アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第五章『冒険の旅』

金の豹の戦い様

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 ギュンターは襲う騎士を全て地に転がし、ローフィスの相手、フォルデモルドを見、続きシェイルがラルファツォルを相手にしてるのを見つけた。
歴戦の強者ラルファツォルの豪剣を、シェイルは手に持つ長剣で真正面で止めている。

“無茶だ……!”

チラ…!とローフィスを見る。
奴も苦戦している。
が、ギュンターの視線に気づいたローフィスは、瞬時にシェイルへと顎を振る。

ギュンターは頷く間も惜しみ、駆け寄ろうと走り出す。

がっ!

とっさ腿に飛ぶ矢を、剣を振って叩き落とす。
が直ぐ次の矢が、走るその先に飛ぶ。
がっ!

それをも、叩き落とす。
ドラングルデが叫ぶ。
「シェイルの元へ助っ人に行くか?
が、まだ敵も居る!」

途端背後から剣が振り、ギュンターは身を横に捻ってそれを避け、体を後ろに返し様剣を振り下ろす。
「ぎゃっ!」
どさっ!
敵が倒れる音と共に、右肩に矢が突き刺さる。

身を折り振り向くが、ドラングルデは栗色の巻き毛を肩の上で揺らし、笑う。
「楽しめそうだな!
俺の射程から、抜けられるものならやってみろ!」
「そっちこそ矢が、切れないよう気を付けるんだな!」

が、ドラングルデは笑った。
「俺の心配か?
心の臓は打たないと、安心してるな?
虫の息でも、かろうじて生きてりゃノルンディルは納得するさ!」

ギュンターが激しく目を剥く。
「ぬかせ!」

途端ギュンターはぎり…!と唇を噛み、右肩の矢を引き抜く。
抜いた傷口から血が噴き出すのも構わず、抜く瞬間顔も歪めぬ、金髪美貌のその男の凄まじい気迫籠もる鋭い紫の瞳に、ドラングルデは一瞬息を飲み、ノルンディルの言葉をふと思い出す。

“あいつには、痛む神経が通ってない”

確かに…矢を引き抜く瞬間毎度見る、顔をしかめる様子はこの男の顔には見られない。
ギュンターは次に襲い来る男の相手を、既にしていた。
ローランデを逃がしたノルンディルの部下達が、ギュンターに少しでも傷を作り、その汚名を注ごうと、やっきになって斬りかかる。

ギュンターは飛び来る剣を頭上で音を立てて瞬時に止め、咄嗟に剣を引き、下から腹へと一気に突き刺し相手を殺す。
それを目にし、ドラングルデは再び矢を構える。

背後から襲い来る男に振り向いた途端、ギュンターの右胸に、どっ!と音を立て矢が突き刺さる。

ギュンターは咄嗟矢に手をかけ引き抜き、その間に仕留めようとぎらりと剣を上から振りかぶる男に、身を屈めて一気に間を詰め、豪快に横に薙ぎ払う。

ざんっ!

ドラングルデはちっ!と舌打った。
どうやら奴は上着の下に、帷子(かたびら)を着けてるな…。
傷は付いても、奴の動きを止める程じゃない。

が、深く刺されば奴とて倒れる。

ドラングルデは次の矢を、弓につがえる。

ギュンターは男を倒し様飛び来る矢を、今度は身を屈め素早く一歩踏み込み叩き落とし、チラとシェイルに視線を振る。

シェイルがその大柄で逞しい敵と真正面から剣を合わせ、力比べに腕を震わせ、顔を歪めてるのを見る。
が、ドラングルデは無視し、通り過ぎる事の出来る敵じゃ無い。

ギュンターは、意を決し駆け出す。
がっ!

飛び来る矢を、剣を振って叩き落とし、ドラングルデに向かって矢のように駆ける。
が、直ぐ次の矢が飛ぶ。

がっ!

それをも、叩き落とす。

ギュンターは右腿の受けた矢傷から、血が伝い行くのも構わず、怒濤の如くドラングルデに向かい走り続ける。

さながら、敵に襲いかかる俊敏な手負いの豹のようなその男の走りに、ドラングルデは内心呆れた。
右腿に付けた矢傷から、後から後から血が腿に伝い、止まぬ走りにその血は後ろへ飛び散って行く。

“本当に、痛む神経が無いのか…?!”

が、距離を縮めつつあるその男の走りが止まらぬのを目に、慌てて次の矢をつがえ、放つ。

がっっっ!

歩を止める事無くギュンターは瞬時に剣を振り、向かう矢を叩き落とす。

ドラングルデの、顔が歪む。
向かい来る男は剣を振り回す限り、その正面は盾を持つのと変わりなく、倒す隙は見つからない。
矢を次々に忙しくつがえ、構えて腿を狙う。
距離はもうたったの、一メートルも無い。
最速の手さばきで矢をつがえ、立て続けに放つ。

が、ギュンターは車輪のように剣を振り回し続け、全てを弾き飛ばす。

ドラングルデは剣を振りかぶり飛び来るギュンターに慌て、シェイルに視線を向け、大声で怒鳴る。
「シェイルが殺られるぞ!」

ギュンターは一瞬、足を止めるとシェイルへ振り向き視線を投げる。

どっ!
狙いは胸だった。
が、咄嗟に身を捻るギュンターは、左脇にそれを喰らう。

矢は刺さったままなのに、ギュンターの紫の、野獣のような瞳で激しく睨め付けられ、ドラングルデは舌打って脇の岩場に乗せていた、剣の柄を必死で探る。

が…。
距離があった筈のその男の、銀に光を弾く剣先が、大きく目前で弧を描く。

「ぐっ!」

避けた、筈だった。
長身のその男が飛び込み様、真正面から斜め横に振る剣を。

だが左脇が熱く、斬られたと感じ、傷の深さを測る間無くベルトに挟む短剣を握り、次の襲撃を防ごうと、顔を上げた。

…が、ギュンターの背は、遠ざかっていた。
止めを刺す間無く背を向けるか?

