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第九章 新しい生活
出立する馬車と騎乗組
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エルベスが姿を現し、全員が扉に振り向く。
「さて、城に先に行きますか?
それとも、ご実家に?
これからの城の修復、維持に、ご家族の協力を得ますか?
それとも私に一任される?」
戸口で一気に問い正され、皆が見守る中、ギュンターは俯いて考え込む。
顔を上げると、エルベスに告げる。
「…俺の城になろうが…あの城は地域の要で、誰もが、他人事じゃない。
今でも公の墓には、人が訪れて花を手向けていく。
実家に寄って、親父の指示を聞かないと」
エルベスは、笑顔で頷く。
が、その後全員を見回す。
「ええ…っと…。
全員で、ギュンターのご実家に同行し、その後城に行きますか?」
子供達が頷くのを見て、オーガスタスが肩をすくめ、シェイルが言う。
「俺らは子守だから。
奴らが行くとなれば、嫌でも同行だ」
ゼイブンも、仕方なしに頷く。
ギュンターが、ディンダーデンとディングレーを見る。
二人は見つめられ
「…だってそれが、目的だろう?」(ディングレー)
「お前の育った環境に、ちょっと興味がある」(ディンダーデン)
とそれぞれ意見を言う。
ギュンターは、目を見開いた。
「面倒な業務を抜け出す、口実じゃないのか?
俺を置いて、遊びに行っても構わないんだぞ?」
ディンダーデンが首を横に振りまくり、ディングレーが呻く。
「で、この田舎街で。
どう遊べって?」
ディンダーデンも頷く。
「せいぜい納屋で。
農家の女将さんと、しっとりまったり。か?」
ギュンターは、顔を下げた。
「…確かにあんたらが姿を見せたら、結婚相手の決まってない女達が、争奪戦始めるな」
ディンダーデンとディングレーは、顔を見合わせる。
ディングレーが俯いて零す。
「…万一孕ませたら。
お前の故郷でメンが割れてるから、バックレられない」
ディンダーデンも、顔を下げる。
「…だな。
ギュンター経由で、苦情が届く」
ローランデが、呆れて言った。
「普段は素性を隠して、遊ぶのか?
後で責任取らなくて良いように?!」
二人は互いの顔を見合わせ、ディングレーが呻く。
「…大抵は、ローフィスが何とかしてくれる」
ディンダーデンは顔を上げる。
「俺はやりたい放題したいから。
極力、面倒になりそうな局面は、避けてる!」
シェイルが呆れて言った。
「ぜんっ、ぜん、威張れないけどな」
オーガスタスも、無言で頷いた。
シェイルは横のローランデを見る。
「で、君はどうする?
これ以上ギュンターの内情に関わると、情にほだされないか?」
ギュンターが直ぐ、ローランデを見つめる。
ローランデは微笑んで、親友に告げた。
「でも…実は私も、どうしたらギュンターみたいな性格ができあがるのか。
ディンダーデン同様、興味がある」
そこでエルベスが、笑顔で口挟む。
「つまり、全員同行ですね?」
この言葉で、レイファスもファントレイユもテテュスも。
目をきらきらさせて、思いっきり頷く。
「では馬車へどうぞ」
言った後、騎乗したいギュンター、ディンダーデン、ディングレー、オーガスタスは、エルベスを見る。
「…騎乗したいお方は。
馬の用意をさせます」
四人は大きく頷いた。
城の、強固で頑健な西門から、ギュンターを先頭に、四騎は駆け出す。
なだらかな坂を下り草原を駆け、木立を抜けてまた広がる草原を駆ける。
右手の、かなり離れた高台に、立派な灰色の石の積まれた城が、背後の景色の中、そびえ立つのが見えた。
「あれが、ヴェッシェン城か?!」
オーガスタスの声に、先頭のギュンターは頷く。
「この草原は!
あの城の城主が健在だった頃、絶対盗賊が、入り込む事はなかったんだ!
今は持ち回りで警備し、住み着く盗賊を追い払ってはいるが!
一旦、大がかりな盗賊軍団が襲撃始めると、ここまで入り込む!
