若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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やっぱりうるさい四年 決勝戦

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 生徒が少しずつ、中央試合に視線を戻し始める。
リーラスの相手がオーガスタスにすり替わり、豪快な剣を、振っていた。

流石にリーラス相手には、オーガスタスは避けきれずに剣を振る。
激しい剣の打ち合う音が講堂中に響き渡る。

リーラスの鋭い突きをオーガスタスは剣を振り回し弾き、ぶん!とまた剣を振り回しリーラスを近寄らせまいとする。
が、リーラスは咄嗟に横に飛び、また剣を振り入れた。

がっ!

オーガスタスが剣を振り入れ止める。
がその腕も足も、時折激しい攻防のさ中、ぴく…!ぴくと動くのを、ディングレーは見逃さなかった。

「…相変わらず、試合では手足が使えなくて窮屈そうだな」
ドロッティもディングレーの意見に、顔を上げる。
ローフィスが唸った。
「普段ならとっくにあの辺で足がけして、相手を転ばせてるからな」

ドロッティも、ローフィスの言葉に同意して頷く。
「すれ違いざま背中をつかんで放り投げる。
ってのもあったな…」

リーラスとすれ違いざま、オーガスタスの左手がその背を掴もうとして、はっとしたように外側に泳ぐのを、三人は見た。

「リーラスは嬉々としてるぜ…!
オーガスタスが反則出来ないのを、知ってるからな!」
ドロッティが怒鳴るのを、ローフィスもディングレーも見た。

「まだあいつに、怒ってるのか?」
ローフィスがリーラスを顎で差す。
ディングレーも囁く。
「彼は悪くないだろう?だって」

ドロッティはローフィスとディングレーを見、目を見開く。
「…あれだけの男と関係してんのに、唯一あいつだけ名が上がるんだ!
やっかみたくもなるさ!!!」

ディングレーも
『だがそんなとこで名が上がったって全然嬉しくないと思う』
と言いたかったし、
ローフィスも
『名を上げられなくて良かったと、思えないのか?』
と付け足したかったが、どちらも意見を我慢した。

恋に狂った男に意見しても無駄だと、二人ともが知っていたので。

だが、次に遠慮無く飛んで来るリーラスの剣をオーガスタスはがっ!と受け止めると、ちっ。と舌を鳴らす。

リーラスは舌なめずって肩揺すりそのまま、突っ込んで剣をぶん回した。
オーガスタスはひょい。と横に避け、続き振り回すリーラスの剣を、頭下げて避ける。

リーラスが二度もスカされて、かっか来て怒鳴る。
「いつまでも剣を温存出来ると、思うなよ!
三年王族の二の舞させてやる!」

三年のディングレーの取り巻き達はデルアンダーを一斉に見たし、ディングレーはローフィスの横で、顔を下げて深い吐息を吐き出した。

「温存出来ないほど、俺を追い詰めてみろ!」
言ってオーガスタスは剣を下げて腰を低く構える。

「てめぇ!
剣振る気が全然無い構えすんじゃねぇ!
戦意が削がれるだろう!」

言って、肩口に剣を引き上げ、豪快にオーガスタス目がけて振り下ろす。
がやっぱりオーガスタスは、首を横に振ってひょい!と避ける。
リーラスはますますかっか来て、今度は剣を下で構え真っ直ぐオーガスタスの腹目がけて、突っ込んで行った。

腹を突き刺す勢いの剣を。
だがオーガスタスはやっぱり、微笑って紙一重で横に飛んで避け、いきなり通り過ぎるリーラスの背目がけて剣を、思い切り振る。

「!」
避けざま咄嗟に背後に回るその大柄な男の素早い剣に、リーラスは身を屈めそのまま床に、転がり避ける。

オーガスタスの射程から転がり起きると、リーラスは剣を下段で構え、怒鳴った。
「てめぇ!
背中が埃だらけになるだろう!」
「お前が好きで転がったんだ!
俺が知るかよ」

「やっぱり………」
スフォルツァの言葉に、アイリスが横からその顔を覗き込んで、続きを待つ。
スフォルツァはぼそり。と声を落として言い切った。
「…怒鳴らないと、四年は剣が振れないのか?
もしかして」

