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第七章『過去の幻影の大戦』
戦場を去る『影』の標的シェイル
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ディスバロッサの瞳に…『光の民』とは種類の違う…が、紛れもない金の光に包まれた右将軍が、周囲にその光を大きく輝かせる様が映し出される。
あの…“光”に、もぎ取られたのだ。獲物を。全て!
身が、がたがたと震った。
『解らぬのか?
だから奴は王族なのだ。
あれだけの光を、纏っているからこそ、多くの者に好かれ…慕われ、我らを退け『光の民』を引き寄せ…この国を、護ってる』
ディスバロッサはぶるぶる震い、叫ぶ。
「それではまるで…まるで守護神だ!
人間の分際で!」
『闇の第二』は彼の中で、くっくっくっ…と嗤った。
『…そう。人間だ。
殺せば終わり。
奴を斬れば、再び兵は我らのもの』
「…どう…殺す!
神聖騎士が、護っているのに!」
『それでも地には一人。
数はこちらが、圧している』
ディスバロッサは顔を、上げた。
「では殺せ…!
我に出来るなら…「右の王家」の者等、根絶やしにしてやる…!」
『闇の第二』はくっくっくっ…と嗤い、その言葉を聞いた。
『お前の母はお前の父を、「右の王家」の女に取られたから、さぞかし遺恨は深いだろうな?』
ディスバロッサは自分の中の、『闇の第二』を睨め付けた。
「…出来るとお前がそう…言ったのだぞ?」
『闇の第二』はくっくっくっ…と嗤い、目前に翼畳む、アギラスに顎をしゃくる。
ディスバロッサはその、端正な冷たい面を向ける、青く幻想的で美しい魔を、見つめた。
ワーキュラスが叫ぶ声を、エルベスは聞き、頷く。
テテュスを…そしてレイファスを見つめ、屈み素早く囁く。
「動ける?」
テテュスは頷き、レイファスは顔を向ける。
エルベスは背後、一頭の馬が、駆け込んで来る駒音に振り向く。
手綱を取ると馬はいななき、歩を止める。
「乗って!」
叫ぶと、テテュスが身を起こし、レイファスを助け、馬に、担ぎ上げる。
ヒヒン!
シェイルが振り向く。
そしてアシュアークに囁く。
「騎乗し、ダキュアフィロスの軍と合流しろ!」
アシュアークは脇を押さえ、青冷めた顔を向け怒鳴る。
「…戦士が…戦場を去れるか!」
シェイルはエルベスに振り向く。
「…この強情っ張りを、乗せて後ろから手綱を!」
が、エルベスは首を横に振る。
「乗るのは君だと、ワーキュラスは言った筈だ」
ディングレーが剣を手に、息切らして怒鳴る。
「敵の目当てはお前なんだ!
いいからとっととアシュアークを乗せてここを去れ!」
傷から血を滴らせるディングレーに、荒い吐息で。
けれど腹の底からの肝の据わった声で、きっぱり言われ、シェイルはアシュアークを見る。
金髪の近衛准将の、青の瞳はやつれた顔の中、輝く。
「俺は去らない!ぅ…わっ!」
いきなり背後から胴を掴まれ持ち上げられて、アシュアークは手足を宙にバタつかせ振り向く。
オーガスタスがアシュアークを持ち上げると、馬の背に放り投げる。
シェイルが慌てて馬に乗り上げ、反対側に落ちそうなアシュアークの腕を掴み、引いた。
アシュアークはその衝撃で斬られた脇腹に刺すような鋭い痛みが駆け抜け、呼吸も出来ず唇を、噛む。
オーガスタスはシェイルを見、怒鳴る。
「いいからそのまま乗って、ローフィスと合流しろ!」
シェイルは泣き出しそうな瞳を、オーガスタスに向けた。
がオーガスタスの黄金の瞳は強く、シェイルは震えながら一つ、頷いて足を跳ね上げ、アシュアークの前に坐すと、後ろに振り向き叫ぶ。
「飛ばす!
