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第七章『過去の幻影の大戦』
皆に忠告を与えるワーキュラス
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ディングレーは馬から下りるシェイルに、短剣の束をそっと手渡す。
「…これ位の大きさで、大丈夫か?」
シェイルは頷き、受け取りながらその数を確認し、そっと呟く。
「あんまり数が無いな…」
ディングレーは吐息を吐き、囁きかける。
「後でもう一周して来るさ…。
で、操れそうか?」
シェイルは短剣をまだ見つめ、声を落とした。
「…あんたは、どうだ?」
顔を上げられ、その美麗なシェーンデューンの顔に殆ど同化に近い程はっきり、シェイルの表情が浮かび上がり、その顔が不安に歪んで見えてディングレーはもう一度吐息を吐く。
「動こうとすると、あちこちつっかえる。
知った顔を見ると、そっちに行っちまうしな…。
どって事無い時は思い道理に動くのに、こいつの思い入れの深い出来事に出会うと途端、制御不能だ。
…まるで暴れ馬を御してる気分だ。
こいつ(オースルーン)より、エリスに乗ってる時の方がよっぽど楽だ」
「言っても、仕方あるまい…」
シェイルの声が沈んでいて、ディングレーはついその顔をじっと見つめる。
「が、かなり重なってるぞ?
完全に操れるのも、直だ」
がシェイルは咄嗟にその顔を上げ叫ぶ。
「敵の城が目前なのに?!」
悲鳴の、ようだった。
その真っ直ぐ前に伸ばされ、指した指先に、自分達の今居る丘から、なだらかな坂のその先に。
ガスパスの居城、史上有名なレアル城が巨大な崖を背後に、高い石の城壁に護られ雄大な姿を見せていた。
灰色に見える石の積まれた城壁と城。
崖に沿って作られたその巨城は背後を崖に護られ、城の三方は高い城壁で護られ、中の建物は坂に沿ってだんだん高く、積み上げられていた。
城壁に近い集落は全て同じ灰色の石で屋根が作られ、雑多に重なりその奥の城は、再び門で仕切られていた。
城は横幅の広い、幾つもの居室が階下にあり、どんどんと上に積み上げられ高さを増し、その上に大きな塔が二つ突き出し、濃い茶の崖を背景に、その高さを誇っているように見える。
ディングレーはそれを眺めた後、俯いて吐息を吐く。
風が髪を嬲る丘の上で、シェイルは敵の巨城を背景に、ついディングレーに詰め寄る。
「シェーンデューンは今ですら…抑えてないと、あの城を攻めに突っ走りそうだ…!
ギュンター達は今、どこなんだ?
俺はギュンターらが着く迄、こいつ(シェーンデューン)を抑えていられる自信が無い!」
ディングレーは顔を上げて見えない繋がる空間に居る筈の、ギュンターやオーガスタスの気配を探す。
が直ぐ、オーガスタスの頼りになる声が響く。
「急(せ)かせてる!
シェイルそれでも…全力で俺達が着く迄、踏み止まれ!」
「いつ迄!」
シェイルのそれは、頭の中で絶叫のように響く。
ギュンターの入るアーマラスが、全軍を叱咤するように急かせている声が、遠くで響く。
「急げ!
銀髪の一族に、遅れを取る気か?!」
…それはギュンターの意志なのか、アーマラスの婚約者を思う本心なのか。
判別は付かなかった。が………。
ディングレーは頭の中へ必死で声を放つ。
「…城は目前だ。
俺もシェイルもまだ宿主を十分、操れない!」
「…それでも!
抑えとけ!解ったな?!」
オーガスタスの声にディングレーは諦めを覗かせ、一つ、頷く。
瞬間、金の光が肩の横の空間に伺い見え、ディングレーが囁く。
「…ワーキュラスか?」
光は見る間に大きく成って、14・5才の少年の金に透けた体を浮かび上がらせた。
“君達の宿主は強いし、史実道理なら援軍が来る迄は持ち応える。
…だから、いざと成れば宿主にその行動を明け渡せ”
ディングレーは頷いた。
シェイルをそっと伺うと、シェイルは皮肉に口の端を歪めて呻く。
「…が任せて突然…俺に成ってその力を戦闘中に、失う事も、ある訳だ」
“………………………”
ワーキュラスの無言に、ディングレーはシェイルを見つめる。
史実で伝え聞くシェーンデューンは凄腕の剣士。
その刃は風の如く相手を瞬時に切り裂く。とある。
ディングレーは俯くシェイルを見つめ、慌てて呟く。
「いいからそいつ(シェーンデューン)を抑えとけ!
