アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第六章『光の里での休養』

傷を癒す敵陣営の内情

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 メーダフォーテは傀儡王の洞窟と結界で繋ぐ、その部屋の中央に石碑のようにそびえ立った、石の呪具を見上げる。
そして目を閉じ傀儡王を思い浮かべ、強く呼びかける。

次第に頭が澄み渡り、洞窟の中が閉じた瞼の裏に浮かび上がり、その氷柱の中に閉じ込められ寝台に横たわる人物が、目を開けこちらを見つめるのを目にし、ぞくっ!とし慌てて瞼を開く。

くっくっくっ…。
闇のような笑い声。
頭の中に響く、傀儡王の声。

“我を呼び頼り、なのに我を、恐れるのか?”

メーダフォーテは吐息を一つ、吐き出すとつぶやく。
「こちら側からも、夢に介入出来るか?」

“…なる程。その男に復讐をさせたいか…”

瞬間、傀儡王が脳裏に現した男はノルンディルで、メーダフォーテは俯く。

「出来るのか?」

“怪我を負っている…。
だから、安全の保証付きで復讐を遂行させたい…。
くくくっ!人の為に動く。か?
お前が?”

メーダフォーテは空間を睨み付ける。
「自分の為でもある!」

“…だがその男がご執心で、お前が毛嫌いしている男も“里”の結界に入った。
夢に連れ込む男達と、深く関わりがあるようだから、引っ張り込まなくとも付いて来る可能性が高い”

メーダフォーテは
『邪魔者は遮れないのか?』と尋ねかけて、止めた。
「…誰の事だ?」

傀儡王から瞬間送られた映像に、アシュアークの華やかな金髪と小憎らしい顔が浮かび、メーダフォーテは顔をがくん!と揺らす。

垂れる髪に顔を埋め、ささやく。
「奴も…夢の中に?」
『この男が嫌いな様だな?』

メーダフォーテは瞬間拳をぐっ!と握ると顔を髪に、埋めたまま呻く。
「…殺れるか?」

が傀儡王の声は素っ気ない。
“首尾を果たすのは夢の中の者達で、私ではない。
…だが当然、とても危険で命を落とす人物の中に、放り込む事は可能だ”

「ではそうしろ!」
そしてメーダフォーテは傀儡王の返事を待たず尋ねる。
「私は夢の様子を、見る事は出来るんだろうな?」

傀儡王は吐息を吐くようにささやく。
“一度放り込んだら途中で介入出来ないぞ?
その時文句は聞かない。
私の配才をただ、堪能しろ。
それが出来ないならお前に様子は見せない”

メーダフォーテは思い切り文句が言いたかった。
『奴らを苦しめる為に、敵をどんどん送りつけられないのか?!』

が…思い出す。
傀儡王は悪戯も悪ふざけもする。
その中で誰かが命を落とそうが、知った事ではない。
…が!
闇では無いのだ……。

運を天に任せる。
切り抜けられるかは個人の才覚。
それを眺め楽しむ。
それが王の愉しみ。
わざと…苦しめる為にあらゆる手段を使う、闇とは違って。

傀儡王がそっと言った。
“不満か?”
メーダフォーテがささやく。
「いや…………」
そしてそっとつぶやいた。
「十分だ」


 扉を開けると、寝台の中で艶やかな濃い茶の髪が動く。
「起きてたのか?」
メーダフォーテが尋ねると、ノルンディルは笑った。
「さっき目が醒めた所だ」

メーダフォーテは寝台の、上に腰掛けて横たわるノルンディルを見下ろす。
「良い様だな?」
「ああ…楽に成った」
「もう…少し喰って寝ろ」
ノルンディルは微かに頷く。
メーダフォーテは立ち上がって呼び鈴を引く。

その背に、ノルンディルがささやく。
「さっき…グーデンが来て喚いてた…。
幻影…判定だと?」
メーダフォーテはちっ!と舌を鳴らす。

「眠る間際…お前が言っていたのはそれか?
復讐…出来ると」
メーダフォーテはノルンディルのまだ、やつれて青冷めた顔を見つめる。

この男のプライドは、折れた事が無い。
自分の才覚、容姿の美しさを幼少の頃から自覚し、常に周囲に持ち上げられ、それに応えるだけの能力を常にひけらかし、そして常に尊大に顔を上げ、仰ぎ見る視線に媚びた事すら無い…。

