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ギュンターの緊急帰郷
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ローフィスが中央に残る、オーガスタスに寄って行く。
その手に下げた剣を見つめ、吐息を吐いた。
「せめて学校備品の剣に替えるか?
…どうせリーラスの力自慢の剣をマトモに受けて、もうとっくにぐらぐらなんだろう?」
ディングレーがローフィスの背後に付き、そっと囁く。
「俺の取り巻きが剣を持ってる。
ローフィスに使わせたかったが…」
が、オーガスタスは三年の王族に微笑った。
「…どうせお前もその剣を、使わないんだろう?」
ディングレーが顔を上げ、赤毛で長身の学校のボスを見つめる。
そしてそっと、口を開いた。
「俺が二年のローランデに勝って、あんたとどっちが先に剣が折れるか、力自慢しよう。と言えたらいいんだが」
が、オーガスタスはディングレーの横に来ると、ぽん。と肩を叩く。
ディングレーは通り過ぎるオーガスタスを見ず、叩かれた肩を見つめた。
それはまるで
“解ってる。気にするな”
そんな確かな、暖か味だった。
つい…後ろを振り返る。
オーガスタスの逞しい、大きな背。
不思議だった。
肉親の筈の兄、グーデンとは、会話したって言葉が通じた試しが無いのに…。
オーガスタスはまるっきり他人なのに…言葉が要らない。
そんな…事もあるんだと、ローフィスを見る。
がローフィスはそれを不思議がるディングレーを、目を見開き見つめる。
“オーガスタスなんだ。当然だろう?"
ローフィスは無言でそう…言っていた。
無言で気持ちが通じ合う男達。
ディングレーはローフィスとオーガスタスの仲が、心から羨ましくて、思わず顔を下げた。
自分の言葉が不器用だ。と…周囲は皆気を回してこっちの感情を、読み取ろうとしてくれている。
…けどオーガスタスからはそんな気遣いは感じられない。
いつも道理の…彼の自然なスタイル。
そんな風に見えた。
そしてそれはいつも…素っ気無いがとても…暖かかった。
アイリスは四年の試合が終わり一気にその表情を引き締める、スフォルツァの横顔を見た。
自分の名が呼ばれるのは直だと…。
スフォルツァの表情はそう…語っていた。
だが場内はざわざわと不在の男の名を囁く。
「…結局、ギュンターは姿を見せないな」
「どこにバックレたんだ?」
「去年のディアヴォロスですら。
ギリギリで間に合ったのに」
「ディングレーとの、対決無しか」
「まあここで見られなくても。
合同授業で実力は拝めるが」
だがその頃、ギュンターは故郷にいた。
時間は少し、遡る。
学年無差別剣の練習試合の前日夜。
ギュンターはディングレーから受け取った薬草を革袋にしまい、ひたすら馬で駆けていた。
解熱しなければならないとしたら、現在高熱。
長引けば生死にかかわる。
『教練』は中央王城より東寄りにあったから、その分故郷より遠くなる。
王城の延々と続く石壁の周囲ぐるりを一足飛びで駆け抜け、そのままシュテインザインへ続く公道に入るのに、夜半を費やした。
夜明け頃、やっとシュテインザインに入る。
入って直ぐの宿屋に駆け込むと、馬を取り替えた。
乗ってきた馬を預かって貰い、世話を頼み、帰りに受け取る算段を付ける。
金を払うとギュンターは果実酒の瓶を受け取り、直ぐ手配してくれた馬に飛び乗ると、革袋を鞍に括り付け、一気に拍車かけて最速でかっ飛んだ。
果実酒を朝食代わりに、瓶をラッパ飲みしながら、速度を落とさず駆け続ける。
間もなくシュテインザインの中央官舎が見えて来る。
が、故郷はこれより南に向けての辺境に位置する。
アースルーリンドの周囲を取り巻く、巨大な崖すれすれ。
故に盗賊が崖を登り来て侵入した際、真っ先に洗礼を受ける、過酷な土地柄だった。
