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第七章『過去の幻影の大戦』
ローランデ一行と合流するアイリスとディンダーデン
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ディンダーデンはそっと気絶したノルンディルの体をその、塔を降りたタナデルンタスの自室の、目立たない隅に隠す。
そして机の上の小瓶を開け匂いを嗅ぎ、一つを掴むとノルンディルの、鼻に垂らす。
「…これで暫くは大丈夫だろう?」
アイリスに振り向く。
が、アイリスは窓の外を見つめていた。
「姿を隠せるマントをくれ」
「…どうした?」
背後から覗くと、移動するローランデ、スフォルツァとラフォーレンが遥か下に見え、その背後を付けている人影が見えた。
「…ローランデがメーダフォーテに押さえられたら、めちゃマズイな………」
呟くとアイリスはローランデの後付ける、男から視線を、逸らさぬまま応える。
「この状況じゃ、そうだな…」
アイリスの抑揚の無い呟きに、ディンダーデンも口を閉ざす。
ローランデが「飛び魔(イレギュレダ)だ!」
と叫んだその後から…戦場の皆の声はぷっつり…途切れたまま。
城内にうようよ居た『影』達も今はまばら…。
皆、戦場に解き放たれて行った。
戦場の連中は、戦いに一刻も気が、抜けないんだろう…。
アイリスはメーダフォーテが自分を盾に使わないのは、「夢の傀儡靴王」に思惑がある為なのかも。と思い始める。
「…ローランデが、捕まる前にあいつらを始末しよう」
アイリスに言われてディンダーデンが見ると、付けていた男は一個小隊…20人近い数の男を従え、続け!と手を、振り上げていた。
「…見て思わないのか?
どれだけ階段下ればあそこに辿りつけるのかと」
ついディンダーデンはぼやくが、アイリスは
「だから急がないと」
そう囁く。
が。
ディンダーデンはクローゼットからマントを取り出し、手渡しながらアイリスを見る。
「肩の傷が開くぞ?」
アイリスはディンダーデンからマントを受け取り、素早く羽織って言った。
「…痛みがかなり減ってる。
相当な数の『光の民』の末裔が、私達を包んでくれてるようだ」
ディンダーデンは部屋を出、石の階段を駆け降りて行くアイリスの背を見ながら、ぼやく。
「(…どうして部屋で二人きりで暇してる時にそうならないかな…。
怪我してなきゃ力づくで、押し倒したのに………)」
階段を下りながら、時折窓を覗くが、ローランデらは入り組んだ庭園へと入り、後ろの者達は捕らえる隙を狙い付けて行く。
アイリスは二段飛び降りながらかなりの早さで下り、ディンダーデンはそのアイリスの器用さに、舌を巻いた。
でこぼこした螺旋状の石の階段は、時折高さも違う程適当だった。
「(ヘタしたらつま先持っていかれ、頭と尻で転がって一気に下まで降りられそうだ。
着いた時、意識がある保証は全然無いが)」
が、アイリスは蝶のようにひらり…ひらりと飛び降りて行く。
「(なんか、あれだけデカくてゴツい男がこれだけ優雅。
ってのも嫌味だな)」
気づくと先が途切れ、その後平な石の向こうにアーチ状の煉瓦の出口。
アイリスがその先へ飛び出す背を追い、ディンダーデンも階下に足を付き外へ。
頭の中でローランデに警告送る、アイリスの声が響く。
「背後。10人超える数が、貴方を付けている」
スフォルツァとラフォーレンが振り向こうとするのを、ローランデは止めたようだった。
「…気づいてる。
ありがとう」
「だが君達がここで、派手な立ち回りをしたら人が飛んで来る。
敵だらけだし、君らはお尋ね者だから、残りの『影』の、おやつになりかねない」
この件(くだり)でスフォルツァとラフォーレンが、真っ青に震え上がるのを、ディンダーデンは感じた。
「背後から数人、私とディンダーデンが引き受ける」
アイリスの言葉にディンダーデンは呻く。
「俺は聞いてない」
アイリスは振り向かず頭の中で応える。
「今言った」
ローランデは背後のスフォルツァとラフォーレンに振り向き、一つ、頷く。
二人は頷き返すと、次の庭園樹木を通り過ぎると、さっ…!とその身を左右の木立に隠す。
ローランデは木立をすり抜け、四人程の男が進むその横の木に身を隠し、通り過ぎた男が見失った標的を探し、キョロキョロと首を振る背後から、腕を回し口を塞ぎその背に剣を、突き刺した。
「ぅ…!」
振り向く男達に、スフォルツァもラフォーレンも襲いかかる。
スフォルツァは口を塞ぎ、ラフォーレンは声を出す間も与えず、剣を突き刺し殺す。
どさっ!
