若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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こんな場には嬉々として顔を出すグーデン

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 背後にいたのは、グーデンだった。
「左の王家」特有の黒髪。
身分高い者だと示すように、その髪は腰まで伸ばしていた。

が、弟ディングレーとは違い、その長く艶やかな髪にはウェーブがかかり。
更にディングレーよりかなり小柄で、剣を振ってなさそうな細い肩は、幅もあまりなく。
スマートと言えば確かにスマートで、貴公子のように洒落ては見えたし、美麗な顔立ちをしていたけど。

宮廷や王城ならともかく、猛者集う『教練キャゼ』には、全く不似合い。

何より、ブルーの瞳は美しかったが、軽薄で不遜で、自尊心の塊に見えた。

グーデンはアスランの椅子の後ろに付き、まるで自分の獲物のように、震えるアスランを見ろしている。

アイリスは眉根まゆねを寄せ、その学校一身分の高い上級生を、はすに睨めつけ囁く。
「これは…「左の王家」の御曹司おんぞうし
試合中は体のお具合でも?」

最上級生グーデンの登場で、緊張に叩きこまれた皆はだが。
ついアイリスのその返答に、ぷっ。と吹き出す。

スフォルツァはアイリスの、少しも引かない答弁に呆れた。

グーデンは明らかに、気分を害したように眉を寄せ、アイリスを睨めつけた。

アイリスの、濃い栗色巻き毛に包まれた、優しげな面立ちが今や。
少し冷笑を含んだきつい濃紺の瞳を王族の男に投げかけ、ぞくりとする艶と共に鋭さを見せる。

「…あまり調子に、乗らないほうがいい。
お前は美しいが、全く私の好みじゃない。
だからと言って、害が身に及ばない等と思い上がるな」

フィフィルースもアッサリアも青くなってアイリスを見つめ、スフォルツァはぎっ!とそう言ったグーデンに目を剥く。

が、アイリスは冷ややかに言い返した。
「…そうでしょうね。
世間もロクに知らず抵抗もままならない、か弱く純白な少年を蹂躙じゅうりんするのがお好みのようだ。

…世間ではそれを「弱い者いじめ」と言って、卑怯ひきょう者がする事と皆が了承し、恥を知る者は決してしない行為です」

皆はその侮蔑ぶべつの言葉に心底ぎょっ!としたし、グーデンは肩を揺すってアイリスに向き直り、怒鳴った。

「お前は私を!
この私を卑怯者と言ったのか?!」


四年席で悪友共に酒を立て続けにグラスに注がれていたオーガスタスは、気づき顔を上げ、ぐい。と目前の友をどける。

ディングレーは咄嗟に席から腰を浮かし、ローランデはもう、立ち上がってアイリスの元へ駆けていた。


一年大貴族達集うテーブルが、緊張の渦に叩きこまれ、誰もが口を閉ざし顔を下げる中。
アイリスはグーデンを見つめ、皮肉な微笑を湛え囁く。

「…お認めになるので?
ご自身のされている事が卑怯者のする事だと」

グーデンが咄嗟に、アイリスの頬目掛け平手を振った。

皆、目を瞑った。
が頬を張る音は聞こえない。

目を開けると、アイリスが朗らかにグーデンに笑い、言った。
「なる程!剣の試合を休まれる訳だ!
こんな至近距離なのに当たらないとは!

余程よほどお体の具合がすぐれない。
そうなんですね?」

からかうような楽しげなアイリスの笑いに、グーデンは完全に頭に血がのぼって怒鳴りつける。

「当たらないのはお前が避けるからだ!
今度避けたら、ただじゃ置かない!
今は黙って私に殴られた方が、今後のお前の為だ!

今避けるともっとひどい目に合うのを、覚悟するんだな!」

マレーはもう、顔を下げ泣き出しそうで、スフォルツァは肩を抱いて「大丈夫だ」と小声で励ました。

がマレーはそれでも必死に、隣のアスランに振り向く。
アスランは真っ青で、固まっていた。
大きな茶色の瞳を伏せ、子鹿のように震えてる。

…が、グーデンの背後から声。
「殴りかかられたら避けるのは当たり前だ。
あんた今まで避けない木偶でくしか、殴った事無いのか?」

グーデンがぎょっ!として振り向く。

自分よりうんと高い背。
金髪美貌の編入生、ギュンター。

派手で人目を引きまくる、胸まである金色の巻き毛。
面長で整いきった、優美な美貌。
その紫水晶を思わせる濁りの無い紫の瞳は、滅多に見ないほど珍しく、きらりと輝くと見る人を、どきり…!とさせる。