襲撃と同時に鐘が鳴り、皆はここから、脱兎のごとく避難する!」
ディンダーデンが見ると、木立の中に数人、きのこや木の実を摘む少年や少女の姿があった。
ディングレーは草原の向こうの、小さな池で、釣りをしてる少年の姿も見つける。
「子供の遊び場なのか?!」
ギュンターが、頷く。
「どこの領主もみんな貧乏だから。
子供達は、自分で食料調達できるこの場所が、腹の満たせる場所なんだ!」
ディンダーデンが問う。
「…お前もここで?!」
ギュンターは、頷く。
が、金の髪を振って、背後に振り向いて叫ぶ。
「だが、良い漁場とか、肥えたきのこの、穴場は。
仲の悪い領主の子等と、喧嘩しての奪い合いだ。
ここでは男は。
例え子供でも、喧嘩に強くないと、食料が手に入らない!」
オーガスタスを始め、ディンダーデンもディングレーも。
『納得いった』
と一斉に頷いた。
エルベスと他の者らは、東の正面門から馬車で出立した。
エルベスは馬車の窓から顔を出し、御者に叫ぶ。
「最近造った道を、行けるかい?!」
小太りの、りんごのほっぺの御者は、思い切り頷く。
「広くていい道で。
地元の農家は喜んでますよ!」
エルベスは微笑んで、馬車に戻る。
そして問いかける目を向ける、ローランデに説明する。
「こことギュンターの実家は、ぐるっと遠回りしないと、辿り付けないんで。
最短で行ける道を、作らせたんです。
本来は獣道で、坂で上がったり下がったり。
馬でしか通れなかったんですけどね。
幅を広げ、かなり坂を埋めたんです」
御者が、叫ぶ。
「高いとこから土を削って!
低い場所に盛らないと、とても馬車では通れませんからねぇ!
でも誰もが自分の領地の作業で手一杯。
そんな工事できる余裕なんて、とても無くて、長い間手つかずでしたからねぇ。
この辺りの農家の馬車は、毎度うんと、遠回りでしたよ!」
言ってる間にも、果実を積んだ荷馬車とすれ違う。
御者の農夫は、馬車に笑顔で会釈する。
次には、樽を積んだ荷馬車。
牛を引いて歩く、牛追いも会釈していく。
「…みんな、笑顔だ…」
馬車から顔出して見てる、レイファスがつぶやく。
ファントレイユもレイファスに並んで馬車の窓から顔を出し、笑顔でレイファスに振り向く。
「みんな、嬉しそうだね?!」
テテュスは二人の後ろから、それを聞いて横のエルベスに微笑む。
「エルベス、凄い!!!」
向かいに座る、ローランデもシェイルもゼイブンも。
いつも大公然としてるエルベスが、テテュスの賞賛に。
本当に嬉しそうに、微笑むのを見た。
「誰に言われても嬉しいけど。
君にそういわれるのが、一番嬉しい」
レイファスが、振り向いて無邪気に叫ぶ。
「僕も凄い!って思うよ!」
ファントレイユもが笑顔で振り向く。
「僕も!」
エルベスは幸せが三倍になったみたいに、本当に嬉しそうに微笑んだ。
つい、ローランデが囁く。
「大公、ご自身のお子様は?
