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シード扱いなのに出番があるオーガスタス
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隣のリーラスとジョックソンは、その騒ぎを試合中断して、見物していた。
ローフィスは自分もそうしたかった。
が、ラーダルはしつこい。
隙を見つけ間髪入れず、はしっこく剣を振り入れてくる。
短い振り。弱い剣。
がそれでもスピードだけはなかなかで、真正面から次々に、こちらが剣を繰り出す間も無く剣を突き出し、決して引かずこちらが引くときっちり、間を詰めては剣を休まず繰り出し続ける。
そのどれもが簡単に止められる剣だったが、こう手数を入れられると合わせるので手一杯。
よそ見しようものなら、遠慮無く顔に剣を振り入れられ、もう少しで掠り傷付けられそうになった。
『待った!』とか『皆中断してるぞ!』
とか、声掛けたくてもひたすらこっちを見ながら忙しく剣を突き入れ続け、顔も横に振れない。
リーラスを恨みたかったが、自分程度には絶対負けられない。と妙な気迫だけはラーダルにあって、休むことなく次々に剣が繰り出され、ローフィスはもう少しでキレそうだった。
つい剣を庇うのを止め、我慢も限界で激しい一撃を奴の剣に叩きつけ、ラーダルの手が痺れ次の繰り出す剣を振りそびれた隙に、もう一撃を剣目がけ見舞った。
がんっ!
ラーダルの剣が床目がけて吹っ飛んだ。
ローランデはつい、横のシェイルを見た。
シェイルは俯き、大きな吐息を吐き出していた。
ディングレーは組んでた腕を振り解き、取り乱しそうになった。
ローフィスの事となると、ディングレーは思いきり、地が出る。
周囲の取り巻き達がディングレーの挙動に、驚いて視線を送る。
ディングレーはそれに気づくと努めて偉そうに、腕を組み直した。
がつい視線を、ローフィスに注いだまま心の中で怒鳴った。
『初戦で剣を浪費したら、後が保たないぞ!』
ローフィスは俯き、下げた剣を持ち上げ、調べた。
心なしか、ぐらついてる気もする。
ふ…と気づくと、三年見物席からディングレーがじっ…と視線を送り、奴の取り巻き達が何やら…捜し物をし、一人が王に貢ぐように、剣をディングレーに差し出していた。
『替えの、剣か』
ローフィスは吐息混じりに俯き…それが自分に為に、奴が用意した。
と突然気づいて、二度ディングレーに振り向く。
奴は自分が替えの剣を持って来なかったから、手下の誰かにわざわざ調達させたのだ。
ローフィスは顔を上げて、『いらん!』と髪を振ってディングレーに歯を剥いた。
が、ディングレーは首だけ乗り出して
『使え!』
と腕に持つ剣を指で差す。
ローフィスは振り上げた手を思い切り振り下げて
『必要無い』
と示したが、ディングレーは明らかに不満そうで
『やせ我慢はよせ』
と言う表情を、していたし二年席ではシェイルが、可憐な姿でその綺麗な顔を思い切り俯け、しょげていた。
ローフィスは二人の様子を、見なくても自分の先行きは解っていた。
が、ああ他人にあからさまに示されると憤慨した。
次の対戦相手を迎えようと移動する際、リーラスを睨んだ。
