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アシュアークの事情
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アシュアークはその時の、がっかりした気分を思い返す。
ラフォーレンは屋敷の当主の父親に、見た事を報告してしまったから。
ミラッゼルが年下の美少年としたのは…初めてなんかじゃ無くって、常習犯。
僕のいるラフォーレンの部屋の、三つ向こうのミラッゼルの部屋で、屋敷の当主の雄叫びが聞こえて…。
僕は、ラフォーレンに見張られるように腕を掴まれたまま、その怒鳴り声を聞いていた。
「屋敷の下働きの少年の時は!
目をつぶった!
が、よりによって大恩ある「右の王家」の御曹司に手を出すとは!
ほとほと、お前には愛想が尽きた!
剣も教養もロクに学ばず、男の子ばかりと…恥知らずな行為に、のめり込むとは!
今直ぐ、荷物をまとめろ!
これ以上お前を、この屋敷には置かない!
直ぐ馬車で、サファンの別宅に発て!」
ミラッゼルはそうして、その夜の内に屋敷から追い出された。
僕は、ラフォーレンに尋ねた。
「…どうして、ダメなの?」
ラフォーレンは、癖のない真っ直ぐの、グレーがかった明るい栗毛で、グレーの瞳をした細面の美少年。
金色っぽい栗毛のミラッゼルより、大人しいカンジの少年だったけど。
きっぱり、言った。
「だって君の家はウチの家より、格が上だから」
「だって僕…嫌じゃ無いのに」
「でも、道徳的には良くないんだ」
僕はその時今よりかなり小さかったから、尋ねた。
「どうとくてき…って、なに?」
会話は、そこで終わり。
ラフォーレンは答えず、僕は“どうとくてき”に良くない理由で、ミラッゼルと会えなくなって…。
でも夜になると、抱きしめてくれる腕も、裸で抱き合うことも無くて、寂しくって。
何より、お尻の穴を突いてくれないと、体が変になって、辛くって…。
なのに誰も、突いてはくれず、ラフォーレンにねだったけど。
ラフォーレンは目をまん丸に見開いて、無言。
そして一目散に、逃げて行く。
頼むたびラフォーレンは、一目散に僕から逃げるから。
もうラフォーレンに頼むのをやめた。
そんな時。
近隣の貴族の子達は、面倒見のいいご婦人の屋敷を集会所にしていて、五歳を超えるとみんな出かけてた。
僕もラフォーレンと、一緒に出かけるようになった。
女の子も男の子もいて。
男の子達は大抵、綺麗な女の子が自分に気があるって話で盛り上がってて、誰も僕の事をそんな風には見てくれなくって、つまらなかった。
騒がしかったし、しょっ中喧嘩やいざこざばかり。
僕はしょっ中、体が辛くてたまらなくって、突いてほしくて相手を探したけど。
みんな、喧嘩をするか、女の子の事しか話さなくって、ダメだった。
そんな時、村の祭りがあって、少し年上の貴族の子達はみんな出かけたのに。
僕はまだ小さいからダメだって、連れて行って貰えなかったけど。
ラフォーレンの目を盗んで屋敷を抜け出し、こっそり出かけた。
その祭りで、ラウレスに会った。
ラウレスは、明るい栗毛とグレーの瞳をした感じの良いハンサムで。
貴族で品が良くて、背が高くて二十歳を超えていて。
うんと年上だったけど、僕の事情を察し、抱いてくれた。
慣れていて、とても上手で、そして優しかった。
けど暫くして、貴族の子供達の集会に、スフォルツァがやって来た。
僕の来る前からスフォルツァはいたけど、しばらく旅行に出てて、帰って来た。
集会所の屋敷でスフォルツァは、一番の英雄で一番素敵な男の子。
彼が来ると、男の子達も女の子達も、一斉にスフォルツァを取り巻いた。
男の子達は、高い崖から川に飛び込む事が唯一できて。
どんな時でも決して怯まず、とても勇敢なスフォルツァを尊敬していたし。
女の子達は、スフォルツァがとても毛並み良く、感じのよい素敵なハンサムで。
そして粋で女の子の扱いもダンスも上手だったから。
スフォルツァの視線が、自分にどれだけ向けられるかを、毎度競って金切り声を上げていた。
ラウレスと森の小屋でこっそり会って、偶然一緒に抱き合う姿を、スフォルツァに見られた。