その…立ち入ったことを聞いて、申し訳無いんですが…」
エルベスは途端、ため息を吐く。
「私には二人の姉が居て。
下の姉の三人の子供達の、その子供が、テテュスとレイファスとファントレイユなんだけど。
実は私も含め、皆未婚なんだ」
この告白に、ローランデとシェイルがびっくりして目を見開く。
「アイリスの母の…下の姉は、婚約者が嫌いで。
未婚のまま別の男を相手に、アイリスとセフィリアとアリシャを産んだ。
上の姉は…遊び回ってると思われてるけど。
大公家のバックアップ出来る大物と、常に渡りを付けてる。
二人は父亡き後、一人で切り盛りしてる母を助け…。
殆ど大公家に尽くしてる。
その二人が。
私の連れてくる女性全部が、気に入らないと、追い出してしまって」
レイファスが、素朴に尋ねる。
「政略結婚は、しないの?」
エルベスは肩をすくめた。
「下の姉…君達の祖母が政略結婚を嫌って、君達の親を産んだ。
その結婚を決めた父は、早くに亡くなっていて。
…以来私の母は、本当に好きな相手と結婚しろと」
シェイルが、思い切り顔を下げた。
「けどあなたが好きな人を連れてくると。
二人の姉が、邪魔をするんですね?」
エルベスは、苦笑する。
「どうも、私は跡取りだから。
心配されすぎてるようだ」
言った後、場の全員に同情されてるエルベスは、囁く。
「だがいつか。
母と姉が首を縦に振るような女性に出会える希望を、私は捨ててないから」
皆、どう励まして良いのか分からず、困ったように苦笑した。
子供達、だけが。
「エルベスなら、絶対見つかる!」(テテュス)
「史上最高峰の女性が、絶対現れるよ!」(レイファス)
ファントレイユは大人達同様、ちょっと困りながらも
「…いつかお姉さん達も。
諦めると思う」
と、かなり控えめな応援をした。
ゼイブンが、唸った。
「そこのローランデもそうだが。
家が由緒と地位のある家柄だと、跡取りはワガママ出来ないしな。
俺なんて、吹けば飛ぶような田舎貴族で、やりたい放題出来るぜ」
ファントレイユが、顔を上げる。
「僕も…出来る?」
「お前は家しょって無いが。
セフィリアは口出すだろうな」
ファントレイユが、しょんぼりし、レイファスも項垂れた。
「アリシャもきっと…口出すね」
そして、二人はテテュスを見た。
テテュスは見られて、慌てて顔を背けた。
「…僕は、僕がお人好しすぎて、とんでもない女に掴まりかねないから。
ローフィスが判断してくれるって」
ファントレイユもレイファスも、顔を見合わせる。
「…アリシャもセフィリアも、騙されない。
なんて当たり前で…」
レイファスが言いかけると、ファントレイユも頷いた。
「その上に、上品。だとか控えめ、だとか、教養がある…だとか…」
レイファスが、項垂れた。
「うん。
いっぱい上に、くっつくと思う」
テテュスが、同情してため息を吐き、シェイルとローランデはファントレイユの父親の、ゼイブンを揃って見た。
「…俺はファントレイユが、男にヨロめかなかったら、それだけで満足だ」
エルベス、だけが。
「私の姉たちも、そんなレベルだと、心から嬉しいんですがねぇ…」
とぼやいた。
ローランデとシェイルは顔を見交わし合い、同時に控えめに、ため息を漏らした。
「さて、城に先に行きますか?
それとも、ご実家に?
これからの城の修復、維持に、ご家族の協力を得ますか?
それとも私に一任される?」
戸口で一気に問い正され、皆が見守る中、ギュンターは俯いて考え込む。
顔を上げると、エルベスに告げる。
「…俺の城になろうが…あの城は地域の要で、誰もが、他人事じゃない。
今でも公の墓には、人が訪れて花を手向けていく。
実家に寄って、親父の指示を聞かないと」
エルベスは、笑顔で頷く。
が、その後全員を見回す。
「ええ…っと…。
全員で、ギュンターのご実家に同行し、その後城に行きますか?」
子供達が頷くのを見て、オーガスタスが肩をすくめ、シェイルが言う。
「俺らは子守だから。
奴らが行くとなれば、嫌でも同行だ」
ゼイブンも、仕方なしに頷く。
ギュンターが、ディンダーデンとディングレーを見る。
二人は見つめられ
「…だってそれが、目的だろう?」(ディングレー)
「お前の育った環境に、ちょっと興味がある」(ディンダーデン)
とそれぞれ意見を言う。
ギュンターは、目を見開いた。
「面倒な業務を抜け出す、口実じゃないのか?
俺を置いて、遊びに行っても構わないんだぞ?」
ディンダーデンが首を横に振りまくり、ディングレーが呻く。
「で、この田舎街で。
どう遊べって?」
ディンダーデンも頷く。
「せいぜい納屋で。
農家の女将さんと、しっとりまったり。か?」
ギュンターは、顔を下げた。
「…確かにあんたらが姿を見せたら、結婚相手の決まってない女達が、争奪戦始めるな」
ディンダーデンとディングレーは、顔を見合わせる。
ディングレーが俯いて零す。
「…万一孕ませたら。
お前の故郷でメンが割れてるから、バックレられない」
ディンダーデンも、顔を下げる。
「…だな。
ギュンター経由で、苦情が届く」
ローランデが、呆れて言った。
「普段は素性を隠して、遊ぶのか?
