アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第三章『三人の子供と騎士編』

15 夕食時の、子供達は意識してないとっても過激な会話

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 夕食の席で、思い出したようにギュンターが、ディングレーに尋ねる。
「ローフィスとの仲を、ファントレイユの母親に疑われた事、そんなに打撃なのか?」
ローフィスはそれを耳にした途端、顔を上げ様、バラしたな。とシェイルを睨む。
シェイルは肩をすくめた。
「口が、滑った」
ディングレーがギュンターを怒鳴りつける。
「お前、オーガスタスとそういう仲で、お前が女役をしてるんだろうと言われたら、どうする!」
ギュンターはすかさず応えた。
「俺が男役だと、言う迄さ」
途端、オーガスタスが、スープをぶっ!と吹き出した。
ローフィスも尋ねる。
「否定、しないのか?」
ゼイブンが言った。
「無駄だろう…。
俺だって最初セフィリアに、アイリスの仕事仲間だからきっちり、奴と寝室で過ごしてるんだろうと、疑われた」

皆が何げにそう言い、スープを掬ったスプーンを口に運ぶゼイブンを、凝視した。

ディングレーが、思わず尋ねる。
「…それで、どうした?」
ゼイブンは妻、セフィリアに翻弄される黒髪の王族の、男らしい顔が真剣そのものなのにちょっと驚き、肩をすくめた。
「美人の言う事だぜ?
疑惑は疑惑でしか無く、事実じゃないから、自分が俺と付き合って確かめてみろ、と言ってやった」

皆が一斉に、感心したような吐息を吐く。
が、すかさずローフィスが釘刺した。
「忘れるな。結婚後は寝室から、閉め出されてるんだぞ」
皆が、そうだった。と我に帰る。
ゼイブンがそう言うローフィスを、しっかりと睨んだ。

ファントレイユが、隣でスープを口に運ぶレイファスにささやく。
「寝室に入る事が、重要なんだ」
レイファスは、解ってないファントレイユに言葉を返す。
「君はいつも、入れてもらえる?」
だがファントレイユは、ゼイブンに遠慮するようにチラ…と見、そっと、頷いた。

オーガスタスとローフィスが、ため息を吐く。
ゼイブンが、喧嘩越しに言った。
「…何だ!」
ディングレーがぼやく。
「子供に気遣わせるなんてな」

ゼイブンは乱暴に皿の底にスプーンを、音を立てて当て、ファントレイユに向くと静かに怒鳴る。
「だがお前はセフィリアに頼まれても、寝室は嫌なんだろう?」
ファントレイユはそっとゼイブンを見上げた。
「だって僕もう赤ちゃんじゃないし…。
熱だって出ないのに、一緒に寝たりしたら恥ずかしいじゃないか…。
でもゼイブンは、一緒がいいんだよね?
どうして…恥ずかしく無いの?」

皆がつい、知識の無いファントレイユを凝視したが、ゼイブンは怒鳴った。
「夫婦だと、恥ずかしく無いんだ!」
「…ゼイブンが、赤ちゃんみたいでも?」
ファントレイユの言葉に皆が思わず想像して、クスクス笑う。
ゼイブンが口を開こうとし、テテュスに先を超された。
「大人はする事があるから。赤ちゃんみたいにならないんだ」
「する事?」
ファントレイユの素朴な質問に、大人達は一斉に、誰がフォローするか、顔を見回しあった。
が、レイファスが果敢に口を開く。
「だって君、男の子の印が付いてるだろう?」

皆、食事中のこの場で、レイファスが始めるのか。
と、一斉に顔を下げる。

ファントレイユが、頷く。
レイファスはファントレイユを見つめて言葉を続けた。
「君のは出てて、女の子のは引っ込んでる。
合うように、なってるって知ってる?」
ファントレイユは首を横に振った。
「…つまり僕のを…女の子に入れるの?」
レイファスは頷く。
「そうすると、男の子の中の液が女の子の中に入って、混じるとそこから子供が産まれる。
僕に兄弟が出来ないのは、アリシャがもう子供を産まない方がいいくらい体が弱いからだけど、君に出来ないのは、ゼイブンがセフィリアの寝室から閉め出されてて、子供を作る作業が、出来ないからだ」