短剣を大急ぎでもっと調達して来るから!」
背を向けるディングレーがほぼ、オースルーンと同化して見えるのに、シェイルは再び俯き、長い吐息を吐き出した。
ギュンターは馬を駆り、軍を率い両横に並び走る、オーガスタスとアシュアークを交互に見つめた。
オーガスタスは常に頭の中の、ローフィスやシェイル、ローランデらに気を配っている。
アシュアークは相変わらず無言。
言葉が頭の中でしゃべれる。ときちんと認識していないせいか、気が向かないと聞こえない様子で、今アシュアークがしてるのは様子を見る限り、どうやったら自分の入った人物を、自由に操れるかで夢中だった。
自分に抱きつきたかったのに、出来なかった事が余程の打撃らしい。
こっちに顔を向けて微笑んだかと思うといきなり、そっぽを向く。
どうやらアシュアークは自分に少しでも近づきたいらしかったが、彼の入ってるアラステスはどうやら一族の長、アーマラスに反感を抱いていて、近づくなんて問題外。らしく、毎度アシュアークが苦労しているのを目につい、ギュンターは吹き出したいのを我慢した。
ギュンターは、オーガスタスに話しかける。
「もう…かなり操れるか?」
オーガスタスは手綱を握る左手を外し、握って開きながら呟く。
「…まだ完全じゃない。
かなりの抵抗を感じる。
それにサナンキュラスが一旦動き始めると、俺の意志を無視し別方向へ進む。
それを制御するのは、凄く骨が折れる…。
だが………」
「だが?」
言ってギュンターはオーガスタスを見つめる。
「…彼のしようとする事と俺のしたい事が同じ時…まるで…彼と俺が一体に成ったように感じる。
お前はどうだ?」
聞かれてギュンターは前を向いた。
オーガスタスから見てもう、ほぼアーマラスはギュンターに見えた。
「…ああ。
風を感じる。
小枝を弾き当たると痛みも感じる」
オーガスタスは吐息を吐いた。
「…つまり俺のまだ鈍い感覚も、戦闘中にどんどんハッキリして来る訳だ。
負った傷の痛みを感じてる限り俺の体は、あの『光の里』の寝台の上にあると思えるのにな…」
ギュンターは吐息を吐いた。
「…ワーキュラスが居る。ってコトは、あっちの体も連中が面倒見てくれてる筈だろう?
ともかく、俺達がヤバい状況にあるってコトが、連中に解ってるだけでもめっけものだ。
正直、幻影判定がどうなったのか、心配だったしな」
オーガスタスは、ようやく笑った。
「中央護衛連隊長に、成る気満々なようだな?」
ギュンターは俯いて吐息を吐き出した。
「…期待してくれる相手も居るし、裏切れない」
がふと二人は同時に視線を、ギュンターの右横に居るアシュアークに向ける。
こっちに向いて、微笑んだ。と思った途端プイ!とそっぽ向く。
ぷっ…!
オーガスタスに先に吹き出され、ギュンターはつい、気の毒そうに泣きべそかく透けたアシュアークを、見つめた。
ローランデは必死になって、アイリスに呼びかけるものの。
返答は全く無かった。
スフォルツァはディンダーデンを探ったが、二人がどうやら取り込み中らしく、いきり立ち、ラフォーレンに呆れられた。
「…アイリス殿は重傷だ。
簡単に、ディンダーデン殿には陥落しませんよ!」
「…だとしても………!」
ローランデはスフォルツァの様子に、自分達が隠れてる巨大な石柱の、その先の廊下を兵が…そして異形達が、駆け抜けて行く様に、視線を振って言う。
「…戦闘が直だと、城中が準備に走ってるさ中なのに!」
が、大物?ラフォーレンが明るい顔で告げる。
「でもそれって、もう直ギュンター殿やオーガスタス殿らと再会出来るって事ですよね?」
ローランデは頷く。
「隙を見つけ、こちらの城門を開くぞ」
が、ラフォーレンは真っ青に成った。
「人喰いの、異形が見張ってる門を?
