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第七章『過去の幻影の大戦』
奥の手の行方
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ゼイブンは短剣を手に、幾度も投げかけて、止めた。
第一前に乗るギデオンはロクに身を、マトモに馬の背には乗せて居ず、身を左右に忙しく倒しては、突っ込む馬を止めようと寄り来る賊を、馬上から剣を振って、斬り殺していた。
仕方なしに、短剣をうんと先。
突っ込んで来る馬を避け逃げる賊の、背に投げる。
ヒヒン!
振り向くと、ローフィスを前に乗せ、後ろから抱きかかえるように馬を繰るファントレイユらの元へ、賊達が群がり寄って来ていた。
「!」
ゼイブンはようやく、馬に追い縋り轡を掴み、止めようとする賊の背に短剣を投げ付け、ファントレイユの横から走る馬に追いすがる賊にも投げ、寄る敵全部に忙しく短剣を、投げて害虫駆除した。
ファントレイユはやっぱり嬉しそうで、が顔は自分の胸にその背をしっかり抱きかかえる、ローフィスの表情を心配げに伺い見ていた。
「糞!
ローフィス!“里”の援護がある!
意識在る限り、癒しの呪文を唱え続けろ!
俺が唱えてやりたいが…今ちょっと忙しい!!!」
後続の馬に怒鳴り、ゼイブンはまた、走り寄る賊の一人に短剣を投げる。
ギデオンが振り向き、怒鳴る。
「こっちにビビってあっちに行くか!
やっぱ降りて、私が暴れた方が早くないか?」
ゼイブンはぎょっとして、前に座るその、小造りの美女顔の右将軍子息に呆れて呟く。
「…だってまだ、ワンサカ居るんだぞ?」
が、ギデオンはまた、右に身を思い切り倒し、逃げる賊の背を斬って怒鳴る。
「あんたの腕がいいから、大して残ってないじゃないか!」
それでも、どう見ても…。
「三十人が、大した数じゃないのか?」
つい、ぼやく。
がまた後ろが気になり、振り向く。
どうやらファントレイユは長剣は扱えるが、短剣は覚えてない様子だった。
ファントレイユを…ローフィスを、馬から引きずり下ろそうと足を狙い寄る賊の一人にまた、ゼイブンは投げた。
「ぐっ!」
「ぅぐっ!」
「がっ…!」
揺れる馬上で、ゼイブンはそれでも馬の鞍を左手で掴み、後ろに振り向きながら必死で二人を、護る。
ギデオンが振り向き、叫ぶ。
「ファントレイユに聞いてくれ!
もっと速度を、上げていいかを…!」
ギデオンが、乗馬の名手だと言う事は解った。
馬を操りながら馬上からでも敵を斬り殺す事の出来る、凄まじい剣豪だと言う事も。
が、ゼイブンは呟く。
「これ以上上げたら、後ろが付いて来れない…!」
ギデオンが、振り向く。
ファントレイユが抱えるローフィスはぐったり…首を前に折っている。
周囲に寄り来る賊の一人がまた…ゼイブンの短剣で身を仰け反らせ、倒れる。
「…言っちゃ、悪いが、まだ横のでっかい窪みに、もう五十人程控えててこっちに向かって来てる」
ギデオンの呟きに、ゼイブンは慌てて、左のごつごつした岩の向こうの、窪みから続々と賊達が、松明を手に近寄る様に、ぎょっ!とした。
「こっちの馬には近寄らせないが…速度を上げないと後ろが捕まる」
ギデオンは、賊が逃げ惑い手薄に成った前へ突っ走って行き、群れ来る賊達は後続の一頭へ、一斉になだれ込み始める。
「……………っ!」
ゼイブンは、唇を噛む。
ギデオンが振り向き、ゼイブンに尋ねる。
「幾らあんただって、一本の腕であの数は無理だろう?」
ゼイブンは呻いた。
「………テはある!」
「…本当か?
