アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第七章『過去の幻影の大戦』

戦場を席巻する憎しみの魔獣ヴォイヴォカン(『闇の第二』の逆襲)

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 『闇の第二』は今やディスバロッサの身から抜け出て、ムストレスからどんどん生気奪い取る。

ディスバロッサはつい…ムストレスを見守った。
嗤って…いた。
心から楽しげに。
『闇の第二』が、ディアヴォロスにその獣の牙、突き立て血溢れ倒れ伏す、ディアヴォロスの幻を見せていた…。

“まだだ…もっと!”

ディスバロッサはそっと…メーダフォーテに囁く。

“ムストレスは…死…ぬ?”

メーダフォーテはぎょっ!とした。
咄嗟に「夢の傀儡靴王」を呼び出す。

“仮にも、『闇の帝王』に入ってる。
見ろ…”

「夢の傀儡靴王」に見せられたその映像で、ムストレスの真っ黒な靄は『闇の第二』に胸の辺りを吸い取られ…がまだ全身の黒は4/5はたっぷりあった…。

「どれ位になれば危ない?」

“その人間の耐久性にも拠るが…1/5程度に成れば、止めた方が良い”

メーダフォーテは続き、呟く。

「ディアヴォロスが死ねば我らも…ここから出られぬのか?!」

「夢の傀儡靴王」は素っ気無く呟く。

“…かなり…予定の変更を施したら、そういう事に…成ってしまったようだ…………”

メーダフォーテは憤慨した。
「どうして…!
私がここに居るのに、予定変更する!!!」

“…言ったろう…お前は、ガスパスが姫を汚せば…ガスパスに入り込んだ人間と共に直ぐ、抜けられる…と。
それ位の事が、どうして出来ないのか、知りたいのは我の方だ………”

うんと簡単な、脱出法を用意してるのに。
そう言われ、メーダフォーテはかっ!と怒った。

「だからお前が!
姫にアイリスなんか入れ込む手違いをした為と、どうして解らない!!!」

怒鳴ったが、「夢の傀儡靴王」は無言で無視した。



 神聖神殿隊の騎士達が次々と戦場に姿現す。
突進するヴォイヴォカンは、押し寄せるダキュアフィロスの軍に背向け逃げ出す兵の間すり抜け、逆走し襲い来る。

その数は更に増すばかり。
が、次々と空間から姿現す神聖神殿隊騎士らは、襲い来る影の魔獣を迎え撃つ。

戦場のあちこちで配下達がヴォイヴォカンに向け、その力を放射するのを見、アースラフテスは大声で叫ぶ。

『身を護れ!』

雷を解き放った後、襲いかかる影の魔獣とすれ違い様、濃い“障気”に膝を折る味方兵らを目に、もっと強い守護の光に身包み自らを護るよう、アースラフテスは大声で注意喚起を促す。

「!」
「…糞…!」

が、騎士らの放つ攻撃を受けてその身を削り、一回り小さくなりながらもヴォイヴォカンは、その進む歩を止めない!

あるヴォイヴォカンは攻撃をひらりとすり抜け、追い来る神聖神殿隊騎士に凄まじい“障気”ぶつける!

神聖神殿隊騎士は真っ黒な“障気”に包まれ身を折り…が、全身黒に染まる前、それを一気に弾き飛ばし、逃げ去った魔獣に振り向き、再びの攻撃仕掛けようと両腕広げ…が、苦痛に顔歪めて膝を折る。

『戻れ!
“障気”を受けたら直ちに引け!』

アースラフテスの忠告に従い、空間に姿消し行き、直ぐ様代わりの神聖神殿隊騎士が空間より降り立ち、真っ直ぐ襲い来るヴォイヴォカンと相対す。

待機してる神聖神殿隊騎士らが、戦場に居る者らへ続け様に叫ぶ。

“引け引け!次が山程居る!”
“長居するな!
『闇の第二』の“障気”だ!
乗っ取られる前に引け!”