…それはやり様を知ってる、タナデルンタス…ディンダーデン殿の、仕事ですよね?」
スフォルツァもローランデを見つめる。
「かなり操れるように成った。
が…気を抜くと姫の居る塔へと、奪還に走りそうだ…」
ローランデが素早く言った。
「私もだ。
が今、奪還は無理。
敵が押し寄せ、連中にもう余裕等、全然無い時で無いと…」
金の光にローランデは気づくと、そっと囁く。
「ワーキュラス殿ですか?」
ワーキュラスは金の光から、その姿を現す。
“こちらは戦闘準備で、ごった返している様子だ…”
ローランデは頷く。
「我々も、出来るだけの事をします」
ワーキュラスが囁く。
“ここは…そして君達は一番危険だ”
ワーキュラスに言われ、ラフォーレンは震え上がる。
「…やっぱり?」
“神聖騎士らが、君達の手助けをする。
だが呪文にたけ、彼らと“気”が通じてないとそれも難しい…”
ラフォーレンもスフォルツァも同時にローランデを見る。
がローランデは厳しい表情で言った。
「回路が繋がるか。と言う事でしたら、多分私にそれは無理でしょう…。
呪文の効果を増幅して頂くか、もしくは…“気”を精一杯向けますから、私の頭の中に、効果ある呪文を流して下さい。
それを、唱えます」
ワーキュラスは無言で、柔らかに輝き言った。
“彼らに、伝えよう…。
彼らが直接ここに入れるのにはもう少し、時間を要するから…”
ラフォーレンが瞳を輝かせた。
「それでもここに来て…助けてくれる可能性は、あるんですね?」
ワーキュラスはまた周囲の光を、揺れるように輝かせた。
“それを必ずすると、約束出来る”
ラフォーレンは思わず歓喜の表情でスフォルツァを見、スフォルツァも同様だった。
ワーキュラスはローランデを見つめる。
“援軍を必ず、寄越すから…。
無茶をせず、この二人を頼む”
ローランデは頷いて言った。
「危険な事をする前に必ず、貴方にお伺いを立てます」
ローランデの返答を聞き、ワーキュラスはうっとりするくらい美しい七色の輝きをその周囲に満たし、ローランデとスフォルツァ、ラフォーレンの目を奪った。
ワーキュラスが次第に薄く、消えて行くと、ラフォーレンが呟く。
「『光の国』の生き物とは、本当に美しいものなのですね…」
スフォルツァも無言で、同意した。
「…これ位の大きさで、大丈夫か?」
シェイルは頷き、受け取りながらその数を確認し、そっと呟く。
「あんまり数が無いな…」
ディングレーは吐息を吐き、囁きかける。
「後でもう一周して来るさ…。
で、操れそうか?」
シェイルは短剣をまだ見つめ、声を落とした。
「…あんたは、どうだ?」
顔を上げられ、その美麗なシェーンデューンの顔に殆ど同化に近い程はっきり、シェイルの表情が浮かび上がり、その顔が不安に歪んで見えてディングレーはもう一度吐息を吐く。
「動こうとすると、あちこちつっかえる。
知った顔を見ると、そっちに行っちまうしな…。
どって事無い時は思い道理に動くのに、こいつの思い入れの深い出来事に出会うと途端、制御不能だ。
…まるで暴れ馬を御してる気分だ。
こいつ(オースルーン)より、エリスに乗ってる時の方がよっぽど楽だ」
「言っても、仕方あるまい…」
シェイルの声が沈んでいて、ディングレーはついその顔をじっと見つめる。
「が、かなり重なってるぞ?
完全に操れるのも、直だ」
がシェイルは咄嗟にその顔を上げ叫ぶ。
「敵の城が目前なのに?!」
悲鳴の、ようだった。
その真っ直ぐ前に伸ばされ、指した指先に、自分達の今居る丘から、なだらかな坂のその先に。
ガスパスの居城、史上有名なレアル城が巨大な崖を背後に、高い石の城壁に護られ雄大な姿を見せていた。
灰色に見える石の積まれた城壁と城。
崖に沿って作られたその巨城は背後を崖に護られ、城の三方は高い城壁で護られ、中の建物は坂に沿ってだんだん高く、積み上げられていた。
城壁に近い集落は全て同じ灰色の石で屋根が作られ、雑多に重なりその奥の城は、再び門で仕切られていた。
城は横幅の広い、幾つもの居室が階下にあり、どんどんと上に積み上げられ高さを増し、その上に大きな塔が二つ突き出し、濃い茶の崖を背景に、その高さを誇っているように見える。
ディングレーはそれを眺めた後、俯いて吐息を吐く。
風が髪を嬲る丘の上で、シェイルは敵の巨城を背景に、ついディングレーに詰め寄る。
「シェーンデューンは今ですら…抑えてないと、あの城を攻めに突っ走りそうだ…!