だが今は…ローランデに粉々にされたプライドが、与えられた傷より痛む様子が、その表情に甲斐間見えた。

ギュンターに不意打ちのように刃向かわれて、重傷を負った時ですら…こんな淀んだ表情は見せなかった。

躾の成ってない下賎の獣。
ノルンディルはギュンターの事を、痛む傷を抱え尚見下していた。

だが………。
愛玩動物と変わらない…。
そう蔑(さげす)んでいた相手に、対等に…いやそれ以上に立ち塞がれ、叩きのめされた…。

そんな…言いようのない気落ちを抱えてる。
メーダフォーテは聞きたかった。
『もう一度…ローランデの実力を知った今、もう一度剣を交える機会があったとしても…奴を打ち崩す事が出来ないのか?』

ノルンディルは無意識の内にその、気弱な表情で返答した。
無言で。

成す術が無い。
と。

彼程の剣豪が。
その得意の武器、烈剣が、通用しない相手だと。
ノルンディルの、その表情は認めていた…。

メーダフォーテは吐息を吐く。

「もし今…ローランデがここに手足を縛られ、裸で横たわっていたら…勃つか?」
ノルンディルは瞬間、凄い形相で目を、見開いた。
そして起き上がって怒鳴る。

「勃つか?だと?!
もし今ここに居たら!
もう一度私の前に這いつくばらせて教えてやる!
奴がどんな男なのかを!!!」

メーダフォーテは吐息を一つ、吐き出して頷く。
心配は要らないようだ。
ローランデを前に本当にそれが、出来るかどうかは別にして。

だが今だ憤りを解かないノルンディルに、そっと聞いてやる。
「力では劣ると思ってたか弱い女に、思い切り重い拳を、ぶつけられて死にかけた様な気分か?」

ノルンディルは思い切り肩を揺すり…そして顔を上げてメーダフォーテを睨め付けた。
どうやら、その通りらしかった。

メーダフォーテは寝台から尻を上げる。
がふと、アシュアークの事を思い出す。

「…アルフォロイス右将軍が、内情を知ろうと今回の件の詳細を調べてる」

アルフォロイス。で真っ先に念頭に浮かぶのはやはり、勢力下で最も華やかで目立つ、アシュアークの事のようだった。

その…甘い表情に変わるノルンディルの顔を見つめながら、つぶやく。
「…アシュアークが怒鳴り込んで来た。
ギュンターを殺したら…報復すると」

ノルンディルは一瞬ぐっ!と顔を引き締め、だが言い返す。
「アシュアークは乱暴に激しく扱われるのが、好きだからな」

そして顔を上げる。
「ギュンターを亡くしたとて…代わりが居る。と解れば報復を忘れる」

それが自分だ。と言わんばかりの表情に、メーダフォーテは心の中で肩を竦めた。

ノルンディルは滅多に何かを愛でない。
元より、愛でる。と言う感情が欠落してるんだろう…。
そう…思っていた。

がアシュアークの時だけは…彼が、可愛くて仕方無い。
そんな甘ったるい表情を浮かべる。

メーダフォーテははっきり言って、ノルンディルのそんなデレついた顔が、大っ嫌いだった。

“堕落だ。
誰にでも平等に冷酷。
それが…お前の良さなのに”

一度批判した時、ノルンディルは図星を指された様に猛烈に、喰ってかかった。
アシュアークは自分が伽専用に飼っている、奴隷と変わらない。と。

南領地ノンアクタルの奴隷商人から買った、褐色の肌の育ちの悪い…だが態度がそれはデカいその美少年を…ノルンディルは大層特別扱いしていた。

『躾が、成ってないな!』
と自分に態度のそれは悪いその餓鬼を、メーダフォーテは皮肉ったがノルンディルは肩を竦めた。
「寝室では従順だ。
それで…十分だろう?性奴なんだから」

その時凄まじく腹が立ち、ノルンディルを思い切り睨め付けた。

自分に向かって態度の悪い下僕の躾に、いつも鞭を使う、男の言葉とは思えない!