スフォルツァが残る敵を探すが、ローランデが後一人を、既に殺し骸を地に、滑り下ろすのを目にした。
が、後に続く男二人が、血糊滴る剣を下げたローランデを見、かかって来る。
スフォルツァは横を通り過ぎる、男の前に飛び出し、呻く。
「俺を無視するな!」
叫ぶなり、剣を振る。
ずばっ!
ラフォーレンは一瞬で飛び込んで来る敵に身を屈め、下から剣を振り切る、ローランデを見た。
やはり、一瞬。
流石…と言いかけ、足音に振り向く。
やって来た男は倒される味方を見、背を向け逃げ出す。
ラフォーレンはチッ!と舌を鳴らすと、その後を、追った。
男は背後の味方に合流しようと、叫ぼうとした。
が………。
背の高い、広い肩幅の体格のいい男。
その男が、ぐったりと事切れる仲間の一人の襟首掴み、鮮血真新しい滴る剣を下げ、こちらに振り向く。
濃い長い栗毛。青の流し目の美男と、目が合った途端にやっ!と笑われ、ひっ!と叫んで走り出した。
ずばっ!
いきなり熱い痛みと共に息が途切れそして………。
ディンダーデンは逃げ出す男の前に瞬時に回り込み斬り殺す、アイリスを青の流し目でジロリ、と見る。
ラフォーレンが駆け込み、呻く。
「…アイリス殿…」
背後から、スフォルツァと…ゆったりと歩を進める、ローランデの姿。
ディンダーデンがむすっ。と呻く。
「で、“影"は見当たらないようだが?
今のとこ」
スフォルツァがその不機嫌ないかつい肩の美男を伺い見ると、眉を寄せた。
「…そこら中に、うようよ居た。
さっき迄は!」
喧嘩売るような言い草に、ラフォーレンはそっ…とスフォルツァを、いざと成れば押し留める為、横に付く。
ローランデはアイリスの姿を見つけ、微笑む。
「会えて嬉しい」
アイリスも同様、にっこり微笑み返す。
「私もです」
ディンダーデンもスフォルツァもラフォーレンも、この不気味な城内でのその優雅な二人の挨拶に、呆れて無言で視線を、向けた。
そして机の上の小瓶を開け匂いを嗅ぎ、一つを掴むとノルンディルの、鼻に垂らす。
「…これで暫くは大丈夫だろう?」
アイリスに振り向く。
が、アイリスは窓の外を見つめていた。
「姿を隠せるマントをくれ」
「…どうした?」
背後から覗くと、移動するローランデ、スフォルツァとラフォーレンが遥か下に見え、その背後を付けている人影が見えた。
「…ローランデがメーダフォーテに押さえられたら、めちゃマズイな………」
呟くとアイリスはローランデの後付ける、男から視線を、逸らさぬまま応える。
「この状況じゃ、そうだな…」
アイリスの抑揚の無い呟きに、ディンダーデンも口を閉ざす。
ローランデが「飛び魔(イレギュレダ)だ!」
と叫んだその後から…戦場の皆の声はぷっつり…途切れたまま。
城内にうようよ居た『影』達も今はまばら…。
皆、戦場に解き放たれて行った。
戦場の連中は、戦いに一刻も気が、抜けないんだろう…。
アイリスはメーダフォーテが自分を盾に使わないのは、「夢の傀儡靴王」に思惑がある為なのかも。と思い始める。
「…ローランデが、捕まる前にあいつらを始末しよう」
アイリスに言われてディンダーデンが見ると、付けていた男は一個小隊…20人近い数の男を従え、続け!と手を、振り上げていた。
「…見て思わないのか?