崖の近くだけあって、なだらかな丘と谷底が交互に入り組んだ、それでも緑多い土地で、高い位置の小高い崖には、温泉も湧いていた。
少し行けば川もあり、小さな滝もある。
恵まれた自然。
丘陵地だったから、柑橘類が多く採れた。
思い浮かべ目指すものの、まだ広い公道を南に進むだけ。
やがて二股に分かれた道を右に曲がると、どんどん起伏を増し、丘を登ると谷に下り、また丘を登るを繰り返す。
朝日を浴びて目前に広がる湖の横を駆け、そしてようやく…。
砂利と石ころだらけの地を抜けて、その上の細い道へと入った。
周囲はなだらかな丘と草原。
この延々続く坂を上がった先にようやく、領地の門が見えた。
早朝だったから、坂を駆け上がって行くと、道の左右に広がる果樹園で野良仕事に従事する村人達の、視線を一斉に集める。
あちこちでひそひそ声が聞こえるが、大抵は領主の三男坊が青年に成って背が高く見目も良く、食べ頃であっちの方を確かめたい女性達の、品定めの声が殆ど。
ひそひそ、くすくす。と耳に飛び込み、居心地は最悪で。
ギュンターは、坂に足の重くなる馬に拍車かけ、急かす。
村娘。と言っても、美女は大変もてはやされていたから、相手が領主の息子だって、怖じけたりはしない。
ギュンターは思わず、深く顔を下げる。
村のとびきり美女の、色香を含んだ強烈な視線を感じて。
が喜んで誘われるまま彼女と関係を持ち、万一駄目出しなんてされたら。
領地の女性達はその後、一斉に引く。
見目だけいい役立たず。の烙印を押され、もうこの土地では、例え領主の息子だろうが。
嫁の来手は無い。
それ位男にとって厳しい土地だったから、彼女に挑むのは余程、経験を積んだ自信のある男だけ。
訳知り顔の、男達の視線も感じる。
ヘタに顔が良くて目立ち、更に領主の息子だったりすると。
万が一女性の判定が悪いとそこら中に一気に知れ渡り、どこへ行ってもさらし者で笑い者にされる。
男達は時には女達から“役立たず”扱いされる男達に、同情的だったから、年若い自分が迂闊に寄って来る女の誘惑に乗り、無体晒す馬鹿をしないよう、その視線で諫めていた。
男達は皆、体格良く、言葉も態度もぶっきらぼうで乱暴者ばかりだった。
が、女達を相手どって男同士の団結力はそれは強かったから、『教練』で顔を潰す目的で寄って来る男なんて、ギュンターには想像もつかなかった。
…グーデン配下の男達に、会うまでは。
が、女達は厳選し自分に合った男を見つけると、後はその男だけ。
それまでどれ程多くの男と関係を持とうが、“たった一人”を見つけると家庭に落ち着く。
そして男はその“たった一人”に選ばれ嫁を貰うと、どれだけでも内助の功を、期待できた。
女はいったん家庭に入るとひたすら男に。
そして家庭に尽くし、男は脇目も振らず浮気も殆どせず、妻と子供を大切に護る。
…そんな訳で強い結びつきのしっかりとした家庭が出来上がるから、年若い男達は女達のたった一人に選ばれる為、それは必死で寝技を磨く。
女を満足させられない男は、そこで既に“男”では無く、この土地で嫁を貰う事は、諦めねばならなかった。
だが今は薬草を待つ病人の為、一刻を争う。
女達の、情欲こもる好奇溢れる視線と。
男達の同情に満ちた視線を、顔を下げてやり過ごし、丘をどんどん上がって行くとようやく、小さく素朴で地味な、石造りの城が見えて来る。
巨石で出来た塀は、ずいぶんと立派に見える。
がいったん門の中に入ると、鶏や山羊がそこら中を我が物顔で走り回っている、田舎風情。
馬から下り、革袋から薬草を取り出し、走り来るギュンターの姿を見、年の近い弟(四男)が叫ぶ。
「左の尾根!」
ギュンターは頷くと、玄関に飛び込みざま正面に見える、巨大な石作りの中央階段を駆け上がって、左へと走った。
途中、女中にぶつかりそうになりながら。
「お帰りになったん…あら!」
「悪い!
