アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第六章『光の里での休養』

やっと気持ちを吐き出すレイファスと、騎士の誓いをするテテュス

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 ギュンターはほっとしたように、オーガスタスの胸から手を外す。
レイファスがそっと寄り来るのを見つめ、今だディアスの消えた空間を喰い入るように見つめるオーガスタスに、視線を振る。

オーガスタスは気づいたようにレイファスの、小さく心配げに見上げる青紫の瞳を見つめる。
途端、オーガスタスはほぐれるように笑った。

「………どうした?」

レイファスは………やっぱり我慢出来なくて瞳から涙を溢れさせ、オーガスタスに駆け寄って抱きついた。
声も出ず……ただその温もりを確かめた。

白衣を纏ったオーガスタスのその逞しい体は健在で、レイファスはその腰にしがみついたまま言葉も出ず、ただ、涙をポロポロと滴らせる。

オーガスタスは笑って、レイファスの小さな背を抱き止め、耳元でささやく。

「大した騎士に成ると誓った男にしては、感傷的だ」

レイファスは顔を上げる。
がどうしても涙が頬を伝い、唇を震わせ幾度も噛みしめ、涙を止めようとしたが、無理だった。

オーガスタスの鳶色の瞳が優しく見つめるのが、あんまり嬉しくて……嬉しくて嬉しくて、我慢なんか出来なかった。

「ぅあぁおぅ……!」

意味不明の言葉を吐き出し、オーガスタスの腰に突っ伏し、きつくしがみついて泣く。

ファントレイユが吐息混じりに俯き、ささやいた。

「…レイファスは、泣き出したら止まらないんだ」

シェイルが、肩を竦める。
「どうする?
他がつかえてる。と回収するか?」

ローフィスが笑って言った。
「もう少し、させといてやれ!」

シェイルはギュンターを見るが、ギュンターはオーガスタスの横で肩を竦め、アイリスも微笑んだ。
そして、抱くディンダーデンを見つめる。
「もう、腕が限界じゃないのか?
幸い痛みが止まったから、何とか歩ける」

ディンダーデンは確かに腕の痛みを追いやり、我慢していたが、刀傷の和らぐ腕の中の男は確かに、普段知っている◯◯◯に近かったから、ぼやく。

「あの、やつれた美青年なら、腕が軋んでも見栄張るがな…」

アイリスはまだ、やつれてぞっとする艶を放って見えたが、ディンダーデンを見つめ返し、小声でつぶやく。
「性格は変わってないと、言ったろう?」

ディンダーデンは首を竦める。
「弱味を決して人に見せないのが、ドンコステだ」

アイリスは呆れかえった。
「…じゃあ私が、口を聞かなかったら?」
ディンダーデンは微笑を零す。
「俺の理想のアイリス」

アイリスは呆れ、がディンダーデンに顎を少し差し出して促すので、ディンダーデンは吐息混じりに仕方成しに、足を抱える腕を降ろし、アイリスの両足を床に付けた。

アイリスはディンダーデンに背を支えられたまま、そっ…と俯くテテュスを見つめる。
テテュスが沈んでいて、アイリスはゆっくり屈むと、両腕広げて見せ。
テテュスはまだやつれた彼の綺麗な顔に一瞬怯み…だがそっと寄って、閉じる腕の中にくるまれた。

アイリスの胸は暖かでとても安心で、テテュスはそっとささやく。
「…将軍は僕のせいで…………」

アイリスの、力が強く成ってぎゅっ!と抱き寄せる。
それでもテテュスは心の内を吐きだした。

「ワーキュラスも………とても悲しんでいた」

アイリスがますますきつく、テテュスを腕の中に抱きしめる。

途端、空間からアッカマンが姿を現す。

「お前も俺を、無視か?!」
ゼイブンが皮肉に叫ぶと、アッカマンはそうだ。と頷き、テテュスとアイリスに告げる。

「将軍は、君に言葉を伝える迄眠りに入るのを拒否してる。
眠らないと治療出来ない」

テテュスはアイリスの腕から、顔を上げる。
その、心細げな表情に、アッカマンは言葉を続けた。

「君が、無事で元気で居る姿が見られて、心から嬉しい。
そう…将軍は君に伝えろと。
言う前に気絶されられ、ひどくご立腹で、ミラーレスが治療出来ずに困ってる」

テテュスは呆けた。
そして、頬に一筋涙を伝わせるとささやく。
「将軍に伝えて。
僕将軍の為なら何でもする。
その為にずっと元気で居るって誓うから」

アッカマンは微笑むと、透けたディアヴォロスの姿をその身に重ねるようにして浮かび上がらせ、つぶやく。

「“命を決して粗末にしないと、私に誓えるか?”」

その言葉が、ディアヴォロスの良く通る、男らしく崇高な声色で、テテュスは不思議そうにアッカマンを見つめる。
が、こくん。と頷き
「誓う」
と言った。

アイリスは感激で泣き出しそうに成る。

「“ただの、言葉の誓いでは無い。
騎士の誓いとして…私に誓約するか?”」

テテュスは顔を上げ、アッカマンの顔に重なって透けるディアヴォロス左将軍に誓いを立てる。

「騎士として、誓います」

その時、アッカマンはディアヴォロスが乗り移ったかのように、その手に持つ見えない剣で、テテュスの右肩、左肩に順に剣を乗せてささやく。

「“これを我、ディアヴォロスとの、生涯の誓いと出来るか?”」

テテュスは真っ直ぐ顔を上げ、はっきりとした言葉で告げた。

「出来ます」

アッカマンは透けたディアヴォロスをその身に纏い、剣先を指先に滑らせて血を滴らせ、その血を、テテュスの額に当てる。

「“誓いの印だ。
受け取るがいい”」

そして、見えない剣を手に持つ、透けたディアヴォロスは微笑んだまま消え行き、呆然と見つめるテテュスはそっと視線を、アッカマンの指へと落とす。

がその指先には傷も、血も付いてなかった。

テテュスは幻だったのか。とそっ…と額に触れる。
が、指先に赤い血が付いていて、思わずアッカマンを見上げた。

アッカマンは意味ありげに微笑を浮かべると、消え行きながらささやく。

“今度出会った時ディアヴォロス左将軍の、指先に傷がないか、確かめてみろ”

テテュスは透けゆくその姿に、頷いた。

「おい!俺には一言も無しか!」

ゼイブンが毒付いたが、アッカマンの姿は消え、後の祭りだった。

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