斉に呻いて自室に駆け込み、羊皮紙を引っ掻き回して引き出したのは、言わずもがなだった。
ローフィスはとっくの昔に模範解答を手に入れていたから、後はそれを上手に改変して自分の物として提出する。
夕べ二つばかりやっつけ、ディングレーの部屋で早々に豪勢な食事を腹に詰め込み、もうすっかり…朝寝の態勢でいた。
場所は…物騒な奴が良く使う、今は使われていない古い建物の二階。
…以前何も知らない幼いアシュアークが連れ込まれ、悪戯された場所だった。
が奴らが使う部屋の、その奥にある、誰も知らない秘密の隠し部屋は適度に暗く。
こざっぱりした寝台付きの良い部屋で、誰にも邪魔されず昼寝するには、最高の隠れ場所だった。
がたん…!
物音でつい、浅い眠りから引き戻される。
幼少の時分から幼いシェイルを連れ、長い旅に出ていた時の習性で、気配には敏感に反応する自分に、ローフィスは舌打った。
グーデンの悪い遊びに染まり、すっかりペットで落ち着いてる奴らは配下の男達と良くここで遊ぶ。
男の喘ぎ声つきの眠りか。とうんざりし、部屋のある方の壁に背を向け、枕を抱えた。
…が。
「…っ!嫌………許し…許してお願い………」
消え入りそうな、儚げな許しを乞う声を聞いた途端、身が条件反射で跳ね上がる。
シェイルはいつも…狙われていた。
彼の叔父だけで無く、盗賊や…彼を自分のものにしようとする男達に。
旅はずっと、ひたすら逃亡の毎日。
シェイルを庇い、彼を守り通すのが父から与えられた役目だったし、自身でそれを、買って出もした。
…だから…そんな声にはつい身が反応してしまう。
ローフィスは素早く隠し扉に耳を、当てる。
何やら低い…変声期過ぎたばかりの…太いがどこか幼く、ぎこちない感じの声が、しゃべるのが聞こえた。
「…あいつに邪魔させはしない…今度は。
叫んでもいいぜ…ここは誰も知らないし、誰も来ない」
ローフィスは肩を竦める。
世間知らずだな。二年か?
ハウリィはギュンターを出し抜き、今度こそ…!
と見据える二年の猛者の、情欲でぎらついた視線に怯え、自分を掴む同学年のドラーケンに縋る瞳を向ける。
が、ドラーケンは素っ気ない表情で唸る。
「どって事無いだろう…。
ちょっと奴を、楽しませればいいだけだ。
…マレーは、銜えたぞ?」
ハウリィはそれを聞いて、瞳を見開く。
わたあめのような明るい栗毛の、ふんわりとした長い髪。
怯えた大きな、青い瞳。
愛らしく可愛らしかったけど…ドラーケンはぼんやりと、理知的で表情の乏しい、けれど人形のように綺麗だったマレーが。
自分にしなだれかかりそして口の中に自分を含み…。
あの、熱い時間がぼんやりと蘇り、股間が疼いた。
けどその後、マレーは逃げた。
その裏切りを思い返すと、腹も立ったが、がっかりした気分が先に立つ。
だから、怯えたハウリィを感情無く見つめ返した。
ハウリィは、肩まである黒髪に近い、毛先の跳ねた濃い栗毛でグレーがかった青の目の、面長でごつごつした顔の輪郭の、ぞっとするドラーケンに無感動な瞳で見つめ返され、絶望的な気持ちになった。
けど震えた声で、そっと尋ねる。
「…それで…いいんですか?
あの…僕………」
が、オーガスタスに歯抜けにされた、二年のモレッティは低く唸る。
「…済む訳無いだろう…。
お前が失神するまで俺のをぶち込んで、ひいひい鳴かせないと気が済まない!
…終わったらあの金髪編入生の所へ、駆け込んでいいぞ。
…その、体力が残ってたらな!」
鼻が低く目が離れてて…更にしゃべると抜けた歯が覗いてたから、随分間抜けな風貌に見えるのに。
栗毛のくせっ毛をお洒落に櫛を入れて整え、身だしなみにも気を配ってる風で、ひどく気取って見えた。
けど温か味の無いグレーの瞳に情欲をたぎらせ、自分本位で酷い扱いも平気に見えて…。
ハウリィは真っ青になって、がたがた震った。
ハウリィは乱暴に壁に突き飛ばされ、その衝撃と。
さっきまで腕をきつく握られた痛みに身を震わせた。
目前には…一年で一番乱暴な、ドラーケン…。
ハウリィは顔が上げられず、どこにも逃げ場の無い兎のように、震え続けた。
それは早朝、朝食の準備が出来たと知らせる鐘が鳴り、食堂へと向かうために部屋を出た時、起こった。
ハウリィは廊下に出た途端、背後に上背の…ぞっとする雰囲気のドラーケンが付くのを感じ、身が固まった。
背後から顔を寄せられ、囁かれる。
「騒ぐな」
一瞬だった。
背後から、口を塞がれた。
部屋から次々に出てくる平貴族らが、ぞろぞろと食堂へと足を運ぶ、ごった返す廊下。
ハウリィは口を塞がれたまま、目立たないようこっそり、食堂に向かう群れとは逆方向へと引きずられ、ドラーケンの部屋に連れ込まれた。
部屋の中にいたのは、数日前ギュンターに追い払われた…二年グーデン配下の嫌な上級生。
ドラーケンの寝台に座り顔を上げ、ハウリィの怯えた顔を見、にやりと笑う。
ハウリィは叫ぼうとし、口をドラーケンの大きな手に塞がれ、腹に拳を喰らい痛みと共に…。
意識が、遠のいた………。
ローフィスは心地良い眠りの中にいた。
最高学年ともなると卒業を控え、四年間溜め込んで来た、提出必須課題が山積み。
一年からずっと真面目に出してきた奴はとっくに「済み」を貰っていたが、鍛錬第一の校風は、課題の提出を後に伸ばす事が出来…。
ずっと後回しでさぼってた連中は、四年になって一斉に悲鳴を上げる。
もうそこら中で皆が「済み」を貰える回答を、学業優秀な奴から買取り…もしくは取引し、または脅し。
…ともかく手に入れる算段で走り回ってた。
自分で書くとなると、多分気が狂うほどの量になるだろうから、誰もが決死。
どれだけ剣が優れていても。
課題が全て「済み」である事が卒業条件だったから、本も読まず文字もロクに書かない奴らは四年に進学した途端、机に釘付けになる。
昨日覗いたがオーガスタスですら、自室の机の前で羊皮紙の束に埋もれ、頭を掻きむしってた。
…と言うのも、無礼講の後。
大食堂の出口で、宿舎にぞろぞろ戻り行く四年に、講師が
「対抗試合が済んだら、お前達がする事はただ一つ!