そんな無言の抗議を感じ取ったのだろう。
ノルンディルは言い訳った。
『あれが良さだから、鞭で叩きのめしたりしたら、寝室が退屈に成る』

ノルンディルとは昔肌を合わせたが、元来相手を組み敷いて下敷きにし、散々鳴かせるのが大好きな奴とはどうしても…ソリが合わなかった。

自分は相手の上に乗って支配するのが、大好きだったので。

思うがままに相手の欲望を操ると、どうしようもない興奮に包まれたし、相手を蕩かした後に懇願されるのを、冷たく突っぱねるのが大好きで、気まぐれに餌を与え、言いなりにすると冷める。

メーダフォーテはそんな哀れな自分に繋がれた奴隷をたくさん、飼っていたがどれも愛着等無かった。
身分の高い男も多々居た。

評議会等では権威の塊の男が、自分の前ではプライドを捨て、這いつくばって懇願する。
そんな男を支配して、どこが楽しい?

ノルンディルは支配を嫌い、…一方、レッツァディンの時は、戦いだった。
どっちが上を取るかの。

激しいあの男は気を許すと容赦無く乱暴だったので。

ノルンディルは一応貴族に相応しい、品格を持っていたし、華奢な自分の体格を、さ中でも忘れたりはしなかったがレッツァディンは…。

頭に血が上ると、相手がどうだろうが容赦無い。
腹を立てたあの男が相手を殴り付け、顔の判別も付かなくそこら中の骨の折れた、これが人間か。と言う程無残な、肉の塊のような死体を作り上げた時はその徹底ぶりに、拍手を送りたくなった。

あの男は後で喰ってかかったが。
『見てたなら、どうして止めない!』

どうやら怒りで頭に血が上ってる間はマトモじゃなく、正気に戻った時その死体の様子に、後悔が昇って来たようで、正気であれが出来たら素晴らしい。と褒められるが、後で後悔するようじゃてんで駄目だ。

と言ってやって以来、奴は自分に悪巧みの時以外は、近付いて来なくなった。

流石に
『だから兄、ムストレスに劣るんだ。
あの男は正気で、人間を肉の塊に出来る』
とは、言わなかったが。

もしそれを言ったら、悪巧みの間ですら、近寄りもしなく成っただろう…………。

手綱を取るのが難しい野生の…一度理性を飛ばすと、それは凶暴な獣。

メーダフォーテはそんなレッツァディンが苦手だったから、ギュンターやディングレーも当然、苦手だった。

オーガスタスはあの親しみ易い笑みの後ろに、猛獣を飼っていた。
奴が親しげに、微笑んでいる内に話を終わらせろ。
それが近衛の男の常識だった。

奴の中に眠ってる、猛獣(赤い獅子)を起こすな………。

いずれ滅ぼすディアヴォロスにいつも付き従う、最も邪魔なあの男を葬りたかったからこそ…あれ程念入りな布陣を引き、ありったけの数を送り込んだのに…。

あの場にすら居なかったなんて…!

思い返すだけで、ノルンディルがローランデを思い浮かべた時のように、ムカムカと腹が立つ!



ノルンディルが見つめていると、メーダフォーテは回想に入ったのか、表情を微妙に変える。

口の端を上げて冷笑したか。
と思えば突然眉間を寄せる。

それははっきり言って見てる者にはただ、不気味なだけだったが、付き合いの長いノルンディルは見慣れていた。

そう、回想しながら奴は知恵を巡らす。と知っていたので。

レッツァディンはそれを見るのが嫌で、始まるといつも場を外す。

天才の性(さが)だ。
言ってやったが聞かない。

不気味な操り人形…。
そう、つぶやいて顔を背け、毎度部屋を退出した。

ノルンディルはメーダフォーテの回想がいつ終わるか、チラとその固まる表情に次々に浮かぶ怒りや侮蔑を見たが、吐息を吐いた。

アシュアーク…。近くに来ているのか…。
アルフォロイス右将軍傘下。と言う事で滅多に見(まみ)えない。

あの金髪…寝台のシーツの上にしどけなく散る金の髪の、匂いを嗅ぐのが好きだった。
戦闘では弾ける鞠のような柔軟な体が、もだえ、くねる姿を思い浮かべるだけで股間が熱くなる。

艶やかな金の髪に囲まれた、綺麗で可愛らしい顔。
そして…奴は王族だけあって気品に…溢れていた。

なのに時々、幼子のように無垢な様子を見せる。

どれだけ蹂躙し、汚しても汚れない…。
あんな…生き物は居ず、天使が居るとしたらこんななのだろうか。
そう思った事すら、あった。

だが時折、欲情を滾らせ潤んだ明るい青の瞳を向けられ誘われると…確かに抗う事は不可能で………。
メーダフォーテにさんざ
『弱点を作る気か?!』
と釘刺されても無理無い、と思える相手だった。

