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王者の戦い様

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 だがローランデが、右の剣で牽制けんせいの一振りを入れ、真っ直ぐオーガスタスに突っ込んで行くのを目にした途端、講堂内は静まり返る。

オーガスタスがブン!と音を立て、左の剣を真横に振る。
ローランデは咄嗟に頭を下げて避け、が歩を止めずそのまま、突っ込んで行く。

がっ!

ローランデがオーガスタスの懐に飛び込み様、目に見えぬ早さで振った、替えたばかりの左の剣を。
オーガスタスが右の剣を真っ直ぐ上に立て、止めたのが見える。
が一瞬にしてオーガスタスの左がローランデの胴目がけ突き入れられ、ローランデは瞬間しゅんかん歩を横に滑らせ、右のぐらつく剣でオーガスタスの大きな胴を突く。

オーガスタスは右肩を後ろに捻り、咄嗟に避けた。
つばめのようにローランデは歩をそのまま滑らせ、あっと言う間にオーガスタスの、背後に回る。

がっ!

ローランデの左の剣がオーガスタスの背を真上から、ばっさり切り裂こうとするのを。
オーガスタスは思い切り体を捻り、上半身だけ振り向いて、寸でで右の剣をぶつけ止める。

がその右腕目がけ、ローランデの右の剣が飛び、オーガスタスは合わせていた剣を咄嗟とっさ後ろに引く。

間髪入れずローランデの左が、真横からオーガスタスの、胴を薙ぎ払おうと飛ぶ。

引いた右腕に握る剣を、直ぐその剣にぶつけ様、ローランデの右の剣が隙を狙い、斜め上から振り下ろされ。
体を捻り振り向いたままのオーガスタスは、咄嗟上体を屈め、くるりと身を回し避けた。

一瞬で身を捻り、体ごとローランデの真正面向く。
がもう、ローランデは歩を横に滑らせ、正面から姿を消していた。

直ぐ右脇にローランデの剣が飛び、避けるオーガスタスの、体のバランスの崩れた隙に。
ローランデのもう一本の剣が飛ぶ。

真っ直ぐ後ろ腰を狙われ、がオーガスタスは左肩を思い切り後ろに捻り握る剣を振り上げ、思いっきり叩きつけた。

がんっ!

四年席は静まりかえる。
やはり二本使いでは、風のごとく早いローランデが、圧倒的有利。
オーガスタスは大きな標的を敵にさらし、その早さに追いつけなければ、一瞬で斬られる。

ローランデこそが本領発揮ほんりょうはっきで、オーガスタスは接近する敵に足を使えず、戦いにくそうだった。

リーラスがローフィスを見る。
ローフィスは腕組んだまま、唸る。
「…ああいつものあいつなら、あんな近い間合まあいにはいられたら。
足を叩きつけ、蹴り出してる」

リーラスも大きく、頷く。
「が、二本は確かに、使えてる」

びゅっ!
一瞬引く、ローランデ目がけ。
オーガスタスが左の剣を、真横に大きく薙ぎ払う。
轟音立てる剣に流石のローランデも身を泳がせ、わずかだが後ろに、引いた。

が、続き直ぐ右の剣でローランデの胴を薙ぎ払おうと飛ぶオーガスタスの剣を、今度はローランデが、左の剣を真っ直ぐ上に立て、とどめる。

がちっ!

ぉぉおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!

オーガスタスと向かい合うと、小柄とも言えるローランデが左手一本で。
豪快なオーガスタスの豪剣を止めて見せ、皆、立ち上がって叫ぶ。

シェイルはローランデが、歯を食い縛りそれでもぐいぐい力で押され、剣ごとその身を薙ぎ払おうとするオーガスタスの剣を、じりじりと力込め、押しとどめながら。
右の剣を振り上げるのを、見た。

力比べから一瞬で剣を引いたのはオーガスタス。
がローランデは、引くオーガスタスの腕めがけて右の剣を振り下ろし、オーガスタスの左は、ローランデの胴目がけ真横に飛ぶ。

オーガスタスはローランデの剣が届く前に右腕を後ろに引き、ローランデはオーガスタスの剣が届く前にくるりと回転し、一歩後ろに避けた。

講堂の誰もが、四本のやいばが飛び交う緊迫感に包まれた、息をもつかせぬ攻防に。
息吐く間もなく見守るさ中。

ローランデは身を屈め、やはり一気にオーガスタスの懐目がけ、突っ込んで行く。

その果敢な勇姿。
流麗なクリーム色に濃い栗毛の混じる独特の髪が、宙になびく。
その青の瞳は怯む事なく、自分よりうんと大きな敵に、立ち向かって行く。

ヤッケルが、唸る。
「いつものローランデの、戦闘スタイルだが…。
相手がオーガスタスだと、普段より倍、勇敢に見えるな」

が、フィンスが掠れた声で告げる。
「間違いなく勇敢だ。
そりゃオーガスタスは足を封じられ、蹴れない。
だがあの豪速の剣が間近に襲うのを、恐れないんだぞ?」

シェイルもごくり…。と唾を飲む。
普段からオーガスタスの剣は変幻自在の、車輪のようだ。
それが…左右時間差で襲い来るのが、怖く無いはずない。


突っ込んで来るローランデ目がけ、間髪入れずオーガスタスの、高い位置から振り下ろされた左の剣が斜め上からブン!と轟音立てて振り下ろされ、ローランデは身を屈め左に滑って避けた隙に、今度はオーガスタスの、右の剣が飛ぶ。

ローランデは一瞬にして後ろにはね飛び、身を低く構え次に飛び込む、隙を伺った。

オーガスタスは威嚇するように左の剣を手首返し、その場でぶん回しながら、まるで“かかって来い”と言うように、笑みをかべ挑発する。

ローランデはチラ…と左で轟音立てて回転する剣を見、が剣を後ろに引き、挑む青の目を笑うオーガスタスに投げ、肩を引いたまま、床を蹴って無音で突っ込んで行く。

ローランデのクリーム色の長い髪が、くうに真横になびく。

待ってましたとばかり、オーガスタスは下げた剣を回し持ち上げそのままブン!と風切る音を唸らせ、ローランデの頭を豪快に真横に薙ぎ払う。

ざっっっ!!!

