アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第八章 『中央護衛連隊長就任』

右将軍アルファロイスの申し渡し

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 “里”では、神聖神殿をほぼ、仕切り倒してる副長ローレスが、力使い切り目覚めないので、隊員騎士達があちこち右往左往し、混乱しまくる様が続いた。

「だって…お前の役目だろう?!」
「俺の仕事は別の筈だ!」

皆口々に言い合うが、確かめる相手、ローレスが眠ってるので決着付かず、いつ迄も混乱が続く。

一方、“里”では皆が『光の民』で能力者だったので、幻影内の映像をほぼ全員が共有し、祝。脱出!
で、宴会騒ぎが続いた。

皆、出会うと必ずその話題で持ちきり。
頭の中で幻影内のイメージを描き出しては、自分はここが気に入った。
だとか、どこが凄かった。
だとか…。

歴代最高の闇封じ、ラキュサスティノスの偶像を建て、偉業を讃える話迄持ち上がっていて、どの家でもご馳走が振る舞われ、住民達は幻影の話題を、集っては語り続けた。

ただ…その中で、能力者の彼らとて…未来から来た者ら。
大人のテテュス、ファントレイユ、レイファス…そして、ギデオンの姿が抜け落ち、皆が
「こんな人物だ」
「いや、こうだ」
と推測し合った。

結界から帰り、二日が経ってようやく…皆の腹が落ち着き、猛烈に食べ、寝て、起きて又食べ、そして眠る日々が、終わりを告げようとしていた。



 アースラフテスは、隊員騎士らの混乱を見かねて、夢使いにローレスに、裁定や仕事の指示を聞くよう依頼。
が、幾度も寝ているローレス副長に、毎度夢から蹴り出されてる。と報告を受けた。

「ともかく各部署の責任者がそれぞれ、自身で判断して命を下せ。
それが本来の業務だろう?!
普段全部ローレスに頼ってるから、非常時にこうなるんだ!」

長に怒られ、報告者はすごすごと下がる。
アースラフテスは神聖騎士らが結界の中、次々に回復を果たした報告も受けた。
この治癒には、アースラフテスから厳重注意が下った。

「少しでも、損傷を見逃すな!
この後『影』と戦う業務中に、彼らに何かあっては…!
『光の王』不在の現在、彼らは我らの大切な要。
何かあってお一人でも失われ、『影』に下る事態の無いよう…完璧な回復を試みろ!」

全員が、無事帰還。
で喜ぶ皆の中、ミラーレスは再び冷静さを取り戻し、気を引き締めて神聖騎士らの治癒にあたった。


ファントレイユとテテュス、レイファスらは…幻想内での事をほぼ、忘れていた。
大人の自分。
そしてその活躍も。

けど、皆がどんな攻撃を受け、危なかったか。
それだけは解った。

“里”の子供達に出会うと、取り巻かれ、手を握られると幻影が見えたし、彼らが言葉を使わず頭の中で話す言葉。
でそれぞれ、どの『影』が怖かったとか、誰の活躍が凄かったか。
とか話すのを聞いたし、一緒に語り合った。

頭の中で、思うだけで彼らに伝わる。
ファントレイユもレイファスもテテュスも、“里”の大人達に馳走振る舞われ、子供達だけで無く大人迄混じって、幻影の冒険談に夢中になった。


