99 / 307
学年無差別剣の練習試合当日、講堂に姿を現す大物達
しおりを挟む
続々と、生徒達が朝食を終え講堂に集まり来る。
皆、練習用の剣を携えて。
大貴族達は皆、自分専用の剣を持っていたが、平貴族は練習場にある剣で済ます。
もちろん、手に馴染まないのは言うまでも無い。
長方形の、天窓始め大きな横窓から陽の差し込む、広大な講堂。
真ん中は広く空き、周囲を取り囲む、後ろに行くほど高くなる階段状の長椅子。
東西南北に配置された長椅子に、学年事に固まって座り始める。
ヤッケルが音を立てず、不安げな表情を覗かせながらも続々と詰めかける、猛者らを見守るシェイルの横に、腰掛ける。
学校一美しいと評判を取る、美麗なシェイルの顔を覗き込んで尋ねた。
「実力者達は全員、まだだな?
…ローランデを除いて」
講堂では並び始める面々が、早々に講堂内入りし、居住まいを正すローランデを意識してチラチラと盗み見る。
ヤッケルの横に座る、フィンスまでもがそっと、反対隣のローランデに屈むと囁く。
「去年と違い、随分注目されている」
ローランデはフィンスの表情が心配げなのに気づき、思わず微笑む。
「それでも勝たなければ、真の実力じゃ無い。
負ければ私に、その能力が無かったと言うだけだ」
ヤッケルは感心してシェイルに向き直る。
「…だってさ!
落ち着いてら!」
フィンスとローランデは同時にそう言ったヤッケルに振り向き、くすくすと笑った。
が…シェイルはそっと入り口を見やる。
義兄ローフィスが、入って来る。
オーガスタスの取り巻き達としゃべりながら。
けどオーガスタスの、奔放な赤毛なびく、目立つ長身は見あたらない。
ローフィスはいつも学年最後の四人には残るものの、それ以上勝ち上がるのに興味無い。
「どうせオーガスタスが一番だ。
敵うはずが無い。
大事なのは無様に負けない事と
『こいつにだけは負けたくない』
相手に勝てれば、それでいい」
ローフィスの『こいつにだけは…』って相手はもちろん、グーデン配下の男達。
幸い馬鹿力の能無しばかりだったから、ローフィスの器用な小回りに付いて行けず、いつもローフィスは勝ちを取っていた。
練習用の剣は脆い。
幾度も力任せに振っていると、相手の剣を折る前に、自分の剣が折れる。
もちろん、力任せの馬鹿力共の剣をまともに喰らっていたら、先に剣が折れるのはこっちだったが。
殆どが集合しざわめくその場に、ディングレーが姿を見せる。
いつも道理、三年の大貴族にその周囲を隙無くぐるりと、取り囲まれながら。
皆が学校勢力でも、大物達のその一団に、敬意すら払い、見つめる。
が………。
「編入生はどこだ?」
「金髪の長身が居ない」
ヤッケルがそのざわめきに、肩を竦める。
「ギュンターとディングレーの対決を、みんなそれは、楽しみにしてるんだな?」
フィンスとローランデがまた、おどけたその言いざまに、くすくすと笑った。
一年のアイリスが入り口から姿を見せる。
やはりその色白の美少年は
『高嶺の花』
と、上級生達のため息を誘った。
が当人はゆったりと優雅そのもので、落ち着き払ってる。
「…あいつ…見物だぜ?」
ヤッケルが言うとシェイルは反論した。
「だって、体が弱いと聞いた。
一年のトップはやっぱり大貴族の、スフォルツァだろうって」
がヤッケルは、濃い栗色の緩やかにくねる長髪で、色白の顔の周囲を覆う、済ましきった表情の気品あふれる美少年を睨め付け、囁く。
「…見かけ通りのタマじゃ、絶対無いさ!」
がフィンスが言い返す。
「奴もここに来る以上、それなりに鍛えられてるはずだ。
腕はそれなりには、確実にあるだろう?」
確かに一年の中では長身に見えた。
が入学して年が経つにつれ、猛烈な勢いでその背を伸ばす上級生達からしたら、小柄そのもの。
ざわめきまくる中、ようやく学校のボス、オーガスタスがその長身の威風堂々とした姿を入り口から現す。
いつも道理、小顔の口の端に笑みを浮かべ、誰よりも高い背とその素晴らしい体格で一斉に注目を浴びても、気にする様子すら無い。
がその鳶色の瞳の奥には戦闘意欲が満ち溢れ、全身から滲み出る、野生のライオンのような迫力に、皆が固唾を飲んだ。
次第に騒ぎは、収まりつつあった。
シェイルは三年席、最前列に座るディングレーを見る。
昨日アスランを託され、そのアスランを、試合に出ないグーデンに留守中に狙われては。
と、講師の一人に預けた。
今朝ディングレーがこっそり忍んで来て
『マレーも頼む』と託されたから…マレーも講師に預けた。
二人が講師の横に、無事いる姿を見ていたら…ディングレーと目が合った。
シェイルは、無言で頷く。
途端ディングレーは頷き返し、気に病む事が無くなったとばかり、その気迫をいや増す。
堂とした体格の、押し出し満点の気品溢れる王族の、黒髪の男前は。
オーガスタスに継いでその存在感を見せつけているようで、皆が一斉にその迫力に、視線を引き寄せられた。
皆、練習用の剣を携えて。
大貴族達は皆、自分専用の剣を持っていたが、平貴族は練習場にある剣で済ます。
もちろん、手に馴染まないのは言うまでも無い。
長方形の、天窓始め大きな横窓から陽の差し込む、広大な講堂。
真ん中は広く空き、周囲を取り囲む、後ろに行くほど高くなる階段状の長椅子。
東西南北に配置された長椅子に、学年事に固まって座り始める。
ヤッケルが音を立てず、不安げな表情を覗かせながらも続々と詰めかける、猛者らを見守るシェイルの横に、腰掛ける。
学校一美しいと評判を取る、美麗なシェイルの顔を覗き込んで尋ねた。
「実力者達は全員、まだだな?
