アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第八章 『中央護衛連隊長就任』

フィナーレ近づくダンス

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 アナフラティシアに腕を引かれ、楽者達が全員派手に楽器を鳴り響かせ、ギュンターは頭の中の…ディアヴォロスの声に心の耳傾ける。

ビジョンで次の動作が垣間見え、アナフラティシアが飛ぶのを受け止め、ふわっと宙に一瞬持ち上げ、そして下ろす。

そしてまたアナフラティシアは飛び上がるので、ギュンターは抱き留め、そして出来るだけ優雅に、下ろす。

華やかに女性達は色とりどりのドレス翻し、男性に持ち上げられ、皆その美しさに見惚れ、万雷の拍手が沸く。

それは男性の周囲を一周し終えるまで続き、ギュンターはまたアンチョコのディアヴォロスからのビジョンに、数秒遅れたアナフラティシアの、前後に足開き深く床に着く程身を沈める様子に、余裕で視線を下げる。

アナフラティシアは腰を低く落としたまま、両腕揃えて前方へ伸ばし、頭垂れて俯いた瞬間。
ギュンターはその両手を掴み、引き上げる。

“力まないように”
ディアヴォロスに注釈入れられ、ギュンターは力を抜き、出来るだけソフトに。
けれどアナフラティシアが立ち上がれる程度に力を込めて、引き上げた。

その後、アナフラティシアが一気に腕に飛び込んで来る。

ギュンターは遠い昔、ローランデがローフィスとこの踊りを踊って、次の…一気に近づいて、口づけるぐらい顔を近づける動作で、思いっきり相手のローフィスに腹を立て、妬いた事を思い出した。

アナフラティシアが笑顔で顔を寄せる。
ギュンターも微笑み返すものの、ローランデが妬いてくれたら。

と、チラと視線を、端で見てるローランデに投げる。
が、ローランデは、嫉妬の微塵もない笑顔。

内心、がっくりしたいのを我慢し、あと少しで踊りが終わる…!
と気合い入れ直し、フィナーレの派手なタンバリンの音で再びアナフラティシアに、口付けるように顔寄せる。

「(…これを…後何回繰り返すんだっけ?)」
と疑問を頭に描いたが、ディアヴォロスからは
“タンバリンの音が鳴り止むまで”
と言われ…。

「(奏者次第か…)」
と、チラ…とタンバリン持つ奏者に視線を送る。


見てる皆は
「あれで二人の関係が、丸わかりだな」
と言う、ゼイブンの言葉に、一斉注視してた。

見られたゼイブンは、戸惑ってアイリスに振る。
「だってそうだろう?」

アイリスは説明を任され、顔を下げ気味で解説した。

「王と王妃はアツアツ。
ディンダーデンは相手と寝たい、とアピールし、相手の彼女は、少し戸惑ってる」

ローフィスが、跡を継ぐ。
「けど頬染めてるから、多分迫られたら頷くな」

ゼイブンとアイリスが同意して無言で頷き、ディングレー、ファントレイユ、レイファス、テテュスに目を見開いて見つめられた。

「…ギュンターは…まるで妹みたいに相手を思ってる?」
ファントレイユに聞かれ、ゼイブンは頷く。

「二人の間に、色気はまるで無い。
アナフラティシア狙いの男達は、安心の笑顔浮かべてる筈だ」

「ダンザインは凄く紳士的だ」
レイファスが言うと、ゼイブンは頷く。
「彼女の方が、寝たい。
と思ってる」

ディングレーが疑問を口にする。
「ディアヴォロスは相手の女性と、とっくに寝てる。
と俺でも分かるが…アルファロイスの相手は奥さんだろう?
彼女、めちゃめちゃ素っ気無いけど…どう見る?」

「ありゃ、気位高いから隠してるが…」
とローフィスが言い、アイリスも頷く。
「彼女の方が、熱烈だ。
だが不幸なのは…アルファロイスは彼女のそんな思いに、気づいてない」

言われて、テテュスは目をぱちくりさせた。
「だって、どう見ても…アルファロイスの方が笑顔で彼女を見つめていて、なのに彼女は、あんまアルファロイスと、目を合わせないのに?」