ファントレイユが、不安そうにゼイブンを見上げた。
「…でも僕ちゃんと、ゼイブンが帰って来た時セフィリアの寝室に入るの、断ってるよね?」
ゼイブンは素っ気なく言った。
「安心しろ。弟か妹が出来ないのはお前のせいじゃ、ない」
ファントレイユが心から、ほっとした。
そしてゼイブンに瞳を向ける。
「寝室じゃないと、駄目なの?」
ゼイブンは息子を見て、がなった。
「俺だって寝室にこだわる気は無いが、セフィリアが不潔な所でしたいと思うか?」
ファントレイユは、頷いた。
「じゃ、本当は寝室以外でも、子供は作れる?」
ゼイブンは、ファントレイユを見た。
「別に潔癖性で無くても、身分の高い品のいい相手は、馬小屋だとか納屋だとか、草の上でしたいとは言わないもんだ。
覚えとけ!」
ファントレイユは頷き、尋ねる。
「農家の女将さんは、平気?」
ゼイブンは頷く。
「じゃ、あの時、レイファスと僕が居なかったらあの納屋で子作り、した?」
皆の、食事の手が、一斉に止まる。

ゼイブンはファントレイユをじっ、と見た。
「…俺だってお前に兄弟をくれてやりたいが、セフィリア以外で子供を作ったりしたら、離婚だ。
ちゃんと、子供が出来ない方法がある」
ファントレイユはゼイブンを、見た。

皆が見守る中、ファントレイユの口が再び開き、更に、この会話が続くのか。
と、全員が覚悟を決めた。
「だって、子造りする為に、するんじゃないの?」
「ファントレイユ。お前全然、自分の触って無いのか?」
ファントレイユは意味が、解らないように首を横に、振った。
「だってしょっ中触ってる」
「…そういうんじゃ、無い。
年頃に成ると、しょんべんの他に、溜まってくるもんがある。
男は出さないといけないが、出す場所が女性の中だと、最高に気持ちいい」

皆がひたすら下を向き、食事を掻き込み始める。
ファントレイユはレイファスを、見た。
レイファスもテテュスもついファントレイユと一緒に、ゼイブンの講義を、聞いていた。
「…それってレイファスが言ってた、年頃の男の、体の構造の事?
でも…女性は?気持ちいいの?
子供が出来ないのに?」

ゼイブンはファントレイユを、じっ、と見た。
「ファントレイユ。覚えとけ。それは男の力量だ。
剣と同じで、上手いヘタがある。
ヘタな男にされたら女性は二度と嫌だと思うし、上手ければ子供迄欲しくて、一緒にしようと何度も誘って来る。
いいか。俺はそれなりにいい男だが、そっちが下手くそだといくら美男でも、女に相手にされないぞ?」

レイファスがつい、聞いた。
「じゃ、あの人さらいが、ゼイブンがヘタだと言ったから、もの凄く怒って斬り殺したんだね?」

皆が一斉に顔を上げて、ゼイブンを見た。
ゼイブンは額に手を付けて、俯く。
「…レイファス。男にとって、ヘタと言われるのは、致命的だ」

「でも相手の女に言われたんじゃ、無いんだろう?」
アイリスに聞かれ、レイファスが言った。
「相手の女がそう言ったと、人さらいが言った」
ローフィスもやれやれと肩をすくめた。
「どうせ、嘘だろう?」
同意に頷きながら、ディングレーが大きなため息を吐き、オーガスタスが口を開く。
「…それで斬り殺すか?普通」
ゼイブンも顔を上げた。
「だろう?俺に剣を抜かせたのが、あいつの最大の誤算だ。
せめて抜く前に言ってりゃ、俺だって殴ってお終いにした」

ゼイブンのその開き直りに、食べ物が喉に詰まる音が、そこら中でした。

ゼイブンはフォークで肉を突くと持ち上げ、つぶやく。
「アイリスやローフィスなら、きっちり言い返して相手の考えを変えさせたろうな。
俺も別の事なら、もう少し、分別がある」

