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勝ち上がるアイリスとスフォルツァ
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その後、数名がバラバラと講堂内に駆け込んで来たが、その中に一年のスフォルツァの、姿もあった。
アイリスは自分の横に駆け込み、座るスフォルツァの、息が弾む様子に。
そっと顔を寄せて囁きかける。
スフォルツァは直ぐ気づいて、アイリスの顔が寄るのに瞳を輝かせ、頬を一瞬で染めた。
アイリスはそんなスフォルツァの様子に、思わず言葉を詰まらせながら、そっと周囲の好奇の視線を伺った。
が、視線はやっぱり吸い付き、噂話が耳に飛び込む。
「奴ら、デキてるって本当だったのか?」
「さぁな。
があの大貴族の坊やが御姫様に、大層イカれてるのは確かだ」
「その愛しい姫の前で、無様晒さなきゃいいがな!」
一斉に、くすくす笑い。
アイリスはそんな陰口すら耳に入らない、嬉しそうなスフォルツァの様子を目に、ぐっとこらえ理性を保ち囁く。
「あの少年は?
無事迎えと共に、帰ったのか?」
途端スフォルツァは苦い笑みを何とか浮かべ、頷いて返答に代えた。
ラフォーレンが早朝、血相変えて飛んで来た。
眠ってるアシュアークを引き渡しながら、つい彼に愚痴ってしまったのを。
スフォルツァは思い返し、俯く。
『今日は、学年無差別剣の練習試合なんだ』
怒ってる表情で察したのか、ラフォーレンはびっくりした後、済まなそうに囁く。
『ごめん…そんな大事な時に目を離して。
…大丈夫そう?』
スフォルツァは、ラフォーレンが悪くない。と思い出し、怒っていたのを罰が悪そうに隠しながら、ぼそりとつぶやく。
『睡眠不足は確かだ』
『早々に、眠らせた?』
ラフォーレンの問いに、スフォルツァは頷く。
『今日、勝てそう?』
再び問われて、スフォルツァはぶっきらぼうに言い捨てる。
『学年一は、取るさ!』
ラフォーレンはびっくりして、目を見開いた。
『まるで学年一は軽いみたいだ』
スフォルツァは頷く。
『一つ年上は、去年ディアヴォロスと対戦したローランデ。
俺じゃ多分、歯が立たない』
ラフォーレンから見たら、自分ががっかりして見えたんだろう。
呆れたような表情で、まだ、言った。
『学年一で十分、凄くないか?』
が浮かない顔を上げたら、ラフォーレンが肩を竦めた。
だからそう…無様にローランデに、負ける様を晒す訳にはいかない。
が、負ける。と決まったような対戦に、正直気は重かった。
ドラーケンにさっきから刺すように睨まれていたが、気にもならない。
一番の強敵、アイリスがその剣を存分に、使う体力を見せなかったから。
後マークするのは、マレーと同室のラッツ。
身分は低いが、その剣は気迫が籠もり、勢いづかせると厄介な程、戦闘センスがいい。
そして大貴族、銀髪のフィフィー。
本名はフィフィルースだったが皆、愛称で呼んでいた。
年の割に感情表現が乏しく、いつも無表情でクール。
とても落ち着き払った、玄人肌の剣を使う。
打ち取る隙が殆ど無い、勝ちにくい相手だった。
が…。
それでもアイリスが存分に剣を使えば。
一番の強敵は、やはりアイリス。
護っているか。と思うと瞬時に攻撃に転じ、相手の隙を一瞬も見逃さず、的確に反応する剣は、見事だった。
一年から四年の剣の講師達四人がずらりと中央に並び、それぞれの受け持ち学年の生徒を見つめる中、四年担当の講師が、代表で高らかに告げる。
「今から恒例行事、学年無差別練習試合を始める。
この試合で勝った者は後日、『金の獅子』の称号を得、校長に賞される。
腕に覚えのある者は正々堂々、その力を発揮し『金の獅子』を目指せ!」
ううううおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!
