アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第七章『過去の幻影の大戦』

本来の目的を綺麗に忘れる、戻った仲間達

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 ギュンターは、アースラフテスが現れた途端、はしゃぎ飛び回る部下達をそのままに、一言
「中央護衛連隊長はギュンターに決定した」
と皆の心に響き渡る声音で告げてくれて、心より感謝した。

だってあれ程怒鳴り付けていたローランデが。
アースラフテスに振り返り、そして自分に振り向いた時、感激の涙をその美しい青の瞳に、浮かべていたから。

怒号止んだ嬉しさに、つい両手広げて迎えるが、ローランデは一瞬で我に返ると、その手をはたいて怒鳴った。
「…それで怒りが収まったと思うなんて、君は甘過ぎだ!!!
人が喰われてるのをレアル城内で見て、どれだけ戦場に居る君達を心配したか!!!
どうせ君には少しも、解ってないんだろう?!」

ディンダーデンがとうとう、ぎゃっはっはっはっ!
と大声上げて笑い転げ、ローフィスがぼそり…と呟いた。
「………考えてみれば、それが目的だったな………」

ディングレーもが囁く。
「中央護衛連隊長の人事選考の事なんて、すっかり忘れてた」

横のゼイブンも追随する。
「…………だから今更何だ。
って感じだな…。
今は中央護衛連隊長なんかより、生きてて御の字。だしな」
言って顔上げる。

ディングレーもローフィスも揃って自分を凝視していて、唯一俯くシェイルに、ゼイブンは告げる。
「…あんただって…一度はあの幻想の中で思ったろう?
もう、駄目かも。って」

シェイルは溜息付くと、ぼそり。と告げる。

「もう完全に駄目だ。と思ったアシュアークが…生還しても相変わらず馬鹿だ」

ゼイブンも…ローフィスもディングレー迄もが視線振ると、スフォルツァとラフォーレンは今だアシュアークに
『どうしてキスの相手がアイリスじゃなきゃいけなかったのか』
を必死に成って説明するものの、アシュアークは今だ理解を見せない。

それで…シェイルだけで無く、ゼイブンもディングレーも、ローフィス迄もが、同時に顔下げて、溜息付く羽目になった。

「…つまり…死にかけても馬鹿は治らないか…」

ローフィスの声に、ディングレーは無言で頷き、ゼイブンは同意する。
「…どうやら、そうらしい…」

が………。
シェイル、そしてローフィスですら…崩れる砂のように鮮明だった「夢の結界」の中の記憶が、朧に消えて行くのに、言葉途切れさす。

「あの崖は、高かったな…」
ゼイブンがぼそり…と告げると、ローフィスも思い返す。

雨が上がり、目前。
雲から陽射す、壮大な渓谷と崖。

崖に這う細道を、馬から下りて歩くのが、現在の流儀。

「崖の中の洞窟は結構、快適だったな」
ローフィスの言葉に、ゼイブンが呆れる。
「盗賊が、うじゃうじゃ居たのに?!」
「今に比べれば、それでも全然マシだ」

ゼイブンは狂気の『影』出る、現在の崖の中の洞窟を思い返し、俯く。
「…まあ…確かに」

“誰かが…助けに入ってくれた”
言おうとして、その姿がぼやける。
「ファントレイユ…だったと思う…。
誰かと一緒で………」

ディングレーも囁く。
「大人のテテュスが居て…だが姿がどんどん消えて行くんだ。
確かアイリスより、ずっともっと…」

シェイルも俯く。
「…まあさぞかし、いい男に育ってたさ」

皆、その姿が留められず消えていくのに、とうとう皆口を閉じて、無言で記憶の糸を辿った。



ディンダーデンは、頭の中の声が幾度と無く響くのに、とうとう笑うのを止め、耳傾ける。

“いい加減、離してくれ!”

“…俺が…あんたを掴んでるのか?”

頭の中でタナデルンタスが、服の裾、しっかり握るディンダーデンの姿浮かび上がらせる。
“無意識だから、タチが悪い”
“だが、握ってるからってあんたは、『光の国』に居るんだろう?”
“居るが、無意識でずっと掴まれてるのも、囚人気分だ。
お前と回路作って時々知恵貸してやるから!
いい加減離せ!”

“…ワーキュラスが、ディアヴォロスにしてるように?”
“あれは重なってる。
俺がお前にしてやるのは、せいぜいが会話が出来る程度の事だ”

“俺と重なれないのか?
ゼイブンやローフィスは、出来てたろう?”
“…重なるには、訓練が要る”
“この先『影』に出くわしたら勘弁だから、重なって欲しいな”
“呪文覚える手間、省くつもりだな?!”

“あんたが唱えた方が、威力も高い”
“が、重なるとお前も消耗する。
大体、自分を人に明け渡すには謙虚さが必要だ”
“…………ゼイブンは、してるぞ?
あいつがまさか、謙虚だと言う気か?”
“…あいつは、仕事で『影』に出会うと神聖神殿隊騎士に自分を明け渡さなきゃ成らない事態も出て来るから、反動で明け渡さなくていい時、倍我が儘だ。
だがお前は、生粋生来の我が儘だろう!”

“…つまり自分の、したいようにいつでもしたい。
と思ってちゃ、重ならないのか?”
“当然、そうだ”

“……………………”
“会話は出来るように、回路は作ってやる!
重なって『影』追い払うようにしたいかどうかは、この先考えろ!”
“………だから、離せって?
だが、掴んでる意識が無い”

瞬間、頭に光の細い、糸が見えた。
“これがあるから、もう俺とはいつでも話せる”

瞬間、ディンダーデンは夢幻の中、ずっと一緒だった存在が、離れた気がした。

“………やっぱり…俺が、掴んでいたのか?”

だがタナデルンタスは返答せず、光の糸を思い浮かべると、彼は嬉々として眩しい『光の国』の、美しい花となったかつての人間の女性の意識に、語りかけていた。

ディンダーデンは、目映く眩しい幻の国の光景見つめ、思った。

“タナデルンタスが、見てる物が見えるのか。
便利だな”


…ああ…ディンダーデンが、グレードアップしちゃった…(by 作者)


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