だが鞍を手放し、二本で投げても追っつかない数だぞ?」
ゼイブンは歯を剥いた。
「その手じゃない!!!」
きっ!と背後を振り向き、窪地から岩を駆け上って次々に飛び降り、ファントレイユの繰る馬に駆けつける賊の群れを、睨め付ける。
「!」
が後続の馬上で、ローフィスが気づき顔を上げる。
ゼイブンは窪地を睨め付け、叫んだ。
同時にローフィスも叫ぶ。
「アッカデ・ラ。ラスカンテス!」
「止めろお前は…!」
ゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
……………炎の光球は、真っ直ぐ飛ぶ筈だった。
ローフィスは必死に背後のファントレイユに怒鳴る。
「出せ!早く!
死に物狂いで拍車を掛けろ!」
「だってあんたの体が…!」
「命が惜しいなら、急げ!」
ファントレイユは覚悟を決めたように思い切り馬の腹を、蹴る。
「…………………………」
ゼイブンは自分の放った光球が、窪地に走らず蛇行して行き先が解らなく成る様に、呆然とした。
「あれが奥の手か?
派手だな?」
笑う、ギデオンの横に、ファントレイユの馬が並ぶ。
ローフィスは、ファントレイユに抱きかかえられたまま叫ぶ。
「全速力でここを抜けるぞ!」
「!」
ギデオンは怪我人の、リキの入った怒鳴り声に無言で拍車を掛け、速度いや増すファントレイユの馬に必死で並走する。
グゥ…………ゥオオォォォォォォォォォォォンンンンン……!
異音を発しながら、光球はまだ、あちこちの身を屈める賊の頭上を掠め、蛇行して空間を暴れ回る。
「…!こっちに、来る!」
ファントレイユが叫ぶ。
振り向くギデオンは光球が、左右に揺れながらも背後からこちらに向かう様につい、後ろのゼイブンに怒鳴る。
「!
どうしてこっちを追い立てるんだ!
操れないのか?
あんたから出たんだろう?!」
ゼイブンはギデオンの腰に腕を回ししがみつくと、耳元で怒鳴った。
「とっくに出た後で、その後の事なんか俺が知るか!
いいからとっとと速渡を上げ無いと、あれを喰らうのは俺達ってコトに成る!」
ギデオンは鋭く拍車入れ、前に身を倒し怒鳴り返す。
「最悪の冗談だ!」
ゼイブンの、声がひっくり返る。
「こんな時に冗談なんか、言うか!」
「いいから、急げ!」
ローフィスの声に、ファントレイユもギデオンも身を屈め後ろから迫り唸る光球に追い立てられ、必死で洞窟内を飛ばす。
ゼイブンは後ろに振り返る。
真後ろに巨大な光球が軌道を描き、迫り来るのを目に、ぎょっとする。
「ヤバい!
捕まる!!!」
ギデオンは更に馬を急かし身を倒し怒鳴る。
「こんな馬鹿な事ってあるか!
賊のが百倍マシだ!!!」
が、先が明るい。
「出たら右に折れろ!」
ゼイブンに背後から怒鳴られ、ギデオンは怒った。
「言われなくてもそうする!」
ファントレイユはローフィスを抱え叫ぶ。
「あれを反らす方法は?!」
ローフィスは投げやりに怒鳴り返す。
「ゼイブンに聞け!
そんなもんが、あったらの話だが!」
ファントレイユにブルー・グレーの瞳を向けられ、ゼイブンは叫ぶ。
「一旦出たものが、俺の手に負えるか?!」
「まさか、逃げるしか方法が無いのか?!」
ファントレイユに怒鳴られ、ゼイブンは肩を竦めた。
その様子に、ファントレイユは内心呟く。
「(聞くだけ無駄だった…)」
「出口だ!」
ギデオンの叫びに、ゼイブンが併走するファントレイユに怒鳴る。
「お前は左に避けろ!」
ファントレイユは無言で頷く。
が、ローフィスが何かを唱えていて、ファントレイユはほっとした。
「反らす呪文を、思い出した?!」
ローフィスはぼやく。
「呪文じゃない!
