若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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一年大貴族食卓の変 ギュンターはアイリスを敵に回すのか?

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 四年、オーガスタスの悪友らはリュートを持ち上げ、演奏を始め、そのダミ声の合唱に皆、眉をひそめそれでも楽しくしゃべりながら、食事を続けた。

講師の一人がとうとうたまりかねてリュートの弾き手から楽器を取り上げみずから歌い始め、その美声にあちこちから、一斉に拍手が湧いた。

早々に食事を終えたものが、少し開いた場所で踊り始め、踊りに加わる者が次々と出る。

ディングレーとギュンターは結局マレーとアスランの横に居座り、オーガスタスはそれを見てさっさと引き上げて行った。

ディングレーは、今だ背後に立ってる、ローランデとフィンスに告げる。

「いいから、食うか歌うか、踊るかして来い!」

ギュンターは振り向いて、品のいい二年の二人を見た。
明るい栗毛に濃い栗毛が幾筋も混じる、気品の塊。
優しげな顔立ち。
澄んだ青い瞳が印象的で『俺と人種が違う』
そう思わせる、育ちの良さそうなのと。
その横には背が高く、デルアンダーみたいな背筋の伸びた騎士らしい気概を持つ、濃い栗毛の美青年。

ギュンターは『どっちも俺とは、別次元の住民だ』
と吐息を吐いた。

ローランデはディングレーに言われて、二年席へと首を振る。
そしてその場には姿の無いヤッケルとシェイルの姿を探し、視線を彷徨さまよわせ…。
その姿を見つけた時、ため息を吐き、フィンスも同意して頷く。

ヤッケルはさっさとシェイルを連れ、踊りの輪の中に、それは楽しそうに加わっていた。

「…食事が途中だった」
フィンスが言うと、ローランデも呟いた。
「食べないと、踊りは無理かな」

二人はディングレーに視線を送り、揃って一つ頷き、その後ローランデはアイリスに微笑を残して、その場を去る。

ギュンターはあくまでもお行儀良く、品の良い二人に感心した。
「…あいつら、二人とも二年?」

ディングレーは試合に出なかったギュンターが、ローランデの凄さを知らないのに呆れた。

「あの明るい栗毛は覚えとけ。
この後合同授業で、当たると痛い目合わされる」

ギュンターが、目を見開く。
「濃い栗毛の、背の高い方じゃなくて?
低い方のあいつ?」

途端、テーブルに居るスフォルツァが顔を、下げる。
アイリスが囁く。
「結局彼が、黄金の獅子を手にしたんです」

「黄金の獅子?」
何も知らない編入生のギュンターに、一年大貴族らはびっくりし、揃って食事から顔を上げる。
入学したての自分達ですら知ってる、栄誉ある賞なのに。と。

ディングレーが吐息を吐き出す。
「学校一剣が強い。って称号だ」

ギュンターが、アスランの皿からパイ包みを掴み上げ、給仕に来た侍従に果実酒を頼み、ディングレーに振り向く。

「学校一強い…?
オーガスタスは?」

アスランがギュンターに、頬を染めて振り向く。
「相打ちで。
…けどオーガスタスは、ローランデに勝ちを譲ったんです」

ディングレーが見ていると、ギュンターはあれだけがっついてもまだ足りない様子で、アスランの皿から摘み食いをし、果実酒を運んで来た侍従に告げる。

「…これをもう、三皿追加してくれるか?」
そしてアスランの顔を覗き、囁く。
「ちゃんと食わないと、でかい男になれないぞ?」

が、言った後、真っ直ぐの黒髪を肩に流す、少女と見まごうほど華奢で可憐で、子犬のように可愛らしい茶色の瞳をした可愛らしいアスランをマジマジと見、吐息吐く。
「…喧嘩って…した事あるか?」

金の巻き毛を首に巻き付け、とても綺麗な鼻の曲線。
引き締まった顎。
長い金の睫に縁取られた、キラリと光る紫の切れ長の瞳の、優美なギュンターの美貌に、アスランがうっとり見とれ、首を横に振った途端。

ギュンターは、大きな吐息を吐き出した。
「…そうだ、ろうな………」

そしてふ…と、自分を見つめるテーブルの一年達とディングレーに気づく。
「…で、あの端正な気品の塊の二年が、学校一強かった。って事だな?
だがどうせ、剣でだろう?
喧嘩ならオーガスタスが勝つ。違うか?」

スフォルツァが、呆れ混じりに囁く。
「けどここは騎士養成校で、剣の腕前が何よりモノを言うんですよ?」

ギュンターはまた手づかみでパイ包みを持ち上げ、口へと運びながら言う。
「表面だけだろう?実際は拳が何よりモノを言う」

ディングレーもついギュンターに習い、気ままに食べようと、給仕に肉を焼いたものを注文し、頷く。
「…まあ剣技は、繊細な技術だ」

ギュンターが途端、眉を寄せた。
「…確かにあれは、扱うのに技術が要るな」

一年達は試合に出なかったギュンターが、実は剣が苦手なのか。と、テーブルに居ると目立ちまくる派手な金髪とその美貌の主の、表情を見守った。
が彼が、剣の腕は確かに未知だが喧嘩が強いのは確かだ。と思いあたり、揃って言葉を控え、食事に戻る。

ディングレーがギュンターに視線を振る。
「で、お前んとこにその子をまた、泊める気か?」
ギュンターが気づき、唸る。
「俺の部屋は俺が部屋を出た途端、奴ら簡単に侵入して、連れ去れるからな…」

