アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第七章『過去の幻影の大戦』

『影』を駆逐するテテュスとレイファス

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 ディングレーとシェイルが寄り添って見守る中、テテュスが呪文を唱える毎、手に握る剣が真っ白に光って行く。
巧みに馬を操り、向かって逃げて来る兵達を右に左に避け、目指す相手に矢のように馳せる。

蝦蟇は飛び込んで来る敵に咄嗟に振り向くと、例の粘液を飛ばす。
テテュスは頭上で剣を振り回す。

一瞬光の傘が出来、粘液は光に触れて蒸発する。

蝦蟇に乗っていた黄色の肌の小柄な『影』が喚く。
「貴様!
生意気だぞ!!!」

喚く『影』の顔を見た時、顔中いぼだらけ。
その目は真っ黒で白目が無いのを、テテュスは見た。

唇も無い。
その舌は蛇のように細く赤く、チロチロと揺れている。

光の塔の史書に記された、遠い昔の異形。
ロステラスだ。

出会うと、粘液を吐きそれに包まれ、窒息死する。
奴が最も嫌うのは…。

テテュスは目を見開き蝦蟇に近寄るのを怖がる馬を制し、手綱を繰って突っ込み、剣を振る。

ジッッッッッッ!

蝦蟇の横に長い傷を残し、その傷から蝦蟇は水分を急激に無くし、干からび行く。

「!おのれ!」

テテュスは蝦蟇を後に通り過ぎては、手綱を引いて馬の向きを変えながら笑う。

「乗っている、お前も今に届くぞ!」

ロステラスは足元を見る。
蝦蟇の横腹に走る亀裂からどんどんと肌が干からびで行き、その範囲はじわじわと、広がって行った。

「…………ムファートゥヌス・デラロッタ!」

『影』が唱えると、途端いぼだらけの黄色の肌の胸元から、水の噴水が吹き出し、渦を巻いて『影』と乗っている蝦蟇とを包み込む。

渦がどんどん広がって行くのを見、テテュスは大声で叫び、剣を頭上高く掲げた。

「アルリッサ・ド・テ・モローラ!」

掲げられた剣先でばちっ!と派手な音を立て、瞬間炎が噴き出すとその炎は、水の渦目掛け襲いかかる。

水と炎がぶつかり合い、見ていたシェイルとディングレーははらはらした。

明らかに、水の勢いの方が強く範囲も広い。
が炎はチロチロと時に勢いを無くし、それでも渦に這うように広がり行く。

水の渦の中にほぼ姿を消した蝦蟇と『影』は、水の渦に炎が添うように小さいながらも燃え広がり、そして次第に火力を増すのに更に中で大声で、水の勢いを増し炎を駆逐しようと呪文を怒鳴る。

「アレグレ・デフォント!」

一瞬水が噴出し渦を更に大きくし炎が消え行く前に、テテュスが怒鳴る。

「カッサーラ!アウグスタ!」

どっんっ!

まるで爆発だった。
渦の間に勢いを無くした炎が一瞬、水を覆い尽くす勢いで燃え広がった。

ギャァアァァァァァァァァァァァ!




 ディスバロッサが無言で姿を見せる。
「…遣わした三体が最早殺られた」

ムストレスの憮然とした声に、ディスバロッサは無言で頷く。
「二・三人の心なら操れると言ったな?」

そして、傅(かしず)く『影』達を見回す。
群れる者達の、三人がムストレスの視線を受けて、頷く。

ディスバロッサは短い吐息を吐く。
「この者達を通じて、戦場の兵を操れと?」

「呪文の出所を探られるな。
奴らは思ったより強い」

「…ここは元より光の結界。
『影』の力は真の力ではない。
『影』の靄は人の痛み苦しみでは無く、ただ命令のように『これに触れるとこんな風に痛み、苦しみが発する』と設定されているだけ」

「…それでも十分、奴らを苦しめられる。
「夢の傀儡靴王」も奴らを最期は、殺す気でいるんだろう?」

「あてにしない方がいい。
所詮奴は光の者。
物語を楽しんでいるだけで、殺す事だけを愉しみにはしない。
気まぐれに死を、そして生を与え、神の醍醐味に浸る愚か者」

ムストレスはその投げやりな言い様に眉を寄せた。
が命ずる。
「ディアヴォロスがこちらに向かっている。
合流前に、アーマラスの軍勢の、数を削ぎたい。
こちらの犠牲を出さずに」

「……………味方に味方を殺させる?」
ディスバロッサのその問いに、ムストレスが愉快そうに笑った。

が、ディスバロッサは退屈だった。
これだけの大戦。

兵達が幻なんかでなく本物だったら、どれ程わくわくするだろう。
…が、奴らの恐怖は皆、作り物の幻影。

ひとしきり落胆の吐息を吐き、が自分を見つめる三体の『影』に頷く。

『影』の心に入り込むのは簡単だった。
奴らは心を明け渡したから、直ぐに繰り人形に出来た。

三体を、今だ戦場で馳せる『影』の狼に紛れ込ませ送り出す。
『影』の大物達は『影』の狼の姿を借りて戦場を走り周り、近づく兵達に靄を飛ばし次々に取り込み始めた。


レイファスが次々繰り出す光を帯びた短剣に、化物蜥蜴を操る『影』が、ちっ!と舌を鳴らし退却を始める。
足で蜥蜴の胴を蹴って向きを城門に向け、一目散で駆け去る。
レイファスは蜥蜴の背に跨る『影』の男の背に銀の閃光を走らせ、男は背に短剣を受け
「ぎゃっ!」
と叫び、その背が一瞬で炎に包まれ、白い炎の中で両腕をもがき救いを求めるように蠢かせ、炎と共に消えた。

主を失った蜥蜴だけが、城門目指し尚も駆けて行く。
ギュンターは手綱を引き、背後のレイファスを、見つめた。
彼は少し憔悴したように俯き、が顔を上げてニヤリ…!と笑う。

「…まだきっと、次が来る」
ギュンターは逃げる大蜥蜴に首を振る。
「操る『影』が居なきゃあれは、害なしか?」

レイファスは億劫そうに頷き、また大きく肩を揺らして吐息を吐いた。

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