「…本当か?」
ローフィスの問いにゼイブンは憮然と、答えた。
「確かだ」

「上手なのが、大事?」
また、あちこちでファントレイユの質問が始まったと、喉の詰まる音がする。
ゼイブンはジロリとファントレイユを、見た。
テテュスがつい、聞いた。
「どんなのが、上手?」
ぶっ!と吹く音がし、それがアイリスだと解ると、ゼイブンは驚愕した。
「…あんたがテテュスに色々教えたんだろう?」
アイリスは必死でグラスを持ち上げ、水を喉に流し込んで、言った。
「私じゃない。ローフィスだ…。
テテュスに知識がある事すら、知らなかった」

テテュスはアイリスを見つめた。
「ディングレーだよ。だって女の人に誘われたのに、断ってたから、どうして?って聞いた」
ゼイブンは肩を揺らす。
「彼は王族だからな。そこらの女には見向きもしないだろう?」
テテュスが言い返す。
「そうじゃなくて、何で、誘うのかって。
普通は男の人が誘うのに。
そしたらローフィスは、ディングレーは凄く男らしいから、腕に抱かれたりしたらきっとうっとりなるからだって。
で、僕が、それ位はどうしてしてあげないの?って聞いたら…」
アイリスが、思わず、身を乗り出した。
「聞いたら?」
ディングレーが、ごほんごほんと、合図を送る。
テテュスが、気づいて俯く。
アイリスはディングレーを睨むと、更に乗り出した。
「大丈夫だ。ディングレーとは私が後で、話を付けるから」
テテュスは下げた顔をアイリスに向け、言葉を続けた。
「…つまり…さっき、レイファスが言ったような事を教えてくれた。
男にとっては…相手もだけど、楽しい事で…でも慎重にならないと、子供が出来たりしたら、結婚しなくちゃならなくて。
とんでも無い女性を連れて帰ると、アイリスが凄く困るから。
楽しんで、誰とでもすればいいもんじゃ、無いって」

ディングレーが、アイリスをじろりと見てつぶやく。
「全うだろう?」
アイリスは、ほっとした様子を見せた。
「でもゼイブンは上手で、子供が出来ないやり方を、してるんだよね?」
テテュスの瞳がきらきらし、それが、とても知りたい様子を見せたし、ファントレイユもレイファスも興味津々だった。

三人がゼイブンを一心に見つめ、皆が自分に回って来ない様子に、安堵した。
「…テテュス。凄く、知りたいようだが、剣の極意を口で聞かされて、解るか?
そっちも同じで、実地でしなきゃ解らない」
テテュスは、そうか…。と俯き、また煌めく瞳をして、顔を上げた。
「テテュス。俺はファントレイユだろうが、野郎に実地で教えるのはごめんだ。
幸い、お前の親父のアイリスは野郎だろうが平気だし、美男で腕が立って身分が高い上に、あっちの方もそれは上手いと女達に評判の、腹の立つ男だから、もう少し大きくなったら実地で習えるぞ!」
アイリスが途端、怒鳴った。
「相変わらず、人に押しつけるのが得意だな!」
ローフィスが、吐息を吐いた。
「でもテテュスにせがまれたら、教えるだろう?」
アイリスはテテュスのきらきらした瞳を、見た。
「…そりゃ……断れる、訳が無い……」
ゼイブンが、そら見ろと、白い瞳で見、子供達は皆、いざとなったらアイリスを頼ればいいと、納得して頷き合ったりしたから、皆が大丈夫かと、アイリスを伺った。

やっと会話が終了したと思った矢先、ファントレイユが皆のふいを、付いた。
「ギュンターはローランデがとても、好きなんだよね?
男の人相手って、どうするの?」

そこら中で、咽せ返る音がし、ローランデはギュンターをそっと伺った。
ギュンターは顔色も変えず、ファントレイユに問い返した。
「お前、男としたいか?」
ファントレイユは、ふ…と、隣のレイファスとテテュスを見、首を横に振った。
「じゃ、したくなる迄とっとけ。第一近衛に進んだら、嫌でも解る」
ファントレイユはギュンターを見たが、彼はそれ以上話す気が無いのを知って、大人しく頷いた。

レイファスがそっとファントレイユに言った。
「アイリスなら、知ってるし。
いつかきっと、教えてくれる」
ファントレイユも、そうだね。と笑った。

漏れ聞いたアイリスが思わず顔を下げ、ディングレーに釘を刺された。
「…俺は絶対、宛にするな」


 食後酒をたしなむ為に、皆が部屋を居間に移した。
ぞろぞろと進む中、シェイルがローフィスの横に付いた隙を狙い、ギュンターはローランデの横に滑り込むと、彼の耳元でささやいた。
「お前、子供の講習を任された、責任者だろう?
子供達も知りたいようだから、そっちも目の前でしてやったら、一発で解るぞ」
バシン!