長身で痩せていたけど、しなやかで野生動物を思わせるほど、その動作は流麗。


赤味が勝つ、栗色の長髪巻き毛を振る、誰よりも長身で体格のいいオーガスタスは。
けど目前を防ぐ、やっと勝ち取った食事の盆を持つ生徒の背を、料理を落とさないよう気遣いながら、やんわりと押し退け、掻き分けながら進む。
ディングレーも同様、山盛り料理の乗った盆持つ、目前の生徒達を突き飛ばせず。
二人共が今だ、一年席には届かなかった。

けれど目指す場にギュンターの姿を見つけ、その素早さに二人共が、呆れた。

特にディングレーは
『あれだけがっついてて、どうして気づくんだ?』
と、グーデンの背後に立つギュンターに、我が目を疑った。

ローランデがようやく、アイリスの横に滑り込む。
しなやかな殆ど真っ直ぐな明るい栗毛に幾筋も濃い栗毛が混じる、独特の艶やかな長い髪を揺らし、澄みきった青の瞳を安心させるように、テーブルの皆に投げた。

フィンスも直ぐ後ろから姿を見せる。
ローランデよりは背が高く、がっしり体型の騎士らしい風情。
濃い真っ直ぐな栗毛にダークブルーに近い青い目の、落ち着き払ったフィンスの雰囲気に。
席で固まる一年達はその頼もしさに、皆一様いちように安堵した。

が、グーデンは背後に立つ自分よりかなり長身の、憎らしい金髪美貌の男を思い切り、睨めつけた。
「…お前も試合には、出なかったそうだな?」

ギュンターは首を竦めた。
「あんたは四年連続出てないんだろう?
俺は来年は家族に病人が出なけりゃ、出場するぞ」

が、グーデンは訳ありげに頷く。
「…が、病人は出る。
そう言う事なんだろう?」

ギュンターは呆れて、そのチャラけていけ好かない王族を見た。
一見、お洒落で高貴な、美少年には見える。
が、その笑みは歪んでいて、醜い人間性を垣間見せてた。

「自分の事は棚上げか。
いい身分だな?
…王族ってそんなにツラの皮が厚いのか?」

グーデンは、駆けつけて来るごった返す生徒の向こうの、黒髪散らす逞しいディングレーに顎をしゃくる。
「…奴は、そうだろうな!」

ギュンターも…そしてアイリスも言い返そうとした時、マレーが叫んだ。
「…アスランはもう、ギュンターのものだ!
二人はそうなったんだから!」

それを聞いた途端グーデンの眼光がギラリと光り、凄まじくギュンターを睨んだ。

が、ギュンターに全くおくする様子は無い。
「…ああ…あんたが欲しがってたのはもしかして…初物だったのか?
だが解ってないようだから言ってやるが、初めての相手にはそれは優しく丁寧ていねいに接しなきゃな!

…それが出来ないから縛り上げたのか?
みじめだな」

ギュンターはその優美な美貌で冷たく笑った。
ローランデとフィンスは呆れて、そう王族の男を挑発するギュンターを、目を見開き見つめる。


ディングレーがようやく途切れた生徒に、駆け寄ろうとするその前を。
突如とつじょ、グーデン一味平貴族のボス。
四年のダランドステに塞がれ、ニヤつくその嫌味な顔を激しく睨んだ。

縮れた茶色の髪とグレーがかった茶色の瞳。
がっしりした顎と、デカい鼻。竜のようなゴツい面構え。
長身で肩幅広く、胸は筋肉で盛り上がり、せり上がって見えた。
そのデカい体で目前をすっかり塞ぎ、行く手を阻んでる。


ギュンターは横から、グーデンの配下の男達が詰め寄るのに気づく。
グーデンは吐き捨てるように言った。
「…その顔を、二度とマトモに拝めないほど整形してやれ」

咄嗟に飛ぶ拳に、ギュンターは背を反らせ、後ろに大きく顔を泳がせ避ける。
ローランデは咄嗟、叫んだ。
「ここがどういう場か!
お分かりか!!!」

が、グーデンは黄金のグリフォンを手にする、優しげな風貌の二年貴公子に冷笑を浴びせる。
「今夜は無礼講。
そうだろう?殴り合いは単なる余興。違うか?」

ローランデが唇を噛み、グーデンは笑う。

がっっっっ!

