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第七章『過去の幻影の大戦』
進軍を続けるダキュアフィロス軍と、苛烈な戦場
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レイファスは短剣を投げながら、『影』の狼がその支配を、広げつつあるのに泣き出しそうに成る。
そうして味方兵をさんざ、こちらに斬らせ死体にし…再びあの「傀儡(くぐつ)の凶王」達を出すつもりだ。
そう…解ったから。
今の現状なら「左の王家」の始祖の兵達ですら、駆け付けてくれた所で、敵と成る。
レイファスにその考えが浮かんだと、ほぼ同時。
ディアヴォロスがワーキュラスに何か囁きかけたかと思った途端、速度が上がり、ギデオンは慌てた。
遙か後方とは言え、それでも追随する後続の部隊を、完全に置いていきかねない早さで文字道理矢のように突っ走る。
ギデオンは一瞬迷い、が拍車を掛けてディアヴォロスの、背に続いた。
ダキュアフィロスの軍勢はその指揮官が、自分達を置いて行く様にぎょっとし、先頭のある者は速度を上げ、ある者は遅れた。
ファントレイユは混乱する軍勢の先頭に軽やかに馬を走らせ飛び出すと大声で叫ぶ。
「止まれ!」
皆それが余所者で王と仰ぐダキュアフィロスでないと、知っていた。
にもかかわらずその声で、思わず手綱を引いて馬を、止める。
「なぜ止まる!主は遥か前を、走ってるのに!」
「そういうお前こそ、馬を止めたじゃないか!」
「俺は…お前が止まるから…!」
そんな会話はそこかしこで聞こえ、軍勢はその行軍を止めてざわめき渡る。
先頭で、兵に馬を向けたファントレイユは、それは優雅に微笑んだ。
綺羅綺羅しい伊達男の命(めい)に従ってしまった、ダキュアフィロスの猛者達はむっとする。
が、ファントレイユは構うこと無く告げた。
「君達の指揮は今後、私が摂る。
異論は聞かない。
ダキュアフィロス直々の言い渡しと腹を括って、私の命に従うように」
が途端一斉に皆が怒鳴りだす。
「…どこの馬の骨だ?」
「あんなやさ男の命令に従えと言うのか!
我々は誇り高きダキュアフィロスの軍勢ぞ!」
ゼイブンは窓から顔を出し、その大騒ぎに無理無いと思った。
相手が美女なら、ファントレイユでも説得出来たろうが、こんな荒くれ者だらけの猛者達じゃ、舐められて当たり前。
が、ファントレイユはその表情をきつく冷たく変え、怒鳴る。
「私の意に背く者はダキュアフィロスに反旗を翻したとみなす!
文句は聞かない!泣き言は言うな!
黙ってついて来い!」
言うだけ言って、さっ…と背を、向けた。
そして目前の分岐点を、ディアヴォロスとギデオンが抜けた別の方向へと馬を、進める。
いかつい武将達は憮然としていたが、仕方なしにファントレイユの、背に続き行軍を続行した。
ギデオンは兵を置き去りにしたディアヴォロスが、ワーキュラスと囁き更に、ローフィスと頭の中で会話しながら、道を外れとんでもない場所に入り始めるのに慌てる。
岩山を登り始め、その険しさに眉を寄せ、が遅れまいと、馬を急かせた。
ディアヴォロスはローフィスに、近道を尋ねながらチラと背後を伺う。
流石「右の王家」の男だけあり、ギデオンはその険しい道に思い切り眉間を、寄せながらも付いて来る。
ディアヴォロスは前を見つめると、その崖に近い岩山を、軽やかに手綱を繰って登り切った。
エルベスは、城門が、開くのを感じた。
危険に対する第六感としか言えない。
ほぼ同時に、ローランデの決然とした声音が頭の中に飛び込んで来る。
「『影』の軍団が出撃する!