全員が、その音に振り向く。
ギュンターの頬に真っ赤な手形が残り、ローランデがぷんぷん怒って、シェイルの横に歩き去った。

オーガスタスが、額に手を添えながら首を横に振ってギュンターの後ろからささやく。
「お前、最悪の馬鹿だな」
ゼイブンも唸った。
「あれで垂らしで評判だなんて、信じられないぜ!
俺だってもう少し、マシな口説き文句が言える」

隣でディングレーが肩をすくめ、ローフィスが振り向く。
「ギュンターは放っといても相手の方から寄って来るから、巧みな口説き文句を知らなくても仕方無いだろう?」

ゼイブンが、その金髪美貌で、頬を腫らした男を睨んだ。
「自分からは、口説いた事が無いのか?
ムカつく野郎だぜ」
アイリスがすかさず言った。
「さっき思わず本音が聞けたな。ゼイブン。
美男で身分が高い、腹の立つ男なんだろう?私は」
そう横で冷たく微笑むアイリスを、真顔でゼイブンは見た。

自分より背が高く、そのしっかりした体格は優雅に見えても、押し出し十分だった。

ゼイブンは肩をすくめた。
「…嫉妬で睨まれるくらい、自分はいい男なんだと思えないのか?
俺は、あんたやギュンターにライバル視されたら、例え睨まれようが、気分がいいぜ」
ディングレーが思わず口を開く。
「…だがあんたの本命はセフィリアだろう?
誰もライバルは現れないから、安心しろ」

その言葉につい、アイリスもローフィスも肩を揺らして笑った。

子供達の視線を感じ、ローランデが思わず振り返る。
きらきらした瞳が六つ瞳に飛び込んで来たが、静かに言った。
「そういう見本は見せない。
ギュンターのする事は、悪影響しか与えないから。
アイリスか、ゼイブン辺りだったらきっと参考になるから、機会があったら彼らに見せてもらいなさい」

いつも優しいローランデに、もの凄く、迫力のある様子でそう言われ、子供達はびっくりした。
つい、ファントレイユは隣に居るゼイブンを見上げた。
「ギュンターは、ヘタなの?」

ゼイブンはぎょっとした。
「ファントレイユ。大人の男に迂闊にヘタと言ったら喧嘩を売ってるも同然だと、解らないのか?」

こっそり、ゼイブンとファントレイユはギュンターを、見る。
が、ギュンターは肩をすくめた。
「ヘタかどうか、見せてやりたいがローランデが同意しない」
ローランデは、召使いから酒の入ったグラスを受け取り様、さっとギュンターに振り向き怒鳴る。
「当たり前だ!」

ギュンターはその剣幕に、肩をすくめた。
オーガスタスがファントレイユにそっとささやく。
「ギュンターの関心事は今、ローランデだけだから何を言おうが気に止めない。
だがゼイブンの言った事はまんざら、嘘じゃない。
相手によっては…ゼイブンみたいにこだわる奴だと、斬り殺されるぞ」

ファントレイユはうんと背の高い、オーガスタスを見上げた。
「オーガスタスは、怒らない?」
オーガスタスはファントレイユを見つめ、親しみ易い笑顔で笑った。
「俺はした相手の女に言われない限り、信じない」
ファントレイユも、レイファスもテテュスも、彼の大らかさに思わず頷いた。