ディングレーが唸った。
「じゃ夜だけはその子を連れて、俺の続き部屋に泊まれ」

ギュンターがディングレーをつい、マジマジと見る。
「…寝室が二部屋も、あるのか?」

ディングレーは注文した焼肉を、フォークで刺して口へと運ぶ。
「…まあな。掃除するのは俺じゃないし一応王族だから、一番広い部屋が割り振られてる」

一年達は強面で威厳の塊のディングレーが『一応王族』とのたまうのに、びっくりして食べ物を喉に、詰まらせかけた。

アイリスがそっと呟く。
「私が保護しても構いませんが。
そうすれば一緒に授業にも出られるし」

がこれにはスフォルツァがムッとした。
アイリスがアスランとマレーにべったりだと、自分が張り付く隙が無くなる。

が、二人の三年生ディングレーとギュンターは、そう言ったアイリスを、マジマジと見た。

確かに、アスランやマレーよりは背も高く、華奢には見えない。
が、どう見ても女顔で、長く濃い栗色巻き毛に色白の肌は映え、濃紺の瞳に目が惹き付けられる、目鼻立ちの整った、はっ!とするほど人目を引く美少年。

「…だって夜中に襲撃されたら、あいつ(グーデン)は一挙に目指す相手を三人も拉致できるんだぞ?
幾ら大貴族宿舎でも、夜中襲撃されないと思ったら大間違いだぞ?」

一年達は、兄の行状を良く知るディングレーの心配に、思い切り顔を下げた。

ギュンターも追随し、意見を口にした。
「お前、背は確かにこいつらよりは高いかもしれないが、外出たら盗賊がヨダレ垂らして追い回し、かっさらいそうな美少年じゃないか。
鏡、見たこと無いのか?」

アイリスはつい、美形ばかりと言われるアースルーリンド国内でも目立ちまくるほど珍しい、美貌の編入生に言い返す。
「なるほど。
貴方も旅の間はさぞかし、ご苦労されたんでしょうね?」

ディングレーもついギュンターの顔を覗き込む。
「…もっと若かった頃はな。
今は逃げ足にも拳にも自信あるから、簡単に拉致されない」

そうだろうな。と、ギュンターの喧嘩っ早さがだんだん理解出来た一年達から同意のため息が、漏れまくった。

スフォルツァがアイリスに囁きかける。
「必要ならいつでも俺が、君の部屋に泊まるから」

この言葉に、一年大貴族達は一斉に首を横に振りながら吐息を吐き出し、顔を下げた。

ディングレーは「?」だったが、ギュンターがすかさず言う。
「…何だ。お前らデキてたのか?」

アイリスはぐっ。と喉を詰まらせ、皆知ってるものの口には決して出さない事柄を平気で言う、ギュンターを睨んだ。

憮然。としてグラスを持ち上げる。
「…どうしてそう、思うんです?」

きつく言われ、ギュンターがふ…と、アイリスとスフォルツァ、そしてその他の一年大貴族達を見る。

「…ああ…そいつはお前にのぼせ上がってるが、お前はまだ一人に決める気が、無いんだな?」

今度はスフォルツァがギュンターを睨み、一年大貴族はその言葉に希望が灯り、一斉に自分を選んでくれ。と言うように、アイリスに顔を向けた。

アイリスはますますムッとし、フォークの肉を上品に口に運び呟く。
「…入学したてだから、学業で忙しいとはお考えじゃないんですか?」

ギュンターは肩竦める。
「だって殆どが、乗馬と剣術じゃないか」

ディングレーがくっ。と笑う。
「お前はどっちも、余裕か?」

ギュンターはまた食べ物を口に放り込み、呻く。
「乗馬はここに来る前嫌と言うほどしたし、剣は不慣れだが、相手を思いきり睨めば何とかなる」

皆、その楽観主義に、呆れた。
が顔はともかく、グーデン配下二人を相手にし、それでも相手を殴った猛者だ。

アイリスはだが平気で言い返す。
「私は貴方じゃない。
だから恋愛沙汰だけにうつつを抜かし、ここに居られない」

が、ギュンターは鋭かった。
「あんまり相手を惚れさせて袖にするな。
顔の綺麗な男は綺麗な女より、タチが悪いからな」

アイリスは一言の元、斬って捨てる。
「貴方とは違います」

ギュンターは言い返す。
「俺はコマされるよりコマす方が好きだ。とはっきり相手に言うぞ?」

皆、優美な金髪美貌の年上の男のセリフに
『ここは食事の席なんだけどな』
と、注意してくれそうなディングレーを、チラチラと盗み見た。

アイリスはとうとう顔上げて、ギュンターを真っ直ぐ睨んだ。
「私も、好きじゃない相手には、はっきりそう言います!」

ディングレーは一年達が、望みを絶たれたように一斉に項垂れるのを、見て呆れた。

ギュンターはだが、笑って言い返す。
「グーデンにもそう、言えるのか?」

「当然でしょう!」
きっぱり言うアイリスに、思わずマレーもアスランも顔を上げて凝視した。

見つめられてアイリスは、二人が気の毒になって囁く。
「私は大公の叔父の後ろ立てがあるから、幾らでも断れる」

二人は揃って、顔を下げた。

ディングレーもアイリス同様、二人を気の毒に思って、そっと囁く。
「あいつらが思い知るまで俺が代わりに戦うから、肩落とすな」

ギュンターは微笑う。
「あんた、いい奴だな」

一年達は王族に対等な口を聞くギュンターにおぞけ、顔を下げた。
が、ディングレーは気にする様子が無い。

「それはお前もだろう?
二人が拉致されかけたら、喧嘩買う気でいる癖に」

「…まあ…売られた喧嘩はまず、買うが」

皆はそれを聞いて、顔とはかけ離れて獰猛なその言葉に、ますます深く顔を下げた。

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