が突然メーダフォーテが自分を冷ややかに見る目に気づく。
『終わったのか…』
思ったが、メーダフォーテにはアシュアークの事を考えて居た。
とどうやら…バレている様子で、奴は素っ気なかった。

「ともかく復讐の機会は与えてやるから、ローランデを好きに料理しろ」

言われ、体が沸騰した怒りで煮えたぎる。
レッツァディンをいつも…“狂い狼”と、他の者同様内心呼んでいたが、多分…。
制御出来ない程の怒り。とはこんな事を言うのだろう………。

メーダフォーテはそんな自分の様子に、一つ頷き、ノックに応え扉を開けて盆を受け取る。

食事の乗った盆を、脇のテーブルに降ろすと目で
『食え』と告げて背を向け、そっと部屋を、出て行った。



 メーダフォーテが扉を開けると、レッツァディンが視線を送る。
フォルデモルドもラルファツォルもが、癒えた様子で痛みの引く明るい表情を向けた。

メーダフォーテはそっと椅子に掛ける、レッツァディンに近寄る。
「グーデンは?」

レッツァディンは憮然。とした表情で俯き、つぶやく。
「ペットを連れ込み、別室で愉しんでる」

メーダフォーテがぐっ!と怒りを堪える。
が身分だけ高い脳足りんの文句を聞かなくて済んだ事に思い当たり、レッツァディンに無理してにっこり、微笑む。
「君が許可したのか?」
レッツァディンは面倒臭そうに余所を向いて頷く。

メーダフォーテは返答の予測出来る質問を、それでも口にした。
「幻影の中で、奴らと戦う気はあるか?」

レッツァディンも…ラルファツォルも、フォルデモルドですら、浮かない顔をした。
ドラングルデはここに居なかったが多分、問題外だ。と直ぐ様そっぽ向いたろう。

ラルファツォルが顔を上げる。
銀髪に囲まれた…その厳しい武人の顔には、血色が戻っていた。
「それは、命令か?」

フォルデモルドも自分の顔を覗う。
メーダフォーテは見つめる三人に、答えてやった。
「いや。任意だ」

ラルファツォルが口を開くのを躊躇ってレッツァディンを見、結局レッツァディンがタメ息混じりにそれを口にした。

「得体の知れない者に、自分を預ける気は無い。
現実に奴らを叩き斬れるなら、喜んで出向くが」

レッツァディンは『意気地なし』の罵倒を待ったが、メーダフォーテは頷いただけだった。

拍子抜けする三人に、メーダフォーテはつぶやいた。
「確認しただけだ」

その言葉で解放された様に、三人の緊張が一気に溶ける様子に、メーダフォーテは眉間を寄せた。

奴らがどう思おうが、知った事では無い。
今迄の、その姿勢のせいで奴らの思惑は解らなかったが、どうやら自分は、恐れられている様子だ。

意図してる相手に恐れられるのは本望だったが、そのつもりの無い相手に、ましてや近衛の中でも怖い物知らずの三人に畏怖を抱かれるのは、思い切り心外だった。

つい、嫌味混じりに皮肉る。
「私に、罵られるとでも思ったか?
だが私の罵り程度で、びびる君達じゃないだろう?」

が途端、レッツァディンを先頭に、フォルデモルド、ラルファツォルですら顔を背けたので、メーダフォーテは一気に不機嫌に成った。

「私なんか、怖く無いだろう?!と聞いたんだ!」

がやはり皆は視線を背けたまま。

「刃物で向かう敵は怖く無いが、どんな手を使ってくるか解らない敵は不気味なんだ」

その声が隣室の続き間から聞こえ、メーダフォーテは振り向く。
ドラングルデが姿を見せ、口べたな三人は一気にほっ。と緊張を解く。

メーダフォーテは腕組み、顎を上げて促す。
「味方に、手は下さない」

ドラングルデは眉を寄せて笑った。
「お前の味方?
誰が居る?
お前は自身の布陣の中ですら、敵とみなしたものは容赦無く始末するじゃないか。
いつお前に敵と見なされるか、はらはらする気持ちは誰にでもある」