その後、屋敷でみんなと屋外のテーブルで、お茶してた時。
スフォルツァと目が合った。
彼は近づいて来て、言った。
「…多分奴より、俺の方が君を満足させてやれる」
耳元で囁かれ…スフォルツァはウィンクした。
あんまり…男らしくて爽やかで…そしてチャーミングに見えて、彼に一目惚れ。
その後、スフォルツァとこっそり二人きりで会った時、温室で抱いてくれた。
ラウレスと違って…まだ少年のスフォルツァなのに。
凄く上手で、ミラッゼルとした時よりずっと、どきどきした。
優しいかと思うと、強引に抱き寄せられて…。
突かれ始めると、もうスフォルツァにぎゅっ!って抱きついて…声を上げてた。
もうおかしくなって、どうにかなりそうで。
体がくねりまくって、スフォルツァに縋り付くと、スフォルツァは優しく額に…頬に、口づけてくれた。
コロンの香りがして、けど凄く若々しくて…なのに、男らしくて。
もう、スフォルツァにぞっこんになった。
スフォルツァ無しで、いられないほど…。
それ以来、スフォルツァを追いかけたけど、スフォルツァは人気者で、いつも忙しくて。
時間が出来ると、抱いてくれたけど…。
でも人がいるとスフォルツァは僕を見ても知らんふりしたし、こっそりじゃなきゃ、会ってくれなくて…。
だから、仕方無くいつも抱いてくれる、ラウレスと会ってた。
スフォルツァは、抱き合ってる時は凄く情熱的だけど、それ以外はいつも素気ないから、理由を尋ねた。
そしたら…。
「だって相手してるのは、俺だけじゃないんだろう?」
そう言うから
「…スフォルツァだけにしたら…僕だけのものでいてくれる?」
って聞いた。
けどスフォルツァの返事はこうだった。
「お前にそれが、出来るのか?
俺一人じゃ満足出来ないから…俺と付き合い出してもまだ、ラウレスと続いてるんだろう?」
僕は…言いたかった。
“スフォルツァはいつも大勢取り巻きがいて!
更に付き合ってる美少女もいて!
都合が悪いと、抱いてくれないじゃないか!”
でも…。
なんとなく、分かった。
スフォルツァは…例えスフォルツァが忙しくて、僕と抱き合う事が出来ないときも。
僕にスフォルツァだけを、待っていて欲しいんだって。
でも、そんなの僕には、無理だった…。
体が、可笑しくなるせいもあったけど、温もりが無いと…。
寂しくて、気が狂いそうだったから。
だって、どうしたって、思い出してしまう。
馬車から身を乗り出し、手を振った両親の笑顔。
それが、最後。
二人はもう、帰って来なかった。
ぽつん。と城に取り残された僕のもとに来た祖母は
「まあまあ…」
そう言って抱きしめてくれて、冷えた手を、両手で握りしめて、そして抱き寄せてくれた。
あんまり…温かくって、涙がこぼれた。
「…どうして…ゼレッタとアスミス(父母の名)は、帰って来ないの?
もう…僕が、嫌いになったの?」
そう尋ねた時。
祖母はうんと、困ったのだろう…。
その後、どれだけ悪さしても、咎められた事が無い。
家宝の壺を割った時ですら、駆け寄り僕の両手を広げさせて、血の滲む手を見つめ、囁いた。
「血まみれだわ!痛くない?」
膝を付いて見上げる、優しい青の瞳。
ふくよかで柔らかな体。
必死で気遣う、暖かな温もり。
父母とは違ったけれど、大好きだった。
だけどある日…寝台に横になって、ひどい咳をしながら…彼女は言った。
「じきよ。アシュアーク。じき治って…一緒に庭でまた、お茶が楽しめるから」
けど彼女は目を閉じ…冷たくなって、結局寝台から、再び起き上がる事は無かった。
一人きりで温もりが無いと、繰り返し思い出す。
口を開け目を閉じた…優しい皺を刻んだ青ざめた顔が二度と…。
僕に、笑いかけてくれなかった事。
だらりと垂れた手は冷たく、固くなって、二度と温かくならなかった事…。
だから、必死だった。
スフォルツァがしばらく忙しいから。って抱いてくれないと、誰か代わりを探した。
ラウレスも旅行でいなくて、仕方なしに森番の若者とした時。
あんまり…大きくて乱暴で、血まみれで帰って以来、ラフォーレンが仕方なしに、相手をしてくれるようになった。
ラフォーレンは嫌々だったけど…。