…ローランデを除いて」
講堂では並び始める面々が、早々に講堂内入りし、居住まいを正すローランデを意識してチラチラと盗み見る。
ヤッケルの横に座る、フィンスまでもがそっと、反対隣のローランデに屈むと囁く。
「去年と違い、随分注目されている」
ローランデはフィンスの表情が心配げなのに気づき、思わず微笑む。
「それでも勝たなければ、真の実力じゃ無い。
負ければ私に、その能力が無かったと言うだけだ」
ヤッケルは感心してシェイルに向き直る。
「…だってさ!
落ち着いてら!」
フィンスとローランデは同時にそう言ったヤッケルに振り向き、くすくすと笑った。
が…シェイルはそっと入り口を見やる。
義兄ローフィスが、入って来る。
オーガスタスの取り巻き達としゃべりながら。
けどオーガスタスの、奔放な赤毛なびく、目立つ長身は見あたらない。
ローフィスはいつも学年最後の四人には残るものの、それ以上勝ち上がるのに興味無い。
「どうせオーガスタスが一番だ。
敵うはずが無い。
大事なのは無様に負けない事と
『こいつにだけは負けたくない』
相手に勝てれば、それでいい」
ローフィスの『こいつにだけは…』って相手はもちろん、グーデン配下の男達。
幸い馬鹿力の能無しばかりだったから、ローフィスの器用な小回りに付いて行けず、いつもローフィスは勝ちを取っていた。
練習用の剣は脆い。
幾度も力任せに振っていると、相手の剣を折る前に、自分の剣が折れる。
もちろん、力任せの馬鹿力共の剣をまともに喰らっていたら、先に剣が折れるのはこっちだったが。
殆どが集合しざわめくその場に、ディングレーが姿を見せる。
いつも道理、三年の大貴族にその周囲を隙無くぐるりと、取り囲まれながら。
皆が学校勢力でも、大物達のその一団に、敬意すら払い、見つめる。
が………。
「編入生はどこだ?」
「金髪の長身が居ない」
ヤッケルがそのざわめきに、肩を竦める。
「ギュンターとディングレーの対決を、みんなそれは、楽しみにしてるんだな?」
フィンスとローランデがまた、おどけたその言いざまに、くすくすと笑った。
一年のアイリスが入り口から姿を見せる。
やはりその色白の美少年は
『高嶺の花』
と、上級生達のため息を誘った。
が当人はゆったりと優雅そのもので、落ち着き払ってる。
「…あいつ…見物だぜ?」
ヤッケルが言うとシェイルは反論した。
「だって、体が弱いと聞いた。
一年のトップはやっぱり大貴族の、スフォルツァだろうって」
がヤッケルは、濃い栗色の緩やかにくねる長髪で、色白の顔の周囲を覆う、済ましきった表情の気品あふれる美少年を睨め付け、囁く。
「…見かけ通りのタマじゃ、絶対無いさ!」
がフィンスが言い返す。
「奴もここに来る以上、それなりに鍛えられてるはずだ。
腕はそれなりには、確実にあるだろう?」
確かに一年の中では長身に見えた。
が入学して年が経つにつれ、猛烈な勢いでその背を伸ばす上級生達からしたら、小柄そのもの。
ざわめきまくる中、ようやく学校のボス、オーガスタスがその長身の威風堂々とした姿を入り口から現す。
いつも道理、小顔の口の端に笑みを浮かべ、誰よりも高い背とその素晴らしい体格で一斉に注目を浴びても、気にする様子すら無い。
がその鳶色の瞳の奥には戦闘意欲が満ち溢れ、全身から滲み出る、野生のライオンのような迫力に、皆が固唾を飲んだ。
次第に騒ぎは、収まりつつあった。
シェイルは三年席、最前列に座るディングレーを見る。
昨日アスランを託され、そのアスランを、試合に出ないグーデンに留守中に狙われては。
と、講師の一人に預けた。
今朝ディングレーがこっそり忍んで来て
『マレーも頼む』と託されたから…マレーも講師に預けた。
二人が講師の横に、無事いる姿を見ていたら…ディングレーと目が合った。
シェイルは、無言で頷く。
途端ディングレーは頷き返し、気に病む事が無くなったとばかり、その気迫をいや増す。
堂とした体格の、押し出し満点の気品溢れる王族の、黒髪の男前は。
オーガスタスに継いでその存在感を見せつけているようで、皆が一斉にその迫力に、視線を引き寄せられた。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる