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第七章『過去の幻影の大戦』
その後の各々の騒動
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アースラフテスがその寝室に姿現した途端、オーガスタスがまだディアヴォロスに抱きついていて、呆れた。
「…ディアヴォロス様を少し、休ませないと。
貴方ご自身も、休養が必要です」
が、ワーキュラスが苦笑して囁く。
“二人は互いの想いで相手の欠けた“気”をああやって、補ってる”
だが、オーガスタスはやっと…主の身から顔上げ、俯く。
その頬が濡れていて、ディアヴォロスがそっと…そんなオーガスタスに囁いた。
「…私が…来ないと思っていたから、それ程感激してくれたんだろう?」
オーガスタスが、俯いたまま素っ気無く告げる。
「…あんたは来るべきじゃ無いと…思っていたから………」
そして、涙で濡れた顔上げ、きっ!と見つめる。
「…本当は、怒りたかった。
あの体と激痛抱えた身で…あんな…無茶するから!」
が、ディアヴォロスは優しげに微笑む。
「『闇の第二』とムストレスは、私の敵だ。
彼らから…私の大切な君らが救えるんなら…出向くのは当然」
オーガスタスは普段道理の側近に、戻ろうとし…けど出来ず、顔歪め再び…頬に涙、滴らせた。
今度はディアヴォロスが…そんな、オーガスタスを抱きしめる。
「…来ない筈…無いだろう?
ローフィスに、何て言われた?
君に巣くったのは『闇の第二』だ。
それを跳ね退けただけで…戦いに、勝ったも同然。
そう…言われなかったか?
ローフィスは、『闇の第二』を知り尽くしてる。
君と違って。
そんな敵に君を奪い取られようとしてるのに…私が黙って見てると本気で…思ったのか?」
オーガスタスは頬から…後から後から滴る涙を、止められなかった。
ずっと…語りかけてくれていた。
ローフィスと二人で。
帰る場所はここだ。と。
遠い…遠い場所に思えた。
けれど…諦めずにずっと…意識だけで寄り添っていてくれた。
ディアヴォロスはそんなオーガスタスを見、再びその両の腕(かいな)に抱きしめる。
オーガスタスの涙は、止まる様子を見せなかった。
幼い頃…突然逝った両親…。
どれだけ泣いても喚いても…二人は帰って来なかった…。
だから、心の隅のどこかで…思ってた。
別れは突然来て…それは…仕方の無い事なんだと。
だから、ローフィスとディアヴォロスですら…。
突然別れ、二度と会えない事だってあるのだと…。
『闇の第二』はそんな心の隙を突き…自分を支配しようとし…。
ディアヴォロスとローフィスは…けれど、諦めなかった。
ずっと…その心で語り続けていてくれた。
“ここに居る。
決して消えたりしない”
ずっと君を…想ってる。
その事をその心で、告げていてくれた。
嬉しい。を通り越して…感激の塊になってるその忠義溢れる側近オーガスタスの姿に、アースラフテスは一つ、吐息吐く。
そして…そっ…とエルベスに振り向く。
一つ、頷いてその身を、甥アイリスとその息子、テテュスの寝室へと飛ばした。
アルファロイスが振り向く。
だからアースラフテスは囁く。
「ムストレス殿も…ディスバロッサ様もここに居る」
アルファロイスが頷くから…寝台から出るアルファロイスの横に立つと、並んで…一瞬で、飛んだ。
ムストレスは…光の結界に包まれた寝台で…半身起こしていた。
が俯き、その顔からは生気が完全に消え、虚ろな廃人のように見えた。
開いているのに何も捉えない眼差し。
少し開いた唇。
アースラフテスが、アルファロイスにそっ…と囁く。
「強烈な自我が消え…。
彼は今迄自分が嬲り殺した魂が、彼より解き放たれて行った為…今度は彼自身が、その魂らにした所行を全部…受け止めるしか無い。
彼は幾度も無残に斬り殺され、嬲り殺され続ける幻影の中に居る」
アルファロイスが、呟く。
「光の…結界の中に居るのに?」
アースラフテスは頷く。
「彼が光を見つめなければ、その救済の恩恵は受けられない…。
例え神が…救い手が、居たとしても…その救いを、彼自らが望まなければ…。
救う側も助けられない」
アルファロイスは、吐息交じりに囁く。
「自分の運命は…自分が選び取る。
と言う事か?」
アースラフテスは微笑む。
「…それが…“生きる”と言う事でしょう?」
アルファロイスはその神聖神殿隊騎士の長に、笑い返して頷いた。
運命を…選び取るのは自分。
選択が、自身の運命を決める………。
アルファロイスはそれを、心に刻む。
消えて行った…大人の姿をした顔も思い出せない幻に、まだ小さな…六つの息子の姿が、浮かび上がる。
ギデオン………。
大好きで愛らしい…私の、宝物。
幻影の中の幼い息子は、無邪気に微笑み頷く。
まるで、それを知っている。と言うように。
アルファロイスはそれを、心に留める。
そして深く…魂に深く、刻み込んだ。
エルベスが現れた途端…テテュスを固く抱きしめていたアイリスが、振り向く。
テテュスとアイリスは二人してエルベスに抱き付き、エルベスはアイリスと…幼いテテュスの元気そうな様子に微笑み、笑いながら抱きついて来る二人の背に腕回し、抱きしめる。
レイファスは、横のファントレイユを見た。
「…ゼイブンは…来ないね」
ファントレイユはその言葉に無言で俯き…吐息を一つ、吐き出した。
「…今回、囚われてたのはゼイブンだし…。
私ですら大人の自分をもう、思い描けないからきっと…」
「ゼイブンも、忘れてる?」
ファントレイユはようやく顔を上げ、レイファスに返答した。
「きっと」
そして二人して寝台上から、再会を喜び抱き合う叔父と甥と…。
仲間の筈の小さなテテュスを、何だか空虚な気持ちで、呆然と見つめた。
雑居部屋で、アシュアークは今だ、頼りになる二人(スフォルツァとラフォーレン)から
「どうしてギュンターのキスの相手が私じゃ無いのか?」
の説明を、聞き続けていたが、ふっ…と呟く。
「なんか凄く…お腹、減った………」
途端、周囲飛び跳ねていた“里”の者らが、気づいたように振り向きほぼ、一瞬で消え去る。
そして…白い扉が開くと、いい匂いがし、アシュアークは説明続けるスフォルツァとラフォーレンをそこに残し寝台飛び出すと、走り去った。
スフォルツァとラフォーレンも顔、見合わせ…。
ゼイブンがのそり…と寝台を出、ディングレーは起き上がる横のローフィスに肩を貸す。
ディンダーデンが、喚き続けるローランデの前で項垂れてそれを聞き続けるギュンターに、告げる。
「…食ってからに、したらどうだ?」
シェイルはディングレーとは反対側からローフィスを支えて歩き出したが、スフォルツァとラフォーレンに追い越された。
皆、その部屋に入るとテーブルの上の山盛りの食事に驚く事無く食卓に着き、無言で空腹の腹にご馳走を、詰め込み始めた。
程無く、ファントレイユとレイファスもやって来る。
シェイルが横にかける小さなレイファスに、囁く。
「テテュスは?」
「エルベスやアイリスと、一緒」
レイファスは、喋るのも惜しいように、両手で食べ物掴み、交互に頬張り始める。
オーガスタスが最後に、やっとディアヴォロスと別れその部屋に光に案内を受けて導かれ、凄まじい食事風景に絶句した。
全員が無言で遮二無二、食べ物を口に掻き込んでいて野蛮人に成り果て、食事の作法護ってるのはかろうじて、ローランデだけ。
程無くローフィスはその長い腕が自分の狙うチキンの丸焼きを先に掠め取るのを見たし、ギュンターは卵のスフレを目前から奪う、長い腕を睨み付け、その持ち主がオーガスタスだと知る。
「糞!
腕の長さがハンデになるなんて!」
ディングレーも目前から、取ろうとした料理をオーガスタスに掠め取られ怒鳴っていたし、ディンダーデンは取られる前に、皿を抱きしめ庇った。
「これは全部、俺が喰う!」
レッツァディンは屋敷内に『光の里』の者が出入りし、妙に傷の痛みが軽減し、起き上がってメーダフォーテとノルンディルの寝室を訪れたが、廊下にずらりと並ぶ、料理皿を手にした召使いが列なす様子見て、絶句した。
先に扉の横に居て中を覗いてたドラングルデが、気づいて振り向き、肩竦める。
「体抜け出して幻影の中へ入ると、その後凄まじい空腹感に襲われるらしい」
ドラングルデの言葉に、横に並んで寝室内を覗いたが、いつも取り澄ましてるメーダフォーテとノルンディルが食事の作法も忘れ夢中で喰ってる様に、思わず顔背けた。
ララッツは訪れる『光の民』、“里”の者に、ディンダーデンの無事と様子を尋ねてるディンダーデンのいとこ、レルムンスを目にし、少し眉下げた。
「(…普段悪口言ってるが…それでも血縁者。
流石に心配したか………)」
「…で…まるっきり、無事だったのか?