病人は奥か?」
振り返り叫ぶと、よろけた女中は頷く。
「奥手前の、客用寝室です!」
ギュンターはそのまま駆けて行く。
右の尾根は主に、父である領主とその家族が。
左の尾根には、父の弟達家族。
ギュンターにとっては、叔父達とその家族がそこに住んでいる。
…つまり、叔父の家族の誰かだ。病人は。
広間の戸が開いていて、ギュンターの姿を見つけ、一人の叔父が叫んだ。
「ギュンターが帰った!
薬草が、届いたぞ!!!」
その叫びと共にわらわらと男達が広間から、姿を現す。
一人が手を、差し出すから。
ギュンターは薬師をしてるその叔父に、薬草を手渡した。
数名が薬師の叔父の後に続き、ギュンターは乱暴に肩を掴まれる。
「入って、休め。
茶ぐらいなら直ぐ入る。
朝食はまだか?」
ギュンターは項垂れながら、言い返す。
「朝どころか夕食すら、食べてない」
叔父は頷き、窓辺の椅子にギュンターを、座らせる。
見ると皆広間で夜明かししたのか。
叔父やいとこらが、寝椅子で毛布にくるまり、目を擦っていた。
直いとこの一人、年若い少女が温かいお茶と、芋の蒸かしたものを盆に乗せて持って来る。
皮付きの素材そのまま。で塩が振ってあるだけ。
ギュンターはその素朴さに暫し凝視し、思い出した。
ここでは、加工して洒落た物を作ろう。
などと言う発想が、まるで無かった事を。
食べ物がある。
それだけで、大した事だったから。
その少女は暫し、蒸かし立ての芋に喰らいつくギュンターを横で、じっ…と見ている。
こんな年若い少女にさえ、品定めされてる。
とギュンターは突然気づき、ぐっ…と芋を喉に、詰まらせそうになる。
がここで食べて置かないと、次にいつ食い物にありつけるか解らない。
陽が昇り始めた早朝。
計算出来た。
多分今ここをすぐ発っても、『教練』に戻れるのは早くても夕方。
…教練中が沸き立つ、学年無差別兼の練習試合。
は多分、終わってるだろう………。
芋を飲み込み、茶のカップに手をかけると、少女はまだ、横にいる。
「…凄く、モテる?
よその土地だと」
ギュンターは茶を飲みながら無言で頷く。
「…そう。
ここでもそうだと、いいわね」
ギュンターはそれを聞き少女を見た。
が、彼女はやっぱり好奇心満々で自分を見てるのに気づき、ギュンターは深く、顔を下げた。
その手に下げた剣を見つめ、吐息を吐いた。
「せめて学校備品の剣に替えるか?
…どうせリーラスの力自慢の剣をマトモに受けて、もうとっくにぐらぐらなんだろう?」
ディングレーがローフィスの背後に付き、そっと囁く。
「俺の取り巻きが剣を持ってる。
ローフィスに使わせたかったが…」
が、オーガスタスは三年の王族に微笑った。
「…どうせお前もその剣を、使わないんだろう?」
ディングレーが顔を上げ、赤毛で長身の学校のボスを見つめる。
そしてそっと、口を開いた。
「俺が二年のローランデに勝って、あんたとどっちが先に剣が折れるか、力自慢しよう。と言えたらいいんだが」
が、オーガスタスはディングレーの横に来ると、ぽん。と肩を叩く。
ディングレーは通り過ぎるオーガスタスを見ず、叩かれた肩を見つめた。
それはまるで
“解ってる。気にするな”
そんな確かな、暖か味だった。
つい…後ろを振り返る。
オーガスタスの逞しい、大きな背。
不思議だった。
肉親の筈の兄、グーデンとは、会話したって言葉が通じた試しが無いのに…。
オーガスタスはまるっきり他人なのに…言葉が要らない。
そんな…事もあるんだと、ローフィスを見る。
がローフィスはそれを不思議がるディングレーを、目を見開き見つめる。
“オーガスタスなんだ。当然だろう?"
