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第五章『冒険の旅』
本気の本気
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背後でフォルデモルドの剣が、空を斬る風を気配で感じたものの。
アイリスは必死で、奥歯を噛みしめ走った。
“ノルンディルの、本気の一撃を浴びたら間違い無くテテュスは………”
テテュスの、敵を見据える濃紺の瞳。
自分より倍以上ある敵に、怯む事無く真っ直ぐ視線を逸らさず剣をきつく握り込み、腰を低く構える姿が視界に飛び込む。
叫ぶだけ無駄だ。
彼に逃げる気は、毛頭無いのだから…。
ノルンディルの豪速の剣が、振り下ろされる。
アイリスは必死で大事なテテュスの元へと、最速で突っ込んで行った。
ノルンディルの、激しい剣がテテュスめがけて振り下ろされ、テテュスはその場で剣を受けようと右膝を曲げ、踏ん張ろうとした時。
アイリスの大きな背が突然目の前に覆い被さった。
ざんっっっっ!
激しい音。
テテュスは一瞬、アイリスの背に垂らす長い焦げ茶の髪に顔が覆われ、前が見えなかった。
が、はらりと髪が顔から滑り落ちた時、身を低く屈めて背に庇うアイリスの左の肩口が、ばっさりと切れて肉が削られ、裂けた深い傷口から血がみるみる内に溢れ出すのを目にし、叫ぶ。
「アイリス!!!」
がっ!
だが次のノルンディルの剣を、アイリスは真正面から剣で受け、止(とど)める。
アイリスがゆっくりと、剣を押し止めたまま膝を上げて立ち上がる。
左肩に傷を受けているのに。
その左手を右に握る剣の柄に添え、ノルンディルの剣を受けたまま、圧し来る力を押し返し、ゆっくりと。
「血が…!」
テテュスはファントレイユを背に回し、ファントレイユはテテュスの背にしがみついて、二人の前で彼らを庇うアイリスの左肩から次々と血が滴るのを、震えながら見つめた。
ノルンディルは息子を庇い、大怪我を負ったアイリスの端正な顔が歪み、それでも自分の剣を押し止めるその姿につぶやく。
「久しぶりだな。アイリス。
俺が殺したいのはギュンターだが、お前も殺してくれとメーダフォーテに頼まれた。
息子を、捕らえる迄も無い。
お前を殺した後、奴は一振りで殺ってやる。
親子揃ってあの世に行ける、俺の親切に礼を言うんだな!」
アイリスはその男を見、つい、微笑んだ。
「君にそれが、出来るなら」
ノルンディルは顔色を変え、交えた剣を引き様振り上げ、再びアイリスへと振り下ろす。
「怪我人が!
俺を馬鹿にするのは倒してからにしろ!」
がっ!
がっ!
テテュスが思わず、ぞっとする。
その騎士と同じくらいの体格のアイリスでさえ、受けるのがやっとなくらいの、激しい振りだった。
自分が立ち向かっていた時は夢中で気づかなかった。
空を切る音がする程、凄まじい。
そして、ファントレイユの手が背にきつく喰い込んだ時、解った。
アイリスは僕らが居るから、怪我していても決して避けないで、受け続けてるんだ。と。
がっ!
それでも横から後ろから、二人の子供を捕まえようと襲い来る賊達を、ゼイブンの手から放たれた銀の閃光が、防ぐ。
「ぐっ!」
賊が飛び来る短剣に、左胸を一突きされて身を折るのに、ファントレイユは咄嗟にゼイブンに振り返る。
ゼイブンはそれでも周囲を囲む敵の剣を長剣で受けて戦いながら、額に汗を伝わせ、きついブルー・グレーの瞳で睨み付けていた。
が、一瞬こちらに視線を向けると、その左手は腰のベルトに見えない程の早さで滑り、一瞬で投げつける。
ファントレイユの、真横に走り込んで来た賊が、銀の閃光に声を、上げる。
「ぐぅわっ!」
…また、胸だ。
男は左胸に、ゼイブンの放った短剣を突き刺したままもんどりうって倒れ込み、目を見開き転がって、その屍を曝す。
ファントレイユは震えながらそっ…と背を向けるテテュスの肩に、しがみつく。
テテュスは微かに震えながら振り向き、ファントレイユの見開かれたブルー・グレーの瞳を見つめ、だが自分に背を向け敵の騎士と戦うアイリスの背へと、視線を戻す。
「ぐぅぅっ!」
がその呻き声に、テテュスは背後に再び視線を引き戻され、ファントレイユの真後ろで賊が胸に深々と短剣を突き刺し、身を前に折って短剣を引き抜こうとあがき…だが俯いたかと思うと、すとん。と両膝を地に付け、一気に地に、倒れ伏すのを見た。
ファントレイユに振り向くと、彼は震えていて、肩にしがみつく手が痛い程喰い込み、テテュスは気づいてそっとささやく。
「心臓には…投げない。って。
ゼイブンは、言っていたのにね」
ファントレイユはこくん。と頷き、だが言った。
「きっと…本気の本気なんだ」
テテュスも泣き出しそうな瞳で視線を前へと戻すと、深手を負ったアイリスがそれでも彼らに背を向け戦い続ける姿を、潤む瞳で見つめ、こくん。と頷き、同意した。
アイリスは必死で、奥歯を噛みしめ走った。
“ノルンディルの、本気の一撃を浴びたら間違い無くテテュスは………”
テテュスの、敵を見据える濃紺の瞳。
自分より倍以上ある敵に、怯む事無く真っ直ぐ視線を逸らさず剣をきつく握り込み、腰を低く構える姿が視界に飛び込む。
叫ぶだけ無駄だ。
彼に逃げる気は、毛頭無いのだから…。
ノルンディルの豪速の剣が、振り下ろされる。
アイリスは必死で大事なテテュスの元へと、最速で突っ込んで行った。
ノルンディルの、激しい剣がテテュスめがけて振り下ろされ、テテュスはその場で剣を受けようと右膝を曲げ、踏ん張ろうとした時。
アイリスの大きな背が突然目の前に覆い被さった。
ざんっっっっ!