全校生徒を飲み込む広い講堂が、どよめくように一斉に上げる猛者らの歓声で、揺れた。
一年達は上級生達の熱い熱波に飲まれたように、慌てて。
あるいはおどおどと、周囲を見回す。
「一年。前へ!」
講師のその言葉に、一年席に座る皆が立ち上がる。
背の低く、まだあどけなさの残る初々しい顔の群れが列を成し、おのおの中央へ、進み出る。
アイリスと並ぶスフォルツァは、上級生達の視線が一斉に、隣のアイリスへと注がれるのを感じた。
がつい習慣で。
まるでアイリスへの好奇の視線を、自分が遮り、護るように。
アイリスより少し前へ出て、胸を張り、アイリスを見つめる全ての視線を、弾き返した。
アイリスはスフォルツァの
『彼は俺の物だ』
と言わんばかりに好奇の視線から庇う姿に、呆れたものの。
横四列に並ぶ、一年列に付いた途端、スフォルツァから離れ、振り向く彼に一つ、頷いて見せる。
全部が四十名以上居たから、一列は十人を超えていた。
講師が入って来ると、私用の剣を使う大貴族の者達の、剣を調べて回る。
二人いる講師らは、それぞれ頷きあうと、一人が叫ぶ。
「向かい合え!」
四列の中央に立つ二列が、それぞれ背を向け会い、端の列の者と向かい合う。
アイリスは自分の正面が、同じ大貴族のミーリッツだと気づき、にっこり笑った。
が、ミーリッツは小声で囁く。
「お手柔らかに」
彼は明らかに、周囲をぐると取り囲む、体のデカい上級生達に見つめられている中での剣技に、飲まれてた。
ニ・三度打ち合うが、てんで体が固い。
アイリスは、すまない。とも思った。
が、シェイムが心配する通り、重しを全部付けていたから、剣を振ると直ぐ息が上がる。
それで隙を見つけ、真っ直ぐ斬り込んで一本取った。
ミーリッツは喉に、あっという間に一直線に刃を突きつけられ、負けて俯いた。
が、試合の重圧から解放され、ほっとしたようにアイリスに、やっと微笑みを返した。
離れた同じ列に居るスフォルツァは、とっくに終えていて。
落ち着き払って剣の具合を確かめてる。
彼の対戦相手は、元座ってた一年席へと、戻って行った。
四列は勝者のみを残し、今度は二列と成る。
その二列は、再び向かい合う。
シェイルは皆が、アイリスとスフォルツァに注目を注ぐのを見た。
「ちっ!あっと言う間に終わったぜ?!」
「簡単過ぎて、どんな手を使うのか、解らずじまいだ」
「その内、ちゃんとまともに打ち合うさ!」
次の相手は少し手ごたえがあったが…それでもアイリスは体力を温存した。
最終八人に残れば、簡単に勝たせてくれない相手ばかり。
相手に剣を存分に振るわせ、一瞬の隙に斬り込んだ。
「おおっ!」
声が飛ぶ。
がスフォルツァが自分を見つめているので、アイリスは。
その驚愕の声は、自分に向けられたのだと知る。
『あんまり、目立っちゃまずいな…』
思いながら、スフォルツァから視線を外すと。
四年の二列目に座り、視線を自分に向けてるオーガスタスと、目が合う。
彼は、笑っていた。
アイリスはふい。と視線を外す。
そしてとうとう一列に成った時。
途中半分は向かいに移って二列となり、再び向かい合う。
丁度12人居たから、六人ずつ。
アイリスの対戦相手は幸いな事に、残った豪の者の中でも比較的腕の劣る、大貴族のヨランデだったから。
アイリスは彼の気迫の剣を避け続け、やはり息が上がる前に一瞬の隙を見て、剣を腹に突き立てた。
「其れ迄!」
講師の、鋭い声が飛ぶ。
やはり講堂中が、ざわめいた。
アイリスは息を整えようと、俯く。
体力温存で一瞬でケリを付けたのが。
逆に、注目されてるようだ。
二年の、ローランデの視線まで、感じた。
