アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第七章『過去の幻影の大戦』

大人の自分に出会う子供達

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 テテュスはどうしても納得行かなかった。
アイリスを、自分が助けたかった。

ワーキュラスの…金色の竜の背に乗り、時空を飛ぶようにして…テテュスはどんどん成長して行く、未来の自分の時空軸を駆け抜けて行った。

16…17才。

自分はどんどん大きく…そしてアイリスに似て来ていた。
印象はまるで、違ったけれど。

二十歳を過ぎて、乗せて飛ぶ金の竜に告げる。
「…まだ…駄目なの?」

が、竜は目指す場所を知ってるみたいに、時空を駆け抜けて行く。
21……。

自分が近衛で無く、城の光の塔の一室で、神聖呪文を唱えているのが目に映る。

「…僕…近衛連隊に進まないの?」
が竜は、やはり無言。

そして…背の高い、濃げ茶の長い髪を背に垂らし、夜着を風にはためかせバルコニーから寝台へと潜り込む、自分の姿がテテュスの目前にはっきりと見え、竜は眠りに付くその人物の胸元へ、自分を乗せたまま小さく成って共に、吸い込まれた。

夢の中の美しい庭園に彼は佇んでいて、竜は小さなテテュスを乗せたまま、22才の彼に語りかける。

“その力を君の父親。
そして恩義ある騎士達の為に貸して欲しい”

夢の中の、立派な一人前の騎士と成った自分は、振り向く。

「恩義ある、騎士達とは?」

“ローフィス。ディングレー。
そしてオーガスタス。ギュンター…シェイル…ローランデ”

子供のテテュスはつい、しげしげと大人の自分を見つめる。
彼はとても、聡明そうに見えた。
色白でとても端正。
大人しげに見えるが、とても信頼出来、頼もしげに。

大人のテテュスは、気づいたように幼い自分に瞳を、向ける。
そして親しみ籠もる濃紺の瞳を向け、言った。

「君位の頃私は…どんな相手も自分より大きく、強敵だらけで…自分はとても弱い。と思いそして…だからこそ何にも屈しないぞ!と息巻いてた。

…けど今はそれなりに強い」

幼いテテュスは、頷いた。
途端、すうっ。と自分の姿が透けて、彼に吸い込まれるように重なる。

大きな大人の体。
アイリスと、並ぶ程の背。

しっかりとした肩幅。鍛えられた腕。腹。
…そして足。

テテュスは感激で、むせび泣きそうだった。
大人の彼は言った。
ワーキュラスに。

「返事が、必要だろうか?」

黄金の竜が、微笑ったように、テテュスは感じた。



 レイファスは大人の自分と対面し、内心呟く。
「(まあ…こんなもんだろうな………)」

艶のある美貌。
世間を見通す皮肉を身に着けたような冷静な面構え。
背も大して高く無いし、体も大きく無い。

が、彼は金色の竜の背に乗る、幼い自分の、心を読んだように皮肉った。
「予想道理か?」

幼いレイファスは、先を越されて肩を竦める。

が、大人のレイファスは遮る。
「質問が、色々あるようだが謎は数年後、確実に解ける。
が金色の竜はワーキュラスだろう?

私に、用なのか?」

ワーキュラスが告げる。
“君の助力を、得たい”

彼は肩迄ある明るい栗色の短い髪を跳ね上げ、顔を上向け、下げる。
「私の力。と言うからには、乱暴事じゃないな?
知恵が、要るのか?」

“神聖呪文を、使う能力(ちから)”

「…影との、戦いか…!」
レイファスはまずい。と思った。

計算の出来る自分は断るかもしれない。

が、今度はワーキュラスが、自分の心を読んだように彼に告げる。
“恩義ある騎士を、助ける為”

「誰の事を言っている?
まさか…………」

“オーガスタス…。そしてシェイル。
彼らの命を…”

「直ぐ連れて行け!
そんな名を出されて、俺が断ると思うのか?!
通力並外れた『光の民』の“神”だろう?!」

その言葉が放たれた途端、幼いレイファスは大人のレイファスに、吸い込まれる。

大人のレイファスは重なる子供のレイファスに、言った。
「良く、見とけ。
俺がどれだけ努力したかを!」

だが子供のレイファスは、自信たっぷりな数年後の自分の言葉につい、心の中で呟いた。

「(大丈夫か?こいつ………)」



 ファントレイユは開いた口が、塞がらなかった。
その騎士は確かに、体格は立派に、成っていた。

そんなにごつくは無いにしろ、ゼイブン同様、隙無く筋肉は、付いているようだったし、しなやかで優雅に見えた。
女性を裸で、組み敷く様は。

ワーキュラスは言い訳るように呟く。
“どこを探しても、彼は一人で眠る時は夢も見ないで深い眠りの中に居る…。
女性と居る時だけどうやら…少しだけ眠りが浅く…時折夢を、見るんだ………”

ファントレイユは将来の自分に、絶句した。
女性の嬌声を聞きながら身を倒し…うっとりと見つめる、美女の唇に唇を寄せて塞ぐ。

そして身を横に、仰向けに倒し、美女を胸に抱き寄せ…間もなく。だった。
寝息が聞こえ、ワーキュラスがその胸の中に自分を乗せて、小さく成って吸い込まれるのを感じる。

間も無く、荒涼とした荒野に彼は、ふてくされて岩の上に、座っていた。

自分達に振り向く、その顔は美貌が際だち、綺羅綺羅しくて、子供のファントレイユ思い切りは肩を落とした。
「(大人に成っても、治らなかったんだ………)」

大人のファントレイユは、がっかりする小さな自分に、きついブルー・グレーの瞳を、投げる。

「そんなの、顔を潰さない限り無理だ!」

子供のファントレイユは、口を開こうとした。
が、大人のファントレイユは素早く遮る。
「…横に居るのはワーキュラスだろう?
私に、用なのか?」

“ゼイブンを、助けたいか?”

予想を裏切って、女垂らしで顔が綺麗な軽い色男は凄く、真剣な表情に成って顔を、跳ね上げる。

子供のファントレイユは『おや?』とそんな、大人の自分を見つめた。

「危ないのか?!」

“とても”
ワーキュラスの言葉に、彼は瞬時にその綺羅綺羅した顔の表情を引き締め、叫ぶ。
「直ぐ、案内しろ!」

ファントレイユは安堵の面持ちで、彼の中に吸い込まれて行く。

重なりあった時、子供のファントレイユは大人の自分に囁いた。
「良かった…!
断るんじゃないかって、冷や冷やした」

大人の自分は、憮然。と呟く。
「何で、そう思う?」

ワーキュラスが囁く。
“君の夢に入る為に、君の寝室を覗き見して…女性と過ごしている所を、見ているから…”

「…女と遊んだって、仁義くらいは弁(わきま)えてる!」

ファントレイユは軽そうな美貌の色男が、思ったよりしっかりしていて。
心から大人の自分に、ほっとした。

が、大人の自分はぶすっ垂れた。
「…自分の将来像が、気に入らないか?
だが仕方無いだろう?
それに、予想くらい付いてた筈だ!
この顔で体格なんだからな!

これでも、頑張った方だ!
文句言われる筋合いは無いぞ!」

子供のファントレイユはその口調がすっかり、レイファスの影響有り有りで、ついぞっ。として俯いた顔を、上げなかった。


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