激しい音。
テテュスは一瞬、アイリスの背に垂らす長い焦げ茶の髪に顔が覆われ、前が見えなかった。
が、はらりと髪が顔から滑り落ちた時、身を低く屈めて背に庇うアイリスの左の肩口が、ばっさりと切れて肉が削られ、裂けた深い傷口から血がみるみる内に溢れ出すのを目にし、叫ぶ。
「アイリス!!!」
がっ!
だが次のノルンディルの剣を、アイリスは真正面から剣で受け、止(とど)める。
アイリスがゆっくりと、剣を押し止めたまま膝を上げて立ち上がる。
左肩に傷を受けているのに。
その左手を右に握る剣の柄に添え、ノルンディルの剣を受けたまま、圧し来る力を押し返し、ゆっくりと。
「血が…!」
テテュスはファントレイユを背に回し、ファントレイユはテテュスの背にしがみついて、二人の前で彼らを庇うアイリスの左肩から次々と血が滴るのを、震えながら見つめた。
ノルンディルは息子を庇い、大怪我を負ったアイリスの端正な顔が歪み、それでも自分の剣を押し止めるその姿につぶやく。
「久しぶりだな。アイリス。
俺が殺したいのはギュンターだが、お前も殺してくれとメーダフォーテに頼まれた。
息子を、捕らえる迄も無い。
お前を殺した後、奴は一振りで殺ってやる。
親子揃ってあの世に行ける、俺の親切に礼を言うんだな!」
アイリスはその男を見、つい、微笑んだ。
「君にそれが、出来るなら」
ノルンディルは顔色を変え、交えた剣を引き様振り上げ、再びアイリスへと振り下ろす。
「怪我人が!
俺を馬鹿にするのは倒してからにしろ!」
がっ!
がっ!
テテュスが思わず、ぞっとする。
その騎士と同じくらいの体格のアイリスでさえ、受けるのがやっとなくらいの、激しい振りだった。
自分が立ち向かっていた時は夢中で気づかなかった。
空を切る音がする程、凄まじい。
そして、ファントレイユの手が背にきつく喰い込んだ時、解った。
アイリスは僕らが居るから、怪我していても決して避けないで、受け続けてるんだ。と。
がっ!
それでも横から後ろから、二人の子供を捕まえようと襲い来る賊達を、ゼイブンの手から放たれた銀の閃光が、防ぐ。
「ぐっ!」
賊が飛び来る短剣に、左胸を一突きされて身を折るのに、ファントレイユは咄嗟にゼイブンに振り返る。
ゼイブンはそれでも周囲を囲む敵の剣を長剣で受けて戦いながら、額に汗を伝わせ、きついブルー・グレーの瞳で睨み付けていた。
が、一瞬こちらに視線を向けると、その左手は腰のベルトに見えない程の早さで滑り、一瞬で投げつける。
ファントレイユの、真横に走り込んで来た賊が、銀の閃光に声を、上げる。
「ぐぅわっ!」
…また、胸だ。
男は左胸に、ゼイブンの放った短剣を突き刺したままもんどりうって倒れ込み、目を見開き転がって、その屍を曝す。
ファントレイユは震えながらそっ…と背を向けるテテュスの肩に、しがみつく。
テテュスは微かに震えながら振り向き、ファントレイユの見開かれたブルー・グレーの瞳を見つめ、だが自分に背を向け敵の騎士と戦うアイリスの背へと、視線を戻す。
「ぐぅぅっ!」
がその呻き声に、テテュスは背後に再び視線を引き戻され、ファントレイユの真後ろで賊が胸に深々と短剣を突き刺し、身を前に折って短剣を引き抜こうとあがき…だが俯いたかと思うと、すとん。と両膝を地に付け、一気に地に、倒れ伏すのを見た。
ファントレイユに振り向くと、彼は震えていて、肩にしがみつく手が痛い程喰い込み、テテュスは気づいてそっとささやく。
「心臓には…投げない。って。
ゼイブンは、言っていたのにね」
ファントレイユはこくん。と頷き、だが言った。
「きっと…本気の本気なんだ」
テテュスも泣き出しそうな瞳で視線を前へと戻すと、深手を負ったアイリスがそれでも彼らに背を向け戦い続ける姿を、潤む瞳で見つめ、こくん。と頷き、同意した。
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