凄く優しくて、大切に扱ってくれて、大好きだった。
けど…彼はスフォルツァを見つけると、ほっとして言う。
「スフォルツァに予定を、聞いてやるよ」
そして、スフォルツァの元へと飛んで行って、その後スフォルツァに僕を押しつけると、ラフォーレンは、ほっとしてた。
「ラフォーレンは僕が、嫌い?」
スフォルツァに尋ねると、スフォルツァは苦笑した。
「奴は女の子が大好きで、男の子は全然、好きじゃない」
分からなかった。
どうして…男の子だとダメなのか。
けどスフォルツァが、付き合ってる美少女を特別扱いして、いつも丁寧に接していて。
男の子達が、胸が豊満な年上の女の人を見て騒ぐのを聞いて、解った。
みんな、女の人が良くって男の子は相手に、しやしないんだって…。
何人かの年上の子が、僕とスフォルツァが抱き合ってるのを知っていて。
『練習台に、やらせろ』
と言われ
「いいよ」
って言った。
けど、他の子が言った。
「スフォルツァに、怒鳴られるぜ。
彼のモノだろう?こいつ」
どうしてスフォルツァが怒鳴るのかが分からなかったけど、でもその男の子は
「そうか…」
と言って、何もしないでそれきりだった。
後でスフォルツァに聞いた。
「他の子としたら、その子にスフォルツァは怒鳴るの?」
けどスフォルツァはやっぱり苦笑して言った。
「そうじゃない。
俺とした後だと、俺と比べられるし、自信がないから。
そう言って逃げたんだ」
「どうして逃げるの?」
スフォルツァは見とれる程整って男らしい顔で、言った。
「俺とだと、うんと気持ちいいんだろう?」
僕は頷く。
「…けど…気持ち良くなくても平気なのに」
スフォルツァの、眉間が寄った。
「抱いてくれるなら、誰でもいいのか?!」
僕は叫んでた。
「だってスフォルツァはずっと一緒に、いてくれない!」
駆け出そうとしたけど。
直ぐ腕を捕まえられ、抱きしめられて…。
息が止まりそうなくらいどきどきし…真剣な顔を傾けられて口づけられた時…。
こんな風に最高なのは、スフォルツァだけだって思った。
けど…ずっと温もりを得るには…。
馬車から笑顔で手を振る両親の顔と、口を開けて目を閉じる冷たい祖母の姿を思い出さずにいるためには…。
贅沢なんて、言えなかったから…。
仕方なかった。
だって…させると大事に、してくれる。
そうで無い相手ももちろん、いたけれど…。
それでも、抱き寄せられ、突かれてる間は温もりを、感じていられた。
それなしでは、寂しくていられなかった………。
ラフォーレンは屋敷の当主の父親に、見た事を報告してしまったから。
ミラッゼルが年下の美少年としたのは…初めてなんかじゃ無くって、常習犯。
僕のいるラフォーレンの部屋の、三つ向こうのミラッゼルの部屋で、屋敷の当主の雄叫びが聞こえて…。
僕は、ラフォーレンに見張られるように腕を掴まれたまま、その怒鳴り声を聞いていた。
「屋敷の下働きの少年の時は!
目をつぶった!
が、よりによって大恩ある「右の王家」の御曹司に手を出すとは!
ほとほと、お前には愛想が尽きた!
剣も教養もロクに学ばず、男の子ばかりと…恥知らずな行為に、のめり込むとは!
今直ぐ、荷物をまとめろ!
これ以上お前を、この屋敷には置かない!
直ぐ馬車で、サファンの別宅に発て!」
ミラッゼルはそうして、その夜の内に屋敷から追い出された。
僕は、ラフォーレンに尋ねた。
「…どうして、ダメなの?」
ラフォーレンは、癖のない真っ直ぐの、グレーがかった明るい栗毛で、グレーの瞳をした細面の美少年。
金色っぽい栗毛のミラッゼルより、大人しいカンジの少年だったけど。
きっぱり、言った。
「だって君の家はウチの家より、格が上だから」
「だって僕…嫌じゃ無いのに」
「でも、道徳的には良くないんだ」
僕はその時今よりかなり小さかったから、尋ねた。
「どうとくてき…って、なに?」
会話は、そこで終わり。
ラフォーレンは答えず、僕は“どうとくてき”に良くない理由で、ミラッゼルと会えなくなって…。
でも夜になると、抱きしめてくれる腕も、裸で抱き合うことも無くて、寂しくって。
何より、お尻の穴を突いてくれないと、体が変になって、辛くって…。
