アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第八章 『中央護衛連隊長就任』

元気が思い切り回復する仲間達

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 レッツァディンの元へ、使者が雪崩れ込んで来る。
「出立しました!
一同は、オーガスタス、ディンダーデン、ディングレー、ローランデ…そして先頭は神聖神殿隊付き連隊の案内役のようです!」

レッツァディンはそれを聞いて叫ぶ。
「脇道に刺客を配し、枝道に入られないよう邪魔しろ!」
そして待機する皆に顔向ける。
「直ぐ発つぞ!」

ララッツは横のレルムンスが、いかにも逃げ出したい様子見せるのに、囁く。
「ディンダーデンの相手は俺がする」

ララッツの背後から、ラルファツォルが通り過ぎながら告げる。
「奴は俺が斬る」

二人は近衛の剣豪の、去って行く背を無言で同時に、見つめた。
ララッツは横で、レルムンスが歓喜の表情を浮かべるのを見た。

鋼のような一本気なラルファツォルが日頃、ディンダーデンの暴虐に眉寄せまくってるのを、知っていた。

「ラルファツォルが相手なら…幾らディンダーデンでもやっとここで、死んでくれるかも…!」

「(仮にも、ディンダーデンはいとこだろう?)」
ララッツは言いたかった。
がレルムンスがあまりに嬉しげで、声が出なかった。


ザースィンはレッツァディンの横で騎乗しながら、チラ…と主を見る。
ギュンターは、レッツァディンが沈める気だ。

仕方無い…。
と吐息吐き、自分の相対する相手はローランデか。
と俯く。

ローランデとは剣を交えるより………。
奴の剣はたき落とし、組み敷けたら…。
そしてレッツァディンがギュンターの相手してる間に、悲願を果たせたら。
ローランデに口づけ衣服剥ぎ、そして…………。

が、横で騎乗したフォルデモルドが、嬉しげに大声で吠えた。

「やっと!オーガスタスを殺れる!」



 夕食の席に、子供達がその人数が減っているのに、首捻る。
レイファスが、不機嫌極まりないシェイルに、腫れ物扱うようにそっ…と囁く。

「ギュンターが…居ないね?」

テテュスも見回し、アイリスに囁く。
「ローランデもディングレーも…ディンダーデンも………オーガスタス迄居ない…」

アイリスは苦笑する。
「ギュンターの中央護衛連隊長就任式を明日、手早く済ませる為に、地方護衛連隊官舎に皆追従して出立したんだ」

「…エルベスも?」
愛息テテュスの愛らしい顔に、アイリスは微笑浮かべ、顔傾けて返答する。
「エルベスは、就任式の手はずで大忙ししてる」

ファントレイユがようやく、そっと呟いた。
「…………ゼイブンも…居ない?」

ローフィスが大きく溜息付き、ファントレイユに囁く。
「俺かアイリスが行けたら、ゼイブンは解放してやれたんだが」

シェイルがフォークの肉を口に運びながら素っ気無く言い放つ。
「二人とも負傷が癒えてないから、ゼイブンが道案内役として出かけた」

レイファスとテテュスが、真ん中のファントレイユが思い切り顔、下げるのを心配げに見つめる。

アイリスが気の毒げに囁く。
「多分案内役が終わったら…そのまま神聖神殿隊付き連隊官舎で仕事に戻ると思う…。
でも使者を出して、ゼイブンがここに戻って来てくれるように、私が手配するから」

アイリスの気遣い溢れる言葉。
それでも…ファントレイユは顔、上げなかった。

心配げに見つめるアイリスに、レイファスが告げる。
「…ゼイブン…大人のファントレイユがどういう姿か、忘れてる癖に…。
ファントレイユに助けられたのに…。
あの後、全然ファントレイユを構わないんだ!」

アイリスが、くすっ。と笑う。
ローフィスが憮然。と告げる。
「オーガスタスだって、泣き顔ディアヴォロスに見られた。
と、あの後暫くディアスを避けてたぞ。
恥ずかしいんだ。
それどころじゃなくて、取り繕ってる間なんかなくて、そのまま地が出てるから」

ファントレイユが顔を、上げる。
「…大人の僕に、助けられたから恥ずかしいの?」
ローフィスが、むすっと告げる。
「多分そっちじゃない。
…洞窟の一件だ」


アッカマンは残った滞在者達の夕食の食卓で、楽しげな笑い声が上がるのを心の耳で聞いた。

サーチボルテスが、門の脇の茂みに潜むレッツァディンの手先に、何もしなくて良い。
と命下すアースラフテスに、心の声でぶつぶつ言ってた。

『そいつを捕らえれば、襲撃は無いのに。
第一“里”から離れたら、我々には手助け出来ない!
…また怪我して運び込まれたら、働きずめのミラーレスが、今度こそキレるぞ!』

