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ラッツと対戦するスフォルツァ

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 スフォルツァがラッツと。
フィフィルースはディオネルデスと試合を始めていた。

堂とした態度のスフォルツァは、ラッツの気迫籠もる剣を良く、捌いていた。

肩までの短髪栗毛のラッツの、跳ねた髪が派手に揺れ、琥珀の瞳は鋭さを帯びる。



毛が逆立つような気迫を見せるラッツを相手に、スフォルツァはラッツより少し濃い、長く艶やかな栗毛を流すように揺らし、グリングレーの瞳はラッツを見据えたまま、揺るがない。

時折、ラッツの右に左に、足を使う揺さぶりにも。
しなやかな動きで難なく剣を合わせる様は、小憎らしい程の余裕。
見ている上級生達を、げんなりさせた。

更に一方的に仕掛けてくるラッツの剣の隙を狙って、時折スフォルツァは、鋭い剣を突き入れる。

ひょい。と。

その慣れた熟練の剣捌きは、ラッツの本気を更に煽る。
ラッツはその琥珀の瞳に、殺気すらのぼらせて、必死にスフォルツァを仕留めようと剣を繰り出していた。
それも単調な攻めなんかじゃなく、左右に揺さぶったかと思うと素早く上から。
斜め横、下から斜め上へと、軌道の読めぬ剣を、間を置き突拍子も無いリズムで、スフォルツァへめがけ繰り出し続ける。

が。
一方のスフォルツァは落ち着き払い、どんな場所から飛んで来る剣も全て、合わせ止め、またはひょいと避け、くるりと身を返して、かわし続ける。

いきり立つラッツとは対照的に、その落ち着き払ったスフォルツァは、冷静そのもの。

端正な顔立ちの、その表情は崩れず、ここに女の子がいたら、誰もがハートマークを飛ばしそうな、理想的で格好いい王子様風。

上級生らはそんなスフォルツァにやっかみを覚え、こぞって内心、密かにラッツに“スフォルツァを崩せ!”と声援を送っていた。

だが激しくなるラッツの攻めに、スフォルツァの崩れる様子は少しも無い。
明らかに押してるのはラッツだったが、時折繰り出される鋭いスフォルツァの剣に、ラッツが余裕無く、必死に避ける様が見て取れた。

がそれでも崩れず、身軽に避けては再びスフォルツァを崩すべく、ラッツは剣を繰り出す。

「…どう見る?」
悪友リーラスに背後席から覗き込まれて聞かれ、ローフィスとオーガスタスは言い淀む。
「まあ全員、大貴族で育ちも良く、しかも顔も姿も申し分無いスフォルツァが、ギタギタにやられたらいい。と、思ってるみたいだが…」
オーガスタスが口を開くと、ローフィスも肩を竦めて説明に入る。
「スフォルツァはどれだけラッツの剣が速くなろうが。
とことん、ついていける。
あいつ、好きに相手に剣振らせ、止めの剣入れる隙を狙い澄ましてるぜ?」

リーラスが、そうぼやくローフィスに聞き返す。
「だから?」
ローフィスはまた、思い切り肩を竦めて言い返す。
「…スフォルツァは、勝つだろう?」

リーラスは、がっくり首と肩下げた。
オーガスタスがそれを見て、後ろに顔を向けて問う。
「なんだ。
お前も、スフォルツァが気に入らないクチか?」

リーラスはかなりな男前の真顔を、オーガスタスに向ける。
「すましきって更に上品。
それであの態度。
ここにもしオンナが居たら、全員あいつに持ってかれる。
ムカつかないか?普通」

ローフィスもオーガスタスも、リーラスから顔を背け、沈黙。
その後、オーガスタスが振り向いてぼやく。
「俺の男らしさのが、あいつより上。
とかの自信、無いのかお前?」

リーラスは、歯を剥いた。
「大抵のオンナは、当たりが柔らかく物腰が上品で、かつ男らしい男が好きだからな!」

ローフィスも、リーラスを見ないままぼやく。
「結局、男ぶりであいつより劣るから。
代わってラッツに、退治して欲しいのか…」

その後、オーガスタスにまで大きなため息を吐かれ、リーラスは歯を剥く。
「今のため息!
“情けない”と聞こえたぞ?!」

ローフィスとオーガスタスが、揃ってリーラスに振り向く。
「…折角、オーガスタスは気遣って言葉にしなかったのに」
ローフィスが言うと、オーガスタスも追随ついずいする。
「人の気遣いを、無駄にしてくれるよな…」