なのに誰も、突いてはくれず、ラフォーレンにねだったけど。
ラフォーレンは目をまん丸に見開いて、無言。
そして一目散に、逃げて行く。
頼むたびラフォーレンは、一目散に僕から逃げるから。
もうラフォーレンに頼むのをやめた。
そんな時。
近隣の貴族の子達は、面倒見のいいご婦人の屋敷を集会所にしていて、五歳を超えるとみんな出かけてた。
僕もラフォーレンと、一緒に出かけるようになった。
女の子も男の子もいて。
男の子達は大抵、綺麗な女の子が自分に気があるって話で盛り上がってて、誰も僕の事をそんな風には見てくれなくって、つまらなかった。
騒がしかったし、しょっ中喧嘩やいざこざばかり。
僕はしょっ中、体が辛くてたまらなくって、突いてほしくて相手を探したけど。
みんな、喧嘩をするか、女の子の事しか話さなくって、ダメだった。
そんな時、村の祭りがあって、少し年上の貴族の子達はみんな出かけたのに。
僕はまだ小さいからダメだって、連れて行って貰えなかったけど。
ラフォーレンの目を盗んで屋敷を抜け出し、こっそり出かけた。
その祭りで、ラウレスに会った。
ラウレスは、明るい栗毛とグレーの瞳をした感じの良いハンサムで。
貴族で品が良くて、背が高くて二十歳を超えていて。
うんと年上だったけど、僕の事情を察し、抱いてくれた。
慣れていて、とても上手で、そして優しかった。
けど暫くして、貴族の子供達の集会に、スフォルツァがやって来た。
僕の来る前からスフォルツァはいたけど、しばらく旅行に出てて、帰って来た。
集会所の屋敷でスフォルツァは、一番の英雄で一番素敵な男の子。
彼が来ると、男の子達も女の子達も、一斉にスフォルツァを取り巻いた。
男の子達は、高い崖から川に飛び込む事が唯一できて。
どんな時でも決して怯まず、とても勇敢なスフォルツァを尊敬していたし。
女の子達は、スフォルツァがとても毛並み良く、感じのよい素敵なハンサムで。
そして粋で女の子の扱いもダンスも上手だったから。
スフォルツァの視線が、自分にどれだけ向けられるかを、毎度競って金切り声を上げていた。
ラウレスと森の小屋でこっそり会って、偶然一緒に抱き合う姿を、スフォルツァに見られた。
その後、屋敷でみんなと屋外のテーブルで、お茶してた時。
スフォルツァと目が合った。
彼は近づいて来て、言った。
「…多分奴より、俺の方が君を満足させてやれる」
耳元で囁かれ…スフォルツァはウィンクした。
あんまり…男らしくて爽やかで…そしてチャーミングに見えて、彼に一目惚れ。
その後、スフォルツァとこっそり二人きりで会った時、温室で抱いてくれた。
ラウレスと違って…まだ少年のスフォルツァなのに。
凄く上手で、ミラッゼルとした時よりずっと、どきどきした。
優しいかと思うと、強引に抱き寄せられて…。
突かれ始めると、もうスフォルツァにぎゅっ!って抱きついて…声を上げてた。
もうおかしくなって、どうにかなりそうで。
体がくねりまくって、スフォルツァに縋り付くと、スフォルツァは優しく額に…頬に、口づけてくれた。
コロンの香りがして、けど凄く若々しくて…なのに、男らしくて。
もう、スフォルツァにぞっこんになった。
スフォルツァ無しで、いられないほど…。
それ以来、スフォルツァを追いかけたけど、スフォルツァは人気者で、いつも忙しくて。
時間が出来ると、抱いてくれたけど…。
でも人がいるとスフォルツァは僕を見ても知らんふりしたし、こっそりじゃなきゃ、会ってくれなくて…。
だから、仕方無くいつも抱いてくれる、ラウレスと会ってた。
スフォルツァは、抱き合ってる時は凄く情熱的だけど、それ以外はいつも素気ないから、理由を尋ねた。
そしたら…。
「だって相手してるのは、俺だけじゃないんだろう?」
そう言うから
「…スフォルツァだけにしたら…僕だけのものでいてくれる?」
って聞いた。
けどスフォルツァの返事はこうだった。
「お前にそれが、出来るのか?
俺一人じゃ満足出来ないから…俺と付き合い出してもまだ、ラウレスと続いてるんだろう?」
僕は…言いたかった。
“スフォルツァはいつも大勢取り巻きがいて!
更に付き合ってる美少女もいて!
都合が悪いと、抱いてくれないじゃないか!”
