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黄金のグリフォン(金鷲獅子)を目指し、ローランデと対戦するスフォルツァ

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 その紋章は獅子に翼が付いていた。
だから通称“鷲獅子グリフォン”と呼ばれていた。

誰もが欲しくて、だがたった一人にしか、与えられない紋章。

          
「一学年代表スフォルツァ!」
その講師の叫びが鋭く自分に向けられた途端、スフォルツァは引き締まった表情ですっ!と立ち上がる。

アイリスはスフォルツァの様子を伺った。
覚悟を決めた男とはこれほど…格好いいのか。

アイリスはそんなスフォルツァが、心からほこらしかった。
学校中の生徒の、視線をびてもひるむ様子無く跳ね返し、堂たる態度を崩さず中央に進み行く。

その肝の据わった剣士の様子に、上級生達は見入られる。

去年のローランデはもっと、自然だった。
あんな…小柄とも言える体格でしかも優しげな風貌。

確かにりんとした強さはあった。
が今年のスフォルツァの方が余程よほど、強そうに見えた。

「二学年代表、ローランデ!」

もう…誰も彼が試合場中央に進み出ても、意外と思う者はいない。

どころか、まるで緊張を感じさせない自然なたたずまいに、逆に猛者達が顔を、引き締める。

フィンスもシェイルもヤッケルも。
まるでそこらに出向くように何気なく、試合中央に足を運ぶローランデに、感嘆した。

“いつでも戦う準備は整ってる”

彼の様子はそんな風に、見えた。

ローランデが微笑してスフォルツァの向かいに、立つ。

スフォルツァは剣を下げたまま、その一見優しげな気品の塊の、貴公子を見つめた。

やはり彼は、静かだった。
相対してみると、目前の彼からは静かな湖畔の、そよ風に湖水をさざめかせる光景が広がり見える気がする。

まるで自然の中に居るようだ。
ここは確かに…試合場なのに。

ローランデの青の瞳は澄みきっていて、つい魅入られ見惚れる。
さらり…。
と、濃い栗毛と明るい栗毛が交互に混じる艶やかな髪が肩を滑り、ローランデが下げた剣を横に動かしたのだと気づく。

スフォルツァはごくり…。と唾を飲む。
講師が叫ぶ。
「始め!」

その声と同時に、剣を下げ突っ込んで行った。
弾かれたように。
無意識に。

がローランデが間近に迫り彼がその歩をたったの一歩、横へ滑らせただけで、斬り込む隙が消えた事にスフォルツァは気づく。

が、まるで目前のローランデで無く…怖じける自分と戦うように、スフォルツァは真っ直ぐ突っ込んで行った。

がんっ!
ローランデが剣を、振り上げたかと思うと真正面で止められる。
振り上げる動作があまりに自然で、手に伝う振動が信じられなかった。

いつもなら…。
がいつもが通用する相手じゃない。
間違いなく一度も、対戦した事の無い相手だった。

直ぐ剣を下げ、もう一度斬りかかる。
突然、ふっ…。とローランデの姿が正面から消える。

ぎょっとした。滑るように横にずれるローランデの残像。

瞬間、スフォルツァは横に振り向く。
襲いかかる剣に寸でで、剣をぶつけ止めた。

がっ…!

振動が手を伝う間無く剣を引かれ、もう…ローランデの姿は消えていた。

スフォルツァは自分が、心許こころもとない子供になったうえ
迷子のように狼狽うろたえてるのに気づく。
そして同時にそんな自分を叱咤しったする。

“しっかりしろ!
見えるはずだ必ず!
俺はダテに鍛錬を積んだ訳じゃない!!!"

がっ!
左横から降って来る殺気に、剣を必死で合わせ、止める。
その一瞬ローランデの青の瞳が視界に飛び込む。

その時ようやくスフォルツァは、理解した。

“これは試合じゃない………”

生死を賭けた戦い。

ズン…と手に痺れが走り、がスフォルツァはそれを悟った途端すぐ、次に襲い来るローランデの剣に反応していた。

剣を持ち上げる。が、襲いかかる剣先は泳ぐ。
軌道を…変えている!