『闇の第二』の指揮で!!!」
ラフォーレンとスフォルツァは門が開き、続々と解き放たれる異形の軍勢に、声を無くす。
遥か先、仲間達の身を思う。
こんな…化物が相手で、戦う術が、あるのかと。
「!」
レイファスが手綱を取って振り返る。
テテュスとエルベスが皆からはぐれたように離れ、城門に近かった。
「ザス!アレッセンダルグ!!!」
叫ぶと、彼の位置からエルベスらの場所迄、光の放射が放たれ、その間に居た『影』に乗っ取られた兵達は一変して正気に戻る。
レイファスはその間を馬で、突っ走る。
エルベスとテテュスの横に着くと、叫ぶ。
「乗って!早く!!!」
エルベスがテテュスの腕を掴むと、馬の背に押しやり、テテュスはフラつく身で何とかレイファスの後ろに、伸し上がる。
「早く!」
レイファスがエルベスに叫ぶが、エルベスは微笑う。
「行って!
私迄乗れば馬は走れない!」
「…ぐ………ぅ……!」
レイファスは怒鳴りたかったが声がくぐもる。
そう言ったエルベスは確かにテテュスより僅かではあったが長身。
テテュスでさえそれは素晴らしい体格で、それが二人………。
せめて自分が降りれば何とか成るかと、手綱をエルベスに、手渡そうかとも考える。
が、エルベスは受け取る気無く、微笑むだけ。
テテュスが振り向き、馬から跨る片足外し、飛び降りようとするのを、エルベスは断固として制す。
「降りるな!
私はワーキュラスに何とかして貰う!
…一時この場から消えても、必ず戻るから!」
テテュスがそう告げるエルベスを見る。
咄嗟にワーキュラスが頭の中で告げる。
“エルベスは君達程複雑じゃない!
危険なら直ぐ、引かせる事が出来る!”
レイファスはワーキュラスの声に安堵し、エルベスに一つ、頷き拍車を掛ける。
「はっ!!!」
テテュスは駆け出す馬の背から、振り向く。
エルベスは叫びながら…その姿を薄く、消して行く。
「必ず戻る!」
テテュスは泣き出しそうな、瞳を向ける。
『影』の軍団が押し寄せる戦場に…!
戻って来るだなんて!
『駄目だエルベス!決して戻るな!!!』
祈るように心の中で叫ぶ。
それが…“神”ワーキュラスに、届く事を願って。
レイファスはオーガスタスらに押し寄せる前面を迂回し、背後…。
今や横から襲い来る敵と戦う、アシュアークとシェイルの元へ騎乗して駆けつける。
テテュスが滑るように馬から降りると、シェイルが短剣を投げ横の敵を殺し振り向き、よろめき膝を折る、テテュスの脇を支える。
テテュスはシェイルを見上げ、それでも微笑む。
「もう…少し休めば戦える」
が、シェイルはテテュスの体から、気力がごっそり、抜け落ちているのに気づく。
背後に馬から降りた、レイファスの気配。
自分の代わりに短剣を投げて囁く。
「そのまま…テテュスを支えてやってくれ!」
シェイルは背後に振り向く。
そう言った、レイファスですら顔色が青かった。
自分でも神聖呪文を使うから、良く、解った。
力が自分から放射されると、気力がすっかり…抜け落ちて行くのが。
シェイルはテテュスを片手で支えたまま、レイファスの、腕を引き寄せる。
短剣投げようと振り上げた、レイファスが咄嗟に呻く。
「…!狙いが逸れる…!」
「いいからお前が!
テテュスを支えてろ!」
レイファスは異論を唱えようとした。
がシェイルはさっさとレイファスの腕を引きその身を後ろに投げつけ、素早く入れ替わりレイファスの居場所を陣取る。
レイファスは思い切り引かれ、どん…!とテテュスの腕に背をぶつけ、呆けてシェイルの背を見守る。
つい…背後に振り向き、テテュスにぼやいた。
「あれって、どうなんだ!
まだ俺が六歳の餓鬼だと思ってないか?!」
テテュスは喚かれて、微笑った。
「…間違いなく、思ってるな」
ギュンターが剣を振り回し、中央を突破し、ディングレーの横に滑り込む。
ディングレーは正面の敵を、剣を振り上げ切り殺し、呻く。
「まずい戦況だ…!」
ギュンターも振り向き様剣を真横に振り敵の腹を切り裂き、静かに怒鳴る。
「…気色悪い奴らがうようよ来やがる!」
城門から真っ直ぐ、こちら目掛け『影』の軍団が近づく。
狂凶大猿(エンドス)の、大きく毛むくじゃらの黒い体がどんどん、近づいて来る。
オーガスタスは斬っても斬っても押し寄せ来る、アーマラスの軍勢を斬りながら、唇を噛む。
「!」
ディングレーが咄嗟に後ろに、飛びすさる。
ギュンターはその様子に、ディングレーに斬りかかった、敵を見る。
オーガスタスと同じくらいの身長の、アーマラス軍の有名な剣豪、デキュラン。
その長身の、頭上から剣を叩きつけられ、流石のディングレーも身を、右に、左に避けながら自身の刃を叩きつける、隙を狙ってる。
ギュンターは正面の男の腹を咄嗟に蹴って剣を振り下ろし一撃で殺し、ディングレーの助っ人に入った。
真横に滑り込み、斜め上から剣を、思い切り振り下ろす。
がちっ!