レイファスもファントレイユも、テテュスに同意する。

頷く息子に、ゼイブンは頭をくしゃっと撫でて言った。
「もっと経験積めば、分かるようになる。
惚れすぎてると、逆に見られない時もあるんだ」

「………………………………………」

ファントレイユが黙り込み、テテュスも、気持ちは分かる。
とファントレイユを見つめ、が、レイファスだけは頷いて
「覚えとく」
と言った。

ディングレーが
「あんたらの見識が、間違ってるだけじゃないのか?
テテュスが正解だろう?」
と言って、オーガスタスに横に思いっきり首振られてダメ出しを受け、ディングレーはオタついた。

「…お前、何年ローフィスと付き合ってる」
オーガスタスに問われ、ディングレーはローフィスの見解が、間違った事がほぼナイのを思い出し、顔を下げた。

ファントレイユとテテュスも、気の毒そうにディングレーを見上げる。

こそっ…とテテュスが
「僕、分かんない」
とつぶやき、ファントレイユも
「僕も。
だってアルファロイスの奥さん、凄く冷淡に見えるのに」
と、同意した。

エルベスが背後から
「凄く好きだと、緊張してしゃべれなくなったこと、無い?」
と聞かれ、顔を上げる。

その、素晴らしく上品で頼りがいのある若々しい大公の顔を、ファントレイユとテテュスは、揃って見上げる。

「で、何でも無い相手には、笑顔を気楽に振りまけたことは?」
なおもエルベスに問われ、ファントレイユは顔下げる。
そして、上げて言った。
「それ、アルファロイスは相手が奥さんなのに、その他大勢みたいに気楽に笑顔、振りまいてる。ってこと?」
と聞き、テテュスは顔下げた。

気づいたファントレイユが、テテュスを見る。
「…あるんだ」
テテュスは、頷いた。
「最初、僕ファントレイユ相手だとまだしゃべれたけど、レイファス相手だと…凄く戸惑った。
意識すると…全然気楽に、しゃべれないんだ」

レイファスが、振り向く。
テテュスは即座に顔を上げて言った。
「今はファントレイユと同じぐらい、しゃべれる」

レイファスは無言で頷いた。

大人達は、テテュスのその的違いな恋心を、心から気の毒に思った。
が、ファントレイユがぼそり…と告白する。

「でも僕も、最初レイファスのコト、男装した女のコと間違えて、凄く緊張してロクにしゃべれなかった」

大人達に一斉に見つめられながらも、ファントレイユは口開く。
「今は流石に、レイファスの外見に騙されて惚れ込む男の子って、気の毒。
って思ってる」

レイファスは無言で、ぷんぷん怒っていて、皆こっそり、くすくす笑った。

スフォルツァとラフォーレンは、内情知ってるので顔を見合わせ、結局スフォルツァが言った。
「アルファロイスは奥さんを大切にしてるけど。
ララベルがそこまでアルファロイスに熱烈だ。
なんて、俺ですら見当つきませんけど」

ラフォーレンも同意して頷く。

ディングレーが、右将軍派からの見解を聞いて、ほっと胸をなで下ろす。

が、ゼイブンは
「恋してるからって。
全部が全部、ギュンターみたいに分かりやすくデレデレすると、思うな」
と釘を刺し、ローフィスも頷く。
「気位高く、あれだけの美女で取り巻きも大勢。
なのに本命のアルファロイスに、自分と同じ位情熱無けりゃ、ああいう態度になるよな」

アイリスが、ぼそり…と言った。
「かわいさ余って憎さ百倍」

スフォルツァとラフォーレンが、揃って顔を下げ、ディングレーが敗戦のため息を吐き、ファントレイユだけが
「どうなったの?」
と聞き、オーガスタスに
「アイリスとローフィスだぞ?
この二人の見解に反論しようと思ったら、よほどの目利きじゃないと無理だ」
と言われた。

レイファスがファントレイユに代わって問う。
「ゼイブンは?」

シェイルが、レイファスを見つめて答えた。
「恋愛がらみの時だけ、アイリスとローフィス並みの鋭さを発揮する」

レイファスとテテュスが同時に「分かった」と頷き、ゼイブンはぶすったれ、ファントレイユは哀しそうに、そんなゼイブンを、見上げた。

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