アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第五章『冒険の旅』

返礼

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 残り、あと六人。

囲む敵騎士らは、前を塞ぐ癖にじりじりと、隙を狙いかかっては来ない。
もう、五人もの屍がローランデの足元に転がっていた。

チラ…!とアイリスへと視線をくべる。
ノルンディルが圧す剣を上へと振り上げた途端、アイリスが左腿から血を流し膝を折るのが見え、ノルンディルが顔を勝利の笑みで歪め、大きく剣を振り被るのが視界に飛び込む。

ローランデは咄嗟、後ろに跳ね飛び、真後ろに居た男の腹に剣を突き立てた。
後ろを向いたまま背後の男を斬り殺すローランデの、その真っ直ぐ前に注がれる青の瞳に、正面を塞ぐ二人の男がごくり…!と喉を鳴らす。

ざっ!
血糊を飛び散らせて剣を、引き抜く。
銀の弧が鮮やかに光りを放つ。
が、ローランデの青の瞳は真正面の二人の敵を睨み据えながらも、アイリスの動向から気を逸らさない。

屈み、頭を垂れながら、ノルンディルが勝った!と思い切り剣を振り下ろす、その一瞬の隙を狙い澄ましているのが解る。

いくらテテュスに掠り傷を負わされ、普段の冷静さを忘れて頭に血が上っているノルンディルでも…奴はそんな、甘い男なんかじゃない!
半端な反撃はすぐ察し、軽くかわす筈だ。

そう…思いついた時アイリスが、それを計算に入れない筈が無い。と思い当たる。

そしてギュンターの懸念と、あの気弱な表情で一瞬にして察する。
「くっ…!」

気づくと、駆け出していた。

相打ち………!

傷を負った今、ノルンディルが剣を振り込む瞬間、自ら間合いを詰めずとも奴の方から詰めてくれる。
アイリスは自分を斬らせ、そして…。
その一瞬で、間近に寄り来る敵(ノルンディル)を殺す腹だ!

だからギュンターは…………。

前を塞ぐ騎士達の真ん中を一瞬で二振り剣を左右に振り分け、退ける二人の間をすり抜ける。

「嫌だ!!!」

テテュスの絶叫に、ローランデは歯を喰い縛り歩を速める。
視線の先に、左膝を折ってノルンディルの振り下ろそうとする剣に、誘い込むように頭(こうべ)を曝したままのアイリスを見ながら、風のようにアイリスの目前。
ノルンディルの剣の、振り下ろされるその先へと、ローランデは突っ込んで行った。


アイリスはノルンディルの剣が自分の身に振り込まれた瞬間、息の根を止めたと相手に思わせ僅かに急所を外し、ノルンディルの腹を思い切り突き刺そうと頭(こうべ)を垂れたまま、下げた右手に剣を握りしめ、その剣が振り下ろされて自分の身を切り裂く時を待った。

が…………。

がっっっっ!
突っ込んで来るその体に激しく突き倒され、斜め後ろに仰け反る身を、咄嗟に右足を横に突き出し、支え止める。

「ローランデ………」

ローランデの背が目前で、ノルンディルの剣を自分に代って頭上で受け止めるのを見。
途端かっ!と熱く痛む左肩の傷に顔をしかめ、右手に握る剣をからん…!と地に落とし、その手で傷口を押さえ俯く。

が、左腕をしっかと回した背後のテテュスの、温もりをじんわりその手の平に感じると。
安堵の吐息を短く漏らし、気力を振り絞り全身に力を込めて痛みを吹き飛ばそうと試み。
が再び襲い来る左肩の激痛にその身を震わせて唇をきつく噛み、崩れ落ちるようにその身を前へと、屈めた。


 ローランデは無言で、押し止めたノルンディルの剣を捌きにかかる。

一瞬で力比べから剣を引き、瞬速で二振り、素早い剣を腹に突き入れてノルンディルを後ろに引かせ、更に足を使い、突っ込んで行く。
ざんっ…!

ノルンディルは振り下ろされる敵の剣の、その早さに眉をしかめ後ろにふっ飛び、が一瞬足を滑らせ、左肩から胸を切られて体を捻る。

『…浅い…!』
ローランデは間髪入れずノルンディルの懐深くに飛び込むが、ノルンディルはがっ!とヨロめく足を踏み止め、向かい来るローランデに素早い剣を振り下ろす。

ローランデはさっと体を捻って唸る豪剣を避け、燕のように身を返し、ノルンディルの真横に素早く回り込み、再び斬り込む。
ざっ!

ノルンディルは横向くが、その剣が襲い来るのを目に、咄嗟後ろに跳ね飛ぶ。
だがローランデは更に逃げる横へと回り込み、剣を振る。

「くそ…!」
速攻の急襲に、ノルンディルの眉が寄る。
早さについて行けないと、奴の剣に身を曝す事になる。

がっ!
ノルンディルはローランデの剣を受け、力で押してその歩を止めようとしたが軽くいなされ、軽やかに背後に身を進めるローランデの剣が、背後から殺気を帯びて襲う、その剣をも必死で振り向き剣を引き上げ、受け止める。

がっっつ!
がまた…!

ローランデはさっと剣を外して歩を、進める。
どこから来るか解らない剣にノルンディルは混乱した。

ざっ!ざっ!

その早い剣を、ぎりぎりで避けるものの腕、腿に掠り傷を負わされ、ノルンディルは頭に来るが、ローランデの歩を止める方法が思いつかない。

待つしか、無いのか?
奴が、疲れ切る迄…!
こんな絶え間ない攻撃を、続けられる訳が、無い!

が、ローランデは風のように身を翻し、剣を入れるその隙すら見せずその視界から姿を消し、直ぐにその殺気を帯びた剣で襲い来る…!

使い手だと、知ってはいた。
だがこれ程敵に回すと、身が震える相手だとは、思った事すら無かった。

「俺に可愛いがられた※返礼にしちゃ、随分念入りだな?!」

咄嗟にそう怒鳴るが、ローランデからは

「全然足りない!」

と怒号が帰って来る始末で、その早い攻撃は信じられないが、更に早さを増して行く。

がっ!がっ!がっ!

避けるだけで精一杯。
剣を合わせる事すら、出来ない。

こんな攻撃をする相手には出会った事すら無くて、ノルンディルは腹を立てまくったが、為す術無く浅い傷を幾つも作り、更に頭に、血が上る。

人の血を見るのは大好きだったが自分の血は、真っ平だった。

ぶんっ!

烈剣を振るが空を切り、その場のローランデはとっくに場を移して姿を消し、背に一瞬の殺気を感じ体を捻り剣を持ち上げたが止める事叶わず、背に浅い傷を受けて仰け反る。
「ぐぅっ!」

その間に正面に回り込んだローランデの剣が、踏ん張る右太腿に飛ぶ。
「くっ!」

咄嗟に足を引くがやはり、傷を作る。

防戦一方。

さらに全身のあちこちの浅い傷の痛みが沸き上がり、ノルンディルは更に頭に血が上ったがローランデの剣は悔しがる間も与えず、四方から降り続けた。



※『仮初めの時間』の出来事。
まだこちらにあっぷしてません。
アイリスの屋敷に来る少し前の、ローランデとギュンターの物語。
その因縁で、ギュンターは中央護衛連隊長になる旅に、出ざるを得なくなりました。
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