激しい衝撃で剣を止められ、その衝撃を、受け止める間なく剣を振り上げられ、剣毎上に大きく振られて態勢を崩す。
豪剣唸り剣を、構える間無くデキュランの剣が、振り降ろされる!
ざっ!
ギュンターは剣を、何とか持ち上げようとした。
経験から言って、避けても間に合わず斬られる筈だった。
が、カン!と金属を撥ねる音。
見ると、シェイルが放った喉元襲う短剣を、デキュランは弾いていた。
横からディングレーが斬りかかる。
黒髪散らし、激しい一刀。
がちっ!
がそれも留められ、豪腕の剣に、ディングレーの剣を握る手が震えた。
「ギュンター!
こっちを頼む!」
背後からオーガスタスに怒鳴られ、ギュンターは振り向く。
オーガスタスの、目が真っ直ぐ自分を捉える。
彼は、微笑っていた。
ギュンターは素早くオーガスタスの、前に飛び込む。
オーガスタスはその場をギュンターに任せ、ディングレーに二太刀浴びせ次に振り上げた剣で止めを刺そうとするデキュランの、横へと滑り込む。
「こっちだ!」
一声かけると、振り向くデキュランに向かって一撃、二撃と、剣を立て続けに振り下ろす。
がっ!がっっっっ!
デキュランは二打ともその剣で受ける。
オーガスタスは剣を引き、笑う。
「俺と変わらぬ力自慢か」
が、デキュランの瞳は暗褐色に光る。
ギュンターも正面の男と渡り合い、感じる。
ディングレーも背後に回りこもうとする、男と相対す。
以前とは違う。
一撃で、倒せない!!!
そうして味方兵をさんざ、こちらに斬らせ死体にし…再びあの「傀儡(くぐつ)の凶王」達を出すつもりだ。
そう…解ったから。
今の現状なら「左の王家」の始祖の兵達ですら、駆け付けてくれた所で、敵と成る。
レイファスにその考えが浮かんだと、ほぼ同時。
ディアヴォロスがワーキュラスに何か囁きかけたかと思った途端、速度が上がり、ギデオンは慌てた。
遙か後方とは言え、それでも追随する後続の部隊を、完全に置いていきかねない早さで文字道理矢のように突っ走る。
ギデオンは一瞬迷い、が拍車を掛けてディアヴォロスの、背に続いた。
ダキュアフィロスの軍勢はその指揮官が、自分達を置いて行く様にぎょっとし、先頭のある者は速度を上げ、ある者は遅れた。
ファントレイユは混乱する軍勢の先頭に軽やかに馬を走らせ飛び出すと大声で叫ぶ。
「止まれ!」
皆それが余所者で王と仰ぐダキュアフィロスでないと、知っていた。
にもかかわらずその声で、思わず手綱を引いて馬を、止める。
「なぜ止まる!主は遥か前を、走ってるのに!」
「そういうお前こそ、馬を止めたじゃないか!」
「俺は…お前が止まるから…!」
そんな会話はそこかしこで聞こえ、軍勢はその行軍を止めてざわめき渡る。
先頭で、兵に馬を向けたファントレイユは、それは優雅に微笑んだ。
綺羅綺羅しい伊達男の命(めい)に従ってしまった、ダキュアフィロスの猛者達はむっとする。
が、ファントレイユは構うこと無く告げた。
「君達の指揮は今後、私が摂る。
異論は聞かない。
ダキュアフィロス直々の言い渡しと腹を括って、私の命に従うように」
が途端一斉に皆が怒鳴りだす。
「…どこの馬の骨だ?」
「あんなやさ男の命令に従えと言うのか!