ギュンター達は今、どこなんだ?
俺はギュンターらが着く迄、こいつ(シェーンデューン)を抑えていられる自信が無い!」
ディングレーは顔を上げて見えない繋がる空間に居る筈の、ギュンターやオーガスタスの気配を探す。
が直ぐ、オーガスタスの頼りになる声が響く。
「急(せ)かせてる!
シェイルそれでも…全力で俺達が着く迄、踏み止まれ!」
「いつ迄!」
シェイルのそれは、頭の中で絶叫のように響く。
ギュンターの入るアーマラスが、全軍を叱咤するように急かせている声が、遠くで響く。
「急げ!
銀髪の一族に、遅れを取る気か?!」
…それはギュンターの意志なのか、アーマラスの婚約者を思う本心なのか。
判別は付かなかった。が………。
ディングレーは頭の中へ必死で声を放つ。
「…城は目前だ。
俺もシェイルもまだ宿主を十分、操れない!」
「…それでも!
抑えとけ!解ったな?!」
オーガスタスの声にディングレーは諦めを覗かせ、一つ、頷く。
瞬間、金の光が肩の横の空間に伺い見え、ディングレーが囁く。
「…ワーキュラスか?」
光は見る間に大きく成って、14・5才の少年の金に透けた体を浮かび上がらせた。
“君達の宿主は強いし、史実道理なら援軍が来る迄は持ち応える。
…だから、いざと成れば宿主にその行動を明け渡せ”
ディングレーは頷いた。
シェイルをそっと伺うと、シェイルは皮肉に口の端を歪めて呻く。
「…が任せて突然…俺に成ってその力を戦闘中に、失う事も、ある訳だ」
“………………………”
ワーキュラスの無言に、ディングレーはシェイルを見つめる。
史実で伝え聞くシェーンデューンは凄腕の剣士。
その刃は風の如く相手を瞬時に切り裂く。とある。
ディングレーは俯くシェイルを見つめ、慌てて呟く。
「いいからそいつ(シェーンデューン)を抑えとけ!
短剣を大急ぎでもっと調達して来るから!」
背を向けるディングレーがほぼ、オースルーンと同化して見えるのに、シェイルは再び俯き、長い吐息を吐き出した。
ギュンターは馬を駆り、軍を率い両横に並び走る、オーガスタスとアシュアークを交互に見つめた。
オーガスタスは常に頭の中の、ローフィスやシェイル、ローランデらに気を配っている。
アシュアークは相変わらず無言。
言葉が頭の中でしゃべれる。ときちんと認識していないせいか、気が向かないと聞こえない様子で、今アシュアークがしてるのは様子を見る限り、どうやったら自分の入った人物を、自由に操れるかで夢中だった。
自分に抱きつきたかったのに、出来なかった事が余程の打撃らしい。
こっちに顔を向けて微笑んだかと思うといきなり、そっぽを向く。
どうやらアシュアークは自分に少しでも近づきたいらしかったが、彼の入ってるアラステスはどうやら一族の長、アーマラスに反感を抱いていて、近づくなんて問題外。らしく、毎度アシュアークが苦労しているのを目につい、ギュンターは吹き出したいのを我慢した。
ギュンターは、オーガスタスに話しかける。
「もう…かなり操れるか?」
オーガスタスは手綱を握る左手を外し、握って開きながら呟く。
「…まだ完全じゃない。
かなりの抵抗を感じる。
それにサナンキュラスが一旦動き始めると、俺の意志を無視し別方向へ進む。
それを制御するのは、凄く骨が折れる…。
だが………」
「だが?」
言ってギュンターはオーガスタスを見つめる。
「…彼のしようとする事と俺のしたい事が同じ時…まるで…彼と俺が一体に成ったように感じる。
お前はどうだ?」
聞かれてギュンターは前を向いた。
オーガスタスから見てもう、ほぼアーマラスはギュンターに見えた。
「…ああ。
風を感じる。
小枝を弾き当たると痛みも感じる」
オーガスタスは吐息を吐いた。
「…つまり俺のまだ鈍い感覚も、戦闘中にどんどんハッキリして来る訳だ。
負った傷の痛みを感じてる限り俺の体は、あの『光の里』の寝台の上にあると思えるのにな…」
ギュンターは吐息を吐いた。
「…ワーキュラスが居る。ってコトは、あっちの体も連中が面倒見てくれてる筈だろう?
