若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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熾烈な三年 二位争い

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 マレーはディングレーが、厳しい表情で自分の取り巻き二人が、再び剣を交え始める様子を見つめてるのに気づく。

テスアッソンはデルアンダーより、少しだけ背も低かったし、女顔で細身に見えた。
けれど鞭がしなるような瞬発力でデルアンダーの剣が振られた途端、身を返し避ける。

素早いながらも鮮やかな身のこなしには気品があり、けれど気迫こもるブルーの瞳は油断なくぎらりと光る。



けれどデルアンダーの表情に少しも、焦りは見られない。

くるりと身を回す拍子に、飛び込んで来るようなテスアッソンの奇襲にも、驚きもせずさっ!と肩を引いて避ける。

「…どっちも、ディングレーを意識して剣を庇ってるな…」

講師のつぶやきに、アスランが可憐な茶の瞳を向ける。
マレーにも見つめられ、講師は二人に説明した。

「勝てば、ディングレーと当たる。
ディングレー相手では剣を庇ってる間もなく、全力で戦わなくてはならない。
この対戦で剣を消耗すれば、ディングレーと存分に戦う前に。
剣が折れる」

「?
剣…試合ごとに、替えられないの?」

アスランの素朴な質問に、講師は笑った。
「替えられるが…出来る限り、替えずに戦い抜くのが彼らの誇りだし、全校生徒も熱の籠もった応援する」

アスランは、びっくりしてテスアッソンとデルアンダーを見つめる。
マレーは俯いた。

“だから…ディングレーは憤ってたのかな?
自分だけ…剣が温存出来て、望まないのに有利にされて…”

マレーは視線を、厳しい表情のディングレーに向ける。
勝ち上がった方と対戦。

けれどディングレーの瞳は二人ともを応援するような。
どこか気遣い、見守る優しさが伺い見えた。

マレーはつい…どちらも気品あり、気概あり迫力ある、ディングレー取り巻き大貴族二人の戦いに、視線を戻した。

デルアンダーが、とうとう仕掛け始める。
立て続けに剣を左右に繰り出しながら、間を詰めていく。
だがテスアッソンは身軽に避け、剣をくるりと回し弾きながら、デルアンダーに詰め寄られた分、後ろに下がる。

下がっているのに。
その足捌きは華麗で、さっ!と突き出された剣に剣を合わせ、後ろでは無く横に飛び、一気にデルアンダーに剣を突き刺す。

「…!早い!!!」

デルアンダーは横腹を抉る剣に、派手に栗毛の髪を散らし一気に飛び避ける。

オーガスタスが呻く。
「…やりにくそうだな」
ローフィスは肩を竦めた。
「互いの手の内が、分かってるだけに。
どう攻撃すれば、どこに避けるか。
どっちもが、先読み出来るんだろうな」

二人はいったん、間を取ったまま剣を構える。
どこにどう攻撃するかの、互いの隙を伺って。

「…俺とローフィスぐらい、戦法が違えば別だが。
どっちも正統派だしな」
リーラスのぼやきに、ローフィスが振り向く。
「戦法が違えば、勝てるのか?」

リーラスは肩すくめた。
「どれだけ戦っても、どんな手使って来るか、まるで読めないって意味だ」

オーガスタスが、とうとうくすくす笑った。
「いっつもローフィスに、遊ばれてるもんな!」
リーラスはいきどおってうなる。
「読めたと思ったらまた違う手を使ってくるから、始末に負えないぜ!」

ローフィスは、腕組みしてつぶやく。
「…め言葉だな」
オーガスタスも悪戯いたずらっぽい微笑を浮かべ、ローフィスに頷いた。
「褒め言葉だ」

リーラスだけが怒鳴った。
「褒めてないぞ!絶対!」

かん!かんかんかん!

今度はテスアッソンが一気に剣を激しく振り込み、デルアンダーが防ぐ。
剣の消耗を抑えていた今までとは違い、遠慮無く叩き込んでくるテスアッソン相手に。
軽く捌くのはデルアンダーですら、無理な様子。

グリングレーのきつい瞳でテスアッソンを睨めつけ、長身で逞しい体躯を生かし、全身で弾き返していた。

スフォルツァは美男のデルアンダーの鋭い目付きと、真剣そのものの厳しい表情で断固として剣を弾く姿があんまり…格好良く見え、こっそりアイリスを伺う。

が、アイリスは見てるスフォルツァにぼそりと告げた。
「勝敗見逃すぞ」

スフォルツァは慌てて視線を試合に戻す。

剣を打ち込み続けるテスアッソンは、鞭がしなるように身を捻り、頭上から反動を使って一気に振り下ろす!