でも…。
なんとなく、分かった。
スフォルツァは…例えスフォルツァが忙しくて、僕と抱き合う事が出来ないときも。
僕にスフォルツァだけを、待っていて欲しいんだって。
でも、そんなの僕には、無理だった…。
体が、可笑しくなるせいもあったけど、温もりが無いと…。
寂しくて、気が狂いそうだったから。
だって、どうしたって、思い出してしまう。
馬車から身を乗り出し、手を振った両親の笑顔。
それが、最後。
二人はもう、帰って来なかった。
ぽつん。と城に取り残された僕のもとに来た祖母は
「まあまあ…」
そう言って抱きしめてくれて、冷えた手を、両手で握りしめて、そして抱き寄せてくれた。
あんまり…温かくって、涙がこぼれた。
「…どうして…ゼレッタとアスミス(父母の名)は、帰って来ないの?
もう…僕が、嫌いになったの?」
そう尋ねた時。
祖母はうんと、困ったのだろう…。
その後、どれだけ悪さしても、咎められた事が無い。
家宝の壺を割った時ですら、駆け寄り僕の両手を広げさせて、血の滲む手を見つめ、囁いた。
「血まみれだわ!痛くない?」
膝を付いて見上げる、優しい青の瞳。
ふくよかで柔らかな体。
必死で気遣う、暖かな温もり。
父母とは違ったけれど、大好きだった。
だけどある日…寝台に横になって、ひどい咳をしながら…彼女は言った。
「じきよ。アシュアーク。じき治って…一緒に庭でまた、お茶が楽しめるから」
けど彼女は目を閉じ…冷たくなって、結局寝台から、再び起き上がる事は無かった。
一人きりで温もりが無いと、繰り返し思い出す。
口を開け目を閉じた…優しい皺を刻んだ青ざめた顔が二度と…。
僕に、笑いかけてくれなかった事。
だらりと垂れた手は冷たく、固くなって、二度と温かくならなかった事…。
だから、必死だった。
スフォルツァがしばらく忙しいから。って抱いてくれないと、誰か代わりを探した。
ラウレスも旅行でいなくて、仕方なしに森番の若者とした時。
あんまり…大きくて乱暴で、血まみれで帰って以来、ラフォーレンが仕方なしに、相手をしてくれるようになった。
ラフォーレンは嫌々だったけど…。
凄く優しくて、大切に扱ってくれて、大好きだった。
けど…彼はスフォルツァを見つけると、ほっとして言う。
「スフォルツァに予定を、聞いてやるよ」
そして、スフォルツァの元へと飛んで行って、その後スフォルツァに僕を押しつけると、ラフォーレンは、ほっとしてた。
「ラフォーレンは僕が、嫌い?」
スフォルツァに尋ねると、スフォルツァは苦笑した。
「奴は女の子が大好きで、男の子は全然、好きじゃない」
分からなかった。
どうして…男の子だとダメなのか。
けどスフォルツァが、付き合ってる美少女を特別扱いして、いつも丁寧に接していて。
男の子達が、胸が豊満な年上の女の人を見て騒ぐのを聞いて、解った。
みんな、女の人が良くって男の子は相手に、しやしないんだって…。
何人かの年上の子が、僕とスフォルツァが抱き合ってるのを知っていて。
『練習台に、やらせろ』
と言われ
「いいよ」
って言った。
けど、他の子が言った。
「スフォルツァに、怒鳴られるぜ。
彼のモノだろう?こいつ」
どうしてスフォルツァが怒鳴るのかが分からなかったけど、でもその男の子は
「そうか…」
と言って、何もしないでそれきりだった。
後でスフォルツァに聞いた。
「他の子としたら、その子にスフォルツァは怒鳴るの?」
けどスフォルツァはやっぱり苦笑して言った。
「そうじゃない。
俺とした後だと、俺と比べられるし、自信がないから。
そう言って逃げたんだ」
「どうして逃げるの?」
スフォルツァは見とれる程整って男らしい顔で、言った。
「俺とだと、うんと気持ちいいんだろう?」
僕は頷く。
「…けど…気持ち良くなくても平気なのに」
スフォルツァの、眉間が寄った。
「抱いてくれるなら、誰でもいいのか?!」
僕は叫んでた。
「だってスフォルツァはずっと一緒に、いてくれない!」
駆け出そうとしたけど。
直ぐ腕を捕まえられ、抱きしめられて…。
息が止まりそうなくらいどきどきし…真剣な顔を傾けられて口づけられた時…。
こんな風に最高なのは、スフォルツァだけだって思った。
けど…ずっと温もりを得るには…。
馬車から笑顔で手を振る両親の顔と、口を開けて目を閉じる冷たい祖母の姿を思い出さずにいるためには…。
贅沢なんて、言えなかったから…。
仕方なかった。
だって…させると大事に、してくれる。
そうで無い相手ももちろん、いたけれど…。
それでも、抱き寄せられ、突かれてる間は温もりを、感じていられた。
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