がローランデは身を低く落とし、素早く頭を下げながら尚も突っ込み、左の剣で真正面、オーガスタスの胴を一瞬で真横に薙ぎ払った。

オーガスタスは瞬時に身を後ろに泳がせそれを避け様、右の剣を斜め上からローランデに向かって振り下ろす。

ローランデが顔を背けるが、剣は落ち様ローランデの避ける方へスライドして行く。

皆が一瞬ぎくっ!としたが、ローランデは一瞬で身を、真下に沈めた。

両足を広げ、床すれすれに腿が付くほどなのに、直ぐローランデは体勢を立て直して前へ歩を、踏み出す。

身を低く下げたまま駆け出すローランデの姿は、ふわっと風のような残像を残し、流麗な曲線を描き頭を左右に揺らし二度、殺気を飛ばす。
が、オーガスタスは微笑ったまま待ち構える。

まるでローランデの流れる動作は人間の動きと言うより風のようで、皆見入る。
が、オーガスタスはそれに怯むどころか気配のほとんど無い風相手に、楽しんでるようにすら、見えた。

「………………」
フィンスは前のめりの身を起こし、腕組む。

ヤッケルが代わりに顔を寄せ、呻く。
「オーガスタスに、殺気飛ばしのハッタリは効かないな」

「…『いちいち付き合ってられるか』
そんな笑みだ」

シェイルはつい、拳を握り口元に持って行く。

ヤッケルはその姿をチラ見して
『危ない彼氏を心配する、可愛い子ちゃんみたいだ』
と思った。
が、そんな事言おうものならシェイルは自分が女の子みたいだと恥じて、途端一生懸命、男らしくしようとする。
そう、判ってたから口を閉ざす。

他のヤツがやれば不気味だ。
が、シェイルは女の子のような仕草をしようが、それは可愛かった。

シェイルは天然でとても可憐で、けどそれを人に指摘されると途端意識し、凄く自分を恥じる。
教練キャゼ』は男ばかりで殺伐さつばつとしてたから、自然体で間違いなく可愛らしく綺麗なシェイルは、目の保養で。
こぞって注目を浴びるのも無理無かった。

が、それがシェイルを萎縮いしゅくさせる大きな要因だった。

ヤッケルが吐息吐くと、フィンスが気づき、チラ…と、ローランデをはらはらして見つめる、真摯しんしで可憐なシェイルの姿に、くすり…と笑みを漏らす。

以前ヤッケルに
『作るで無く自然体で、もうすっごく、可愛いヤツもいるんだな』
と感心したように言われ、思い切り無言で同意した。

その時のシェイルは我を忘れ素が出て、フィンスも納得する可愛らしさだった。

少し自信無さげで不安そうに何かを見つめている様子は、間違いなくはぐれた小鳥のようで。
誰が見ても大切に守りたくなるような、そんな愛らしさとはかなささを持っていた。

しかもそれが、銀髪の整いきった妖精のような、華奢きゃしゃな美少年なら、なおさら。

だがシェイルが素を遠慮えんりょ無く見せるのは、義兄ローフィスだけ。
素だと気づくと、途端一生懸命気の強そうなふりをして、自分を押し隠してしまう。

がっっっっ!

視線を戻すと、車輪のような豪快なオーガスタスの剣を。
やはり自らの剣を回し弾きながら、ローランデが突っ込んで行く。

どれだけ激しいオーガスタスの剣を避け、間合いから引かされても。
幾度でもローランデは、オーガスタスの間合いに突っ込んで行く。

真っ赤に燃えたような赤毛を散らし、オーガスタスが身を低く構え右を思い切り、突っ込むローランデ目がけ振るが、横に滑るその剣をローランデはもっと低く身を屈め避ける。

髪が靡きローランデの挑むくっきりと浮かび上がる青の瞳が、ゾクリと皆の心に刻み込まれる。

瞬時に間合いに、飛び込んだ瞬間オーガスタスはもう、右足を軸に一歩大きく後ろに引き、開けた胸から一気にその左を、飛び込んで来るローランデ目掛け振る。

びゅっっっっ!

真横から飛び込む車輪を、ローランデはチッと舌を鳴らし左の剣をぶつけ止め様、身を屈めオーガスタスの右の剣が、縦から振り下ろされるのに一瞬歩を止めやり過ごし、一気にぐらつく右で、斬りかかった。

剣を振り下ろした瞬間うかがい見えた、肩をすかすオーガスタスの笑みがこう、物語ってた。

『俺にぐらぐらの剣をぶつけて試合終了?
それで観客が納得するか?』

不敵ふてき微笑びしょう
が、オーガスタスがすると。

チャーミングで小粋こいきにすら見え、憎めなかった。
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