ローフィスは無言でそう…言っていた。
無言で気持ちが通じ合う男達。
ディングレーはローフィスとオーガスタスの仲が、心から羨ましくて、思わず顔を下げた。
自分の言葉が不器用だ。と…周囲は皆気を回してこっちの感情を、読み取ろうとしてくれている。
…けどオーガスタスからはそんな気遣いは感じられない。
いつも道理の…彼の自然なスタイル。
そんな風に見えた。
そしてそれはいつも…素っ気無いがとても…暖かかった。
アイリスは四年の試合が終わり一気にその表情を引き締める、スフォルツァの横顔を見た。
自分の名が呼ばれるのは直だと…。
スフォルツァの表情はそう…語っていた。
だが場内はざわざわと不在の男の名を囁く。
「…結局、ギュンターは姿を見せないな」
「どこにバックレたんだ?」
「去年のディアヴォロスですら。
ギリギリで間に合ったのに」
「ディングレーとの、対決無しか」
「まあここで見られなくても。
合同授業で実力は拝めるが」
だがその頃、ギュンターは故郷にいた。
時間は少し、遡る。
学年無差別剣の練習試合の前日夜。
ギュンターはディングレーから受け取った薬草を革袋にしまい、ひたすら馬で駆けていた。
解熱しなければならないとしたら、現在高熱。
長引けば生死にかかわる。
『教練』は中央王城より東寄りにあったから、その分故郷より遠くなる。
王城の延々と続く石壁の周囲ぐるりを一足飛びで駆け抜け、そのままシュテインザインへ続く公道に入るのに、夜半を費やした。
夜明け頃、やっとシュテインザインに入る。
入って直ぐの宿屋に駆け込むと、馬を取り替えた。
乗ってきた馬を預かって貰い、世話を頼み、帰りに受け取る算段を付ける。
金を払うとギュンターは果実酒の瓶を受け取り、直ぐ手配してくれた馬に飛び乗ると、革袋を鞍に括り付け、一気に拍車かけて最速でかっ飛んだ。
果実酒を朝食代わりに、瓶をラッパ飲みしながら、速度を落とさず駆け続ける。
間もなくシュテインザインの中央官舎が見えて来る。
が、故郷はこれより南に向けての辺境に位置する。
アースルーリンドの周囲を取り巻く、巨大な崖すれすれ。
故に盗賊が崖を登り来て侵入した際、真っ先に洗礼を受ける、過酷な土地柄だった。
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少し行けば川もあり、小さな滝もある。
恵まれた自然。
丘陵地だったから、柑橘類が多く採れた。
思い浮かべ目指すものの、まだ広い公道を南に進むだけ。
やがて二股に分かれた道を右に曲がると、どんどん起伏を増し、丘を登ると谷に下り、また丘を登るを繰り返す。
朝日を浴びて目前に広がる湖の横を駆け、そしてようやく…。
砂利と石ころだらけの地を抜けて、その上の細い道へと入った。
周囲はなだらかな丘と草原。
この延々続く坂を上がった先にようやく、領地の門が見えた。
早朝だったから、坂を駆け上がって行くと、道の左右に広がる果樹園で野良仕事に従事する村人達の、視線を一斉に集める。
あちこちでひそひそ声が聞こえるが、大抵は領主の三男坊が青年に成って背が高く見目も良く、食べ頃であっちの方を確かめたい女性達の、品定めの声が殆ど。
ひそひそ、くすくす。と耳に飛び込み、居心地は最悪で。
ギュンターは、坂に足の重くなる馬に拍車かけ、急かす。
村娘。と言っても、美女は大変もてはやされていたから、相手が領主の息子だって、怖じけたりはしない。
ギュンターは思わず、深く顔を下げる。
村のとびきり美女の、色香を含んだ強烈な視線を感じて。
が喜んで誘われるまま彼女と関係を持ち、万一駄目出しなんてされたら。
領地の女性達はその後、一斉に引く。
見目だけいい役立たず。の烙印を押され、もうこの土地では、例え領主の息子だろうが。
嫁の来手は無い。
それ位男にとって厳しい土地だったから、彼女に挑むのは余程、経験を積んだ自信のある男だけ。
訳知り顔の、男達の視線も感じる。
ヘタに顔が良くて目立ち、更に領主の息子だったりすると。
万が一女性の判定が悪いとそこら中に一気に知れ渡り、どこへ行ってもさらし者で笑い者にされる。