ドロレスは、戦場後方で敵騎士と剣を交えてるダキュアフィロス軍を指揮する、テテュスの目前に一瞬で姿現す。

「引け!
直ぐだ!
『闇の第二』の“障気”だ!
味方兵の全てが奴に乗っ取られる!
神聖神殿隊騎士が足止めしてる。
今の内に早く!」

テテュスは、はっ…として背後振り向く。
ローフィス、シェイル、アシュアーク…そして大切なエルベスの乗る馬車が、こちらに向かって走り来る真っ最中。

テテュスは剣振り上げ、大声で叫ぶ。

「引け!
『影』が寄せ来る!
今すぐ目前の敵斬り殺し、直ちに引け!」

ダキュアフィロスの軍勢は戦場に響き渡るその咆吼に皆、剣交わす敵の腹一気に剣突き刺し、来た方向へと駆け出す。

軍の騎兵達は一斉に引きながら、今だ剣交えたままの味方助け、敵の背に一太刀切りつけ叫ぶ。
「引くぞ!
『影』が来る!!!」

次々と、まだ味方と剣交えてる敵を剣振り斬り殺しながら、軍勢は続々来た道戻り行く。

テテュスが見ると、ドロレスは一つ、頷く。
テテュスもドロレスに頷き返すと、味方軍勢の最後尾で馬を回し、拍車かけ一気に駆け出し、戦場を後にした。



 神聖神殿隊騎士らに次々に攻撃受け、突進し来る多数の魔獣、ヴォイヴォカンはそれぞれの身が削られ、その大きさが半分程になっているのを、アースラフテスは見る。

が、目指す相手。
神聖騎士ダンザインとウェラハスが護る光の結界に近づくにつれ、一体、また一体と、次々に合流、融合しながらその数減らし、魔獣は大きさを増して行く。

攻撃した獣を追おうとする味方に、アースラフテスは叫ぶ。

「まだ来る!
追うな!
迎え撃て!」

神聖神殿隊騎士達は、背を向けたレアル城方向を、はっ!として振り向くと、退却する敵兵らの間からすり抜け襲い来る、新たなヴォイヴォカンの群れに相対す。

「野郎!」
「行かせるか!」

瞬時に神聖神殿隊騎士が解き放つ光弾が、宙飛ぶヴォイヴォカンを包む。

が、薄れ行く光の中、濃い“障気”纏う憎しみの魔獣は、光に周囲覆い尽くす“障気”を霧散させられその身大きく削り、が、真っ直ぐ神聖騎士の光の結界に護られる、ディアヴォロスら目指し駆け去る。

アースラフテスは叫ぼうとした。
が、察した隊員騎士らは、一人が動き出すと皆同様、別の隊員騎士の元へ飛び、二人…もしくは三人組みでレアル城方向から新たに襲い来る魔獣の群れに相対す。

「消し去るぞ!」
一人が叫ぶと、他の二人も頷く。


アースラフテスは心の中で
“いいぞ…!”
そう呟きながら、馳せ来る魔獣が次々に融合し、どんどん巨大になる一匹のヴォイヴォカンの、真正面に飛び立ち塞がる。

巨大な光球をブツけ一瞬で宙に消え、数メートル背後に再び姿現す。

が、その身は削れ一回り小さくなりながらも魔獣は尚も馳せ来る!

アースラフテスは再び光球ブツけ一瞬で宙に消え去る。
また一瞬でその後ろへに姿現すが、ヴォイヴォカンは一回り小さくなりながらそれでも向かい来る!

突っ込み来るヴォイヴォカンを真正面で見据え、アースラフテスは内心唸る。

“消し去る以外、歩止める方法無しか…!”

続け様に光弾ブツけ下がり、宙より現れた一瞬で攻撃し続けるが、走り続けるヴォイヴォカンは削れ、その身減らし続けても、消え去る様子は無い。

「…まだか…!しぶといな………!」

アースラフテスは一声呻くと、その場に立ちはだかり立て続けにヴォイヴォカンに向け、光の光弾を放射し続け、その身を次々に消し去る。

光弾が当たる箇所が次々光と覆われ行き、魔獣は光で霧散させられ、小さく、小さくなって行く。

が!
踏み止まるアースラフテスのその横を、別の融合し巨大化したヴォイヴォカンが走り抜ける。

「…!」
しまった…!

心の中で舌打った時、光弾ぶつけその身削り続け狼程の大きさとなったヴォイヴォカンが、赤い瞳ギラリ…!と光らせ、自分目がけ地を蹴った。





 ダンザインもウェラハスも、“気”を引き締めた。
アースラフテスの警告が響いて次の瞬間、巨大なヴォイヴォカンが、光の結界にぶち当たって来る。

どぉぉぉぉぉんっ!

巨大な一匹のヴォイヴォカンは神聖騎士の光の結界にその身を一気に削られながら身を屈め、それでも再び頭(こうべ)上げ、二度(にたび)黒い巨大な体を光の結界にぶち当てる。

どぉぉぉぉぉぉんっっっっ!

咄嗟、ウェラハスがぐら…と足を揺らす。
一際…濃い“障気”。

ダンザインはそっ…とウェラハスを気遣う。
“ヤグスティンに…かなり力を吸い取られたか?”

“障気”の影響無いか伺うが、ウェラハスは微笑う。
が、すっ…とホールーンが姿現し、ウェラハスに告げる。
“貴方は回路補修の指揮を。
エイリル一人で走り回ってる”

ウェラハスは苦笑し、けどうんと消耗の少ないその仕事を差し出すホールーンの好意受け取り、その場を一瞬で消え去った。

再び…どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんんんっっ!

凄まじい音がして、ダンザインが一瞬で“気”を張り詰める。
がその、力を制御しつつ衝撃に耐えるダンザインの苦悶の表情見、ホールーンの眉が寄る。

長に、そっと囁く。
“アーチェラスはまだ、元気だ”

ダンザインは思い切り発光出来ず、“障気”に囲まれ随分消耗している自分を感じた。

理知的な、薄茶のホールーンの瞳に一つ、頷く。
“…では私もウェラハス同様、好意に甘えて回路を支えよう…。
力を制御し損なうと、この空間は崩壊し皆が死ぬ”

ホールーンが頷き、直ぐ様アーチェラスは気づいて“気”を向ける。
消え行くダンザインに取って代わって、アーチェラスが姿現すとホールーンに一つ頷き、ブチ当たって来るヴォイヴォカンの“障気”と衝撃に眉寄せ、その身から光宙に放って光の結界を強化した。



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