死んでも命がありますようにと、神に祈ってた」
ファントレイユはがっくり首を、垂れた。
出口に差し掛かり、背後に光球は巨大な塊と成って迫り、ローフィスが叫ぶ。
「こんな死に方は絶対、ゴメンだ!」
ゼイブンも叫ぶ。
「俺だって自分の呪文で死ぬなんて恥晒して、安らかに逝けない!」
ローフィスは怒鳴り返す。
「お前はだって、自業自得じゃないか!!!」
洞窟の、外に出た途端、ギデオンは馬の首を右に引く。
「糞!」
同時にファントレイユは左に引いた。
真ん中を割って光球が飛び出して来ると振り返り、馬を止(とど)めて待ち構えた。
が光球は出口にその光の片鱗を覗かせたかと思うと、突然軌道を変えて洞窟内に戻って行く。
ギデオンは馬の手綱を引いて向きを変えながらそれを見たが、笑う。
「…なんだ。戻って行ったか。
あんた、最悪にヘボだと思ったが最後の最後でそうじゃなくて、良かったな!」
が、ローフィスは馬の歩を止めるファントレイユに振り向く。
「いいから、一目散にここを遠ざかれ!」
ヒヒン!
ファントレイユが手綱を引き馬の首を、その先に続く道に向け駆け始めるのを目に、ギデオンも
「ハッ!」
と声を掛けて拍車を掛け続く。
岩の地を抜け周囲に木が多く茂り始める道を、進みながら暫くして………。
ズ……………ン!
と大きな音と共に、地面が大きく揺れた。
ローフィスが、呟く。
「言わんこっちゃ無い……」
ガラ…ガラガラガラ…………。
岩の、崩れる音。
ファントレイユもギデオンも、崩れた岩が坂を転がってまた、逃げ出す事態に成る事を、恐れるように馬の速度を緩めなかった。
心配道理、背後でごろごろと石が転がり落ちて来る音がひっきり成しに響き、ギデオンもファントレイユも、蛇行する山道を必死で馬を駆って駆け下りて行く。
暫く、ごろん!ごろん!と石が転がり落ちる音が続き、横を転がる石が一緒に坂を、駆け下りていたがその、数も徐々に減る。
小石が、馬の足下を、カン…!
カンカン…!と跳ね落ちていって、ようやくローフィスの、声が響く。
「もう…良さそうだ」
ファントレイユもギデオンも…ゼイブンでさえ、吐息を吐いて上体を起こした。
速度を緩め、背後を皆が振り向くと………。
上は茂みが転がる石で覆い尽くされ、木はなぎ倒され…道は転がった石で、埋め尽くされていた。
「…………………………………」
全員が絶句して惚ける中、ファントレイユは気を取り直し、ローフィスに囁く。
「流石だな…。
危険だって、解ってた?」
ローフィスは大きく頷き、言った。
「俺だって命が、惜しいからな!」
ギデオンはつい無言で、背後に跨るファントレイユの父親を見つめる。
ゼイブンはその視線を、避けるようにして俯いた。
※作者の独り言※
可笑しい…。
最初のイメージだと、もっと感動的な場面に成る筈だった…。
ギデオンが一緒だと、大人のファントレイユはギャグに成る………。
それにゼイブンとローフィスじゃ…どう頑張ってもシリアスは無理か………。
第一前に乗るギデオンはロクに身を、マトモに馬の背には乗せて居ず、身を左右に忙しく倒しては、突っ込む馬を止めようと寄り来る賊を、馬上から剣を振って、斬り殺していた。
仕方なしに、短剣をうんと先。
突っ込んで来る馬を避け逃げる賊の、背に投げる。
ヒヒン!