一方、その大活躍を果たしたはずの、大人達は…だれ切り。
シェイルはローフィスの怪我の回復が遅いのに、イラ立っていた。

ローランデはギュンター見る度睨み付け、逆にアシュアークはギュンターに纏わり付き、関係無いのにキスをねだる始末。

が、ギュンターはローランデに怒られまくり、一向にアシュアークの懇願に、応える様子は無い。

スフォルツァとラフォーレン以外はその騒ぎに、顔背け背向け、決まって全員が逃げ出して、腫れ物扱い。

オーガスタスはディアヴォロスに会うと、泣き顔見られた恥ずかしさで顔背け、ディアヴォロスはその都度、くすくすと笑い続けた。


 皆がほぼ回復果たした三日後、アルファロイスとディアヴォロスは二人して、ムストレス、そしてディスバロッサの様子を見に、“里”の建物内の彼ら寝室を訪れた。

神聖騎士の長、ダンザインもそこに居て、二人はダンザインの言葉を聞く。

「…ムストレスは…当分自分を取り戻せず、自分の業の幻影内に居続けるでしょう…。
“里”の者も語りかけていますが…まだ、声が届く様子が無い。
ご自身が切り刻んだ動物や人に自ら成り代わり…恐ろしい自分に毎度、切り刻まれる恐怖に覆われ…とても…光の声に耳傾ける余裕が、無い………」

ディアヴォロスはアルファロイスを見、アルファロイスは一つ頷いて退室し、外に出、馬に跨がった。

アルファロイスが退室した室内で…ディアヴォロスはディスバロッサを、見つめる。

瞳は微かに開いていたが、何かを見ている様子無く…。
やはりムストレス同様、自らの幻影の、中に居た。

が、ディスバロッサが見ていた幻影は…ムストレスと違い、乳母アンタネストとの幻影だった。

幼い頃の僅かな…幸福で愛情溢れる時間…。
その時間に浸りきってる様子に、見えた………。

食事の係の者が幾度も…食べ物…栄養を細かく粒子に変えて、二人に注ぎ込む。

その飢えたムストレス、ディスバロッサの体の細胞が、粒子の栄養素を体内に取り込む………。

二人に付いている癒やし手が囁く。
「…必要な分は、与えています。
が、ほぼ体と魂が切り離された状態。
この結界から出せば…数分経たずに、死に至ります………」

ディアヴォロスは一つ、吐息吐いて再び…二人を、見つめた。



 ララッツは窓辺で張り付く、ドラングルデを見、窓に寄る。
金髪…アルファロイス右将軍が、単身馬で屋敷の庭に駆け込み、馬を下りていた。

顔上げてドラングルデを見つめるが、知恵者ドラングルデは顔色も変えない。
企んだメーダフォーテは今だ、寝台の上。

ララッツはがたがたがたっ!と、ぶつかりそうになった椅子を押し退け、廊下に出る。
二階のその廊下に、軽やかに階段駆け上がったアルファロイスが足付き顔を、向ける。

ララッツは咄嗟、頭垂れ礼を取る。

「レッツァディン殿はどちらだ?」
アルファロイスの言葉に、ララッツは頭下げたまま
「(メーダフォーテに用じゃないのか?)」
と自問したが、口開く。

「…その…右のお部屋です」
アルファロイスは軽やかに頷くと、歩をそちらに向け、扉を開けて中へ、消えた。


室内にはザースィンが居た。
扉開けて姿現すアルファロイスに、慌てて椅子を立ち、凝視する。

レッツァディンは驚きに目、見開き、「右の王家」で近衛最高地位の右将軍アルファロイスの姿に、声無く椅子の握りを握りしめ唇を噛む。

アルファロイスは落ち着き払ってザースィンに顔、向けて頷き、退出は不要。
と示し、口を、開いた。



ララッツはドラングルデが背後から寄り、その後ろからレルムンスがそっと近づくのを感じた。

振り向くと、背後の二人の他にフォルデモルド、ラルファツォル迄もが、近衛の右将軍の来訪に室内より出、背後の廊下に姿を見せている。

「誰に用だ?」
最後尾のラルファツォルの言葉に、ララッツが囁く。
「レッツァディン殿はどこかと」

ラルファツォルとフォルデモルドは顔、見合わせ、直ぐ後ろのドラングルデが呻く。
「メーダフォーテに判定下すのはやはり…神聖騎士団長か………」
「右将軍より、もっと悪いじゃ無いか…」
レルムンスの言葉に、ラルファツォルとフォルデモルドが二人同時に、顔下げた。

が、アルファロイスが直ぐ室内より出て来る。
そして階段前に集う皆を見、告げる。

「中央護衛連隊長選出はギュンターに決定し、直就任式が執り行われる。
近衛連隊もこの就任式には全員出席する。
…今度。
君らが妨害に動いたら、全員降格処分を覚悟しろ」