咄嗟スフォルツァは変えられた軌道に、決死で剣をぶつけた。
変に腕を捻り、重なる剣の衝撃で二の腕に痛みが走る。

だが剣はもう外され、突然軽くなって二度にたび重い剣を受け止めた筋肉に、痛みが走る。

が視線は、消えたローランデを必死に追う。

オーガスタスは腕組みした。
ローフィスがそっと、オーガスタスの表情を伺う。

リーラスが真剣な表情でつぶやく。
「…良く、やってる。一年にしては」
ローフィスが中央二人を手で示し、肩竦める。
「ローランデは手加減してるがな」

オーガスタスはつぶやく。
「あの一年は負けん気が強い。
代表に相応しいうつわだ」

ローフィスとリーラスに振り向かれ、オーガスタスは視線を中央で戦う二人に向けたまま、呟く。
「…ずっと怖い。
竦み上がる自分をふるい立たせるだけで精一杯。
が良く、反応してる」

“反撃出来なきゃ、負けるがな”
言いたかった。
がローフィスはその言葉を、飲み込んだ。

スフォルツァの瞳に、殺気がよぎるのを見つけて。

今、試合中央の様子は緊迫がみなぎっていた。
スフォルツァは身を低く構え、飛び来る剣を咄嗟に剣をぶつけ止める。

見ている側からローランデはまるで…風がそよぐようにスフォルツァの周囲で、身を躍らせていた。

一方スフォルツァは足がある事を、忘れたようにその場から、全く動かない。

アスランは横にいるマレーの腕を、そっ…と掴む。
「…どうして…スフォルツァは動かないんだろう?」
マレーは言い淀む。
横に座る講師が二人に振り向き、返答した。

「動けないんだ。
迂闊うかつに動けば隙を作り、ローランデに一撃で勝敗をけっされてしまうから…」

アスランが講師に振り向いたし、マレーもだった。
視線をスフォルツァに戻す。

スフォルツァは全身の毛が逆立つような、怒気とも言える殺気をまとっていた。
一年の、上級に見せる遠慮など一切無い。
身を低く構えたまま、がっ!と剣を突き出す。

ローランデは風が泳ぐように足音も無く、一瞬で突き入れようとした、剣を引く。

またスフォルツァが剣を突き出す。
が、今度は…カン!と。
ローランデが咄嗟に振り入れた、剣を弾く。

実際…ローランデは剣を構えてる様子は無かった。
何気無く剣を持ち足を泳ぐように滑らせ、肩を入れて身を、返したと思った瞬間。
スフォルツァに向かって剣を弾き飛ばし…弾き返されると直ぐ引いてまた足を滑らせる。

スフォルツァの姿はくっきりと浮かび上がるのに。
ローランデはまるで…人間の気配を見せず。
スフォルツァの周囲を、彼を殺す風が、渦巻いているようだった。

「…こんな…こんな事って…………」

アスランが言い、マレーもごくっ。と唾を、飲み込んだ。

さらり…。とローランデの、わずか毛先に癖のある、真っ直ぐで柔らかな栗色の長い髪が、彼の肩を背を動くたび滑り。
残像として艶ときらめきをともなって、視界に残る。

…その端 正な白面しろおもては微塵の感情無く、その青の瞳だけが攻撃対象をとらえ、スフォルツァがわずかに動く度一瞬見える隙に、間髪かんぱつ入れず襲いかかって行く。

幾度も剣を泳がせ、フェイントを掛けながら。

アイリスの剣も舞踏のようだった。
アイリスははっきりそれを舞踏に見せて、相手の度肝どぎもを抜いた。
明らかにあれは相手の油断を誘う手段だったが、ローランデの足運びは…。

シェイルはやっぱり真剣なローランデに見惚れている自分に気づく。
気配が、ほとんど無い。

あれ程優美で戦いにくい相手は、いない…。
チラ…と、集中力を増すスフォルツァに視線を向けるが、直ぐローランデに戻す。
一瞬剣を軽く持ち上げたかと思うと、一気にスフォルツァへ向かい、見えない早さで剣を繰り出し、弾かれ引くローランデに魅入られる。

ローランデの口元にはわずかに微笑が、浮かんでいた。

「…頑張るな」
ヤッケルが吐息混じりに囁く。

フィンスが肩竦めてスフォルツァに手を、差し出し示す。
「体格が追いつけば、相当な手練てだれれに育つだろうな」

ヤッケルがそう言うフィンスを見つめる。
フィンスは見つめられて言葉を続けた。

「プライドが、それは高い。
がそれに見合う剣の腕も持ってる。
鍛錬も真剣に、やって来てる」

シェイルはつい…小声でつぶやいた。
「それでも…ローランデは圧倒的だ」

ヤッケルも…フィンスもが、ローランデの強さを思い知っていたから…。

同時にこくん。と、頷いた。
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