がスフォルツァはまだ、激しい戦いを続けていた。
無理も無い。
相手は剛の者集う銀髪の一族の出の、大貴族フィフィルース。
その剣は隙無く、迂闊に打ち込めば直ぐ、鋭い切っ先で捌かれ、討ち取られる。
スフォルツァは誘い込むようなフィフィルースの剣に、良く耐え、時折鋭い剣を交わしながら、いきり立つ自分を抑え。
激しくなる攻防にきっちり剣を合わせ、フィフィルースの攻撃を防いでいた。
が、押していたのはフィフィルース。
普段の無表情とは打って変わって、激しい闘志をその表情に浮かび上がらせてる。
あの冷静な彼をここまで本気にし、攻撃させるスフォルツァは、並大抵じゃなかった。
どれだけフィフィルースがスフォルツァの隙を突き、剣を振り入れても。
全部、弾くか避けるか、止めて来る。
フィフィルースの、スピードが増す。
その凄まじい攻防に、会場中が息を飲む。
フィフィルースの怒濤の攻撃に、殆どの者は耐えきれず、必ず体勢を崩すのが常。
一瞬でも間に合わなければ、負け。
そしてその早さは、どんどん増して行く。
フィフィルースが一気に決めようと、激しい打ち合いの一瞬の隙に、鋭い切っ先を突き立てたのを。
スフォルツァは咄嗟に激しく剣を振り、弾き飛ばし、一瞬で握りを返す。
スフォルツァのその断固とした剣に、フィフィルースは顔をしかめ、横に大きく吹き飛ばされた剣を戻そうと、握りに力を込める。
が開いたフィフィルースの胸元に、剣を突き入れたのはスフォルツァが先。
フィフィルースは、喉元に突き立てられたスフォルツァの剣のきっ先に目を見開き、戻し掛けた剣を握ったまま、その動きを止めた。
「それまで!」
スフォルツァの気迫籠もるグリングレーの瞳は。
切っ先を突き付けたフィフィルースをきつく睨み、その迫力はまさしく武人のそれ。
講堂中が、年の割に完成された見事な戦いぶりに、どよめいている。
フィフィルースは、まだ目を、見開いていた。
が、スフォルツァの武人としての肝の据わった瞳に睨め付けられ、すっ。と剣を引く。
整った顔のスフォルツァの、剣を下げた時見せる静かなたたずまいと、一学年中でも背が高くしっかりした体格は、14の少年の域を超え16才相当に見えた。
が僅かに息を切らしていたのはスフォルツァの方。
フィフィルースは少しも、呼吸が乱れてはいない。
が、フィフィルースは悔しげな表情をその冷静な顔の上に、一瞬垣間見せ。
それでも顎を引き、顔をすっ。と上げた。
そしてスフォルツァをその場に残し、背を向け隅へと歩き出す。
スフォルツァはやっと息を整え、去って行くフィフィルースで無く、先に勝ち上がり、待っているアイリスへと、その視線を向けた。
まるで愛する姫へ。
一番の強敵を倒し、勝者となった誇りを見せるような、そのスフォルツァの態度に。
会場中の猛者らが一斉に、やっかみのため息を漏らした。
アイリスは自分の横に駆け込み、座るスフォルツァの、息が弾む様子に。
そっと顔を寄せて囁きかける。
スフォルツァは直ぐ気づいて、アイリスの顔が寄るのに瞳を輝かせ、頬を一瞬で染めた。
アイリスはそんなスフォルツァの様子に、思わず言葉を詰まらせながら、そっと周囲の好奇の視線を伺った。
が、視線はやっぱり吸い付き、噂話が耳に飛び込む。
「奴ら、デキてるって本当だったのか?」
「さぁな。
があの大貴族の坊やが御姫様に、大層イカれてるのは確かだ」
「その愛しい姫の前で、無様晒さなきゃいいがな!」
一斉に、くすくす笑い。
アイリスはそんな陰口すら耳に入らない、嬉しそうなスフォルツァの様子を目に、ぐっとこらえ理性を保ち囁く。
「あの少年は?