我々は誇り高きダキュアフィロスの軍勢ぞ!」
ゼイブンは窓から顔を出し、その大騒ぎに無理無いと思った。
相手が美女なら、ファントレイユでも説得出来たろうが、こんな荒くれ者だらけの猛者達じゃ、舐められて当たり前。
が、ファントレイユはその表情をきつく冷たく変え、怒鳴る。
「私の意に背く者はダキュアフィロスに反旗を翻したとみなす!
文句は聞かない!泣き言は言うな!
黙ってついて来い!」
言うだけ言って、さっ…と背を、向けた。
そして目前の分岐点を、ディアヴォロスとギデオンが抜けた別の方向へと馬を、進める。
いかつい武将達は憮然としていたが、仕方なしにファントレイユの、背に続き行軍を続行した。
ギデオンは兵を置き去りにしたディアヴォロスが、ワーキュラスと囁き更に、ローフィスと頭の中で会話しながら、道を外れとんでもない場所に入り始めるのに慌てる。
岩山を登り始め、その険しさに眉を寄せ、が遅れまいと、馬を急かせた。
ディアヴォロスはローフィスに、近道を尋ねながらチラと背後を伺う。
流石「右の王家」の男だけあり、ギデオンはその険しい道に思い切り眉間を、寄せながらも付いて来る。
ディアヴォロスは前を見つめると、その崖に近い岩山を、軽やかに手綱を繰って登り切った。
エルベスは、城門が、開くのを感じた。
危険に対する第六感としか言えない。
ほぼ同時に、ローランデの決然とした声音が頭の中に飛び込んで来る。
「『影』の軍団が出撃する!
『闇の第二』の指揮で!!!」
ラフォーレンとスフォルツァは門が開き、続々と解き放たれる異形の軍勢に、声を無くす。
遥か先、仲間達の身を思う。
こんな…化物が相手で、戦う術が、あるのかと。
「!」
レイファスが手綱を取って振り返る。
テテュスとエルベスが皆からはぐれたように離れ、城門に近かった。
「ザス!アレッセンダルグ!!!」
叫ぶと、彼の位置からエルベスらの場所迄、光の放射が放たれ、その間に居た『影』に乗っ取られた兵達は一変して正気に戻る。
レイファスはその間を馬で、突っ走る。
エルベスとテテュスの横に着くと、叫ぶ。
「乗って!早く!!!」
エルベスがテテュスの腕を掴むと、馬の背に押しやり、テテュスはフラつく身で何とかレイファスの後ろに、伸し上がる。
「早く!」
レイファスがエルベスに叫ぶが、エルベスは微笑う。
「行って!
私迄乗れば馬は走れない!」
「…ぐ………ぅ……!」
レイファスは怒鳴りたかったが声がくぐもる。
そう言ったエルベスは確かにテテュスより僅かではあったが長身。
テテュスでさえそれは素晴らしい体格で、それが二人………。
せめて自分が降りれば何とか成るかと、手綱をエルベスに、手渡そうかとも考える。
が、エルベスは受け取る気無く、微笑むだけ。
テテュスが振り向き、馬から跨る片足外し、飛び降りようとするのを、エルベスは断固として制す。
「降りるな!
私はワーキュラスに何とかして貰う!
…一時この場から消えても、必ず戻るから!」
テテュスがそう告げるエルベスを見る。
咄嗟にワーキュラスが頭の中で告げる。
“エルベスは君達程複雑じゃない!
危険なら直ぐ、引かせる事が出来る!”
レイファスはワーキュラスの声に安堵し、エルベスに一つ、頷き拍車を掛ける。
「はっ!!!」
テテュスは駆け出す馬の背から、振り向く。
エルベスは叫びながら…その姿を薄く、消して行く。
「必ず戻る!」
テテュスは泣き出しそうな、瞳を向ける。
『影』の軍団が押し寄せる戦場に…!
戻って来るだなんて!