恐ろしい幻影の世界で…少しは性格が変わって…謙虚に…成った…とか?」
“里”の者は首、横に振った。
「彼が入り込んだ歴史上の人物、タナデルンタスを結果、我が副長ローレスの勧めで光の国からワーキュラス殿が呼び出し…その、タナデルンタス殿に歴代最高の闇封じ、ラキュサスティノス殿を召喚して貰い最大の危機を脱した後…光の国に帰ろうとするタナデルンタス殿を、ディンダーデン殿は掴まえ……。
結果、『光の国』のタナデルンタス殿と現在、回路で繋がっている状態。
すなわち………」
レルムンスは恐る恐る、尋ねる。
「すなわち…?」
「希代の天才と称され、更に光と『影』に通ずるタナデルンタス殿のお知恵を、いつでも借りれる身分になったのですから…。
ご本人にその気がおありなら、アースルーリンドの支配者にも、成れるでしょうね………」
レルムンスはそれを聞いて、一辺に青ざめた。
そしてぶつぶつ呟く。
「…どうして…幻影内で大人しく、死ぬか廃人になってくれなかったんだ………」
ララッツはそれを聞いて、つんのめって転びそうになって、何とか…踏み止まった。
ララッツが部屋に入ると同様、“里”の者掴まえ、子細尋ねるザースィン、ラルファツォル、フォルデモルドの三人が居て…。
最後「夢の傀儡王」の結界を出る時、ギュンターが姫に入ったアイリスになかなかキスしなかった件(くだり)。
更に「夢の傀儡王」の手違いで、本来姫にはアイリスで無く、ローランデを入れ込む予定だった。
と聞き、ローランデに内心惚れてるザースィンが、朗らかに笑っているのを目にした。
ラルファツォルは何も言わなかったが、フォルデモルドは敬愛する兄貴分、ノルンディルの為に必死だった。
「で、ノルンディル殿はそんな異形だらけの恐ろしい『影』の居るレアル城内で、御無事だったのか?!」
“里”の者が言った。
「ノルンディル殿はアイリス殿の策略で、気絶させられ拉致され、その場から全然動かなかったので、逆に安全でした」
フォルデモルドは一安心。
と胸撫で下ろしていたが、ララッツは氷の武将、辣腕ラルファツォルの表情の上に
『准将たる者が、なんて体たらくだ』
と侮蔑の表情浮かぶのを、見た。
「…ディアヴォロス様を少し、休ませないと。
貴方ご自身も、休養が必要です」
が、ワーキュラスが苦笑して囁く。
“二人は互いの想いで相手の欠けた“気”をああやって、補ってる”
だが、オーガスタスはやっと…主の身から顔上げ、俯く。
その頬が濡れていて、ディアヴォロスがそっと…そんなオーガスタスに囁いた。
「…私が…来ないと思っていたから、それ程感激してくれたんだろう?」
オーガスタスが、俯いたまま素っ気無く告げる。
「…あんたは来るべきじゃ無いと…思っていたから………」
そして、涙で濡れた顔上げ、きっ!と見つめる。
「…本当は、怒りたかった。
あの体と激痛抱えた身で…あんな…無茶するから!」
が、ディアヴォロスは優しげに微笑む。
「『闇の第二』とムストレスは、私の敵だ。
彼らから…私の大切な君らが救えるんなら…出向くのは当然」
オーガスタスは普段道理の側近に、戻ろうとし…けど出来ず、顔歪め再び…頬に涙、滴らせた。
今度はディアヴォロスが…そんな、オーガスタスを抱きしめる。
「…来ない筈…無いだろう?
ローフィスに、何て言われた?
君に巣くったのは『闇の第二』だ。
それを跳ね退けただけで…戦いに、勝ったも同然。
そう…言われなかったか?