男達は時には女達から“役立たず”扱いされる男達に、同情的だったから、年若い自分が迂闊に寄って来る女の誘惑に乗り、無体晒す馬鹿をしないよう、その視線で諫めていた。
男達は皆、体格良く、言葉も態度もぶっきらぼうで乱暴者ばかりだった。
が、女達を相手どって男同士の団結力はそれは強かったから、『教練』で顔を潰す目的で寄って来る男なんて、ギュンターには想像もつかなかった。
…グーデン配下の男達に、会うまでは。
が、女達は厳選し自分に合った男を見つけると、後はその男だけ。
それまでどれ程多くの男と関係を持とうが、“たった一人”を見つけると家庭に落ち着く。
そして男はその“たった一人”に選ばれ嫁を貰うと、どれだけでも内助の功を、期待できた。
女はいったん家庭に入るとひたすら男に。
そして家庭に尽くし、男は脇目も振らず浮気も殆どせず、妻と子供を大切に護る。
…そんな訳で強い結びつきのしっかりとした家庭が出来上がるから、年若い男達は女達のたった一人に選ばれる為、それは必死で寝技を磨く。
女を満足させられない男は、そこで既に“男”では無く、この土地で嫁を貰う事は、諦めねばならなかった。
だが今は薬草を待つ病人の為、一刻を争う。
女達の、情欲こもる好奇溢れる視線と。
男達の同情に満ちた視線を、顔を下げてやり過ごし、丘をどんどん上がって行くとようやく、小さく素朴で地味な、石造りの城が見えて来る。
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がいったん門の中に入ると、鶏や山羊がそこら中を我が物顔で走り回っている、田舎風情。
馬から下り、革袋から薬草を取り出し、走り来るギュンターの姿を見、年の近い弟(四男)が叫ぶ。
「左の尾根!」
ギュンターは頷くと、玄関に飛び込みざま正面に見える、巨大な石作りの中央階段を駆け上がって、左へと走った。
途中、女中にぶつかりそうになりながら。
「お帰りになったん…あら!」
「悪い!
病人は奥か?」
振り返り叫ぶと、よろけた女中は頷く。
「奥手前の、客用寝室です!」
ギュンターはそのまま駆けて行く。
右の尾根は主に、父である領主とその家族が。
左の尾根には、父の弟達家族。
ギュンターにとっては、叔父達とその家族がそこに住んでいる。
…つまり、叔父の家族の誰かだ。病人は。
広間の戸が開いていて、ギュンターの姿を見つけ、一人の叔父が叫んだ。
「ギュンターが帰った!
薬草が、届いたぞ!!!」
その叫びと共にわらわらと男達が広間から、姿を現す。
一人が手を、差し出すから。
ギュンターは薬師をしてるその叔父に、薬草を手渡した。
数名が薬師の叔父の後に続き、ギュンターは乱暴に肩を掴まれる。
「入って、休め。
茶ぐらいなら直ぐ入る。
朝食はまだか?」
ギュンターは項垂れながら、言い返す。
「朝どころか夕食すら、食べてない」
叔父は頷き、窓辺の椅子にギュンターを、座らせる。
見ると皆広間で夜明かししたのか。
叔父やいとこらが、寝椅子で毛布にくるまり、目を擦っていた。
直いとこの一人、年若い少女が温かいお茶と、芋の蒸かしたものを盆に乗せて持って来る。
皮付きの素材そのまま。で塩が振ってあるだけ。
ギュンターはその素朴さに暫し凝視し、思い出した。
ここでは、加工して洒落た物を作ろう。
などと言う発想が、まるで無かった事を。
食べ物がある。
それだけで、大した事だったから。
その少女は暫し、蒸かし立ての芋に喰らいつくギュンターを横で、じっ…と見ている。
こんな年若い少女にさえ、品定めされてる。
とギュンターは突然気づき、ぐっ…と芋を喉に、詰まらせそうになる。
がここで食べて置かないと、次にいつ食い物にありつけるか解らない。
陽が昇り始めた早朝。
計算出来た。
多分今ここをすぐ発っても、『教練』に戻れるのは早くても夕方。
…教練中が沸き立つ、学年無差別兼の練習試合。
は多分、終わってるだろう………。
芋を飲み込み、茶のカップに手をかけると、少女はまだ、横にいる。
「…凄く、モテる?
よその土地だと」
ギュンターは茶を飲みながら無言で頷く。
「…そう。
ここでもそうだと、いいわね」
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