グーデンはその音に嬉々として振り向いた。
が、殴られ吹っ飛んだのは彼の、配下の方だった。


ディングレーは二度、先に進もうとし、ダランドステは二度、その巨体を寄せてディングレーの進路を阻む。

とうとうディングレーは腹に据えかねて拳を振った。

ダランドステは顔を下げて避ける。
が突然オーガスタスが真横に付き、ディングレーに告げた。
「遊んでないで、行くぞ!」

ディングレーは異を唱えようとし、が、ダランドステは。
真横の、自分よりデカいオーガスタスに、目を見開いた。

肩は一つ分高い位置にあり、その上に乗ってる顔は、拍子抜けする程小顔で整ってる。
赤味を帯びた栗色巻き毛が肩に触れるほど近い。
こちらに顔を向け、睨めつける鳶色の瞳は、奥に獣が眠ってる様子を彷彿とさせ。
何より一瞬持ち上げられた拳は、有無を言わせずデカく見えた。

次の瞬間、どすん!と腹へ一撃、オーガスタスに重い拳を喰らい。
間髪入れず、がつん!と後ろふくらはぎを足で蹴りつけられ。
思いっきりバランスを崩して後ろにどたん!と派手な音を立てて背から転がり、床の上に仰向けた途端、湧き上がる腹の痛みで、慌てて腹に両手当て、唸った。

ディングレーはつい、自分の腕を引く学校一の大物を見た。
流石、表情も変えない。

もう一度オーガスタスに腕を引かれながら、床にまだ背を付けて腹の痛みに顔を歪め呻く、巨体ダランドステを伺い見る。

そして前を見つめ進むオーガスタスの横顔を見
「(こいつだけは敵に回すまい)」
と心に固く誓った。

オーガスタスは一年席のグーデン目指しディングレーの腕を拉致らちし引っ張り歩きながら、嫌な予感がしてチラ…!と背後に視線を送る。

四年グーデン配下の男達がダランドステのかたきを打とうと、群れて迫り、その背後から自分の悪友達が、一暴れしようと配下の男達の背に迫る。

つい、オーガスタスは群れから離れ、こちらを伺うローフィスに視線を送る。

ローフィスは腕組みし、騒ぎが騒乱そうらんに成る様相ようそうに、吐息吐いていた。
がオーガスタスの鋭い視線を受け、グーデン配下に詰め寄る仲間の、前に咄嗟、飛び出す。

これで悪友共まで暴れ出したら。
間違いなく、大乱闘。

リーラスは自分からしたら、10センチは背の低いローフィスが、目前に飛び出すの姿を見た。
明るい栗毛と感じの良い、大空を思わせる青い目。
女受け良さげな、爽やかな風体。

いつもその姿を目にすると、憎らしいと同時に『いいヤツ』だと思い知ってたから、嬉しくさえある。
がその時は。
それどころじゃなかった。

ローフィスは一瞬、リーラスの目を見て押し止める。
濃い栗毛を無造作に背に流す、態度も体もデカい、金持ちぼっちゃん。
側に居ると、その体格は迫力すら感じた。

が、中身は以外と話は分かったし、柔軟。

リーラスは悪友達の中でも扇動者だったから、リーラスさえ止まれば他も止まる。
そう思ったのに…尚も進もうとするリーラスの、引き締まりきった腹に腕を回し、体ごとどっ!と音立てて必死に抱き止めながら、ローフィスは囁く。

「…いいから、止めとけ!」

押し退ける勢いでローフィスごと前に、尚も迫り出すリーラスにローフィスは叫ぶ。

「オーガスタスに任せとけ!」

リーラスが止まり…後ろから続く悪友達も歩を止める。
「御大が、止めとけって?」
リーラス背後の悪友の声に、ローフィスはたっぷり頷く。

「暴れる別の機会をちゃんと作ってくれるから、今回は止めとけ!」
「相手がグーデンだからか?」
リーラスに凄まれ、ローフィスは呻く。
「こっそり袋叩きに出来る機会があるさ!」

皆がやれやれ。と首を横に振る。
リーラスが肩を揺すって怒鳴った。
「…だがオーガスタスに何かあったら、俺はあいつらを殴るからな!」

ローフィスは、その言葉に頷きながら言った。
「…例え数が居ようが、心配するのは敵の方だ。
医療室に行くのは間違いなく、奴らの方だからな!」

悪友達は黙り込むと、互いの顔を見、頷き合って、背を向け席に戻り始めた。
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