ローフィスは、『闇の第二』を知り尽くしてる。
君と違って。
そんな敵に君を奪い取られようとしてるのに…私が黙って見てると本気で…思ったのか?」
オーガスタスは頬から…後から後から滴る涙を、止められなかった。
ずっと…語りかけてくれていた。
ローフィスと二人で。
帰る場所はここだ。と。
遠い…遠い場所に思えた。
けれど…諦めずにずっと…意識だけで寄り添っていてくれた。
ディアヴォロスはそんなオーガスタスを見、再びその両の腕(かいな)に抱きしめる。
オーガスタスの涙は、止まる様子を見せなかった。
幼い頃…突然逝った両親…。
どれだけ泣いても喚いても…二人は帰って来なかった…。
だから、心の隅のどこかで…思ってた。
別れは突然来て…それは…仕方の無い事なんだと。
だから、ローフィスとディアヴォロスですら…。
突然別れ、二度と会えない事だってあるのだと…。
『闇の第二』はそんな心の隙を突き…自分を支配しようとし…。
ディアヴォロスとローフィスは…けれど、諦めなかった。
ずっと…その心で語り続けていてくれた。
“ここに居る。
決して消えたりしない”
ずっと君を…想ってる。
その事をその心で、告げていてくれた。
嬉しい。を通り越して…感激の塊になってるその忠義溢れる側近オーガスタスの姿に、アースラフテスは一つ、吐息吐く。
そして…そっ…とエルベスに振り向く。
一つ、頷いてその身を、甥アイリスとその息子、テテュスの寝室へと飛ばした。
アルファロイスが振り向く。
だからアースラフテスは囁く。
「ムストレス殿も…ディスバロッサ様もここに居る」
アルファロイスが頷くから…寝台から出るアルファロイスの横に立つと、並んで…一瞬で、飛んだ。
ムストレスは…光の結界に包まれた寝台で…半身起こしていた。
が俯き、その顔からは生気が完全に消え、虚ろな廃人のように見えた。
開いているのに何も捉えない眼差し。
少し開いた唇。
アースラフテスが、アルファロイスにそっ…と囁く。
「強烈な自我が消え…。
彼は今迄自分が嬲り殺した魂が、彼より解き放たれて行った為…今度は彼自身が、その魂らにした所行を全部…受け止めるしか無い。
彼は幾度も無残に斬り殺され、嬲り殺され続ける幻影の中に居る」
アルファロイスが、呟く。
「光の…結界の中に居るのに?」
アースラフテスは頷く。
「彼が光を見つめなければ、その救済の恩恵は受けられない…。
例え神が…救い手が、居たとしても…その救いを、彼自らが望まなければ…。
救う側も助けられない」
アルファロイスは、吐息交じりに囁く。
「自分の運命は…自分が選び取る。
と言う事か?」
アースラフテスは微笑む。
「…それが…“生きる”と言う事でしょう?」
アルファロイスはその神聖神殿隊騎士の長に、笑い返して頷いた。
運命を…選び取るのは自分。
選択が、自身の運命を決める………。
アルファロイスはそれを、心に刻む。
消えて行った…大人の姿をした顔も思い出せない幻に、まだ小さな…六つの息子の姿が、浮かび上がる。
ギデオン………。
大好きで愛らしい…私の、宝物。
幻影の中の幼い息子は、無邪気に微笑み頷く。
まるで、それを知っている。と言うように。
アルファロイスはそれを、心に留める。
そして深く…魂に深く、刻み込んだ。
エルベスが現れた途端…テテュスを固く抱きしめていたアイリスが、振り向く。
テテュスとアイリスは二人してエルベスに抱き付き、エルベスはアイリスと…幼いテテュスの元気そうな様子に微笑み、笑いながら抱きついて来る二人の背に腕回し、抱きしめる。
レイファスは、横のファントレイユを見た。
「…ゼイブンは…来ないね」
ファントレイユはその言葉に無言で俯き…吐息を一つ、吐き出した。
「…今回、囚われてたのはゼイブンだし…。
私ですら大人の自分をもう、思い描けないからきっと…」
「ゼイブンも、忘れてる?」
ファントレイユはようやく顔を上げ、レイファスに返答した。
「きっと」
そして二人して寝台上から、再会を喜び抱き合う叔父と甥と…。
仲間の筈の小さなテテュスを、何だか空虚な気持ちで、呆然と見つめた。
雑居部屋で、アシュアークは今だ、頼りになる二人(スフォルツァとラフォーレン)から
「どうしてギュンターのキスの相手が私じゃ無いのか?」
の説明を、聞き続けていたが、ふっ…と呟く。
「なんか凄く…お腹、減った………」
途端、周囲飛び跳ねていた“里”の者らが、気づいたように振り向きほぼ、一瞬で消え去る。
そして…白い扉が開くと、いい匂いがし、アシュアークは説明続けるスフォルツァとラフォーレンをそこに残し寝台飛び出すと、走り去った。
スフォルツァとラフォーレンも顔、見合わせ…。
ゼイブンがのそり…と寝台を出、ディングレーは起き上がる横のローフィスに肩を貸す。
ディンダーデンが、喚き続けるローランデの前で項垂れてそれを聞き続けるギュンターに、告げる。
「…食ってからに、したらどうだ?」
シェイルはディングレーとは反対側からローフィスを支えて歩き出したが、スフォルツァとラフォーレンに追い越された。
皆、その部屋に入るとテーブルの上の山盛りの食事に驚く事無く食卓に着き、無言で空腹の腹にご馳走を、詰め込み始めた。
程無く、ファントレイユとレイファスもやって来る。
シェイルが横にかける小さなレイファスに、囁く。
「テテュスは?」
「エルベスやアイリスと、一緒」
レイファスは、喋るのも惜しいように、両手で食べ物掴み、交互に頬張り始める。
オーガスタスが最後に、やっとディアヴォロスと別れその部屋に光に案内を受けて導かれ、凄まじい食事風景に絶句した。
全員が無言で遮二無二、食べ物を口に掻き込んでいて野蛮人に成り果て、食事の作法護ってるのはかろうじて、ローランデだけ。
程無くローフィスはその長い腕が自分の狙うチキンの丸焼きを先に掠め取るのを見たし、ギュンターは卵のスフレを目前から奪う、長い腕を睨み付け、その持ち主がオーガスタスだと知る。
「糞!