振り向くと、ローフィスを前に乗せ、後ろから抱きかかえるように馬を繰るファントレイユらの元へ、賊達が群がり寄って来ていた。
「!」
ゼイブンはようやく、馬に追い縋り轡を掴み、止めようとする賊の背に短剣を投げ付け、ファントレイユの横から走る馬に追いすがる賊にも投げ、寄る敵全部に忙しく短剣を、投げて害虫駆除した。
ファントレイユはやっぱり嬉しそうで、が顔は自分の胸にその背をしっかり抱きかかえる、ローフィスの表情を心配げに伺い見ていた。
「糞!
ローフィス!“里”の援護がある!
意識在る限り、癒しの呪文を唱え続けろ!
俺が唱えてやりたいが…今ちょっと忙しい!!!」
後続の馬に怒鳴り、ゼイブンはまた、走り寄る賊の一人に短剣を投げる。
ギデオンが振り向き、怒鳴る。
「こっちにビビってあっちに行くか!
やっぱ降りて、私が暴れた方が早くないか?」
ゼイブンはぎょっとして、前に座るその、小造りの美女顔の右将軍子息に呆れて呟く。
「…だってまだ、ワンサカ居るんだぞ?」
が、ギデオンはまた、右に身を思い切り倒し、逃げる賊の背を斬って怒鳴る。
「あんたの腕がいいから、大して残ってないじゃないか!」
それでも、どう見ても…。
「三十人が、大した数じゃないのか?」
つい、ぼやく。
がまた後ろが気になり、振り向く。
どうやらファントレイユは長剣は扱えるが、短剣は覚えてない様子だった。
ファントレイユを…ローフィスを、馬から引きずり下ろそうと足を狙い寄る賊の一人にまた、ゼイブンは投げた。
「ぐっ!」
「ぅぐっ!」
「がっ…!」
揺れる馬上で、ゼイブンはそれでも馬の鞍を左手で掴み、後ろに振り向きながら必死で二人を、護る。
ギデオンが振り向き、叫ぶ。
「ファントレイユに聞いてくれ!
もっと速度を、上げていいかを…!」
ギデオンが、乗馬の名手だと言う事は解った。
馬を操りながら馬上からでも敵を斬り殺す事の出来る、凄まじい剣豪だと言う事も。
が、ゼイブンは呟く。
「これ以上上げたら、後ろが付いて来れない…!」
ギデオンが、振り向く。
ファントレイユが抱えるローフィスはぐったり…首を前に折っている。
周囲に寄り来る賊の一人がまた…ゼイブンの短剣で身を仰け反らせ、倒れる。
「…言っちゃ、悪いが、まだ横のでっかい窪みに、もう五十人程控えててこっちに向かって来てる」
ギデオンの呟きに、ゼイブンは慌てて、左のごつごつした岩の向こうの、窪みから続々と賊達が、松明を手に近寄る様に、ぎょっ!とした。
「こっちの馬には近寄らせないが…速度を上げないと後ろが捕まる」
ギデオンは、賊が逃げ惑い手薄に成った前へ突っ走って行き、群れ来る賊達は後続の一頭へ、一斉になだれ込み始める。
「……………っ!」
ゼイブンは、唇を噛む。
ギデオンが振り向き、ゼイブンに尋ねる。
「幾らあんただって、一本の腕であの数は無理だろう?」
ゼイブンは呻いた。
「………テはある!」
「…本当か?
だが鞍を手放し、二本で投げても追っつかない数だぞ?」
ゼイブンは歯を剥いた。
「その手じゃない!!!」
きっ!と背後を振り向き、窪地から岩を駆け上って次々に飛び降り、ファントレイユの繰る馬に駆けつける賊の群れを、睨め付ける。
「!」
が後続の馬上で、ローフィスが気づき顔を上げる。
ゼイブンは窪地を睨め付け、叫んだ。
同時にローフィスも叫ぶ。
「アッカデ・ラ。ラスカンテス!」
「止めろお前は…!」
ゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
……………炎の光球は、真っ直ぐ飛ぶ筈だった。
ローフィスは必死に背後のファントレイユに怒鳴る。
「出せ!早く!