どれだけ階段下ればあそこに辿りつけるのかと」
ついディンダーデンはぼやくが、アイリスは
「だから急がないと」
そう囁く。
が。
ディンダーデンはクローゼットからマントを取り出し、手渡しながらアイリスを見る。
「肩の傷が開くぞ?」
アイリスはディンダーデンからマントを受け取り、素早く羽織って言った。
「…痛みがかなり減ってる。
相当な数の『光の民』の末裔が、私達を包んでくれてるようだ」
ディンダーデンは部屋を出、石の階段を駆け降りて行くアイリスの背を見ながら、ぼやく。
「(…どうして部屋で二人きりで暇してる時にそうならないかな…。
怪我してなきゃ力づくで、押し倒したのに………)」
階段を下りながら、時折窓を覗くが、ローランデらは入り組んだ庭園へと入り、後ろの者達は捕らえる隙を狙い付けて行く。
アイリスは二段飛び降りながらかなりの早さで下り、ディンダーデンはそのアイリスの器用さに、舌を巻いた。
でこぼこした螺旋状の石の階段は、時折高さも違う程適当だった。
「(ヘタしたらつま先持っていかれ、頭と尻で転がって一気に下まで降りられそうだ。
着いた時、意識がある保証は全然無いが)」
が、アイリスは蝶のようにひらり…ひらりと飛び降りて行く。
「(なんか、あれだけデカくてゴツい男がこれだけ優雅。
ってのも嫌味だな)」
気づくと先が途切れ、その後平な石の向こうにアーチ状の煉瓦の出口。
アイリスがその先へ飛び出す背を追い、ディンダーデンも階下に足を付き外へ。
頭の中でローランデに警告送る、アイリスの声が響く。
「背後。10人超える数が、貴方を付けている」
スフォルツァとラフォーレンが振り向こうとするのを、ローランデは止めたようだった。
「…気づいてる。
ありがとう」
「だが君達がここで、派手な立ち回りをしたら人が飛んで来る。
敵だらけだし、君らはお尋ね者だから、残りの『影』の、おやつになりかねない」
この件(くだり)でスフォルツァとラフォーレンが、真っ青に震え上がるのを、ディンダーデンは感じた。
「背後から数人、私とディンダーデンが引き受ける」
アイリスの言葉にディンダーデンは呻く。
「俺は聞いてない」
アイリスは振り向かず頭の中で応える。
「今言った」
ローランデは背後のスフォルツァとラフォーレンに振り向き、一つ、頷く。
二人は頷き返すと、次の庭園樹木を通り過ぎると、さっ…!とその身を左右の木立に隠す。
ローランデは木立をすり抜け、四人程の男が進むその横の木に身を隠し、通り過ぎた男が見失った標的を探し、キョロキョロと首を振る背後から、腕を回し口を塞ぎその背に剣を、突き刺した。
「ぅ…!」
振り向く男達に、スフォルツァもラフォーレンも襲いかかる。
スフォルツァは口を塞ぎ、ラフォーレンは声を出す間も与えず、剣を突き刺し殺す。
どさっ!
スフォルツァが残る敵を探すが、ローランデが後一人を、既に殺し骸を地に、滑り下ろすのを目にした。
が、後に続く男二人が、血糊滴る剣を下げたローランデを見、かかって来る。
スフォルツァは横を通り過ぎる、男の前に飛び出し、呻く。
「俺を無視するな!」
叫ぶなり、剣を振る。
ずばっ!
ラフォーレンは一瞬で飛び込んで来る敵に身を屈め、下から剣を振り切る、ローランデを見た。
やはり、一瞬。
流石…と言いかけ、足音に振り向く。
やって来た男は倒される味方を見、背を向け逃げ出す。
ラフォーレンはチッ!と舌を鳴らすと、その後を、追った。
男は背後の味方に合流しようと、叫ぼうとした。
が………。
背の高い、広い肩幅の体格のいい男。
その男が、ぐったりと事切れる仲間の一人の襟首掴み、鮮血真新しい滴る剣を下げ、こちらに振り向く。
濃い長い栗毛。青の流し目の美男と、目が合った途端にやっ!と笑われ、ひっ!と叫んで走り出した。
ずばっ!
いきなり熱い痛みと共に息が途切れそして………。
ディンダーデンは逃げ出す男の前に瞬時に回り込み斬り殺す、アイリスを青の流し目でジロリ、と見る。
ラフォーレンが駆け込み、呻く。
「…アイリス殿…」
背後から、スフォルツァと…ゆったりと歩を進める、ローランデの姿。
ディンダーデンがむすっ。と呻く。
「で、“影"は見当たらないようだが?
今のとこ」
スフォルツァがその不機嫌ないかつい肩の美男を伺い見ると、眉を寄せた。
「…そこら中に、うようよ居た。
さっき迄は!」
喧嘩売るような言い草に、ラフォーレンはそっ…とスフォルツァを、いざと成れば押し留める為、横に付く。
ローランデはアイリスの姿を見つけ、微笑む。
「会えて嬉しい」
アイリスも同様、にっこり微笑み返す。
「私もです」
ディンダーデンもスフォルツァもラフォーレンも、この不気味な城内でのその優雅な二人の挨拶に、呆れて無言で視線を、向けた。
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