ともかく、俺達がヤバい状況にあるってコトが、連中に解ってるだけでもめっけものだ。
正直、幻影判定がどうなったのか、心配だったしな」
オーガスタスは、ようやく笑った。
「中央護衛連隊長に、成る気満々なようだな?」
ギュンターは俯いて吐息を吐き出した。
「…期待してくれる相手も居るし、裏切れない」
がふと二人は同時に視線を、ギュンターの右横に居るアシュアークに向ける。
こっちに向いて、微笑んだ。と思った途端プイ!とそっぽ向く。
ぷっ…!
オーガスタスに先に吹き出され、ギュンターはつい、気の毒そうに泣きべそかく透けたアシュアークを、見つめた。
ローランデは必死になって、アイリスに呼びかけるものの。
返答は全く無かった。
スフォルツァはディンダーデンを探ったが、二人がどうやら取り込み中らしく、いきり立ち、ラフォーレンに呆れられた。
「…アイリス殿は重傷だ。
簡単に、ディンダーデン殿には陥落しませんよ!」
「…だとしても………!」
ローランデはスフォルツァの様子に、自分達が隠れてる巨大な石柱の、その先の廊下を兵が…そして異形達が、駆け抜けて行く様に、視線を振って言う。
「…戦闘が直だと、城中が準備に走ってるさ中なのに!」
が、大物?ラフォーレンが明るい顔で告げる。
「でもそれって、もう直ギュンター殿やオーガスタス殿らと再会出来るって事ですよね?」
ローランデは頷く。
「隙を見つけ、こちらの城門を開くぞ」
が、ラフォーレンは真っ青に成った。
「人喰いの、異形が見張ってる門を?
…それはやり様を知ってる、タナデルンタス…ディンダーデン殿の、仕事ですよね?」
スフォルツァもローランデを見つめる。
「かなり操れるように成った。
が…気を抜くと姫の居る塔へと、奪還に走りそうだ…」
ローランデが素早く言った。
「私もだ。
が今、奪還は無理。
敵が押し寄せ、連中にもう余裕等、全然無い時で無いと…」
金の光にローランデは気づくと、そっと囁く。
「ワーキュラス殿ですか?」
ワーキュラスは金の光から、その姿を現す。
“こちらは戦闘準備で、ごった返している様子だ…”
ローランデは頷く。
「我々も、出来るだけの事をします」
ワーキュラスが囁く。
“ここは…そして君達は一番危険だ”
ワーキュラスに言われ、ラフォーレンは震え上がる。
「…やっぱり?」
“神聖騎士らが、君達の手助けをする。
だが呪文にたけ、彼らと“気”が通じてないとそれも難しい…”
ラフォーレンもスフォルツァも同時にローランデを見る。
がローランデは厳しい表情で言った。
「回路が繋がるか。と言う事でしたら、多分私にそれは無理でしょう…。
呪文の効果を増幅して頂くか、もしくは…“気”を精一杯向けますから、私の頭の中に、効果ある呪文を流して下さい。
それを、唱えます」
ワーキュラスは無言で、柔らかに輝き言った。
“彼らに、伝えよう…。
彼らが直接ここに入れるのにはもう少し、時間を要するから…”
ラフォーレンが瞳を輝かせた。
「それでもここに来て…助けてくれる可能性は、あるんですね?」
ワーキュラスはまた周囲の光を、揺れるように輝かせた。
“それを必ずすると、約束出来る”
ラフォーレンは思わず歓喜の表情でスフォルツァを見、スフォルツァも同様だった。
ワーキュラスはローランデを見つめる。
“援軍を必ず、寄越すから…。
無茶をせず、この二人を頼む”
ローランデは頷いて言った。
「危険な事をする前に必ず、貴方にお伺いを立てます」
ローランデの返答を聞き、ワーキュラスはうっとりするくらい美しい七色の輝きをその周囲に満たし、ローランデとスフォルツァ、ラフォーレンの目を奪った。
ワーキュラスが次第に薄く、消えて行くと、ラフォーレンが呟く。
「『光の国』の生き物とは、本当に美しいものなのですね…」
スフォルツァも無言で、同意した。
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