アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第三章『三人の子供と騎士編』

屋敷内での攻防

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 アイリスは階段を登り切り、二階の廊下に出ると、二人の賊が振り返った。
一人が先へと進み、一人が振り向き、かかって来る。

その先には子供達の寝室が、あった。
「(まずい…!)」
アイリスは思い、剣を下げたまま突っ込み、相手が横から剣を振るのを体を振って避け、賊の横を通り過ぎ様横から腹を思い切り、突いた。

ぎゃっ!と言う声で先に進む賊が振り向き、アイリスは刺した剣を賊の脇から血糊と共に引き抜き様、咄嗟にその賊めがけ突っ込んで行った。
賊は慌てて剣を構えるが、アイリスは右から剣を振り入れようとし、賊が右に剣を泳がせた隙に刃を俊速で返し、左から一気に斜めに、賊の胴を凪払った。
ずばっ!

剣を振り切った瞬間、賊の血しぶきが顔に飛ぶ。
アイリスは歩を止め、ゆっくり剣を、下げた。
こと…!
音がし、廊下の先の、戸が開いて、テテュスが顔を見せた。

アイリスが、ガウン姿で顔と胸に血しぶきを受けて剣を下げているのを見、目を丸くする。
が、アイリスはテテュスを見、うっとりするような微笑を浮かべた。
「休んでいて、いいから」
テテュスが、アイリスの握る剣が血に染まるのを見、ささやく。
「悪者?」
アイリスは愛しいその自分に良く似た息子に、そっと言った。
「退治するから。任せて、ゆっくりお休み」


 ローランデは、五人の賊が外階段から屋敷の中に侵入した後を追って行った。
バルコニーに面した広間から、次の間へと駆け込む一番後ろの賊の背に追いつき様、斬る。

ずどん…!と音を立てて賊は前へ倒れ伏すが、すばしっこい賊達はそれを見、戦うべき相手で無いとローランデの剣を避け、物陰に隠れては次の間へと散って行く。

ローランデは舌打つと、窓辺の月明かりが、薄いカーテンから青く洩れ注す室内を進む。
次の間へ入った一人の賊に追いつき、迫り、一瞬進む様子を見せて賊を後ろに引かせ、壁際に追いつめた。

後ろが壁で、後が無いと知った賊は襲いかかり、ローランデがあっという間に間合いを詰め、その手に握る剣が横に綺麗な弧を描くと、賊はローランデの横に倒れ伏す。
ローランデは直ぐに体を起こすと、もう一人の賊を見つける。
その賊はローランデを見、必死で逃げ場を探した。
ローランデは剣を下げたまま、静かに歩を進めて追いつめる。
賊は横に扉があるのを見つけ、幾度もローランデに視線を送りながらそちらに飛び込もうと、ちらちら見やる。
が、ローランデがすっ!と剣を下げると、賊はほっとしたように一気に走りかけ、うっ!と仰け反って、倒れた。

「シェイル」
ローランデが微笑むと、賊の背後に立っていたシェイルが、背に短剣を受けて倒れ込む賊を、覗き込む。
「まだ、居るか?」
ローランデは頷いた。
「後、二人」
シェイルは軽く頷く。
が、バタン…!と開いた戸が風で叩かれ、二人はしまった!と駆け出した。


テテュスが物音に気づき、寝台を滑り降り、目を擦ってその音のする廊下に、顔を出す。

レイファスがその気配に気づいて、寝台から体を起こす。
テテュスが、廊下に顔を出して話している様子を目に、レイファスは目を擦って、何があったのかと寝台を這い進み、そっと床に足を付けて寝台を離れた。
ファントレイユはまだ寝台に横たわって、重い瞼と戦っていた。

レイファスが、テテュスの方へと歩くのを見つけ、のろのろと体を起こし始めた、その時だった。
次の間の扉が突然開き、テテュスの後ろに行こうとしたレイファスの体がいきなり、その扉から現れた賊に抱き上げられたのは…!

「…レイファス!」
抱き上げられたレイファスの喉に光る短剣が押しつけられたのを目に、テテュスが振り向き様叫ぶ。
ファントレイユは反射的に身を起こしてそれを、見た。
バタン…!
テテュスの後ろから彼の叫び声を聞き、扉を蹴立ててアイリスが飛び込んで来る。
賊は静かに、腕に抱いた小柄なレイファスの喉にぎらりと光る短剣を突き付けたまま、アイリスに告げた。
「…殺されたくなかったら、剣を、捨てろ!」

テテュスはアイリスを、見た。
が、アイリスは顔色も変えず、そっと屈んで、血の付いた剣を床に、置いた。
賊はそれを見るなり、大声で叫ぶ。
「人質を取ったぞ!綺麗な餓鬼だ!お宝だ!」

ローランデはその声が、開いた扉の向こうから聞こえ、戸の前の暗がりにもう一人の賊が居るのに気づく。
賊はローランデとシェイルを見、笑った。
その賊の背の向こう。
開いた扉から背を向けた賊の腕の中に、子供の頭が見え…窓から差す月明かりでそれが、鮮やかな栗毛で小さなレイファスだと解り、愕然とする。

「…さあ…剣を捨てて、貰おうか」
見つめる賊に言われ、ローランデは俯くと剣を、床に投げ捨てた。
からん…!

シェイルは苦い表情でローランデを見たが、ローランデは黙って頷き、シェイルは脇の剣を鞘毎引き抜き、そっと屈んで床に、置いた。
それを見て賊は走り寄り、二人の床に置いた剣を腕に抱えて拾い集め、ローランデに脇差しを抜いて渡せと視線をくべる。

ローランデは顔色も変えずそれを鞘事抜いて、賊に手渡した。
賊は大人しく立つ二人に視線を向け、その動向を監視したまま窓辺に近寄ると、窓を押し開けて外に向け、大声で怒鳴った。
「お頭!餓鬼を人質にしたぞ!」


 二階の暗い窓からその声が庭に響いた途端、ディングレーは顔を歪め、ギュンターは静かに剣を、下げ、ローフィスは舌打ち、オーガスタスは窓を、見上げた。

もう、ほんの、残り三人だった。
が、その後ろから、闇に隠れていた首領とやらがのそりと姿を、現す。
いかつい顔でがっしりした体格の、下卑た賊が笑い、言った。

「聞いたろう?剣を、捨てて貰おうか」

ディングレーがやけっぱちのように剣を地面に放り投げ、ギュンターはその手を下げて剣をからん…!とそのまま落とし、オーガスタスは首領を見、笑い、剣を後ろに放(ほお)った。

ローフィスは俯いたまま、ため息を吐くと、剣をそっ、と地に降ろした。

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