腕の長さがハンデになるなんて!」
ディングレーも目前から、取ろうとした料理をオーガスタスに掠め取られ怒鳴っていたし、ディンダーデンは取られる前に、皿を抱きしめ庇った。
「これは全部、俺が喰う!」
レッツァディンは屋敷内に『光の里』の者が出入りし、妙に傷の痛みが軽減し、起き上がってメーダフォーテとノルンディルの寝室を訪れたが、廊下にずらりと並ぶ、料理皿を手にした召使いが列なす様子見て、絶句した。
先に扉の横に居て中を覗いてたドラングルデが、気づいて振り向き、肩竦める。
「体抜け出して幻影の中へ入ると、その後凄まじい空腹感に襲われるらしい」
ドラングルデの言葉に、横に並んで寝室内を覗いたが、いつも取り澄ましてるメーダフォーテとノルンディルが食事の作法も忘れ夢中で喰ってる様に、思わず顔背けた。
ララッツは訪れる『光の民』、“里”の者に、ディンダーデンの無事と様子を尋ねてるディンダーデンのいとこ、レルムンスを目にし、少し眉下げた。
「(…普段悪口言ってるが…それでも血縁者。
流石に心配したか………)」
「…で…まるっきり、無事だったのか?
恐ろしい幻影の世界で…少しは性格が変わって…謙虚に…成った…とか?」
“里”の者は首、横に振った。
「彼が入り込んだ歴史上の人物、タナデルンタスを結果、我が副長ローレスの勧めで光の国からワーキュラス殿が呼び出し…その、タナデルンタス殿に歴代最高の闇封じ、ラキュサスティノス殿を召喚して貰い最大の危機を脱した後…光の国に帰ろうとするタナデルンタス殿を、ディンダーデン殿は掴まえ……。
結果、『光の国』のタナデルンタス殿と現在、回路で繋がっている状態。
すなわち………」
レルムンスは恐る恐る、尋ねる。
「すなわち…?」
「希代の天才と称され、更に光と『影』に通ずるタナデルンタス殿のお知恵を、いつでも借りれる身分になったのですから…。
ご本人にその気がおありなら、アースルーリンドの支配者にも、成れるでしょうね………」
レルムンスはそれを聞いて、一辺に青ざめた。
そしてぶつぶつ呟く。
「…どうして…幻影内で大人しく、死ぬか廃人になってくれなかったんだ………」
ララッツはそれを聞いて、つんのめって転びそうになって、何とか…踏み止まった。
ララッツが部屋に入ると同様、“里”の者掴まえ、子細尋ねるザースィン、ラルファツォル、フォルデモルドの三人が居て…。
最後「夢の傀儡王」の結界を出る時、ギュンターが姫に入ったアイリスになかなかキスしなかった件(くだり)。
更に「夢の傀儡王」の手違いで、本来姫にはアイリスで無く、ローランデを入れ込む予定だった。
と聞き、ローランデに内心惚れてるザースィンが、朗らかに笑っているのを目にした。
ラルファツォルは何も言わなかったが、フォルデモルドは敬愛する兄貴分、ノルンディルの為に必死だった。
「で、ノルンディル殿はそんな異形だらけの恐ろしい『影』の居るレアル城内で、御無事だったのか?!」
“里”の者が言った。
「ノルンディル殿はアイリス殿の策略で、気絶させられ拉致され、その場から全然動かなかったので、逆に安全でした」
フォルデモルドは一安心。
と胸撫で下ろしていたが、ララッツは氷の武将、辣腕ラルファツォルの表情の上に
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作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
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