死に物狂いで拍車を掛けろ!」
「だってあんたの体が…!」
「命が惜しいなら、急げ!」
ファントレイユは覚悟を決めたように思い切り馬の腹を、蹴る。
「…………………………」
ゼイブンは自分の放った光球が、窪地に走らず蛇行して行き先が解らなく成る様に、呆然とした。
「あれが奥の手か?
派手だな?」
笑う、ギデオンの横に、ファントレイユの馬が並ぶ。
ローフィスは、ファントレイユに抱きかかえられたまま叫ぶ。
「全速力でここを抜けるぞ!」
「!」
ギデオンは怪我人の、リキの入った怒鳴り声に無言で拍車を掛け、速度いや増すファントレイユの馬に必死で並走する。
グゥ…………ゥオオォォォォォォォォォォォンンンンン……!
異音を発しながら、光球はまだ、あちこちの身を屈める賊の頭上を掠め、蛇行して空間を暴れ回る。
「…!こっちに、来る!」
ファントレイユが叫ぶ。
振り向くギデオンは光球が、左右に揺れながらも背後からこちらに向かう様につい、後ろのゼイブンに怒鳴る。
「!
どうしてこっちを追い立てるんだ!
操れないのか?
あんたから出たんだろう?!」
ゼイブンはギデオンの腰に腕を回ししがみつくと、耳元で怒鳴った。
「とっくに出た後で、その後の事なんか俺が知るか!
いいからとっとと速渡を上げ無いと、あれを喰らうのは俺達ってコトに成る!」
ギデオンは鋭く拍車入れ、前に身を倒し怒鳴り返す。
「最悪の冗談だ!」
ゼイブンの、声がひっくり返る。
「こんな時に冗談なんか、言うか!」
「いいから、急げ!」
ローフィスの声に、ファントレイユもギデオンも身を屈め後ろから迫り唸る光球に追い立てられ、必死で洞窟内を飛ばす。
ゼイブンは後ろに振り返る。
真後ろに巨大な光球が軌道を描き、迫り来るのを目に、ぎょっとする。
「ヤバい!
捕まる!!!」
ギデオンは更に馬を急かし身を倒し怒鳴る。
「こんな馬鹿な事ってあるか!
賊のが百倍マシだ!!!」
が、先が明るい。
「出たら右に折れろ!」
ゼイブンに背後から怒鳴られ、ギデオンは怒った。
「言われなくてもそうする!」
ファントレイユはローフィスを抱え叫ぶ。
「あれを反らす方法は?!」
ローフィスは投げやりに怒鳴り返す。
「ゼイブンに聞け!
そんなもんが、あったらの話だが!」
ファントレイユにブルー・グレーの瞳を向けられ、ゼイブンは叫ぶ。
「一旦出たものが、俺の手に負えるか?!」
「まさか、逃げるしか方法が無いのか?!」
ファントレイユに怒鳴られ、ゼイブンは肩を竦めた。
その様子に、ファントレイユは内心呟く。
「(聞くだけ無駄だった…)」
「出口だ!」
ギデオンの叫びに、ゼイブンが併走するファントレイユに怒鳴る。
「お前は左に避けろ!」
ファントレイユは無言で頷く。
が、ローフィスが何かを唱えていて、ファントレイユはほっとした。
「反らす呪文を、思い出した?!」
ローフィスはぼやく。
「呪文じゃない!