無事迎えと共に、帰ったのか?」
途端スフォルツァは苦い笑みを何とか浮かべ、頷いて返答に代えた。
ラフォーレンが早朝、血相変えて飛んで来た。
眠ってるアシュアークを引き渡しながら、つい彼に愚痴ってしまったのを。
スフォルツァは思い返し、俯く。
『今日は、学年無差別剣の練習試合なんだ』
怒ってる表情で察したのか、ラフォーレンはびっくりした後、済まなそうに囁く。
『ごめん…そんな大事な時に目を離して。
…大丈夫そう?』
スフォルツァは、ラフォーレンが悪くない。と思い出し、怒っていたのを罰が悪そうに隠しながら、ぼそりとつぶやく。
『睡眠不足は確かだ』
『早々に、眠らせた?』
ラフォーレンの問いに、スフォルツァは頷く。
『今日、勝てそう?』
再び問われて、スフォルツァはぶっきらぼうに言い捨てる。
『学年一は、取るさ!』
ラフォーレンはびっくりして、目を見開いた。
『まるで学年一は軽いみたいだ』
スフォルツァは頷く。
『一つ年上は、去年ディアヴォロスと対戦したローランデ。
俺じゃ多分、歯が立たない』
ラフォーレンから見たら、自分ががっかりして見えたんだろう。
呆れたような表情で、まだ、言った。
『学年一で十分、凄くないか?』
が浮かない顔を上げたら、ラフォーレンが肩を竦めた。
だからそう…無様にローランデに、負ける様を晒す訳にはいかない。
が、負ける。と決まったような対戦に、正直気は重かった。
ドラーケンにさっきから刺すように睨まれていたが、気にもならない。
一番の強敵、アイリスがその剣を存分に、使う体力を見せなかったから。
後マークするのは、マレーと同室のラッツ。
身分は低いが、その剣は気迫が籠もり、勢いづかせると厄介な程、戦闘センスがいい。
そして大貴族、銀髪のフィフィー。
本名はフィフィルースだったが皆、愛称で呼んでいた。
年の割に感情表現が乏しく、いつも無表情でクール。
とても落ち着き払った、玄人肌の剣を使う。
打ち取る隙が殆ど無い、勝ちにくい相手だった。
が…。
それでもアイリスが存分に剣を使えば。
一番の強敵は、やはりアイリス。
護っているか。と思うと瞬時に攻撃に転じ、相手の隙を一瞬も見逃さず、的確に反応する剣は、見事だった。
一年から四年の剣の講師達四人がずらりと中央に並び、それぞれの受け持ち学年の生徒を見つめる中、四年担当の講師が、代表で高らかに告げる。
「今から恒例行事、学年無差別練習試合を始める。
この試合で勝った者は後日、『金の獅子』の称号を得、校長に賞される。
腕に覚えのある者は正々堂々、その力を発揮し『金の獅子』を目指せ!」
ううううおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!
全校生徒を飲み込む広い講堂が、どよめくように一斉に上げる猛者らの歓声で、揺れた。
一年達は上級生達の熱い熱波に飲まれたように、慌てて。
あるいはおどおどと、周囲を見回す。
「一年。前へ!」
講師のその言葉に、一年席に座る皆が立ち上がる。
背の低く、まだあどけなさの残る初々しい顔の群れが列を成し、おのおの中央へ、進み出る。
アイリスと並ぶスフォルツァは、上級生達の視線が一斉に、隣のアイリスへと注がれるのを感じた。
がつい習慣で。
まるでアイリスへの好奇の視線を、自分が遮り、護るように。
アイリスより少し前へ出て、胸を張り、アイリスを見つめる全ての視線を、弾き返した。
アイリスはスフォルツァの
『彼は俺の物だ』
と言わんばかりに好奇の視線から庇う姿に、呆れたものの。
横四列に並ぶ、一年列に付いた途端、スフォルツァから離れ、振り向く彼に一つ、頷いて見せる。
全部が四十名以上居たから、一列は十人を超えていた。
講師が入って来ると、私用の剣を使う大貴族の者達の、剣を調べて回る。
二人いる講師らは、それぞれ頷きあうと、一人が叫ぶ。
「向かい合え!」
四列の中央に立つ二列が、それぞれ背を向け会い、端の列の者と向かい合う。
アイリスは自分の正面が、同じ大貴族のミーリッツだと気づき、にっこり笑った。
が、ミーリッツは小声で囁く。
「お手柔らかに」
彼は明らかに、周囲をぐると取り囲む、体のデカい上級生達に見つめられている中での剣技に、飲まれてた。
ニ・三度打ち合うが、てんで体が固い。
アイリスは、すまない。とも思った。
が、シェイムが心配する通り、重しを全部付けていたから、剣を振ると直ぐ息が上がる。
それで隙を見つけ、真っ直ぐ斬り込んで一本取った。
ミーリッツは喉に、あっという間に一直線に刃を突きつけられ、負けて俯いた。
が、試合の重圧から解放され、ほっとしたようにアイリスに、やっと微笑みを返した。