だが確かに…シェイルはラルファツォルの翻弄する剣に蹌踉めき、斬られかけていた。
ドラングルデは笑って、矢をつがえようと左手で探り掴み、瞬間激しく痛む左脇腹に思わず手を添えて屈み、べっとりと滲む血に、思い切り眉根を寄せる。

が、右手で弓を地にしっかり突き刺し固定し、顔を思い切り歪め、それでも左手で矢をつがえ、引き絞った。


がっ!

シェイルは寸でで何とかそれでも、ラルファツォルの剣を頭上で受け止めていた。

この場の男達の中でも、最も小柄でなよやかな肢体のシェイルに、その大柄な騎士の剣が、激しい勢いで振り下ろされる度。
レイファスは気が気では無く、つい手を上げ下げし、手の平を、開いては握り、足を彷徨(さまよ)わせる。

が、がっ!
左、そして斜め右。
シェイルはそれでも器用にその剣に自分の剣を、ぶつけ止めてはいた。
が、激しい振りの、その剣の勢いに吹き飛ばされかけ、両手で剣の柄を握りしめ、それでも止めきれずによろめき、ラルファツォルはそれを見るなり咄嗟に剣を引き、笑みを浮かべ、再び剣を、振り上げる。

…その胸からは血が滴り、斜めにばっさり斬られた傷口は抉れ、血が、滴っているというのに…。

レイファスはどうか…!
と両手を胸の前で握り込む。

どうか騎士が痛みで…シェイルに剣を、振り降ろし損ねますように…!
必死で、そう…。

が、死に神のようなさらりと背に銀髪を流す騎士の、戦いと傷の痛みに慣れた不屈の笑みを見、心が凍り付く。

ギラリ…!
と刃の切っ先が、シェイルの遙か頭上に光り、シェイルより頭二つ分は背の高い、その逞しい肩をした騎士が力一杯それをシェイル目かげて振り下ろそうとするのを目に、レイファスが絶叫する。

「シェイル!!!」

シェイルはそれでも顔を上げ、剣を、持ち上げようとした。

かん!
駆けながら、ギュンターは左脇腹に刺さる矢を血が迸(ほどばし)るのも構わず引き抜き、しぶとく飛ばすドラングルデの矢を腹立ち紛れに叩き落としながら、シェイルの肩を背後から掴み後ろに引き倒し、ラルファツォルの振り下ろす剣を代わって受け止めた。

がっっっっっ!

「ギュン………」

びゅっ!

矢が飛び、ギュンターの踏ん張る右太腿横に、どさっ!と音を立て突き刺さる。

「…!」
ギュンターの背後に居たシェイルは、咄嗟に斜め後ろに視線を振り、その先の岩場で弓を立て、引き絞った後の左手を後ろに泳がせるドラングルデの、こっちを真っ直ぐ見つめる青い瞳に気づく。

ドラングルデは思わず振り向く、銀髪巻き毛のその可憐な美青年が。
血濡れた凄惨な戦場の中、一輪の清々しい花のように目に映り、つい習性で笑みを浮かべ、シェイルに向かって片目つぶって見せた。

左脇腹をべっとりと血で濡らしながらのその余裕に、シェイルは一気にムカつくと、すっと身を屈め、横に転がる自分が倒した男の喉から短剣を引き抜き、ぎょっとして見つめるドラングルデに向け、放つ。

距離があったからドラングルデは慌てて身を屈め、間に合ったと思った瞬間、左胸に短剣がどさっ!と音を立てて突き刺さり、ギラリと刃を光らせるのを、見た。

「動きを、読まないとでも思ったか?」

シェイルの冷たい声に、ドラングルデは手を持ち上げかけては上げきれずに降ろし、が歯を喰い縛って痛みを抑え込み腕を持ち上げ、左胸に突き刺さる短剣を、息を止めて一気に引き抜いた。

レイファスはあまりの見事さに、ついさっきの悲壮感を忘れて思わずシェイルに、拍手を送りたくなった。
が、シェイルは静かに言い放つ。

「引き抜くと言う事は、今度は喉か、それとも左胸(心臓)のもっと深くに、短剣を喰らうつもりだと言う事だ」
『持って、無い癖に…!』
ドラングルデは痛みに歪む顔を上げる。
が、シェイルのその手にはとっくに、別の男の喉から引き抜いた、血のべっとり付いた短剣が握られていた。

「…たったの一本か?!」
ドラングルデの言葉に、シェイルはようやく笑う。
「不十分かどうか、その身で試すか?!」

ドラングルデは自分同様、凄腕の短剣使いと呼ばれる可憐な美青年の、その余裕に額に汗を滴らせ、唇を噛んで呻いた。

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