皆がやっとグラスを受け取り、それぞれソファに掛けてくつろぐが、子供達がその関心事から心が離れていないのに、気づく。

レイファスが、そっと尋ねる。
「…ギュンターがヘタだから、ローランデが嫌がってるんじゃ、無いよね?」
それは小声だったが、爆砲が投じられたように皆が感じ、固まった。
シェイルが憮然として言い切る。
「さっきゼイブンが言ったろう?
育ちのいい奴は寝室を好むが、ギュンターと来たら、発情した豹みたいにどこでもやりたがるから、育ちのいいローランデは嫌がってる」
ファントレイユは、慌ててゼイブンに尋ねる。
「納屋でしたいって、もしゼイブンがセフィリアに言ったら、ひっぱたかれる?」
ゼイブンは横の小さな息子を見た。
「…夕食の席で俺が口をきいてもらえないのを、見てるだろう?
あれが、何のせいだと思ってた?」

テテュスが顔を、上げた。
「口を…きいてもらえないの?」
レイファスがつい、ゼイブンを見た。
「でもだって。
ゼイブンなら、それ位どってこと無いでしょう?」

ゼイブンはレイファスの顔を、まじまじと見た。
「お前も惚れた相手が出来れば解るが。
無視されると心底、心が凍るぞ」
「………ゼイブンでも?」
テテュスがきくと、ゼイブンは神妙に頷いた。

ファントレイユが、そんなゼイブンを見つめて尚も尋ねる。
「…どうして寝室の他じゃ、嫌なのかな?」

続いての爆砲投下だ。と、皆が下を向く。
が、ゼイブンが素っ気なく言った。
「そりゃ…服を脱ぐからさ」
「…でも、草の上で裸だと気持ちいいと思う」
そう言いながら、ファントレイユはゼイブンを見上げる。
「自分から進んで脱ぐからだろう?
お前は気分じゃないのに、俺に無理矢理脱がされたらどう思う?」
ファントレイユが、あどけない顔をゼイブンに向けた。
「ゼイブンなら、平気」
大人達は全員、ゼイブンを見つめたが、ゼイブンは頬杖付いて考え込んだ。
「…だって以前餓鬼と喧嘩した時、お前服を、脱がされたんだろう?」
ファントレイユの眉が、凄く、寄った。
「あれは凄く、嫌だった」

アイリスが呆けて尋ねる。
「近頃のいじめは、服を脱がすのかい?」
レイファスが、返答した。
「…ファントレイユが女の子みたいだから。
本当に男かどうか、確かめたがってた」
全員が一斉に、ため息を付いた。

ファントレイユが必死な顔を、ギュンターに向けた。
「ギュンターは子供の頃、された?」
ギュンターは吐息を吐くと、つぶやく。
「その前に相手を、殴り倒してる」
そうだろうと、皆が頷く。

が今度はファントレイユはテテュスに顔を、向けた。
「テテュスは?」
テテュスはびっくりして、顔を横に振った。
「一度もない」
ファントレイユが途端、がっかりする。
そしてレイファスに振り向くが、レイファスはそれを見て口を開く。
「僕はだってその前に、逃げ出してる」
ファントレイユが、いきなり叫んだ。
「あんなに乱暴だなんて、思わなかった!
側に君だってセフィリアだって居るのに!」
けどレイファスは、そっと言った。
「でも、離れていたし、僕らからは見えないし。
全然近くじゃなかった」
ファントレイユもそっと、尋ねる。
「レイファス。それ、僕の事、大間抜けだと思ってる?」
皆がつい、レイファスを見つめるが、レイファスは肩をすくめた。
「だって君、相手が乱暴するだなんて全然、警戒もしてないし。
僕だって安心な相手だと思ってる人にいきなり乱暴されたら、びっくりして抵抗出来ない」

テテュスが気遣うように、つぶやく。
「ファントレイユはとても気持ちが素直だから。
そんな事するなんて思わなくて、心がショックだったんじゃない?」
ファントレイユは大人しく、首を横に振った。
「それもあるけれど。凄く、不快な体験だった」
ローランデが心配そうに尋ねる。
「ひどくされたの?」
ファントレイユはまた、首を横に振った。
「一度目はレイファスが飛んで来てくれて、大人達を呼んでくれた」
シェイルが驚いて聞く。
「二度目が、あるのか?」
ゼイブンが、唸った。
「お前が、ぶっ飛ばした時か?」
レイファスが、頷いた。
シェイルとローランデが、ゼイブンを見て声を揃えた。
「ぶっ飛ばしたのか?」