アイリスは知るか。と呆れて両肩持ち上げ、首を竦めてスフォルツァに見せた。


オーガスタスに肩竦め笑われ、リーラスはもっとアタマに来る。
「…ムカつくヤツだぜ…。
普段はマトモに剣振らないし!
今日くらいは思い切り振ったらどうだ!」

オーガスタスは微笑いながら怒鳴る。
「俺はお前と違って貧乏人だから、替えの剣が無い!」
「俺が持ってる!
ローランデとやる時はそれを貸してやる!」

ぶん!とオーガスタスの腹を横から薙ぎ払うが、これもやっぱりオーガスタスは後ろに飛んで避けながら怒鳴り返す。

「その剣まで折ったらお前、授業でどの剣使う気だ?
まだ替えがあるってのか?!」
「ローランデに、折られると決めてんのか?!
奴に勝って折れてない剣を、俺に返そうって発想は無いのか?!」

リーラスはデカい標的に、体ごと突進し、肩から胸にかけて剣を振り下ろす。

びゅんっ!

が、やはりオーガスタスは狙われた肩を後ろにスカし避けながら怒鳴り返す。
「解らないのか?
あいつ人間の振りした風だぞ?
風が斬れるか?!」

リーラスはやっぱり避けたオーガスタスに突っ込んで行った。
が、“風”の例えについ、足を取られ膝をがくっ!と折り、前につんのめりかけて、ピタリ…!と止まる。

全校生徒が一瞬息を飲む。
オーガスタスの剣が前のめるリーラスの腹に、突き刺さる寸前だった。

リーラスはもう一歩前に進むと腹に突き刺さる剣に冷や汗流し、必死で踏み止まりながら、腹に剣突き付けるオーガスタスを、顔を上げて睨んだ。

オーガスタスは微笑って言った。
「良かったな!
転ぶところだ。
今度は自ら望んで転ぶんじゃないだろう?」

リーラスはオーガスタスを睨み付け、手で腹に突き付けられた剣を横に払い、退けて怒鳴った。

「転ばぬよう親切したつもりか!
お陰で、お前に負けたじゃないか!!!」

その叫びに二人の横で試合判定していた講師は、突然我に返る。

「それまで!」

オーガスタスがやれやれ。とリーラスを見る。
「…どこまで馬鹿正直なんだ?
ばっくれてたら、ネルアデスは気づかなかった」

と、叫んだ講師を見やる。
講師は気づき、こほん。と咳ばらって呆けていたのを誤魔化した。

リーラスはぷんぷん怒って剣を下でぶんぶん振ながら、試合場中央から四年席へと歩きながら怒鳴る。
「あんだけはっきり腹に突き付けられて!
全校生徒の前で、どうやって誤魔化せるんだ!
お前絶対アタマイカれてるぞ!!!」

が、戻り来るリーラスを四年の悪友達は腕組みしながら、ぼやいて出迎える。
「オーガスタスがデカイ図体屈めてたから、殆ど見えなかったぞ?」
「馬鹿はお前だ。
オーガスタスの親切を無駄にしやがって!」

リーラスはもっと怒った。
「親切で勝ちを誤魔化されても嬉しくない!
あいつは手足使えないハンデ持ってんだぞ?!」

「…剣の試合では普通、殴らない」
「足を掛けて転ばすなんて、もっての他の、反則技だ」

リーラスは四年席に入ると、くるり!と背を返し試合場中央に残るオーガスタスを見ながら腕組みし、やっぱり怒鳴った。

「どっちも奴の得意技で、実戦では誰より強い!
例え試合で反則だろうがな!
立派なあいつの戦法なんだ!
それを封じられてる奴に更に、止めの一本まで誤魔化されオマケなんて、されてタマるか!」
リーラスの悪友達が大袈裟にリーラスから、思い切り引く。
「…なんだ!」

「…いつもは体格と手足の長さが違うから、これくらいの親切は当然だ。と受け取る癖に…!」
「ニ・三年の前でいい格好したいのか?」
「無駄だぞ。
さっきのドロッティの一件で女にだらしないのが完全にバレてる」

「…けど下級の奴らには、英雄視されて無いか?」
「男三人で女一人をコマして、英雄視されるか?
男女の数が入れ替わってたら、されるかもしれんが………」

やっぱり五月蠅うるさい四年に、三年も二年も、思い切り顔を下げた。

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