離れた同じ列に居るスフォルツァは、とっくに終えていて。
落ち着き払って剣の具合を確かめてる。
彼の対戦相手は、元座ってた一年席へと、戻って行った。
四列は勝者のみを残し、今度は二列と成る。
その二列は、再び向かい合う。
シェイルは皆が、アイリスとスフォルツァに注目を注ぐのを見た。
「ちっ!あっと言う間に終わったぜ?!」
「簡単過ぎて、どんな手を使うのか、解らずじまいだ」
「その内、ちゃんとまともに打ち合うさ!」
次の相手は少し手ごたえがあったが…それでもアイリスは体力を温存した。
最終八人に残れば、簡単に勝たせてくれない相手ばかり。
相手に剣を存分に振るわせ、一瞬の隙に斬り込んだ。
「おおっ!」
声が飛ぶ。
がスフォルツァが自分を見つめているので、アイリスは。
その驚愕の声は、自分に向けられたのだと知る。
『あんまり、目立っちゃまずいな…』
思いながら、スフォルツァから視線を外すと。
四年の二列目に座り、視線を自分に向けてるオーガスタスと、目が合う。
彼は、笑っていた。
アイリスはふい。と視線を外す。
そしてとうとう一列に成った時。
途中半分は向かいに移って二列となり、再び向かい合う。
丁度12人居たから、六人ずつ。
アイリスの対戦相手は幸いな事に、残った豪の者の中でも比較的腕の劣る、大貴族のヨランデだったから。
アイリスは彼の気迫の剣を避け続け、やはり息が上がる前に一瞬の隙を見て、剣を腹に突き立てた。
「其れ迄!」
講師の、鋭い声が飛ぶ。
やはり講堂中が、ざわめいた。
アイリスは息を整えようと、俯く。
体力温存で一瞬でケリを付けたのが。
逆に、注目されてるようだ。
二年の、ローランデの視線まで、感じた。
がスフォルツァはまだ、激しい戦いを続けていた。
無理も無い。
相手は剛の者集う銀髪の一族の出の、大貴族フィフィルース。
その剣は隙無く、迂闊に打ち込めば直ぐ、鋭い切っ先で捌かれ、討ち取られる。
スフォルツァは誘い込むようなフィフィルースの剣に、良く耐え、時折鋭い剣を交わしながら、いきり立つ自分を抑え。
激しくなる攻防にきっちり剣を合わせ、フィフィルースの攻撃を防いでいた。
が、押していたのはフィフィルース。
普段の無表情とは打って変わって、激しい闘志をその表情に浮かび上がらせてる。
あの冷静な彼をここまで本気にし、攻撃させるスフォルツァは、並大抵じゃなかった。
どれだけフィフィルースがスフォルツァの隙を突き、剣を振り入れても。
全部、弾くか避けるか、止めて来る。
フィフィルースの、スピードが増す。
その凄まじい攻防に、会場中が息を飲む。
フィフィルースの怒濤の攻撃に、殆どの者は耐えきれず、必ず体勢を崩すのが常。
一瞬でも間に合わなければ、負け。
そしてその早さは、どんどん増して行く。
フィフィルースが一気に決めようと、激しい打ち合いの一瞬の隙に、鋭い切っ先を突き立てたのを。
スフォルツァは咄嗟に激しく剣を振り、弾き飛ばし、一瞬で握りを返す。
スフォルツァのその断固とした剣に、フィフィルースは顔をしかめ、横に大きく吹き飛ばされた剣を戻そうと、握りに力を込める。
が開いたフィフィルースの胸元に、剣を突き入れたのはスフォルツァが先。
フィフィルースは、喉元に突き立てられたスフォルツァの剣のきっ先に目を見開き、戻し掛けた剣を握ったまま、その動きを止めた。
「それまで!」
スフォルツァの気迫籠もるグリングレーの瞳は。
切っ先を突き付けたフィフィルースをきつく睨み、その迫力はまさしく武人のそれ。
講堂中が、年の割に完成された見事な戦いぶりに、どよめいている。
フィフィルースは、まだ目を、見開いていた。
が、スフォルツァの武人としての肝の据わった瞳に睨め付けられ、すっ。と剣を引く。
整った顔のスフォルツァの、剣を下げた時見せる静かなたたずまいと、一学年中でも背が高くしっかりした体格は、14の少年の域を超え16才相当に見えた。
が僅かに息を切らしていたのはスフォルツァの方。
フィフィルースは少しも、呼吸が乱れてはいない。
が、フィフィルースは悔しげな表情をその冷静な顔の上に、一瞬垣間見せ。
それでも顎を引き、顔をすっ。と上げた。
そしてスフォルツァをその場に残し、背を向け隅へと歩き出す。
スフォルツァはやっと息を整え、去って行くフィフィルースで無く、先に勝ち上がり、待っているアイリスへと、その視線を向けた。
まるで愛する姫へ。
一番の強敵を倒し、勝者となった誇りを見せるような、そのスフォルツァの態度に。
会場中の猛者らが一斉に、やっかみのため息を漏らした。
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