『駄目だエルベス!決して戻るな!!!』
祈るように心の中で叫ぶ。
それが…“神”ワーキュラスに、届く事を願って。
レイファスはオーガスタスらに押し寄せる前面を迂回し、背後…。
今や横から襲い来る敵と戦う、アシュアークとシェイルの元へ騎乗して駆けつける。
テテュスが滑るように馬から降りると、シェイルが短剣を投げ横の敵を殺し振り向き、よろめき膝を折る、テテュスの脇を支える。
テテュスはシェイルを見上げ、それでも微笑む。
「もう…少し休めば戦える」
が、シェイルはテテュスの体から、気力がごっそり、抜け落ちているのに気づく。
背後に馬から降りた、レイファスの気配。
自分の代わりに短剣を投げて囁く。
「そのまま…テテュスを支えてやってくれ!」
シェイルは背後に振り向く。
そう言った、レイファスですら顔色が青かった。
自分でも神聖呪文を使うから、良く、解った。
力が自分から放射されると、気力がすっかり…抜け落ちて行くのが。
シェイルはテテュスを片手で支えたまま、レイファスの、腕を引き寄せる。
短剣投げようと振り上げた、レイファスが咄嗟に呻く。
「…!狙いが逸れる…!」
「いいからお前が!
テテュスを支えてろ!」
レイファスは異論を唱えようとした。
がシェイルはさっさとレイファスの腕を引きその身を後ろに投げつけ、素早く入れ替わりレイファスの居場所を陣取る。
レイファスは思い切り引かれ、どん…!とテテュスの腕に背をぶつけ、呆けてシェイルの背を見守る。
つい…背後に振り向き、テテュスにぼやいた。
「あれって、どうなんだ!
まだ俺が六歳の餓鬼だと思ってないか?!」
テテュスは喚かれて、微笑った。
「…間違いなく、思ってるな」
ギュンターが剣を振り回し、中央を突破し、ディングレーの横に滑り込む。
ディングレーは正面の敵を、剣を振り上げ切り殺し、呻く。
「まずい戦況だ…!」
ギュンターも振り向き様剣を真横に振り敵の腹を切り裂き、静かに怒鳴る。
「…気色悪い奴らがうようよ来やがる!」
城門から真っ直ぐ、こちら目掛け『影』の軍団が近づく。
狂凶大猿(エンドス)の、大きく毛むくじゃらの黒い体がどんどん、近づいて来る。
オーガスタスは斬っても斬っても押し寄せ来る、アーマラスの軍勢を斬りながら、唇を噛む。
「!」
ディングレーが咄嗟に後ろに、飛びすさる。
ギュンターはその様子に、ディングレーに斬りかかった、敵を見る。
オーガスタスと同じくらいの身長の、アーマラス軍の有名な剣豪、デキュラン。
その長身の、頭上から剣を叩きつけられ、流石のディングレーも身を、右に、左に避けながら自身の刃を叩きつける、隙を狙ってる。
ギュンターは正面の男の腹を咄嗟に蹴って剣を振り下ろし一撃で殺し、ディングレーの助っ人に入った。
真横に滑り込み、斜め上から剣を、思い切り振り下ろす。
がちっ!
激しい衝撃で剣を止められ、その衝撃を、受け止める間なく剣を振り上げられ、剣毎上に大きく振られて態勢を崩す。
豪剣唸り剣を、構える間無くデキュランの剣が、振り降ろされる!
ざっ!
ギュンターは剣を、何とか持ち上げようとした。
経験から言って、避けても間に合わず斬られる筈だった。
が、カン!と金属を撥ねる音。
見ると、シェイルが放った喉元襲う短剣を、デキュランは弾いていた。
横からディングレーが斬りかかる。
黒髪散らし、激しい一刀。
がちっ!
がそれも留められ、豪腕の剣に、ディングレーの剣を握る手が震えた。
「ギュンター!
こっちを頼む!」
背後からオーガスタスに怒鳴られ、ギュンターは振り向く。
オーガスタスの、目が真っ直ぐ自分を捉える。
彼は、微笑っていた。
ギュンターは素早くオーガスタスの、前に飛び込む。
オーガスタスはその場をギュンターに任せ、ディングレーに二太刀浴びせ次に振り上げた剣で止めを刺そうとするデキュランの、横へと滑り込む。
「こっちだ!」
一声かけると、振り向くデキュランに向かって一撃、二撃と、剣を立て続けに振り下ろす。
がっ!がっっっっ!
デキュランは二打ともその剣で受ける。
オーガスタスは剣を引き、笑う。
「俺と変わらぬ力自慢か」
が、デキュランの瞳は暗褐色に光る。
ギュンターも正面の男と渡り合い、感じる。
ディングレーも背後に回りこもうとする、男と相対す。
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