レイファスが、思い出すようにつぶやく。
「自分より体の大きい三人に囲まれたのに、一人は蹴って、もう一人も蹴って、残った一人に殴りかかって相手を泣かせた。
僕、今でもぞっとするけど。
大人に取り押さえられても、まだ相手を、睨んでた」

一同が一斉に、ゼイブンを見た。
オーガスタスがつぶやく。
「…キレたんだな?」
レイファスが、頷く。
ディングレーもため息を吐いた。
「ギュンターに喧嘩を売る筈だ」

ゼイブンは見つめるアイリスに尋ねた。
「やっぱり、俺譲りか?」
アイリスはたっぷり頷いた。
だがファントレイユは顔を、上げた。
「でも奴らは僕と子造りしたいんじゃなくて、男かどうか、確かめたくてしたんだよ?!」

ファントレイユの問いが元に戻り、全員がゼイブンに、何とかしろと、視線を送った。

 
だがそれぞれが会話を始め、ゼイブンがファントレイユの前に向いた時、ファントレイユはそっ、とゼイブンの左手を取った。
「…うんと、訓練した?」
ゼイブンは小さな息子に頷いた。
「暇が、あればな」
「ローランデが、いっぱい訓練しないとあんな風に成れないって」
「俺は殺された奴を、見てるからな。
あんな様に成りたくなかったら、訓練を積むしか無い。
だがお前は、見て無いだろう?」
ゼイブンのブルー・グレーの瞳が、伺うようで、ファントレイユは尋ねた。
「やっぱり、騎士にしたく無い?」
「アイリスも、同様だろう?
餓鬼を自分より早く亡くしたいと思う親は、いない。
ファントレイユ。お前は解って無いが、俺は不器用で…。
だがお前は、可愛い」
ファントレイユがじっ、とゼイブンを、見た。
「ゼイブンが僕の事、ちゃんと好きだって解ってる」
ゼイブンは、頷いた。
「いい女の見分け方なら、幾らでも教えてやる」

レイファスはテテュスと話してたけど、つい、口を挟んだ。
「…でも、捕まえたのはセフィリアだろ?」
ローフィスもアイリスも、苦笑する。
「セフィリアはいい女だし第一…惚れちまったら、関係無い。
ギュンターを見ろ。
在学中、マジ惚れだと解ったから、とんでもないのに惚れたもんだと感心した」
「いざ、自分がそうなったら?」
アイリスに聞かれ、ゼイブンは俯いた。
「こっちが惚れて、相手が応えてくれたら天国だ。
俺は子供も、授かったしな」
ギュンターが、睨んだ。
「俺よりうんと、マシか?」
ゼイブンは肩をすくめた。
「茨の道でもめげないお前に、心底脱帽してる。
俺にはそんな根性は、無い」
ギュンターは吐息を吐いた。
「お前に根性があると誉められてもな」
アイリスが、相づちを打つ。
「全然、嬉しく無いだろう?」
ギュンターが頷き、ディングレーが口を挟んだ。
「だが、アイリスよりはマシだ。
アイリスが今一番気にしてるのはテテュスで、テテュスと来たら天然で、アイリスを袖にしまくってる。
あんなにみっとも無く誰かの関心を必死で引こうとするアイリスを、初めて見たし、周囲も構わず余裕を無くす様もだ」

アイリスは吐息を吐いた。
「どれだけみっとも無くても、テテュスが元気で私より長生きしてくれたら、それでいい」
テテュスは途端アイリスの横に掛け寄り、彼の衣服を掴むと包むように受け容れる、アイリスの両腕にくるまれた。

テテュスはアイリスの胸に抱かれて、叫んだ。
「私は置いていったりしないから!
ちゃんと、アイリスに負けない剣豪に成って、敵に勝って生き残る!」
アイリスは微笑むと、そっとテテュスを抱きしめた。
「約束だ」

「第一、そんな事ローランデが許さない。
あの厳しさを、見てるだろう?」
シェイルが言い、皆が思わず、笑い合った。

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