リーラスはぷりぷり怒って腕組むと、背をどかっと後ろに倒した。

けれどスフォルツァをやっかむ者以外は
『さすが最終組』と、見応えある対戦に見入る。

片やフィフィルースとディオネルデスの対戦も見事だった。
フィフィルースの激しい剣捌きに、ディオネルデスも崩れず、良く応酬する。

素早い足運びで突き入れて来るフィフィルースの剣を防ぎ、断固としてその勢いを断ち切る剣を、時折入れるディオネルデス。



どちらも簡単に、決着が着きそうに無かった。

が………。

からん…!

剣が、途中で折れて転がる。
ラッツが折れた剣を呆然と見つめる。

スフォルツァは微かに息を弾ませ、剣を下げてラッツを見つめる。

が、ラッツはまだ呆然と、折れた自分の剣先を見つめていた。

アイリスは吐息を吐いて、前屈みの身を、起こす。
スフォルツァと目が合った。
彼は、笑っていた。

「…わざとだよな?今の」
オーガスタスとローフィスの間の後ろから、リーラスが小声で二人に尋ねる。

ローフィスはオーガスタスを見、オーガスタスもローフィスを見返し、二人同時に首を横に振る。

「…ヤな技、使いやがるぜ」
オーガスタスのぼやきに、スフォルツァと同様の技を使うローフィスは反論した。
「あれは、よほど狙わないと出来ない。
相手を叩かず、剣が折れるよう剣の一カ所を叩く。
…相当な腕が要るんだぜ?」

オーガスタスは親友の意見を耳にし、腕組みしてため息交じりに顔を下げ、リーラスも同様、無言で顔を下げた。

二年の席で、フィンスも唸った。
「…教練の試合でしか通用しない技をわざわざ、あれ程までに磨いて来るか?普通」

ローランデが笑った。
「あれを教えた剣の講師は、その技が実戦で通用する応用編も、ちゃんとスフォルツァに叩き込んでるさ」

が、ついシェイルは、ローランデに尋ねる。
「だけど剣だけを狙って、折る技だろう?
実戦では間違いなく、通用しないのに」

ローランデはもっと微笑う。
「普通に対戦すれば、剣だけを狙われたら大抵油断するしね。
けどここ、教練では。
剣を狙ってるなんて、戦ってる相手に悟られた時点で、警戒されて折る事が出来ない」

フィンスが、ため息混じりに頷く。
「普通の剣士なら、自分に向かう剣に反応するのが当たり前。
実戦じゃ、あの程度の振りで剣は折れない。
教練の練習用の剣だから折れて、それで勝ちを取れるだけで」

ヤッケルがフィンスの言葉を聞いてぼやく。
「教練で勝つだけの技を身に付けて来るなんて、非常識で馬鹿なヤツとか、思ってるな?」

三人がヤッケルに、同時に振り向く。
「…そう言えばあれって、ヤッケルの十八番おはこだっけ」

シェイルに言われ、ヤッケルがふんぞり返って腕組みする。
「…教練は四年間もあるんだぞ?
それと悟られずに剣だけを折る技は、体格や力で劣る者にとっては、有効な必殺技だ!
俺が不満なのは、あいつスフォルツァはどう見てもこの先デカく成りそうなのに、それでも身に付けてくるこすっからさが、気に入らない!」

三人は顔を見合わせ、くすくすと笑いこけた。

ディングレーは呻いた。
狙って見えない、ただの攻防の一振り。
剣が折れたのは奴にとって幸運。相手の不運に見えた。

つい内心で
『本当に狙ったのか?』
と自問自答する。

が自分同様、正攻法でがんがん打ち合い、技を競うのが好きな大貴族の取り巻き達も同様。
剣を折る技に、顔を下げきっていた。

講堂内でスフォルツァをやっかむ男らは
「大貴族の癖に姑息な技を使う。
あいつ、大した事無いな!」
と腕組みし、ふんぞり返った。

が、やっかまない男らはそんな男達を、憐れみの目で見つめる。

「…だろうが、スフォルツァが女受けよさそうな格好いい男なのは、変わらないのにな…」
一人がつぶやき、隣の男に、しっ!と、人差し指を口に当てられた。

つぶやいた男が気づいて振り向いた時。
やっかむ男らに、一斉に睨まれていた。

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