課題の提出だ!
どれだけ実技が優れていても、全部「済み」が出ないと留年だ!」
…と、折角の心地よい酒が一気に醒める発言で、皆を宿舎に見送ったから。
全員が一斉に呻いて自室に駆け込み、羊皮紙を引っ掻き回して引き出したのは、言わずもがなだった。
ローフィスはとっくの昔に模範解答を手に入れていたから、後はそれを上手に改変して自分の物として提出する。
夕べ二つばかりやっつけ、ディングレーの部屋で早々に豪勢な食事を腹に詰め込み、もうすっかり…朝寝の態勢でいた。
場所は…物騒な奴が良く使う、今は使われていない古い建物の二階。
…以前何も知らない幼いアシュアークが連れ込まれ、悪戯された場所だった。
が奴らが使う部屋の、その奥にある、誰も知らない秘密の隠し部屋は適度に暗く。
こざっぱりした寝台付きの良い部屋で、誰にも邪魔されず昼寝するには、最高の隠れ場所だった。
がたん…!
物音でつい、浅い眠りから引き戻される。
幼少の時分から幼いシェイルを連れ、長い旅に出ていた時の習性で、気配には敏感に反応する自分に、ローフィスは舌打った。
グーデンの悪い遊びに染まり、すっかりペットで落ち着いてる奴らは配下の男達と良くここで遊ぶ。
男の喘ぎ声つきの眠りか。とうんざりし、部屋のある方の壁に背を向け、枕を抱えた。
…が。
「…っ!嫌………許し…許してお願い………」
消え入りそうな、儚げな許しを乞う声を聞いた途端、身が条件反射で跳ね上がる。
シェイルはいつも…狙われていた。
彼の叔父だけで無く、盗賊や…彼を自分のものにしようとする男達に。
旅はずっと、ひたすら逃亡の毎日。
シェイルを庇い、彼を守り通すのが父から与えられた役目だったし、自身でそれを、買って出もした。
…だから…そんな声にはつい身が反応してしまう。
ローフィスは素早く隠し扉に耳を、当てる。
何やら低い…変声期過ぎたばかりの…太いがどこか幼く、ぎこちない感じの声が、しゃべるのが聞こえた。
「…あいつに邪魔させはしない…今度は。
叫んでもいいぜ…ここは誰も知らないし、誰も来ない」
ローフィスは肩を竦める。
世間知らずだな。二年か?
ハウリィはギュンターを出し抜き、今度こそ…!
と見据える二年の猛者の、情欲でぎらついた視線に怯え、自分を掴む同学年のドラーケンに縋る瞳を向ける。
が、ドラーケンは素っ気ない表情で唸る。
「どって事無いだろう…。
ちょっと奴を、楽しませればいいだけだ。
…マレーは、銜えたぞ?」
ハウリィはそれを聞いて、瞳を見開く。
わたあめのような明るい栗毛の、ふんわりとした長い髪。
怯えた大きな、青い瞳。
愛らしく可愛らしかったけど…ドラーケンはぼんやりと、理知的で表情の乏しい、けれど人形のように綺麗だったマレーが。
自分にしなだれかかりそして口の中に自分を含み…。
あの、熱い時間がぼんやりと蘇り、股間が疼いた。
けどその後、マレーは逃げた。
その裏切りを思い返すと、腹も立ったが、がっかりした気分が先に立つ。
だから、怯えたハウリィを感情無く見つめ返した。
ハウリィは、肩まである黒髪に近い、毛先の跳ねた濃い栗毛でグレーがかった青の目の、面長でごつごつした顔の輪郭の、ぞっとするドラーケンに無感動な瞳で見つめ返され、絶望的な気持ちになった。
けど震えた声で、そっと尋ねる。
「…それで…いいんですか?
あの…僕………」
が、オーガスタスに歯抜けにされた、二年のモレッティは低く唸る。
「…済む訳無いだろう…。
お前が失神するまで俺のをぶち込んで、ひいひい鳴かせないと気が済まない!
…終わったらあの金髪編入生の所へ、駆け込んでいいぞ。
…その、体力が残ってたらな!」
鼻が低く目が離れてて…更にしゃべると抜けた歯が覗いてたから、随分間抜けな風貌に見えるのに。
栗毛のくせっ毛をお洒落に櫛を入れて整え、身だしなみにも気を配ってる風で、ひどく気取って見えた。
けど温か味の無いグレーの瞳に情欲をたぎらせ、自分本位で酷い扱いも平気に見えて…。
ハウリィは真っ青になって、がたがた震った。
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