が、奴は知らんぷりで背を向け、列から弾き出されたオーガスタスは腕組みして、微笑った。
その表情は
『何とかそれでやるしかないな』
と語っていて
『言われなくても解ってる!』
と睨み顔で、ローフィスはオーガスタスに返答してやった。
が次に正面に立つ男の顔に、ローフィスはまた、げんなりする。
そいつもグーデン配下の男。
やっぱり横に陣取ったリーラスが、顔を揺らして微笑った。
「好かれてるな」
ローフィスは歯を剥いたが、リーラスの対戦相手を見て、笑い返してやった。
「お前もな!」
言われてリーラスは顔を、横のローフィスから正面に向け、対戦相手を見てから、下げた。
やっぱり少しでも腕の立つ奴を倒し、名を上げたい目立ちたがりの馬鹿で、リーラスはじっ…。とローフィスを見た。
ローフィスはリーラスの腹づもりが解ったから、肩を竦めた。
どのみちグーデン配下の男達は、頂点がオーガスタスだから勝ち残る事に興味無い。
剣を庇う気も無いから、相手を気持ち良く叩きのめしたくて、自分の正面なんて、選んで来る。
そんな奴に、手間取ったらもうこの対戦で、剣が終わるのは目に見えていた。
四年ともなれば図体のデカい力自慢ばかりだったから、ある意味この
『剣が折れれば負け』
の教練ルールで、一番不利な学年だ。
講師が剣を、振り上げる。
もう今度はローフィスは、リーラスがむんず!と肩を掴み、立ち位置を自分と入れ替えるのに、逆らわなかった。
今度の相手はラーダルと違い、猛牛のように突っ込む事しかしない馬鹿だったから、つい身軽に避けざま足を軽く引っかけ、転びそうになった奴の喉元に剣を突き付け、講師の判定を待つ。
「それまで!」
その叫びに馬鹿が怒鳴る。
「足を引っかけたぞ!!!」
講師はローフィスを見た。
が、ローフィスは引っ込めた剣を持ったまま、肩を竦めた。
その馬鹿には足を掛けなくても、足が絡まる事故が良く、あったから(相手をロクすっぽ見ないで、がむしゃらに突っ込んで来るので)講師は取り合わなかった。
が、むんず!
とローフィスは胸ぐらを掴まれ、引き上げられる。
オーガスタス程は高くなくても、自分より間違いなく上背だったから、ローフィスは凄まれて呟いた。
「…わざとじゃない」
オーガスタスはその様子を、腕組みして俯き、内心呟く。
「(嘘つけ。確信犯のくせに)」
が、オーガスタスにはもう次の展開が読めたから、組んだ腕を振り解き歩を進める。
「…言いたい事は、それだけか?!」
拳が振り上げられ、がむしゃら馬鹿は拳を振り、ローフィスは目を、瞑った。
が、顔に衝撃が訪れず、片目開けると背の高い、その男よりも更に大きいオーガスタスが。
奴の振り上げた拳を握り止め、大らかな微笑を浮かべていた。
「試合は剣を振るのがルールだ」
が馬鹿はオーガスタスに怒鳴った。
「ヤツはズルをして俺は負けた!
もう関係無い!
拳の出番だ!
そうだろう?」
「奴を殴るのか?」
馬鹿は怒鳴る。
「当然だ!」
オーガスタスは腕を、放す。
「奴を殴れば俺がお前を殴る」
馬鹿は息を、吸い込んだ。
が言葉が見つからないらしく目を彷徨わせ、ようやく思い当たって、言った。
「俺を殴ればお前は、失格だ!