後で責任取らなくて良いように?!」
二人は互いの顔を見合わせ、ディングレーが呻く。
「…大抵は、ローフィスが何とかしてくれる」
ディンダーデンは顔を上げる。
「俺はやりたい放題したいから。
極力、面倒になりそうな局面は、避けてる!」
シェイルが呆れて言った。
「ぜんっ、ぜん、威張れないけどな」
オーガスタスも、無言で頷いた。
シェイルは横のローランデを見る。
「で、君はどうする?
これ以上ギュンターの内情に関わると、情にほだされないか?」
ギュンターが直ぐ、ローランデを見つめる。
ローランデは微笑んで、親友に告げた。
「でも…実は私も、どうしたらギュンターみたいな性格ができあがるのか。
ディンダーデン同様、興味がある」
そこでエルベスが、笑顔で口挟む。
「つまり、全員同行ですね?」
この言葉で、レイファスもファントレイユもテテュスも。
目をきらきらさせて、思いっきり頷く。
「では馬車へどうぞ」
言った後、騎乗したいギュンター、ディンダーデン、ディングレー、オーガスタスは、エルベスを見る。
「…騎乗したいお方は。
馬の用意をさせます」
四人は大きく頷いた。
城の、強固で頑健な西門から、ギュンターを先頭に、四騎は駆け出す。
なだらかな坂を下り草原を駆け、木立を抜けてまた広がる草原を駆ける。
右手の、かなり離れた高台に、立派な灰色の石の積まれた城が、背後の景色の中、そびえ立つのが見えた。
「あれが、ヴェッシェン城か?!」
オーガスタスの声に、先頭のギュンターは頷く。
「この草原は!
あの城の城主が健在だった頃、絶対盗賊が、入り込む事はなかったんだ!
今は持ち回りで警備し、住み着く盗賊を追い払ってはいるが!
一旦、大がかりな盗賊軍団が襲撃始めると、ここまで入り込む!
襲撃と同時に鐘が鳴り、皆はここから、脱兎のごとく避難する!」
ディンダーデンが見ると、木立の中に数人、きのこや木の実を摘む少年や少女の姿があった。
ディングレーは草原の向こうの、小さな池で、釣りをしてる少年の姿も見つける。
「子供の遊び場なのか?!」
ギュンターが、頷く。
「どこの領主もみんな貧乏だから。
子供達は、自分で食料調達できるこの場所が、腹の満たせる場所なんだ!」
ディンダーデンが問う。
「…お前もここで?!」
ギュンターは、頷く。
が、金の髪を振って、背後に振り向いて叫ぶ。
「だが、良い漁場とか、肥えたきのこの、穴場は。
仲の悪い領主の子等と、喧嘩しての奪い合いだ。
ここでは男は。
例え子供でも、喧嘩に強くないと、食料が手に入らない!」
オーガスタスを始め、ディンダーデンもディングレーも。
『納得いった』
と一斉に頷いた。
エルベスと他の者らは、東の正面門から馬車で出立した。
エルベスは馬車の窓から顔を出し、御者に叫ぶ。
「最近造った道を、行けるかい?!」
小太りの、りんごのほっぺの御者は、思い切り頷く。
「広くていい道で。
地元の農家は喜んでますよ!」
エルベスは微笑んで、馬車に戻る。
そして問いかける目を向ける、ローランデに説明する。
「こことギュンターの実家は、ぐるっと遠回りしないと、辿り付けないんで。
最短で行ける道を、作らせたんです。
本来は獣道で、坂で上がったり下がったり。
馬でしか通れなかったんですけどね。
幅を広げ、かなり坂を埋めたんです」
御者が、叫ぶ。
「高いとこから土を削って!
低い場所に盛らないと、とても馬車では通れませんからねぇ!