死んでも命がありますようにと、神に祈ってた」
ファントレイユはがっくり首を、垂れた。
出口に差し掛かり、背後に光球は巨大な塊と成って迫り、ローフィスが叫ぶ。
「こんな死に方は絶対、ゴメンだ!」
ゼイブンも叫ぶ。
「俺だって自分の呪文で死ぬなんて恥晒して、安らかに逝けない!」
ローフィスは怒鳴り返す。
「お前はだって、自業自得じゃないか!!!」
洞窟の、外に出た途端、ギデオンは馬の首を右に引く。
「糞!」
同時にファントレイユは左に引いた。
真ん中を割って光球が飛び出して来ると振り返り、馬を止(とど)めて待ち構えた。
が光球は出口にその光の片鱗を覗かせたかと思うと、突然軌道を変えて洞窟内に戻って行く。
ギデオンは馬の手綱を引いて向きを変えながらそれを見たが、笑う。
「…なんだ。戻って行ったか。
あんた、最悪にヘボだと思ったが最後の最後でそうじゃなくて、良かったな!」
が、ローフィスは馬の歩を止めるファントレイユに振り向く。
「いいから、一目散にここを遠ざかれ!」
ヒヒン!
ファントレイユが手綱を引き馬の首を、その先に続く道に向け駆け始めるのを目に、ギデオンも
「ハッ!」
と声を掛けて拍車を掛け続く。
岩の地を抜け周囲に木が多く茂り始める道を、進みながら暫くして………。
ズ……………ン!
と大きな音と共に、地面が大きく揺れた。
ローフィスが、呟く。
「言わんこっちゃ無い……」
ガラ…ガラガラガラ…………。
岩の、崩れる音。
ファントレイユもギデオンも、崩れた岩が坂を転がってまた、逃げ出す事態に成る事を、恐れるように馬の速度を緩めなかった。
心配道理、背後でごろごろと石が転がり落ちて来る音がひっきり成しに響き、ギデオンもファントレイユも、蛇行する山道を必死で馬を駆って駆け下りて行く。
暫く、ごろん!ごろん!と石が転がり落ちる音が続き、横を転がる石が一緒に坂を、駆け下りていたがその、数も徐々に減る。
小石が、馬の足下を、カン…!
カンカン…!と跳ね落ちていって、ようやくローフィスの、声が響く。
「もう…良さそうだ」
ファントレイユもギデオンも…ゼイブンでさえ、吐息を吐いて上体を起こした。
速度を緩め、背後を皆が振り向くと………。
上は茂みが転がる石で覆い尽くされ、木はなぎ倒され…道は転がった石で、埋め尽くされていた。
「…………………………………」
全員が絶句して惚ける中、ファントレイユは気を取り直し、ローフィスに囁く。
「流石だな…。
危険だって、解ってた?」
ローフィスは大きく頷き、言った。
「俺だって命が、惜しいからな!」
ギデオンはつい無言で、背後に跨るファントレイユの父親を見つめる。
ゼイブンはその視線を、避けるようにして俯いた。
※作者の独り言※
可笑しい…。
最初のイメージだと、もっと感動的な場面に成る筈だった…。
ギデオンが一緒だと、大人のファントレイユはギャグに成る………。
それにゼイブンとローフィスじゃ…どう頑張ってもシリアスは無理か………。
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外宇宙惑星探査チーム<コーネリアス>の隊員だった相堂幸正、久利生遥偉、ビアンカ・ラッセの三人は、なぜか意識を取り戻すこととなった。
しかも、透明な体を持って。
さらに三人がいたのは、<獣人>とも呼ぶべき、人間に近いシルエットを持ちながら獣の姿と能力を持つ種族が跋扈する世界なのであった。
筆者注。
こちらに搭乗する<ビアンカ・ラッセ>は、「未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます(Ver.02)」に登場する<ビアンカ>よりもずっと<軍人としての姿>が表に出ている、オリジナルの彼女に近いタイプです。一方、あちらは、輪をかけて特殊な状況のため、<軍人としてのビアンカ・ラッセ>の部分が剥がれ落ちてしまった、<素のビアンカ・ラッセ>が表に出ています。
どちらも<ビアンカ・ラッセ>でありつつ、大きくルート分岐したことで、ほとんど別人のように変化してしまっているのです。
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