試合はお終いだぞ?」
馬鹿はオーガスタスに笑った。
が、オーガスタスも頷いて、笑った。
笑顔を崩さず自分を見つめ続けるオーガスタスを見て、ようやくその馬鹿にも、オーガスタスが試合を投げても殴る気だ。
と解り、顔を下げる。
オーガスタスに殴られたヤツで、歯を折らない者はいない。
皆それを知っていたから、オーガスタスに殴られたい男なんて、一人も居やしなかった。
すごすごと見物席に戻って行く馬鹿に、オーガスタスは言った。
「…剣を、忘れてるぞ」
馬鹿は恨めしそうに、上目使いでオーガスタスを睨み、が床に落とした、剣を拾い上げた。
オーガスタスが視線に気づき、周囲を見回すと。
横のリーラスを除いて皆が、試合を中断し、喧嘩を見守ってた。
判定を、下した講師でさえも。
オーガスタスは顎をしゃくる。
「見物は終わった。
試合を続けたらどうだ?」
言われて皆が一斉に気づき、対戦相手に振り向いて、立ち位置に戻った。
ローフィスは自分もそうしたかった。
が、ラーダルはしつこい。
隙を見つけ間髪入れず、はしっこく剣を振り入れてくる。
短い振り。弱い剣。
がそれでもスピードだけはなかなかで、真正面から次々に、こちらが剣を繰り出す間も無く剣を突き出し、決して引かずこちらが引くときっちり、間を詰めては剣を休まず繰り出し続ける。
そのどれもが簡単に止められる剣だったが、こう手数を入れられると合わせるので手一杯。
よそ見しようものなら、遠慮無く顔に剣を振り入れられ、もう少しで掠り傷付けられそうになった。
『待った!』とか『皆中断してるぞ!』
とか、声掛けたくてもひたすらこっちを見ながら忙しく剣を突き入れ続け、顔も横に振れない。
リーラスを恨みたかったが、自分程度には絶対負けられない。と妙な気迫だけはラーダルにあって、休むことなく次々に剣が繰り出され、ローフィスはもう少しでキレそうだった。
つい剣を庇うのを止め、我慢も限界で激しい一撃を奴の剣に叩きつけ、ラーダルの手が痺れ次の繰り出す剣を振りそびれた隙に、もう一撃を剣目がけ見舞った。
がんっ!
ラーダルの剣が床目がけて吹っ飛んだ。
ローランデはつい、横のシェイルを見た。
シェイルは俯き、大きな吐息を吐き出していた。
ディングレーは組んでた腕を振り解き、取り乱しそうになった。
ローフィスの事となると、ディングレーは思いきり、地が出る。
周囲の取り巻き達がディングレーの挙動に、驚いて視線を送る。
ディングレーはそれに気づくと努めて偉そうに、腕を組み直した。
がつい視線を、ローフィスに注いだまま心の中で怒鳴った。
『初戦で剣を浪費したら、後が保たないぞ!』
ローフィスは俯き、下げた剣を持ち上げ、調べた。
心なしか、ぐらついてる気もする。
ふ…と気づくと、三年見物席からディングレーがじっ…と視線を送り、奴の取り巻き達が何やら…捜し物をし、一人が王に貢ぐように、剣をディングレーに差し出していた。
『替えの、剣か』
ローフィスは吐息混じりに俯き…それが自分に為に、奴が用意した。
と突然気づいて、二度ディングレーに振り向く。
奴は自分が替えの剣を持って来なかったから、手下の誰かにわざわざ調達させたのだ。
ローフィスは顔を上げて、『いらん!』と髪を振ってディングレーに歯を剥いた。
が、ディングレーは首だけ乗り出して
『使え!』
と腕に持つ剣を指で差す。
ローフィスは振り上げた手を思い切り振り下げて
『必要無い』
と示したが、ディングレーは明らかに不満そうで
『やせ我慢はよせ』
と言う表情を、していたし二年席ではシェイルが、可憐な姿でその綺麗な顔を思い切り俯け、しょげていた。
ローフィスは二人の様子を、見なくても自分の先行きは解っていた。
が、ああ他人にあからさまに示されると憤慨した。
次の対戦相手を迎えようと移動する際、リーラスを睨んだ。
が、奴は知らんぷりで背を向け、列から弾き出されたオーガスタスは腕組みして、微笑った。
その表情は
『何とかそれでやるしかないな』
と語っていて
『言われなくても解ってる!』