でも誰もが自分の領地の作業で手一杯。
そんな工事できる余裕なんて、とても無くて、長い間手つかずでしたからねぇ。
この辺りの農家の馬車は、毎度うんと、遠回りでしたよ!」
言ってる間にも、果実を積んだ荷馬車とすれ違う。
御者の農夫は、馬車に笑顔で会釈する。
次には、樽を積んだ荷馬車。
牛を引いて歩く、牛追いも会釈していく。
「…みんな、笑顔だ…」
馬車から顔出して見てる、レイファスがつぶやく。
ファントレイユもレイファスに並んで馬車の窓から顔を出し、笑顔でレイファスに振り向く。
「みんな、嬉しそうだね?!」
テテュスは二人の後ろから、それを聞いて横のエルベスに微笑む。
「エルベス、凄い!!!」
向かいに座る、ローランデもシェイルもゼイブンも。
いつも大公然としてるエルベスが、テテュスの賞賛に。
本当に嬉しそうに、微笑むのを見た。
「誰に言われても嬉しいけど。
君にそういわれるのが、一番嬉しい」
レイファスが、振り向いて無邪気に叫ぶ。
「僕も凄い!って思うよ!」
ファントレイユもが笑顔で振り向く。
「僕も!」
エルベスは幸せが三倍になったみたいに、本当に嬉しそうに微笑んだ。
つい、ローランデが囁く。
「大公、ご自身のお子様は?
その…立ち入ったことを聞いて、申し訳無いんですが…」
エルベスは途端、ため息を吐く。
「私には二人の姉が居て。
下の姉の三人の子供達の、その子供が、テテュスとレイファスとファントレイユなんだけど。
実は私も含め、皆未婚なんだ」
この告白に、ローランデとシェイルがびっくりして目を見開く。
「アイリスの母の…下の姉は、婚約者が嫌いで。
未婚のまま別の男を相手に、アイリスとセフィリアとアリシャを産んだ。
上の姉は…遊び回ってると思われてるけど。
大公家のバックアップ出来る大物と、常に渡りを付けてる。
二人は父亡き後、一人で切り盛りしてる母を助け…。
殆ど大公家に尽くしてる。
その二人が。
私の連れてくる女性全部が、気に入らないと、追い出してしまって」
レイファスが、素朴に尋ねる。
「政略結婚は、しないの?」
エルベスは肩をすくめた。
「下の姉…君達の祖母が政略結婚を嫌って、君達の親を産んだ。
その結婚を決めた父は、早くに亡くなっていて。
…以来私の母は、本当に好きな相手と結婚しろと」
シェイルが、思い切り顔を下げた。
「けどあなたが好きな人を連れてくると。
二人の姉が、邪魔をするんですね?」
エルベスは、苦笑する。
「どうも、私は跡取りだから。
心配されすぎてるようだ」
言った後、場の全員に同情されてるエルベスは、囁く。
「だがいつか。
母と姉が首を縦に振るような女性に出会える希望を、私は捨ててないから」
皆、どう励まして良いのか分からず、困ったように苦笑した。
子供達、だけが。
「エルベスなら、絶対見つかる!」(テテュス)
「史上最高峰の女性が、絶対現れるよ!」(レイファス)
ファントレイユは大人達同様、ちょっと困りながらも
「…いつかお姉さん達も。
諦めると思う」
と、かなり控えめな応援をした。
ゼイブンが、唸った。
「そこのローランデもそうだが。
家が由緒と地位のある家柄だと、跡取りはワガママ出来ないしな。
俺なんて、吹けば飛ぶような田舎貴族で、やりたい放題出来るぜ」
ファントレイユが、顔を上げる。
「僕も…出来る?」
「お前は家しょって無いが。
セフィリアは口出すだろうな」
ファントレイユが、しょんぼりし、レイファスも項垂れた。
「アリシャもきっと…口出すね」
そして、二人はテテュスを見た。
テテュスは見られて、慌てて顔を背けた。
「…僕は、僕がお人好しすぎて、とんでもない女に掴まりかねないから。
ローフィスが判断してくれるって」
ファントレイユもレイファスも、顔を見合わせる。
「…アリシャもセフィリアも、騙されない。
なんて当たり前で…」
レイファスが言いかけると、ファントレイユも頷いた。
「その上に、上品。だとか控えめ、だとか、教養がある…だとか…」
レイファスが、項垂れた。
「うん。
いっぱい上に、くっつくと思う」
テテュスが、同情してため息を吐き、シェイルとローランデはファントレイユの父親の、ゼイブンを揃って見た。
「…俺はファントレイユが、男にヨロめかなかったら、それだけで満足だ」
エルベス、だけが。
「私の姉たちも、そんなレベルだと、心から嬉しいんですがねぇ…」
とぼやいた。
ローランデとシェイルは顔を見交わし合い、同時に控えめに、ため息を漏らした。
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