決死で掴まれ!」
アシュアークは文句が言いたかった。凄く。
けど押し上げる痛みで、呻く、事すら出来なかった。
仕方なく力無い腕をシェイルの腰に回し、しがみついた。
万一落馬したらこれよりもっと…凄まじい痛みが身を襲う。と解って。
が、心の中で大声で叫ぶ。
『半端無く痛いぞ!』
途端、里からの光が溢れるように身を包み、ようやく和らぐ痛みに、アシュアークは息を大きく、吸い込んだ。
テテュスが、エルベスを見る。
エルベスが微笑む。
「レイファスを、護る自信が無い?」
テテュスが切なげに、エルベスを見つめる。
そして、俯くと告げた。
「必ず…危なくなったらワーキュラスに引かせて貰うと…絶対に!」
エルベスは微笑んで頷く。
「…君のほうが、間違いなく大事(おおごと)だ」
そして、アルファロイスの指示で馬を呼び寄せ、次々騎乗するアーマラスの騎兵達を、見る。
「…彼らを連れて、ファントレイユと無事、合流して」
エルベスの指示に、テテュスは馬に跨り、手綱を取って頷く。
レイファスは顔を上げ、目前のテテュスの見慣れた広い背に、一つ吐息吐いてテテュスの腰に腕を、巻きつけた。
振り向くアルファロイスにじっ。と見つめられて、ギュンターは自分がアーマラスだった。と突然気づく。
右将軍は見返すギュンターに、一つ頷く。
ギュンターは駆け行く馬上のシェイルを指し、乗馬した騎兵に腹の底から、肝の座った大声で怒鳴る。
「銀髪の長の後に続き、ダキュアフィロスの軍勢と合流しろ!」
騎兵達は弾かれたようにその声で、一斉に先を駆ける、シェイルの背を追う。
シェイルはギュンターの、叫びを受けて、振り向く。
自分が銀髪の長シェーンデューンだった。
と突然思い出す。
追随する、今や味方に戻った30程の騎兵達が怒涛の如く馬を寄せ来るのを見、更に拍車を駆ける。
ぐん…!と速度を上げる馬に上体持って行かれ、アシュアークは引きかけた痛みが戻るのに、歯を食いしばった。
あの…“光”に、もぎ取られたのだ。獲物を。全て!
身が、がたがたと震った。
『解らぬのか?
だから奴は王族なのだ。
あれだけの光を、纏っているからこそ、多くの者に好かれ…慕われ、我らを退け『光の民』を引き寄せ…この国を、護ってる』
ディスバロッサはぶるぶる震い、叫ぶ。
「それではまるで…まるで守護神だ!
人間の分際で!」
『闇の第二』は彼の中で、くっくっくっ…と嗤った。
『…そう。人間だ。
殺せば終わり。
奴を斬れば、再び兵は我らのもの』
「…どう…殺す!
神聖騎士が、護っているのに!」
『それでも地には一人。
数はこちらが、圧している』
ディスバロッサは顔を、上げた。
「では殺せ…!
我に出来るなら…「右の王家」の者等、根絶やしにしてやる…!」
『闇の第二』はくっくっくっ…と嗤い、その言葉を聞いた。
『お前の母はお前の父を、「右の王家」の女に取られたから、さぞかし遺恨は深いだろうな?』
ディスバロッサは自分の中の、『闇の第二』を睨め付けた。
「…出来るとお前がそう…言ったのだぞ?」
『闇の第二』はくっくっくっ…と嗤い、目前に翼畳む、アギラスに顎をしゃくる。
ディスバロッサはその、端正な冷たい面を向ける、青く幻想的で美しい魔を、見つめた。
ワーキュラスが叫ぶ声を、エルベスは聞き、頷く。
テテュスを…そしてレイファスを見つめ、屈み素早く囁く。
「動ける?」
テテュスは頷き、レイファスは顔を向ける。
エルベスは背後、一頭の馬が、駆け込んで来る駒音に振り向く。
手綱を取ると馬はいななき、歩を止める。
「乗って!」
叫ぶと、テテュスが身を起こし、レイファスを助け、馬に、担ぎ上げる。
ヒヒン!