あんまり…呆気なく言われ、アルファロイスはもう…階段を駆け下りていって、皆が呆然とする中、じわじわと恐怖が広がる。


が、バン!と扉開く。
レッツァディンが怒気籠もる形相でアルファロイス消えた階段を、睨め付けていた。

ララッツが、直属の上司に囁く。
「何が…あったんで?」
レッツァディンは理知的なララッツ見つめ、憤怒解かず呻く。

「ムストレス…兄は廃人同然。
最高准将の地位を兄に代わり…俺に差し出し、代わりにギュンターの中央護衛連隊長就任式に…最高准将として出ろと、ほざいて言った!!!」

「昇進、おめでとう」
ドラングルデの、とぼけた声音。

レッツァディンは歯剥き睨め付ける。
「…こちらの、全くの敗北なんだぞ!!!」

ザースィンが部屋の扉に姿現す。
「…だが、めでたい事だ。
貴方の兄、ムストレスが左将軍に成れないから、准将の中の最高地位、最高准将にも貴方は成れなかった」

ララッツも呟く。
「准将の、統括も同然。
中央護衛連隊長風情とは、比べようのない高位。
地方護衛連隊は皆、しょせんが庶民。
近衛の上級幹部は、その更に上でしょう」

がその言葉も、レッツァディンの耳には届かない。
「ギュンター風情が!
中央護衛連隊長だぞ?!
王族のディングレーや家柄良いディンダーデンならまだ解る!
が、その二人押し退けギュンターにその地位を与えると言う事は!
俺にギュンターを、殺るなと言うも同然!
幾ら俺でも、中央護衛連隊長を殺ったら縛り首だからな!
そんな…事の為にあんな身分低い馬の骨のギュンター風情を!」

が、ドラングルデもララッツも、ディングレーとディンダーデンの役職嫌いを知っていたので、肩竦めた。
二人が二人共、面倒な役職を嫌い、副長程度で気楽に自分のしたいように過ごしたい。
のが普段の態度から、ミエミエだったので。

ディングレー、ディンダーデン、ギュンターの中で、中央護衛連隊長を引き受けそうな物好き(馬鹿)はギュンターくらいで、他二人はまるでやる気、全く無し。
そう思い知っていた。

「…就任式の前に、何が何でもギュンターぶっ殺してやる!」
レッツァディンの言葉に、ララッツもドラングルデもが、顔見合わせた。




 次の日の朝、ララッツが朝食の食卓に降りて来ると、レルムンスが寄って来る。
「…ドラングルデの姿が見えないと、ラルファツォル殿もフォルデモルド殿も言ってる」

ララッツは顔色も変えなかったが、思った。
「(さては…逃げたな)」

レルムンスに迄、レッツァディンが本気でギュンター襲撃を考えてる。と告げると、多分ギュンターと同行するレルムンスの虐めっ子のいとこ、ディンダーデンに恐れ無し、ドラングルデ同様逃げ出す。
と解っていたので、ララッツは努めて微笑んだ。

「まあ…元からあの方は風来坊だ。
ふらりと来ては、ふらりと姿消す。
…主のノルンディル殿も今だ寝台から出られないから、女でも口説きに行ったんだろう?」

レルムンスはそれを聞き
「俺だって口説きに行きたい」
とぶつぶつ呟いていた。

そしてララッツは…ザースィンを、見た。
ザースィンは肩竦める。

ザースィンはローランデに惚れていたから、例えローランデが北領地[シェンダー・ラーデン]護衛連隊長で手の届かない場所に居ようと、恋敵ギュンターを殺れる。と成れば絶対にレッツァディンに、同行するだろう。

ギュンターはザースィンの悲願。
たったの一度。ローランデを抱きたい。
と言う希望を毎度、阻み打ち砕く相手だったから。

そしてララッツはその夜。
レッツァディンが招集かける命を、溜息と共に受け止めた。


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