アッカマンはサーチボルテスの愚痴聞きつつ、食卓の声に耳傾ける。


「…じゃ…それで死にかけたのか?!」
シェイルの呆れる声に、テテュスが無邪気に笑う。

「“里”の子供達の、一番のお気に入りの場面で、手を繋いで頭の中で、何度も見せて貰った!
最高に笑えるんだ!」

ローフィスが明らかに不機嫌にぼやく。
「…どうして一気に広めるかな。
能力者共って最低だ!」

が、シェイルは怒鳴った。
「そんなに大変だったなんて、俺は全然知らなかった!」

ローフィスが即座に怒鳴り返す。
「そっちはそっちで、大変だったろう?!
心配したローランデと、庇ってくれたディングレーにちゃんと、礼言ったのか?!
あの、ギュンターやオーガスタスですら、お前の為に必死で戦場に駆けつけたんだぞ!!!」

が、アイリスが笑いながらローフィスに告げる。
「でも君だってまだ、アースラフテスやミラーレスにちゃんと、礼を言ってないだろう?」

ローフィスが、いきり経って反論する。
「アースラフテスは副長ローレスが回復の眠りからまだ覚めなくて、業務が混乱状態だから忙しいし、ミラーレスは神聖騎士らに付きっきりだったろう?!
第一こっちも、起きたら腹ペコで食べまくり、食べたら直ぐ眠くなって…マトモに意識があったのはようやく今日の昼頃。
そこで
『ギュンター中央護衛連隊長就任式を明日執り行う』
と爆弾発言だ。
どこに礼言う間がある!!!」

レイファスが無邪気に告げる。
「僕たちは昨日くらいから眠気と食欲収まったから、“里”の子達にいっぱい、幻影見せて貰った!」

ファントレイユが、しょげて告げる。
「ゼイブンが呪文唱えて…大きな火の玉が、ゼイブンやローフィスを追いかけて…みんな、本当に危なかったよね………」

が、レイファスがぎゃっはっはっ!と笑いこけ
「ローフィス、本当に“死んでも命がありますように”
って祈ったの?!」
と聞く。

シェイルが、きっ!とローフィスに振り向く。
「…そんなに、危なかったのか?!」

ローフィスが食事口に入れ、もぐもぐ言いながらブツブツ言う。
「…覚えてるかそんな事。
喰って寝て。で殆ど朧で消えかけてる!」

シェイルはきっ!とレイファス見ると
「幻影見せてくれる“里”の子供を明日、絶対俺に紹介しろ!」
と気合い入りまくりで言った。

レイファスは馬鹿笑いから一転。
唾を喉に詰まらせかけて、横のファントレイユに背中をとんとんされた。




 ディングレーは前方、ディンダーデンだけで無く、オーガスタス迄もがわくわくした“気”を放ってるのに気づき、顔下げる。
が、上げて怒鳴る。
「…連中、まだ現れないな?!」

オーガスタスが気づき、振り向く。
そして呟く。
「速度が速すぎるか?」

ディンダーデンも後ろで吠える。
「神聖神殿隊付き連隊の弱腰が。
襲撃はごめんだと、馬ひた走らせてるからな!!!」

先頭のゼイブンは振り向くと、歯を剥いた。
「これだから近衛の男は嫌なんだ!!!
神聖神殿隊付き連隊では、襲撃計画聞いたらまず逃げる!
その後、襲って来る連中叩きのめす算段付けるが定石だ!」

ローランデがやっと、口開く。
「どう叩きのめす?」

ゼイブンが振り向く。
「その状況に応じてだ!
相手が盗賊なら、地方護衛連隊に一報入れて襲撃して貰う!」

「…結果、他人任せか…」
ギュンターのぼやきに、ゼイブンは怒鳴り返す。
「悪いか!
俺達の仕事は戦う事じゃ無い!
もっと厄介な『影』を封じ込める為だ!
余力を温存して、どこが悪い!!!」

皆、幻影の戦いでどれだけ『影』が厄介か、嫌と言う程思い知ったので、黙り込む。

ディンダーデンだけが、ぼそりと囁いた。
「俺はあの時代、産まれなくて良かったぜ………」

皆、無言で心の中で、同意を示した。


スフォルツァとラフォーレンが、馬を止め枝道を見つめる。
「…どう頑張っても、右将軍には追い付かないんじゃあ…」

アシュアークがその背後で言い切る。
「伯父様は右だ」
言って拍車かけ、二人を追い越す。

スフォルツァとラフォーレンは顔を見合わせ、アシュアークの後ろに、付いて行く為、馬に拍車をかけ続けた。

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