メーダフォーテは憮然。と言った。
「お前でもか?」
ドラングルデは笑う。
「スリルはあるがな。お前の許容範囲ギリギリを擦り抜ける。
そのラインを見誤ったら、お前に敵と見なされて始末される。
才覚を試すのには、絶好の機会だ」

メーダフォーテはとうとう怒鳴った。
「結界を作り、わざわざ傷を早く、癒してやってるのにか?!」

ドラングルデは肩を竦めた。
「保証にもならない。
最高の待遇をして罠にかけ、油断しきった所を殺した事が、幾度もあったろう?」

メーダフォーテは憤慨しきって怒鳴った。
「敵が目前に居る限り!
奴らを敵と見なす者は皆味方だ!
今の、所はな!」

ドラングルデは三人に顔を向ける。

「幻影以外でまだ、出番があるようだ。
当面は安全だ」

メーダフォーテはもう、その言葉が終わるか終わらない内に扉をばん!と腹立ちのまま閉め、出て行った。

レッツァディンはその剣幕に首を竦める。
「機嫌が最悪だな。
奴は男だから…月のものは来ないんだろう?」

ドラングルデは大将の言葉に、ぷっ。と吹き出す。
「俺達に、優しくしたつもりだったんだ。奴は」

ラルファツォルが思い切り吐息を吐く。
レッツァディンが代わってつぶやいた。

「普段の行いが悪すぎるから、好意を素直にこっちが受け取れなくても無理無いだろう?」

言った後に眉間を寄せる。

「…奴に好意なんて、存在したのか?」

ドラングルデはたっぷり、頷いた。

「我々に好意を示せる程…奴らを滅ぼしたくて仕方無いんだ」

この言葉に、レッツァディンもラルファツォルも…そして、フォルデモルドでさえ、理解出来た。と頷いた。



 メーダフォーテが扉を開けた時、ララッツが振り向く。
銀の髪の…戦闘ではラルファツォルを彷彿とさせる、冷静で激しい剣を使うこの男は、一番落ち着いた瞳をこちらに向けた。

レルムンスは始終、落ち着かない。
例えこれだけの味方が居ようが、戦場で敵としてディンダーデンと相見える事に不安なようだ。

メーダフォーテは二人を見つめ、問う。
「ザースィンは?」

レルムンスがささやく。
「グーデンに誘われて、奴の手伝いをしてる。
俺も誘われたが…グーデンに使われるのはゴメンだ。
奴は自分が王族だと、平気で年上の男を取り巻き扱いする」

メーダフォーテは頷いた。
「ペットは何人だ?」

レルムンスは思い返す。
「二人…いや、三人だったか?」

ララッツは両手を合わせ、スカして答える。
「三人だ」

メーダフォーテは吐息を吐く。
「まあ、いい…。あの馬鹿は勝手に遊ばせておけば」

そして二人を見た。

レルムンスは幻影の中だろうが、最悪ないじめっ子のいとこ、ディンダーデンと相対するのは絶対嫌だとごねるだろうし、頭の良いララッツの返答は、おそらくドラングルデと同じ。

「レッツァディンがここに居ろと?」
ララッツは直ぐ察し、答える。
「君からしたら我らは用なしか?」

メーダフォーテは肩を竦めた。
「出番が…無い訳じゃない…」
その曖昧な言い様に、ララッツは状況次第か。
と吐息を吐いた。

レルムンスがつぶやく。
「ノルンディルはひどいのか?」

メーダフォーテが目を向けると、そのいとこより明るい栗毛の、華やかで軽い美男は俯いていた。
「いや。大分いい」

レルムンスは頷く。
そして退出しようとするメーダフォーテに顔を上げる。
「レッツァディンと一緒の出陣なら…考えてもいい」

メーダフォーテは一瞬、その狐のような男の顔をまじっ。と見てしまった。

つまりディンダーデンはレッツァディンと決着を付けたがってるから、レッツァディンの背後に隠れ、ディンダーデンをやり過ごす腹だ。と読めて、肩を竦める。

「そんなにいとこが怖いのか?」
レルムンスはつい、背もたれに背をもたせかけ、つぶやく。
「皆があんたを警戒するのと、同じ位」

メーダフォーテはその外した答えに
『怖いんだな』
と内心吐息混じりに頷いた。


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