シェイルが振り向く。
そしてアシュアークに囁く。
「騎乗し、ダキュアフィロスの軍と合流しろ!」
アシュアークは脇を押さえ、青冷めた顔を向け怒鳴る。
「…戦士が…戦場を去れるか!」
シェイルはエルベスに振り向く。
「…この強情っ張りを、乗せて後ろから手綱を!」
が、エルベスは首を横に振る。
「乗るのは君だと、ワーキュラスは言った筈だ」
ディングレーが剣を手に、息切らして怒鳴る。
「敵の目当てはお前なんだ!
いいからとっととアシュアークを乗せてここを去れ!」
傷から血を滴らせるディングレーに、荒い吐息で。
けれど腹の底からの肝の据わった声で、きっぱり言われ、シェイルはアシュアークを見る。
金髪の近衛准将の、青の瞳はやつれた顔の中、輝く。
「俺は去らない!ぅ…わっ!」
いきなり背後から胴を掴まれ持ち上げられて、アシュアークは手足を宙にバタつかせ振り向く。
オーガスタスがアシュアークを持ち上げると、馬の背に放り投げる。
シェイルが慌てて馬に乗り上げ、反対側に落ちそうなアシュアークの腕を掴み、引いた。
アシュアークはその衝撃で斬られた脇腹に刺すような鋭い痛みが駆け抜け、呼吸も出来ず唇を、噛む。
オーガスタスはシェイルを見、怒鳴る。
「いいからそのまま乗って、ローフィスと合流しろ!」
シェイルは泣き出しそうな瞳を、オーガスタスに向けた。
がオーガスタスの黄金の瞳は強く、シェイルは震えながら一つ、頷いて足を跳ね上げ、アシュアークの前に坐すと、後ろに振り向き叫ぶ。
「飛ばす!
決死で掴まれ!」
アシュアークは文句が言いたかった。凄く。
けど押し上げる痛みで、呻く、事すら出来なかった。
仕方なく力無い腕をシェイルの腰に回し、しがみついた。
万一落馬したらこれよりもっと…凄まじい痛みが身を襲う。と解って。
が、心の中で大声で叫ぶ。
『半端無く痛いぞ!』
途端、里からの光が溢れるように身を包み、ようやく和らぐ痛みに、アシュアークは息を大きく、吸い込んだ。
テテュスが、エルベスを見る。
エルベスが微笑む。
「レイファスを、護る自信が無い?」
テテュスが切なげに、エルベスを見つめる。
そして、俯くと告げた。
「必ず…危なくなったらワーキュラスに引かせて貰うと…絶対に!」
エルベスは微笑んで頷く。
「…君のほうが、間違いなく大事(おおごと)だ」
そして、アルファロイスの指示で馬を呼び寄せ、次々騎乗するアーマラスの騎兵達を、見る。
「…彼らを連れて、ファントレイユと無事、合流して」
エルベスの指示に、テテュスは馬に跨り、手綱を取って頷く。
レイファスは顔を上げ、目前のテテュスの見慣れた広い背に、一つ吐息吐いてテテュスの腰に腕を、巻きつけた。
振り向くアルファロイスにじっ。と見つめられて、ギュンターは自分がアーマラスだった。と突然気づく。
右将軍は見返すギュンターに、一つ頷く。
ギュンターは駆け行く馬上のシェイルを指し、乗馬した騎兵に腹の底から、肝の座った大声で怒鳴る。
「銀髪の長の後に続き、ダキュアフィロスの軍勢と合流しろ!」
騎兵達は弾かれたようにその声で、一斉に先を駆ける、シェイルの背を追う。
シェイルはギュンターの、叫びを受けて、振り向く。
自分が銀髪の長シェーンデューンだった。
と突然思い出す。
追随する、今や味方に戻った30程の騎兵達が怒涛の如く馬を寄せ来るのを見、更に拍車を駆ける。
ぐん…!と速度を上げる馬に上体持って行かれ、アシュアークは引きかけた痛みが戻るのに、歯を食いしばった。
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