若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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三年試合開始でディングレーを見つめるマレーの回想

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 三年が呼ばれる。
講堂中が、ざわついた。

そこには目立つ編入生、金髪のギュンターの姿が無い。
皆が口々に、なぜなのか。を探り質疑が囁かれる。

マレーはディングレーを、見た。



黒髪を頬に垂らし、少し俯き…そして、列に無造作に並ぶと、横にくるり。と体を向け、対戦相手を見つめる。

ディングレーは剣を、下げたまま。
王族。だとか大貴族。と言うより…一匹狼のような…無頼に見えた。

がハラリ…。と黒髪が額から頬に滑り落ちると…その顔立ちの男っぽさが際だつ。

女性で無くても…彼のそんな男らしい様子には、ぞくりとさせられた。
でも夕べ彼は………。

とても、困っていた。
マレーは…チャンスだ。
そう…心の中でもう一人の叫び続ける自分を見つけた。



ディングレーを、自分のものにするまたと無いチャンス。

言うんだ。
とっても体が辛い。
そう言って…ドラーケンで無く彼のものを口に銜えればきっと…。

けど……。
体は固まり、動けなかった。

ローフィスが、あんまり暖かくて…彼の明るい大空のような、青い瞳の眼差まなざしが心の中に残り続けて…。
だから口を開いた時…つい、ローフィスの話をした。

「ロー…フィスって…兄弟が居るのかな?」
ディングレーはほっとしたように向かいの椅子に尻を落とし、呟く。
「二年に居る。
銀髪の…」

はっ。とした。
「…シェイル?」
ディングレーは苦笑した。
「有名なんだな?」
「みんな、知ってる。
凄く…綺麗だもの」

ディングレーは“お前も…”
…綺麗だ。そう、言おうとして顔を上げ…が、下げた。

シェイルは自分の美貌を呪いだと、思い知っていた。
そしてマレーも同様…。

“綺麗”は彼らに取って褒め言葉なんかじゃなく、侮蔑の言葉だと…ディングレーは思い当たり言葉を途切れさす。

マレーはディングレーの、鼻を見ていた。
通った鼻筋。…顎もとてもしっかりして…とても男らしい美しさだと思った。
肩幅は広く…とても広くて逞しい。

どんな…感じだろう?
彼を自分のものにするのは。

思ってた。
ドラーケンのような奴のものに成るくらいなら…。
ディングレーはどれくらいマシだろう?と。

ディングレーなら抱かれてもいい。
そう…思った筈だった。

けどローフィスと話した途端…思い出してしまった。
母が家を去る前…近くの屋敷に住んでいた、幼馴染みマーグレットをどれだけ…好きだったか。

草原の中。
彼女の、産毛が風に優しく嬲られるうなじ。
つん。と少し上を向いた鼻。

チラ…と悪戯っぽく見つめる、空色の瞳。
そのピンクの唇にどれだけ焦がれ…口付けたいと、願ったか。

そしてそれが叶った時…どれ程幸せで胸が高鳴ったか。
でも同時に…思い出してしまった。
母が男と家を出て暫くし…彼女も…引っ越してしまった事を。

マーグレットは祖母を亡くし…両親が居なかった彼女は叔母の家に、引き取られる事になって…。

引き裂かれる悲しみに…愛を交わし別れに変えた。
戸惑うような吐息。
肌の熱い感触。

彼女の中の、初めての気が遠くなりそうな暖かさと心地良さ。
唇の甘さ。
絡め合う指の、幸福感………。

でもそれは、遠い記憶。
決して消える事の無い…それでも、遠い記憶だった。

つい…ディングレーに尋ねる。
「ど…うしたら…」
ディングレーが顔を、上げる。

同じ、男。比較すると自分がどれだけ惨めな男か、マレーには解った。
でもそれでも…マーグレットは…。

彼女だけは
“そんな事無い”
そう言ってくれる筈だ。
自分が確かに“男”だったと、知ってる彼女ならきっと…!

…がマレーは目前の…ディングレーの素晴らしさを思い知っていたから、俯く。

それとも…彼女もディングレーを間近でみたら…やっぱりその男らしさと高貴な気品に圧倒され、頬を染めて俯いたろうか…。

そう思いつくと、打ちのめされて項垂れる。
男として、競うどころか…彼の男らしさに、女のように縋ろうとしてる自分があまりに、惨めで。

どうしてそんな事に成ったのか…課程を、考えただけで寒々とした木枯らしが心の中を吹き抜けて行き、身が固まる。

そして呟く。
ディングレーに聞こえぬ心の中の声で。

そうだ…。
今日僕は、マーグレットでさえしなかった事をした。
…娼婦のように、男のものを口に銜えた。

…どころか…自分の内部(なか)へ、それを挿れた…。
助かる、為に。
身を守る為に。

そう…思い出すとつい…膝の上で握る拳が震え…ディングレーがそっ…と身を寄せ、震える手を握ってくれた。

顔を上げると…その男らしい顔が…眉を切なげに寄せ、自分を伺っている。

そっ…と…腕が回され、彼の胸が目前で…気づくと、抱きしめられていた。
その胸が、あんまり広くて…暖かくて逞しくて頼もしくって…つい、しがみついて泣いた。

彼が暫くして身を離し…そして見つめ、気遣う様に…それでも不器用にそっ…と口づけた時…唇に滴った僕の涙の苦い味がし、けれどとても…安心したから…僕は自分に言い聞かせた。

“どうだろうが…僕には今、彼が必要なんだ。
彼が王族でグーデンに顔が利くその弟だからじゃなく…。

あんまり惨めで辛いから…この逞しさと暖かさが…今僕には、必要なんだ。
じゃないときっと…凍り付いてしまうから………”

そう、思った時、彼の胸に身を寄せ、自分の方から顔を離す彼に、口付けた。
ディングレーは応えてくれ、そして………。

もう…夢中だった。
彼の股間に手を伸ばし触れ…が、ディングレーは握ろうとする手を遮って、寝台に押し倒す。

のし掛かられ、上から見下ろされた時…その青い瞳が痛みに溢れていて、だから…彼に縋るように、僕はしがみついた。

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