「あれだけしなってからだと、打ち込んだ後に隙が出来るもんだが…」
オーガスタスが顎に手を当て、ぼそり…とつぶやく。

デルアンダーもそれを熟知していたから、肩を後ろに下げて振り下ろす剣を避け、直ぐ。
グリングレーのきつい瞳をぎらりと光らせ、テスアッソンの腹へ剣を、思い切り突き入れる。

かんっ!

テスアッソンは直ぐ剣を引き上げ弾いた。

がデルアンダーは止められた途端とたん剣を引き、一瞬で振り上げる。

ざっっっっ!

重い剣を斜め上から瞬速で振り下ろす。
テスアッソンはその速さに剣を合わせるのを諦め、身を横に開けて避ける。
デルアンダーは直ぐ回り込み、逃げ場を塞ぎ二刀目を叩き込む。

がっ!

テスアッソンは身を泳がせ、後ろに素早く飛んで避け、剣を振り上げた。
が、デルアンダーは素早く足を使いテスアッソンの横に回り込むと、剣を思い切り叩きつけた。

がっっっ!

「良く防いだ!」

瞬時に剣を持ち上げ、止めたテスアッソンの、明るい栗毛が宙に散る。
その表情は、苦しげに歪んでいた。
がテスアッソンは直ぐ剣を、髪を激しく散らしながら振って外し、相手に振り込もうとすっ、と後ろに引く。

「剣を庇っては、勝てない相手と腹をくくったな…」
マレーは講師のつぶやきを聞き、必死に二人の大貴族の戦いを見つめる。

どちらも、足捌きは見事。
激しい振りでどちらも互いの際どい剣に剣をぶつけ止め、ぐ攻撃に剣を引いて振り込む。

見応えある応酬に、講堂中が息を飲み、見惚れた。

すっ!と剣を下げるように引くデルアンダーのグリングレーの瞳は、テスアッソンを睨めつけたまま。
長い栗毛を背に散らす、整いきった美男の気概溢れる姿はあまりに格好良く。

スフォルツァはまた。
横のアイリスをこっそり、盗み見た。

一方テスアッソンはデルアンダーと対すると細身に見えるものの、明るい栗毛と気迫溢れるブルーの瞳に迷い無く、一瞬で身を返し断固とした剣を叩きつける様は、剛の者に恥じぬ戦い様。

がっ!
瞬発力で勝るテスアッソンが、デルアンダーの剣を激しく弾く。
チャンスとばかり、テスアッソンがもう一刀を振りこもうとした時。

デルアンダーは弾かれた剣を咄嗟とっさ柄を返し握り込んで、一気に突き上げた。

激しい剣の音は突如とつじょ止み、いきなり静寂に包まれる。

テスアッソンの、表情は歪んでた。

真っ直ぐ喉元に、剣を突き付けられて。

講師の声を待たず、デルアンダーはすっ!と剣を下げ、くるり。
とディングレーに振り返る。

まだ、息は弾んでた。
が、真摯な瞳でディングレーを真っ直ぐ、見る。

まるで一礼しそうな、敬意に満ちた礼節さ。
がそのグリングレーの瞳は静かな闘士で満ち、真っ直ぐディングレーを、迎えるように見つめていた。

ディングレーは一つ、吐息を吐くとぶっきら棒に剣を雑に、ざっ!と横へ振り、頭を軽く下げたままデルアンダーの前へと進み出る。

が進みながらディングレーは、デルアンダー背後のテスアッソンが俯く姿に視線を送る。
テスアッソンは気がついて顔を上げると。

ディングレーは一つ、頷いて、彼の剣闘を讃えた。

テスアッソンはほぅっ。と大きく息を吐き出し、見つめるディングレーに、しっかり頷くと、デルアンダーに背を向け、三年席へと戻って行った。

ディングレーはテスアッソンの背を見送った後、数歩歩き、ぴたり。と歩を止め。

すっ。と顔を上げて真っ直ぐ、その射るようなブルーの眼差しで、デルアンダーを見つめ返した。

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