と睨み顔で、ローフィスはオーガスタスに返答してやった。
が次に正面に立つ男の顔に、ローフィスはまた、げんなりする。
そいつもグーデン配下の男。
やっぱり横に陣取ったリーラスが、顔を揺らして微笑った。
「好かれてるな」
ローフィスは歯を剥いたが、リーラスの対戦相手を見て、笑い返してやった。
「お前もな!」
言われてリーラスは顔を、横のローフィスから正面に向け、対戦相手を見てから、下げた。
やっぱり少しでも腕の立つ奴を倒し、名を上げたい目立ちたがりの馬鹿で、リーラスはじっ…。とローフィスを見た。
ローフィスはリーラスの腹づもりが解ったから、肩を竦めた。
どのみちグーデン配下の男達は、頂点がオーガスタスだから勝ち残る事に興味無い。
剣を庇う気も無いから、相手を気持ち良く叩きのめしたくて、自分の正面なんて、選んで来る。
そんな奴に、手間取ったらもうこの対戦で、剣が終わるのは目に見えていた。
四年ともなれば図体のデカい力自慢ばかりだったから、ある意味この
『剣が折れれば負け』
の教練ルールで、一番不利な学年だ。
講師が剣を、振り上げる。
もう今度はローフィスは、リーラスがむんず!と肩を掴み、立ち位置を自分と入れ替えるのに、逆らわなかった。
今度の相手はラーダルと違い、猛牛のように突っ込む事しかしない馬鹿だったから、つい身軽に避けざま足を軽く引っかけ、転びそうになった奴の喉元に剣を突き付け、講師の判定を待つ。
「それまで!」
その叫びに馬鹿が怒鳴る。
「足を引っかけたぞ!!!」
講師はローフィスを見た。
が、ローフィスは引っ込めた剣を持ったまま、肩を竦めた。
その馬鹿には足を掛けなくても、足が絡まる事故が良く、あったから(相手をロクすっぽ見ないで、がむしゃらに突っ込んで来るので)講師は取り合わなかった。
が、むんず!
とローフィスは胸ぐらを掴まれ、引き上げられる。
オーガスタス程は高くなくても、自分より間違いなく上背だったから、ローフィスは凄まれて呟いた。
「…わざとじゃない」
オーガスタスはその様子を、腕組みして俯き、内心呟く。
「(嘘つけ。確信犯のくせに)」
が、オーガスタスにはもう次の展開が読めたから、組んだ腕を振り解き歩を進める。
「…言いたい事は、それだけか?!」
拳が振り上げられ、がむしゃら馬鹿は拳を振り、ローフィスは目を、瞑った。
が、顔に衝撃が訪れず、片目開けると背の高い、その男よりも更に大きいオーガスタスが。
奴の振り上げた拳を握り止め、大らかな微笑を浮かべていた。
「試合は剣を振るのがルールだ」
が馬鹿はオーガスタスに怒鳴った。
「ヤツはズルをして俺は負けた!
もう関係無い!
拳の出番だ!
そうだろう?」
「奴を殴るのか?」
馬鹿は怒鳴る。
「当然だ!」
オーガスタスは腕を、放す。
「奴を殴れば俺がお前を殴る」
馬鹿は息を、吸い込んだ。
が言葉が見つからないらしく目を彷徨わせ、ようやく思い当たって、言った。
「俺を殴ればお前は、失格だ!
試合はお終いだぞ?」
馬鹿はオーガスタスに笑った。
が、オーガスタスも頷いて、笑った。
笑顔を崩さず自分を見つめ続けるオーガスタスを見て、ようやくその馬鹿にも、オーガスタスが試合を投げても殴る気だ。
と解り、顔を下げる。
オーガスタスに殴られたヤツで、歯を折らない者はいない。
皆それを知っていたから、オーガスタスに殴られたい男なんて、一人も居やしなかった。
すごすごと見物席に戻って行く馬鹿に、オーガスタスは言った。
「…剣を、忘れてるぞ」
馬鹿は恨めしそうに、上目使いでオーガスタスを睨み、が床に落とした、剣を拾い上げた。
オーガスタスが視線に気づき、周囲を見回すと。
横のリーラスを除いて皆が、試合を中断し、喧嘩を見守ってた。
判定を、下した講師でさえも。
オーガスタスは顎をしゃくる。
「見物は終わった。
試合を続けたらどうだ?」
言われて皆が一斉に気づき、対戦相手に振り向いて、立ち位置に戻った。
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